サキュバス編集さんと馬鹿作家 〜そのパンティが動かぬ証拠です〜   作:ガイコツ番付

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第2話 吸精殺人事件です!

● 被害者の発生

「しかし」

「存外やりますね」

この男。

放置しておいていいものだろうか。

「まぁ大丈夫でしょう」

「馬鹿なのですぐ忘れるでしょう」

かなり馬鹿ではある。

だが。

暇つぶしにはなる。

「では」

「おやすみなさい」

「しっかり仕事をするのですよ」

編集さんは夜の街へと消えた。

《食事》の時間だった。

 

● 殺害の条件

翌日。

「編集さんはサキュバスです!」

「間違いない!」

「あなたに担当されてた作家が」

「昨日」

「変死体で見つかりました!」

「頬はこけてたのに」

「妙に」

「幸せそうな顔だったと聞きました!」

「そうとしか考えられません!」

私は編集さんに、またもや論争をふっかけていた。

今度こそ認めさせてやる。

「……ずいぶん失礼ですね」

「人が幸せそうな顔で」

「亡くなっただけで」

「担当編集を」

「サキュバス扱いするのですか」

編集さんは何食わぬ顔だ。

この期に及んで。

まだしらを切るつもりらしい。

「ですが」

「仮にそうだとしましょう」

「あなたも私の担当作家です」

「では」

「なぜ」

「今も生きているのでしょうね?」

私は冷たい目で見下された。

編集さんは私より背が高い。

その目つきが気に入らない。

そして。

人間離れしたデカ過ぎる乳と尻をしている。

その時点で怪しすぎる。

「それは…」

「私のことを」

「好ましく思ってて」

「殺したくないから」

根拠はない。

だが。

話していればそのうち何か出る。

「不正解です」

「その根拠のない自信は」

「願望が入っていますね」

冷たく言い放たれた。

私はショックなんて受けていない。

受けていないぞ!

「未完成の原稿…!」

「締切を守ってない作家を搾り殺した!」

「これで」

「説明できますよね!」

私は勝ち誇った。

編集者なら。

原稿を書く作家は殺さない。

締切を守らない作家だけを食う。

完璧だ。

「説明できていません」

「そのうえ」

「死因不詳から

「ずいぶん具体的な」

「殺し方まで」

「考えましたね」

「そこだけ」

「異様に妄想が速いのは」

「なぜですか?」

「あなたの願望ですか?」

温厚な私でも。

さすがに許せない。

「やかましいですよ!」

「過去にあなたの下着で」

「私は痙攣させられました!」

「殺し方なんて想像できます!」

「締切を破ったから」

「用済みだから殺したんだ!」

殺し方は分からない。

だが。

痙攣させられることだけは私が証明済みだ。

記憶が妙に飛んでいる気がするが。

「……思い出しましたか」

「ですが」

「あれで証明されたのは」

「『あなたが私の下着で痙攣した』」

「ことだけです」

「変死体の死因まではつながりません」

「それに」

「締切を一度破っただけで」

「用済みなら」

「この出版社から」

「作家がいなくなりますよ」

まずい。

一理ある。

「締切を破りまくるやつを殺したんだ!」

「逆に教えてください!」

「下着で痙攣なんて普通じゃない」

「少なくとも」

「私は今まで経験したことがありません!」

「あなたの下着がおかしいことは」

「説明がつきますよね!」

本当は。

女性の下着を見たのはあれが初めてだ。

もしかすると。

女性の下着とはそういうものなのかもしれない。

そこはわからない。

「殺害の条件を」

「後から変えないでください」

「反証されるたびに条件を変えるのは」

「推理ではありません」

動揺しない。

今日も手強い。

「私の下着が」

「あなたに異常な反応を起こさせた」

「そこは認めます」

「ですが」

「亡くなった方が」

「下着へ触れた証拠すらない」

「下着から殺人へつなげるのは」

「強引すぎます」

まだだ。

殺害対象の条件なら見えてきた。

「締切を破り続ける」

「悪質な作家を殺したんだ!」

「彼は締切を守らない作家だった」

「最近では全く連載もしていなかった!」

少なくとも矛盾はない。

ここから情報を引き出す。

「今度は少しだけ筋が通りました」

「『締切破り』ではなく」

「『書くこと自体をやめた作家』ですね」

「ですが」

「私が普通の人間ではないらしいことと」

「その方を殺したことは」

「依然として別です」

何だかよくわからないが。

筋が通ったらしい。

言ってみるもんだな。

 

