前回主人公の親父の事が少し分かりましたね。
今回はもう少しだけ掘り下げます。
殆どライブ感で書いてるから書きながら設定が固まっていくと言う…なんなら今の所現象術のげの字も出てないし。
潮待ち島に商船が来てから数日が経った。
最初こそ島中が珍しがっていたが、今では大人達も慣れ始めていた。
しかし、レイ達は違う。
「お、また来たのか?」
商船の甲板で若い船員が笑った。
「おう、また来た」
レイは胸を張る。
「毎日来てるな」
「毎日来てるぞ?」
「飽きないのか?」
「飽きない!」
即答だった。
レイ達は毎日の様にこの船員に海の話を聞かせてくれとせがんでいる、船員は苦笑する。
「今日は…そうだな…レイ、お前の親父の話でもするか?」
「親父?」
レイが反応する。
「ああ」
船員は頷いた。
実はこの男、今の商船に乗る前は別の船団に所属していた。
その頃にエドガーと何度か会ったことがあるらしい。
「なんと言うか…豪快な人、だな」
「何したんだよ」
「色々」
その言い方だけで嫌な予感がする。
「嵐の中で落ちた帆を拾いに行ったり」
「何やってんだ親父…」
レイが言う。
「海獣に追われてる船を助けたり」
「人助け…確かに想像付くけど怪獣相手は無謀ね」
ミナも言う。
「崖から落ちた仲間を助けようとして自分も落ちたり」
「馬鹿だな」
今度はセイル。
船員は笑う。
「でも全部何とかした」
「親父らしいな……」
レイは頭を抱えた。
容易に想像できる。
「危なくなかったのか?」
ガルドが聞く。
「危なかったぞ」
船員は即答した。
「毎回」
「毎回かよ」
「毎回だ」
全員呆れた。
だが船員は少し懐かしそうだった。
「でもな」
「うん?」
「エドガーさんは無茶するけど諦めなかった」
「……」
「突っ込んでから考えるんだよ」
「駄目じゃん!」
レイが言う。
「駄目なんだけどな…」
船員は笑った。
「それで切り抜けるから誰も強くは言えなかったんだ…アイツの仲間も困ってたよ」
まさにエドガーだった。
先に飛び込む。
後で考える。
そして気合と根性と経験で何とかする。
普通なら死ぬ。
だが生き残る。
そういう男だった。
「レイも似てるよな」
船員が言った。
レイは首を傾げる。
「そうか?」
「似てる似てる」
ガルドも頷く。
「昨日の木箱とか」
「あー」
フィオも思い出した。
港で子供を助けた時の話だ。
だが。
その時だった。
「でも、少し違う」
珍しくミナが口を挟んだ。
全員が見る。
「違う?」
レイが聞く。
「うん」
ミナは少し考えながら言葉を選ぶ。
「エドガーさんは」
そこで一度区切った。
「たぶん先に飛び込むわ…」
「あー…確かに」
「その後で何とかする」
「うん」
「レイは」
今度はレイを見る。
「なんと言うか…飛び込む前から何とかしてる」
「うん?」
沈黙。
レイ本人が一番分かっていなかった。
「どういうことだ?」
「昨日」
ミナは言う。
「あの子を助けた時」
「ああ」
「ちゃんと木箱の落下位置避けてたでしょ?」
「そうだな」
ガルドも頷く。
「転がる方向も綺麗だった」
フィオも言う。
「僕も見てた」
セイルも頷いた。
「まるで最初から分かってたみたいだった」
レイは困惑した。
そんなつもりは無い。
本当に無い。
ただ。
助けなきゃと思った。
それだけだ。
だが言われてみれば。
どう転べばいいか、どこへ走ればいいか。
そういうことは何となく分かっていた。
昔からそんな具合だ。
「勘じゃない?」
レイは言う。
「それ」
ミナが頷く。
「その勘がおかしい」
「酷くない?」
全員笑った。
だが。
船員だけは少し真面目な顔だった。
「才能かもしれないな」
「才能?」
「戦いの」
レイは首を傾げる。
戦い。
そんなもの考えたこともない。
喧嘩ならしたことはある。
棒切れを剣にして遊ぶこともある。
だがそれだけだ。
「俺は航海士になりたいんだ」
レイが言う。
「戦闘員になりたい訳じゃ無いぞ」
「いや、航海士だって戦うぞ?」
船員は笑った。
「海は優しい顔もあるが、甘くは無いからな」
その言葉だけは…妙に印象に残った。
その後。
レイ達は商船を後にした。
向かう先はもちろん。
東の森の洞窟だった。
道中。
ガルドが木の枝を拾う。
「剣だ」
「棒でしょ」
ミナが言う。
「剣だ」
「棒」
「剣だな…!」
レイが言う。
「棒だろう」
セイルが呆れたように言う。
始まった。
いつものやつである。
レイは枝を受け取る。
軽く振る。
そして。
ヒュッ!
