我等は神秘に溢れた世界で   作:匿名の読む専

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第2話、はーじまーるよー

今回主人公の親父の名前が出ます。


第二話 潮待ち島の宝探し

 

潮待ち島には子供達の間で有名な噂があった。

 

島のどこかに宝が埋まっている。

 

という噂である。

 

もちろん根拠はない。

 

誰が言い出したのかも分からない。

 

だが子供というものはそういう話が好きだった。

 

そして。

 

レイも好きだった。

 

非常に好きだった。

 

「絶対ある!」

 

昼下がり。

 

港近くの広場でレイは力強く宣言した。

 

「ない」

 

ミナは即答した。

 

「ある」

 

「ない」

 

「あるって」

 

「証拠は?」

 

「夢がある!」

 

「証拠じゃない」

 

いつものやり取りだった。

 

ガルドは笑いながら木箱の上に座っている。

 

フィオは果物を齧っていた。

 

セイルは本を読んでいる。

 

クロは木の枝の上だ。

 

「そもそも何で急に宝なんだ?」

 

セイルが本から目を離さずに聞いた。

 

「昨日商船の人が言ってた」

 

「何を?」

 

「旅には宝が付き物だって」

 

「だから?」

 

「島にもあるかもしれない」

 

「理論が飛躍してるぞ…」

 

レイは気にしない。

 

「探そう」

 

「却下」

 

ミナだった。

 

しかし。

 

レイは慣れている。

 

「昼飯奢るから」

 

「探すわよ」

 

即答だった。

 

「お前な…」

 

セイルが呆れる。

 

フィオが笑った。

 

「安いなぁ」

 

「昼飯は大事」

 

ミナは真顔だった。

 

その結果。

 

五人と一羽は宝探しをすることになった。

 

実に平和である。

 

まず向かったのは島の北側。

 

昔使われていた見張り小屋だった。

 

現在は放置されている。

 

「怪しい…」

 

レイが言う。

 

「どこが」

 

ミナが言う。

 

「雰囲気!」

 

「雑」

 

中へ入る。

 

埃だらけだった。

 

木箱。

 

壊れた机。

 

椅子。

 

蜘蛛の巣。

 

以上。

 

宝は無かった。

 

「ほら」

 

「い〜や、まだだね」

 

次。

 

南の浜辺。

 

次。

 

崖の上。

 

次。

 

灯台跡。

 

結局何も出てこなかった。

 

夕方になる。

 

全員疲れていた。

 

「…帰ろ?」

 

フィオが言う。

 

「諦めるのか!」

 

「諦める」

 

「早くない?」

 

「暑い」

 

「まぁ…そうだな…」

 

それはそうだった。

 

夏である。

 

非常に暑い。

 

レイもさすがに疲れていた。

 

その時。

 

「おや」

 

クロが空から降りてきた。

 

「どうした」

 

「面白いものを見つけた」

 

全員が顔を上げる。

 

クロがそう言う時は本当に面白いことがある。

 

「どこだ」

 

「こっちだ」

 

鳥を先頭に歩く。

 

しばらく進む。

 

島の東側。

 

森の奥。

 

そこには。

 

「洞窟?」

 

レイが首を傾げた。

 

小さな洞窟だった。

 

見たことはある。

 

しかし中へ入ったことはない。

 

「ここ何もないぞ」

 

ガルドが言う。

 

島の子供なら一度は来たことがある場所だ。

 

「奥だ」

 

クロは言った。

 

「奥?」

 

「今日初めて見た」

 

全員が顔を見合わせる。

 

少しだけ興味が湧いた。

 

中へ入る。

 

薄暗い。

 

ひんやりしている。

 

そして。

 

奥へ進んだ時だった。

 

「あれ?」

 

ミナが立ち止まった。

 

「どうした」

 

「壁?」

 

そこには壁があった。

 

だが。

 

昨日まで無かった。

 

少なくともミナの記憶には無い。

 

「こんなのあったか?」

 

レイも首を傾げる。

 

「知らない」

 

ガルドも首を傾げる。

 

セイルだけが壁を見つめていた。

 

「文字だ…」

 

「え?」

 

近付く。

 

