ダンジョンに鬼がいたらそうなる件   作:マイナーチョコ

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幕間I:影を継ぐ少女の成長(アイズ&リリ編

リリの入団よりあれから数年の日々

稽古にいそしむ、二人の少女が、成長し、

 

ロキ・ファミリアの広大な中庭には、風を切る音と、時折響く硬質な金属音だけが心地よく響いていた。

 

「……そこっ」

金糸の髪を揺らし、木剣を構えたアイズが、まるで木の葉が舞うような軽やかな足取りで虚空を突いた。

『風遁剣姫(アリエル・改)』。

かつての彼女が持っていた、自身の体を傷つけながら風を纏って特攻する危うい剣術ではない。極限まで練り上げられた魔力操作と、マヤから直接叩き込まれた『瞬身の歩法』が統合された無音の剣撃。敵の力をいなし、最も無防備な急所だけを正確に貫く、恐るべき暗殺剣の域に達していた。

 

カンッ!!

何もない空間から突突として飛来した三本のクナイが、アイズの木剣によって弾き落とされる。

 

「ああっ、もう! また防がれました! アイズ様の目は背中にもついてるんですか!?」

空間の歪みが解け、中庭の木陰からボロリと姿を現したのは、小人族(パルゥム)の少女リリだった。

生来の魔法に隠密の技術を掛け合わせた『幻影影法師(シンダー・エラ改)』。ただ姿を変えるだけでなく、風景に完全に溶け込み、気配すらもゼロにする万能のくのいちの技。加えて『暗器投擲』のスキルによって放たれる軌道は必殺のはずなのだが、アイズにはことごとく防がれてしまう。

 

「リリ、少しだけ……息遣いが荒かった。隠れる時は、心臓の音も風に混ぜるって、マヤが言ってた」

アイズは木剣を下ろし、コクリと首を傾げてアドバイスを送る。

「むぅ……頭では分かってるんですけど、アイズ様が規格外すぎるんですよ。Lv.5を相手にLv.3のサポーターが模擬戦をやらされてる時点で、普通なら大事件ですってば」

頬を膨らませて抗議するリリだが、その瞳にはかつてのような暗い絶望の影は一切ない。

数年間、マヤの庇護下で姉妹のように育った二人は、ダンジョンの過酷さを生き抜くための圧倒的な自衛力と、何より笑って暮らせる温かい居場所を手に入れていた。

 

「よし、二人とも今日はそこまでだ。お茶にするぞ」

縁側から、のんびりとしたマヤの声が掛かる。

「あっ、マヤ様!」

「……ん。お茶」

アイズとリリは武器を片付けると、パタパタと足音を立てて縁側へと駆け寄っていった。マヤは汗をかいた二人の頭をそれぞれ大きな手でポンポンと撫でてやる。

 

「よく動けてたぞ。アイズの剣も力みが消えたし、リリの擬態も悪くねぇ。まあ、あの程度の気配じゃ俺には5秒前にバレてるがな」

「5秒前って……やっぱりマヤ様は化け物ですね!」

「……マヤ、すごい」

 

そんな微笑ましい疑似家族のような光景を、隣で湯呑みを傾けながら見ていたロキが、ジト目で後ろを振り返った。

 

「なあ……ウチのファミリアが平和なんはええことなんやけど」

ロキの視線の先。縁側の奥で控えていたメイドの姿を見て、主神の顔がこれでもかと引きつった。

「ヴァレッタ、お前その格好なんやねん。スカートの丈短すぎやろ。動くたびにパンツ丸見え(パンモロ)やんけ。この世界(ダンまち)風に露出合わせたつもりか知らんけど、いくらなんでも元・絶対悪の幹部が変わりすぎやろ!!」

 

ロキの凄まじいツッコミを受け、パリッとした(ただし布地が絶望的に足りていない)メイド服を着たヴァレッタは、ふんと胸を張った。

「何を仰いますかロキ様。これはマヤ様への果てしない忠誠心と、究極の奉仕の精神を体現した『コンバット・メイドスタイル』です! マヤ様がいつどこで癒やしを求めてもいいように、全方向からのアクセスを可能にした最新鋭の装甲なんですよ!」

「アホか! お前がマヤに狂信しとるのは知っとるけど、ただの変態やないか!」

 

「ヴァレッタ、お茶のお代わりだ。あと、その格好は冷えるから後でエプロン長くしておけ」

マヤが空になった湯呑みを差し出しながら淡々と告げると、先ほどまでロキに反発していた狂信メイドは、一瞬で顔を真っ赤に染め上げた。

 

「は、はひぃぃぃぃっ! マヤ様のお気遣い、このヴァレッタ、五臓六腑に染み渡りますぅぅっ! すぐに熱いお茶と布を持参いたしますぅぅ!」

ドタバタと異様なテンションで奥へと消えていくヴァレッタの背中(とパンモロ)を見送りながら、ロキは深く、深いため息をついた。

 

「……マヤ。お前、ほんまにとんでもない女の手綱を握ってしもたな」

「そうか? ま、泣き顔よりはよっぽどマシだろ。真面目に掃除もしてるしな」

マヤはどこ吹く風とばかりに、アイズとリリが美味しそうにお茶菓子を頬張る姿を、目を細めて見守っている。

 

女の涙を嫌い、笑顔を守るために修羅を滅ぼした最強の鬼。

彼がオラリオにもたらした平和は、こうして少々のパンチラと、限界突破したメイドの奇行、そして可愛い少女たちの笑顔に彩られながら、確かな黄金期への礎を築きつつあった。

 

 

◆ アイズ・ヴァレンシュタイン

【年齢】12歳

【マヤとの出会い】5年前(当時7歳。ダンジョンで保護されて以来、マヤに育てられる)

【Lv.】5

力:C900 / 耐久:D200 / 器用:B500 / 敏捷:A700 / 魔力:S999

《スキル》

『風遁剣姫(アリエル・改)』:風の魔力操作と重心移動の統合。極限の歩法(瞬身)を伴う無音の剣撃。敵の力をいなし、致命の隙を突く。

 

 

◆ リリルカ・アーデ

【年齢】11歳

【マヤとの出会い】約3年前(当時8歳。暗黒期直後、路地裏でソーマ・ファミリアから救出される)

【Lv.】3

力:H100 / 耐久:G300 / 器用:S999 / 敏捷:A800 / 魔力:C200

《スキル》

『幻影影法師(シンダー・エラ改)』:生来の変身魔法に、隠密と擬態の技能が融合。気配を完全に絶ち、環境と同化する。

『暗器投擲』:クナイやナイフなどの投擲武器に補正。必中の軌道と急所へのダメージ増加

 

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