綺麗な音が鳴った。
「おお」
ガルドが感心する。
「上手いな」
「上手いとかあるのか?」
レイ自身は普通のつもりだった。
だが。
実際には違う。
足運び。
重心。
振り方。
どれも妙に様になっている。
もちろん本人は無自覚だ。
「なんか悔しい…」
ガルドが言う。
「なんでだよ」
「俺より上手いから」
「適当だぞ?」
「それで上手いのが悔しいんだよ!」
「そんな理不尽な…」
フィオが笑った。
セイルも少し笑う。
クロは木の上から見下ろしている。
「器用な奴」
ぼそりと呟いた。
そして。
森を抜ける。
洞窟が見えてきた。
入口は変わらない。
だが。
そこから先は。
昨日までと同じとは限らない。
レイ達は顔を見合わせた。
そして。
再び洞窟の中へ足を踏み入れた。
………………………………
洞窟の中は相変わらず静かだった。
外では蝉が鳴いていたはずなのに、一歩足を踏み入れるだけで別世界のように音が遠くなる。
乾燥している外の暑い空気は此処には入って来ない。
変わりに、空気が重たいのだ、湿度が高い、と言っても良いかもしれない。
しかし、レイ達はそんな事は気にせず洞窟内部を進む。
先頭を歩くのはレイ。
その後ろにミナ、ガルド、フィオ、セイル。
最後尾をクロがふわりと飛んでいる。
「皆で来るのは何回目だっけ?」
フィオが言った。
「三回目」
セイルが答える。
「よく飽きないね…」
「宝があるかもしれないからな!」
レイが言う。
「まだ言ってる」
ミナが呆れた。
「だって最初の目的だぞ」
「途中から秘密探しになってるでしょ」
「両方だよ」
レイは真面目な顔だった。
そのせいで余計に面白い。
ガルドが吹き出した。
「本当に宝があったらどうする?」
「船買う!」
「無理だろ」
「じゃあ船を作る!」
「もっと無理だろ」
「親父達に頼む!」
「それは…出来そう」
フィオが頷いた。
実際、島には船大工もいる。
親世代の誰かに頼めば小舟くらいは作れるかもしれない。
もちろん大金が必要だろうが。
そんな話をしている内に。
目的の壁へ辿り着いた。
「……」
全員が立ち止まる。
昨日と同じ。
いや。
違う。
「また増えてる」
セイルが真っ先に気付いた。
壁の文字。
淡い光を放つ古い文字。
昨日まで。
『旅人』
『海を渡る者』
『星を追う者』
だった。
しかし今日は違う。
さらに下へ文字が続いている。
『旅人』
『海を渡る者』
『星を追う者』
『門を探す者』
沈黙。
「門?」
ガルドが言う。
「門って何だ?」
「知らないわよ」
ミナが答える。
「でも増えてるわね」
それだけは確かだった。
「………」
レイは壁へ近付く。
手を伸ばす。
触れる。
冷たい。
ただの石だ。
しかし。
その瞬間。
ごうっ。
風が吹いた。
今までで一番強い風だった。
全員が思わず目を細める。
髪が揺れる。
服がはためく。
「うおっ!?」
ガルドが声を上げた。
風は数秒で止む。
再び静寂。
だが。
何かが変わった。
「……見ろ」
クロが言った。
全員が壁を見る。
壁の横。
今までただの岩だった場所。
そこに。
細い線が走っていた。
まるで扉の隙間のような。
「昨日あったか?」
レイが聞く。
「無かったわね」
ミナが即答する。
「絶対無かった」
セイルも言う。
全員一致だった。
「じゃあ…今出来た?」
フィオが少し不安そうに言う。
「かもしれない…」
レイは線を見つめる。
縦に伸びている。
人一人通れそうな幅。
まるで。
壁の向こうに空間があるみたいだった。
「押してみるか?」
ガルドが言った。
「待って」
ミナが止める。
「危ないかもしれないわ」
「でも俺は気になる気になる」
「気になるのは…分かるけど…」
レイはこの先の空間に興味津々だ。
「じゃあ…どうする?」
全員悩む。
その時だった。
「お前ら何してる」