確かに刻まれていた。

 

古い文字。

 

ほとんど消えかかっている。

 

「読める?」

 

フィオが聞く。

 

「少し」

 

セイルは目を細める。

 

本好きの彼は古い文献も読んでいた。

 

だから多少知識がある。

 

「えっと……」

 

指でなぞる。

 

「海を……」

 

「海を?」

 

「渡る者……?」

 

「なんだそれ」

 

さらに読む。

 

しかし途中から読めない。

 

削れている。

 

風化している。

 

判別不能だった。

 

「続きは?」

 

「分からない」

 

「気になる…」

 

レイは壁に触れた。

 

その瞬間だった。

 

ふわり。

 

風が吹いた。

 

洞窟の奥から。

 

全員が顔を上げる。

 

「今の何?」

 

フィオが聞く。

 

誰も答えられない。

 

ただ。

 

少しだけ不思議な感覚だった。

 

潮風に似ている。

 

だが海の匂いはしない。

 

もっと古い。

 

もっと遠い。

 

そんな感じ。

 

「気味悪いな」

 

ガルドが言う。

 

「そうか?」

 

レイはむしろ気になっていた。

 

壁。

 

文字。

 

風。

 

何かありそうだった。

 

しかし。

 

結局何も起きなかった。

 

それ以上進める場所も無い。

 

ただの行き止まり。

 

宝も無い。

 

「帰るか」

 

セイルが言った。

 

全員頷く。

 

洞窟を出る。

 

夕日が差し込んでいた。

 

帰り道。

 

レイは何度も振り返った。

 

あの壁。

 

何だったのだろう。

 

気になる。

 

非常に気になる。

 

「また来るの?」

 

ミナが聞いた。

 

「来る!」

 

即答だった。

 

「だと思ったわ…」

 

「絶対何かある…!」

 

「根拠は?」

 

「勘」

 

「いつものだ」

 

フィオが笑う。

 

ガルドも笑う。

 

セイルも少しだけ笑った。

 

クロだけが洞窟の方を見ていた。

 

誰も気付かなかった。

 

鳥の目が少しだけ真剣だったことに。

 

そして。

 

洞窟の奥。

 

誰もいなくなった場所で。

 

壁に刻まれた古い文字の一部が。

 

夕日に照らされて浮かび上がる。

 

『――海の向こうを求める者よ』

 

………………………………

 

# 第二話 潮待ち島の宝探し(続)

 

洞窟を見つけた翌日。

 

レイは朝から落ち着かなかった。

 

「……」

 

「レイ?」

 

「……」

 

朝飯を食べながらずっと考えている。

 

向かい側に座る父親が魚をほぐしながら言った。

 

「どうしたんだ?」

 

「ん?」

 

「難しい顔してるぞ」

 

「してるか?」

 

「してるな」

 

レイは少し考えた。

 

正直に話す。

 

「洞窟見つけた」

 

「洞窟?」

 

「東の森の奥」

 

「ああ」

 

意外にも父親は知っていた。

 

「行ったことあるぞ」

 

「本当か!?」

 

「ガキの頃な、この島で育った子供は皆一度は行ったことあるんじゃないか?」

 

レイの目が輝く。

 

「何かあったんだ?」

 

「まぁ何もなかった」

 

即答だった。

 

「えぇ……」

 

「ただの洞窟だ」

 

「でも文字があったぞ?」

 

「文字?」

 

今度は父親が首を傾げた。

 

「そんなものあったか?」

 

「あった」

 

「知らんな」

 

レイは少し考え込む。

 

父親は昔行ったことがある。

 

なのに知らない。

 

なら。

 

あの壁は最近現れたのだろうか。

 

「気になるなら見に行けばいい」

 

父親は言った。

 

「どうせ行くだろ」

 

「うん」

 

「だろうな」

 

話は終わった。

 

完全に見抜かれている。

 

昼頃。

 

いつもの広場。

 

既に全員揃っていた。

 

「行くの?」

 

フィオが聞く。

 

「行く!」

 

レイは即答した。

 

「だと思った」

 

「私も少し気になる」

 

珍しくミナが乗り気だった。

 