聞き覚えのある声。
全員が振り返る。
ラズだった。
「ラズ?なんでここに…仕事は?」
レイが聞く。
「見回りだ」
「嘘だあ!」
「失礼な」
全く説得力が無かった。
ラズは壁を見る。
そして。
珍しく。
本当に珍しく。
目を丸くした。
「……おいおい」
小さく呟く。
「知ってるのか?」
レイが聞く。
ラズは答えない。
その代わり。
壁へ近付く。
文字を見る。
扉のような線を見る。
しばらく黙る。
それから。
深くため息を吐いた。
「面倒なことになったな」
「知ってるのか!」
「少しな」
全員の目が変わる。
初めてだ。
ラズが「知らない」以外を言った。
「何なんだこれ」
レイが聞く。
ラズは頭を掻く。
そして。
少しだけ遠くを見る。
「昔」
ぽつりと呟く。
「俺達も似たようなもんを見た事がある」
静まり返る。
俺達。
つまり。
親世代。
確かラズは親父達の船に乗っていたから…白帆団の話だ。
「本当か!」
レイが食い付く。
「静かにしろ」
「無理だ!」
「だろうな」
ラズは苦笑した。
「詳しくは知らん」
「またそれか…」
「本当だ」
だが。
今度は続きがあった。
「ただ一つだけ覚えてる」
「何だ?」
ラズは壁を見る。
そして。
『門を探す者』
その文字を指差した。
「その手の場所は」
少しだけ真面目な声。
「大体、探してる奴を選ぶ」
沈黙。
意味が分からない。
「どういうことだ?」
ガルドが聞く。
「俺もよくは知らん」
「知らないのかよ!」
「だって俺は見ただけで船長とレイの親父と他数人以外は蚊帳の外だったし…だが」
ラズは肩を竦めた。
「昔そう聞いた」
どこで。
何を。
聞きたいことはあるが。
ラズの顔を見る限り今はそれ以上話す気は無さそうだった。
その時。
かちり。
小さな音が響いた。
全員が固まる。
音は壁の奥から聞こえた。
まるで。
鍵が外れたような。
そんな音だった。
そして。
扉のような線が。
ほんの僅かに光を漏らし始める。
「……」
誰も喋らない。
レイがゆっくりと息を飲んだ。
宝探しのつもりだった。
秘密基地探しのつもりだった。
けれど。
今目の前で起きていることは。
そんな子供の遊びではない。
何かが…始まる予感がする。
………………………………
先程、かちり…と、まるで何かが噛み合う様な音がした。
小さい。
だが確かに聞こえた。
全員が息を呑む。
壁に走る一本の線。
その隙間から淡い光が漏れている。
すぅ……。
今度は風ではなかった。
空気そのものが流れているような感覚。
まるで長い間閉ざされていた部屋が少しだけ呼吸したみたいだった。
「……開くのか?」
ガルドが小声で言う。
「知らない」
ミナも小声だった。
自然と声が小さくなる。
洞窟全体が静まり返っていた。
ぽたり。
天井から落ちた水滴の音さえ大きく聞こえる。
レイは壁を見つめていた。
光。
文字。
扉。
胸が妙に騒ぐ。
怖い訳ではない。
危険な気もする。
なのに。
目を離したくない。
「レイ」
ラズの声だった。
「何だ?」
「近付き過ぎるなよ」
珍しく真面目な口調だった。
レイは少し驚く。
「…危ないのか?」
「分からん」
「またそれかよ…」
「バカチン、だから危ないんだろーが」
全員が納得した。
ラズは本当に知らないのだろう。
だが何かは知っている。
そんな感じだった。
ぎ……。
また音が鳴った。
今度は石が擦れるような音。
全員が壁を見る。
ゆっくりと。
本当にゆっくりと。
扉のような線が広がり始める。
「おいおいおい……」
ガルドが後退る。
「本当に開きそうだ」
「見れば分かるわよ」
ミナも一歩下がった。
フィオはセイルの後ろへ移動する。
セイルは慌てて手帳を開いていた。
「えぇ…今それ書くのぉ?」
レイが突っ込む。
「こういうのは記録しないと!」
「強い…!」