「壁もおかしい」

 

「壁?」

 

セイルが聞く。

 

「うん」

 

ミナは地面に棒で簡単な地図を描いた。

 

「洞窟って普通は自然に出来る、中の壁も当然そう」

 

「そうだな」

 

「でもあの壁だけ人工物みたいだった」

 

全員少し考える。

 

確かにそうだった。

 

石の壁。

 

文字。

 

不自然なほど平ら。

 

洞窟の奥に突然現れている。

 

言われてみると妙だった。

 

「じゃあ決まりだな」

 

レイが立ち上がる。

 

「探検だ!」

 

「昨日も探検だったでしょ」

 

フィオが言う。

 

「今日は再探検だ!」

 

「意味ある?」

 

「ある!」

 

レイは自信満々だった。

 

根拠は無い。

 

いつも通りである。

 

結局。

 

五人と一羽は再び森へ向かった。

 

途中。

 

ガルドが木の枝を振り回している。

 

「剣だ」

 

「棒でしょ」

 

ミナが言う。

 

「剣だ」

 

「棒」

 

永遠に終わらないやつだった。

 

レイも途中から参加した。

 

「ふむ…剣だな…!」

 

「だよな!」

 

「棒だと思う」

 

セイルが言う。

 

「裏切り者!」

 

「いや普通に棒だろ」

 

「この先っぽらへん尖ってんだろ!それに真ん中が太くて外側平べったい!」

 

「棒だよね」

 

フィオもそう言う。

 

二対三だった。

 

ガルドとレイは不満そうだった。

 

そんなことを話している内に洞窟へ到着する。

 

中へ入る。

 

昨日と変わらない。

 

静かだった。

 

奥へ進む。

 

そして。

 

「あれ?」

 

レイが止まった。

 

「どうした」

 

ガルドが聞く。

 

「壁」

 

昨日と同じ場所。

 

文字の刻まれた壁。

 

だが。

 

何か違う。

 

「光ってないか?」

 

全員が目を細める。

 

確かに。

 

ほんの僅かだが。

 

文字の一部が淡く輝いていた。

 

「昨日こんなのあった?」

 

「無かったわね」

 

ミナが即答する。

 

セイルも頷いた。

 

「無かったと思う」

 

洞窟の中は暗い。

 

だから余計に目立つ。

 

クロが壁へ近付く。

 

「ふむ」

 

珍しく真面目な声だった。

 

「読めるか?」

 

レイが聞く。

 

「少し」

 

クロは文字を見る。

 

「一部だけだが、新しく読めそうだ」

 

鳥なのに。

 

相変わらず謎だった。

 

「何て書いてある?」

 

クロは少し黙った。

 

そして。

 

「旅人」

 

と言った。

 

「旅人?」

 

「その文字だけ読める」

 

全員顔を見合わせる。

 

また旅だ。

 

最近やたらと旅に関係する話が出てくる。

 

レイは少し嬉しくなった。

 

「やっぱり何かあるんだ!」

 

「まだ分からない」

 

ミナが言う。

 

「証拠が少ない」

 

「でも何かはあるだろ?」

 

「まぁ…それはそう」

 

その時だった。

 

ごうっ。

 

突然。

 

洞窟の奥から風が吹いた。

 

昨日より強い。

 

全員が思わず身構える。

 

フィオの髪が揺れる。

 

セイルの持っていた紙が飛びそうになる。

 

「な、なんだ!?」

 

レイが叫ぶ。

 

しかし。

 

風はすぐ止んだ。

 

静寂。

 

何も起きない。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

しばらく誰も喋らなかった。

 

やがて。

 

クロがぽつりと言う。

 

「やっぱり自然じゃないな」

 

その一言で。

 

少しだけ空気が変わった。

 

クロは普段ふざけている。

 

偉そうなことも言うし適当なことも言う。

 

だが。

 

島の誰より空と海を知っている。

 

そのクロが言うのだ。

 

自然じゃないと。

 

「どういう意味だ?」

 

レイが聞く。

 

「そのままだ」

 

クロは壁を見る。

 

「風が吹く理由が無い」

 

洞窟の奥は行き止まり。

 

外へ通じている訳でもない。

 

なのに風が吹く。

 

それも二日連続。

 

「気持ち悪いな」

 

ガルドが呟く。

 

「うん」

 

フィオも珍しく同意した。

 

結局その日は何も見つからなかった。

 

しかし。

 

帰り道。

 

全員の頭には同じ考えがあった。

 

あの洞窟は何かおかしい。

 

宝があるかは分からない。

 

秘密があるかも分からない。

 

けれど。

 

確実に。

 

ただの洞窟ではない。

 

そしてそれは。

 

彼らが初めて出会う"神秘"の欠片だった。

 

………………………………

 

夜。

 

洞窟から戻った後も結局その話題は尽きなかった。

 

「絶対何かある…」

 

レイは夕飯の時までそう言っていた。

 

「何回聞いたかな」

 

母親が笑う。

 

「七回目だな」

 

父親が答える。

 

「へ?数えてたの?」

 

「途中から面白くなってな」

 

酷い話だった。

 

レイは不満そうに魚を食べる。

 

「だって気になるだろ!」

 

「気になるのは分かる」

 

母親が言う。

 

「あなたまで…レイ、無茶は駄目だからね」

 

「してないよ」

 

「洞窟に入った?」

 

「入った」

 

「森の奥まで行った」

 

「行った」

 

「危険だったら?」

 

「逃げる」

 

「本当に〜?」

 

レイは少しだけ黙った。

 

その反応だけで答えが出ていた。

 

父親が吹き出す。

 

「ははは」

 

「笑い事じゃないわよ!まったく…」

 

母親が怒る。

 

しかし父親は楽しそうだった。

 

「大丈夫だ」

 

「何が」

 

「こいつは危険を見る目だけはある」

 

「そう?」

 

「ある」

 

断言だった。

 

「そうだったのか…?」

 

「あなた?レイも分かってないみたいだけど?」

 

「…ある…はずだ…」

 

「ほーん…俺にそんな特技が…」

 

レイ自身はよく分かっていない。

 

ただ。

 

昔から勘は良かった。

 

どこに魚がいるか

どこが滑るか

どの船が速いか

 

何となく分かる。

 

理由は説明できない。

 

だから本人も気にしていなかった。

 

翌日。

 

五人はいつものように集まっていた。

 

今日は広場や防波堤では無く、港の倉庫裏だった。

 

理由は単純。

 

ラズがいたからだ。

 

「暇だな」

 

ラズは椅子に座ったまま言う。

 

仕事中である。

 

「働け」

 

レイが言った。

 

「働いてるだろ?」

 

「座ってるだけじゃん!」

 

「警備だ」

 

「寝てるのに?」

 

「目を閉じて周囲を確認してる」

 

全員が呆れた。

 

絶対寝ている。

 

その時。

 

港の奥から声が聞こえた。

 

「どけどけ!」

 

荷運びの男達だった。

 

大きな木箱を運んでいる。

 

商船の荷物らしい。

 

「重そうだな」

 

ガルドが言う。

 

「重そう」

 

フィオも頷く。

 

そして。

 

次の瞬間だった。

 

ぐらり。

 

荷物が傾いた。

 

運んでいた男の一人が足を滑らせたのだ。

 

「危ない!」

 

誰かが叫ぶ。

 

木箱が落ちる。

 

その先には小さな子供がいた。

 

まだ五歳くらい。

 

状況を理解できていない。

 

固まっている。

 

間に合わない。

 

そう思った。

 

全員が。

 

だが。

 

違った。

 

レイが走っていた。

 

誰よりも早く。

 

考えるより先に身体が動いていた。

 

木箱が落ちる、その先に子供がいる、なら助ける。

 

それだけだった。

 

木箱の落下地点へ飛び込み、子供を抱えて転がる。

 

直後。

 

ドンッ、ゴンッ!!