ある意味一番肝が据わっていた。
ぎぎ……。
音が止まる。
開いた隙間はほんの数センチ。
人どころか手も入らない。
だが。
そこで変化は終わらなかった。
ふわり。
光が溢れる。
白い。
柔らかな光。
眩しいのに目が痛くない。
不思議な光だった。
そして。
その光の中に。
何かが見えた。
「……船?」
レイが呟く。
一瞬だけだった。
確かに見えた気がした。
海。
空。
帆船。
そして。
人影。
しかし次の瞬間には消えている。
「今…見えたか」
レイが言う。
「何を?」
ラズが聞く。
「船」
全員が顔を見合わせた。
「私も見た」
ミナが言う。
「え?」
「帆船」
「私も」
フィオも頷く。
「僕もだ」
セイルまで。
ガルドだけが首を傾げていた。
「俺だけ見えなかったのか…」
「お前だけか」
「いや!ラズだって見えてなさそうだったろ!」
その時だった。
パチッ。
まるで火花が弾けるような音。
全員が振り向く。
洞窟の入口側。
そこに一人の男が立っていた。
商船の船員だった。
さっきまで港にいたはずの。
「やっぱりか……」
男はそう呟いた。
「え?」
レイ達は固まる。
男は壁を見る。
光を見る。
そして深く息を吐いた。
「見つかったんだな」
「何が?」
レイが聞く。
男は少し迷う。
話すべきか。
話さないべきか。
そんな顔だった。
しかし。
その前にラズが口を開いた。
「お前は…そうか、今はあの船に乗ってるのか」
「久しぶりだな」
船員は苦笑する。
「相変わらず生きてたんだな」
「相変わらず失礼な…」
「死にそうなことしかしてなかっただろ」
「否定はできん」
二人は知り合いだった。
しかも。
かなり昔から。
レイはボソっと呟く。
「親父の船と一緒になった事もあるならそりゃそうか…」
「ラズ」
船員が言う。
「お前も見たことあるんだろ」
「あるな」
即答だった。
「なら分かるだろ」
「分からん」
「お前らしいな」
二人は笑う。
レイ達だけが置いていかれていた。
「なぁ、教えてくれよ」
レイが言う。
「何なんだこれ」
船員は壁を見る。
そして少しだけ考えた。
「俺も詳しくは知らない」
「またかよ!」
本日三回目だった。
「でも一つだけ言える」
船員の顔から笑みが消える。
「それは神秘だ」
「神秘?」
セイルが復唱する。
「ああ」
船員は頷く。
「海にはある」
洞窟の光を見つめる。
「空にもある」
壁の文字を見つめる。
「人にもある」
そして。
少しだけ遠くを見る。
「そして稀に」
「?」
「世界そのものにもある」
誰も意味を理解できなかった。
だが。
その言葉だけは妙に印象に残った。
神秘。
初めて聞く言葉。
しかし。
なぜだろう。
レイにはその響きが嫌いではなかった。
むしろ。
ずっと昔から探していた何かに近い気がした。
海の向こう。
知らない景色。
未知の場所。
冒険。
旅。
そういうもの全部をまとめたような言葉。
そんな気がした。
その時。
ふっ。
突然。
光が消えた。
「え?」
フィオが声を上げる。
壁も。
扉も。
文字も。
全て元通りだった。
そこにはただの岩壁しかない。
さっきまでの光景が嘘だったみたいに。
「終わったか」
ラズが呟く。
「終わったな」
船員も頷く。
「結局…何だったんだよ…」
ガルドが頭を抱える。
誰にも分からない。
結局何も分からないまま。
ただ。
一つだけ確かなことがあった。
この洞窟には何かがある。
そして。
その何かは。
親世代ですら完全には知らないものだ。
レイは壁を見つめる。
静かな岩壁。
何もない。
だがレイは確信していた。
次はもっと何か分かるかもしれない。
そんな予感があった。
洞窟の外では夕日が傾き始めている。
そして。
誰も気付かなかった。
洞窟を出るレイ達の背中を。
森の奥から誰かが見ていたことに。