 

木箱が地面へ落ちた。

 

土煙が上がる。

 

周囲が静まり返る。

 

そして。

 

「セ〜フ…無事か?」

 

レイが起き上がった。

 

子供も無事だった。

 

怪我は無い。

 

一瞬。

 

沈黙。

 

それから。

 

「おおおお!!」

 

拍手が起きた。

 

港中が騒ぐ。

 

助かったのだ。

 

間一髪で。

 

「危なかったな…」

 

ガルドが呟いた。

 

ミナはほっとしていた。

 

セイルは眼鏡を押し上げた。

 

「やっぱり速いな、レイは」

 

「うん…いつも手を焼かされてるけど、今はレイが速くて良かったと思うよ」

 

フィオも頷き、そう言う。

 

普通ではない。

 

大人達ですら間に合わなかった。

 

なのに。

 

レイだけが動いた。

 

「すげぇじゃん、お手柄だなレイ」

 

ラズが言う。

 

レイ本人は首を傾げている。

 

「そんなにか?」

 

「そんなにだよ」

 

ラズが言った。

 

珍しく起きている。

 

「今のは普通じゃない」

 

「そうなのか?」

 

「そ」

 

ラズは少しだけレイを見る。

 

どこか懐かしそうに。

 

「親父の血だな、アイツも昔からそんなだった」

 

「え?」

 

「危ないと思ったら先に身体が動く」

 

「へぇ」

 

「馬鹿とも言うな」

 

「なるほど、つまり俺は親父の上位互換か…!」

 

「お前もどちらかと言うと馬鹿だろ」

 

ガルドはそう口を挟んだ。

 

「ハァン!?どこが!?」

 

周囲から笑いが起きた。

 

レイも笑った。

 

しかし。

 

………………

 

ラズだけは少し違うことを考えていた。

 

今の動き、足運び、飛び込み方、状況判断。

 

それに…木箱を転がって避けた時、あの位置取りはまるで追撃を想定していた様な。

 

即座に立ち上がって子供を自分の後ろに庇い、身体は…恐らく無意識的にだが迎撃体制に移れる体制だった。

 

レイが言っていた親父の上位互換と言うのも案外的を射てるかもしれない。

 

何故ならレイの親父、エドガーは考え無しに飛び込んでから死ぬ気で考えて切り抜ける様な…なんと言うかドタバタした感じだ。

 

対してレイは考え無しに飛び込むのは同じだがその動きの全てが最適解だった…特に、身体の使い方が上手い。

 

身体能力が凄まじいと言う訳でも無いのに誰よりも速く駆け出して飛び込めたのはそのおかげだろうか…。

 

とにかく、十二歳にしては異様だ。

 

まるで戦うために生まれてきたような…そんな感覚。

 

もちろんレイ自身は知らない。

 

今はまだ。

 

ただの元気な少年だ。

 

毎日走り回り。

 

魚を盗み食いし。

 

洞窟へ潜り。

 

海を眺める。

 

それだけの少年。

 

けれど。

 

才能というものは。

 

本人が知らない場所で芽吹くことがある。

 

まだ剣も持っていない。

 

まだ本格的な戦いも知らない。

 

それでも。

 

「末恐ろしい奴だな…」

 

未来の片鱗は確かにそこにあった。

 

………………………………

 

その日の帰り道。

 

夕日が海を照らしていた。

 

「ヒーローだったな」

 

ガルドが言う。

 

「違うだろ」

 

レイは笑う。

 

「近くにいたから助けただけだ」

 

「でも格好良かったよ?」

 

フィオが言う。

 

「そうか?」

 

「そうだよ」

 

「照れるな…」

 

実際少し照れていた。

 

ミナは横目で見ていた。

 

そして小さく呟く。

 

「やっぱり変」

 

「何が?」

 

「レイ」

 

「なんで!?」

 

「勘」

 

理不尽だった。

 

しかし。

 

セイルも少しだけ頷いていた。

 

何となく。

 

分かる気がした。

 

まだ言葉にはできない。

 

けれど。

 

昔からレイは他とは違った。

 

………………………………

 

一方その頃。

 

東の森の洞窟では。

 

誰もいないはずの壁が。

 

再び淡く光を放っていた。

 

『旅人』

 

その文字の隣に。

 

昨日は無かった文字が浮かび上がる。

 

『海を渡る者』

 

誰も見ていない。

 

誰も知らない。

 

だが確実に。

 

島の秘密は目を覚まし始めていた。

 

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