●浮かび上がる被害者達

「そうです!」

「そういう作家です!」

私はスマホで。

この出版社で筆を置いた作家を調べた。

該当するのは五人。

仮にA、B、C、D、Eとする。

A、B、Cは同様に死因不詳。

追い詰めたぞ。

「ほら!」

「A、B、Cは死んでいます!」

「彼らはあなたの元担当でしたか!?」

「答えてください!」

それと。

もう一つ。

痙攣が長引けば。

身体はうまく機能しなくなる。

「痙攣が続けば死ぬはずです!」

「つまりあなたは」

「下着で人を殺せるわけです!」

今度のは間違ってない。

と思う。

「ええ」

「A、B、Cは全員」

「私の元担当です」

「ですが」

「『痙攣が続けば死ぬ、だから下着で殺した』は飛躍です」

「あなたは前回」

「生きています」

「それに」

「そんなバカな殺害方法を主張しないでください」

「再現性がありません」

下着での殺害を《バカな殺害方法》と切り捨てた。

彼女らしくない逃げ方に見える。

「でも死んだ人間は一致してます!」

DとEの話は伏せておく。

向こうに有利な情報を渡す必要はない。

「私のことは」

「あなたが殺す気がなかったから」

「で説明できるでしょう!」

「私は連載もしているし!」

ここは。

私に有利な部分だけを拾う。

「それでは」

「死ねば『私が殺した』」

「生きれば『殺す気がなかった』」

「どちらへ転んでも」

「あなたの説が当たることになります」

「反証不能です」

「A、B、Cだけを並べる前に」

「筆を置いて」

「今も生きている」

「作家がいないか確認しなさい」

気づかれていた。

DとEの存在に。

 

●存在しない被害者

「D、Eという作家は」

「元担当でしたか?」

心なしか、編集さんが笑ったように見えた。

「ええ」

「DもEも私の元担当で」

「今も生きています」

「死者三名だけを提示して」

「生存者二名を伏せましたね」

「ずいぶん都合のよい資料の出し方です」

痛いところを突かれた。

だが。

まだ終わりではない。

「しかしDは女性です!」

「女性に」

「サキュバスの能力は」

「効きにくいと考えるのが普通でしょう!」

「サキュバスという存在は理解できてますよね?」

定義の話に逃げられては困る。

ここは釘を刺しておく。

「理解しています」

「ですが」

「『女性には効きにくい』は」

「あなたが今置いた仮定です」

「それに」

「Eは男性でしょう」

「Dを説明できても」

「Eが生きている限り」

「まだ条件が足りません」

予想どおりだ。

問題はE。

男性なのに。

なぜ生きている?

「Eのことは」

「殺す気がなかったとか」

「或いは」

「今後殺すとかでも説明できますよね!」

苦しい。

だが。

まだ負けではない。

Eの情報さえあれば。

何か出る。

「また」

「反証不能に戻りましたね」

「それでは」

「Eの生存は」

「永遠にあなたの説を否定できません」

「説明できるのではなく」

「何が起きても言い逃れられるだけです」

理屈は苦しい。

だが。

この女が危険なのは間違いない。

「それでも」

「あなたが」

「無実を証明する材料の方が弱いでしょう!」

Eと連絡さえ取れれば。

何か掴めるはずだ。

「私は無実を証明する必要はありません」

「殺したと主張するあなたが」

「証明する側です」

「現時点であるのは」

「死者三名と生存者二名」

「そして」

「あなたが私の下着で痙攣しただけ」

「あら」

「最後の一件だけ唐突に変態が出てきましたね」

編集さんが口に手を当てて笑う。

笑うと乳がデカすぎて揺れた。

そんなところも腹が立つ。

「うるさい!」

「人を痙攣させておいて!」

男の精を喰らう化け物め!

お前の正体。

必ず暴いてやる。

 

●Eという男

「Eと連絡をとり証拠を掴みます!」

「あなたが犯人じゃないなら教えられるはずです!」

私は編集さんに詰め寄る。

そこに必ず手掛かりがある。

「容疑者へ」

「第三者の電話番号を要求しないでください」

「公開されている窓口から正規に連絡しなさい」

自分の正体を暴かれるのが怖いらしい。

捜査に協力するつもりもないようだ。

「どこに連絡したら連絡取れるか」

「わかんないから聞いてるんですよ!」

「化け物!」

「サキュバス!」

「変態!」

私は怒りを込めて編集さんを罵る。

「最後の一つだけは訂正しなさい」

「変態なのは」

「私の下着を自分で開封して痙攣した方です」

違う。

あれはサキュバスの能力だ。

なんて失礼な編集なんだ。

「E宛ての連絡は」

「編集部で預かります」

「本人の了承が得られた場合だけ転送します」

編集さんはEに連絡を取った。

追い詰められる感覚など。

サキュバスには珍しいだろう。

「下着で痙攣させるのが」

「化け物じゃなくてなんなんだ」

下着。

痙攣。

待て。

何かが繋がりそうだ。

「痙攣させたのではありません」

「封を開けるなという指示を破り」

「ご自分で顔を近づけた結果です」

まだ言い訳を続けるつもりなのか。

なんて哀れなサキュバスだ。

「待っている間に原稿を」

「サキュバスではない」

「担当編集からの指示です」

あんたも。

サキュバス認めてきてるじゃないかよ!

しばらくして。

Eと連絡を取ることができた。

聞きたいことは一つ。

「あの!」

「編集さんの下着があったら興奮しますか!?」

返事は。

予想から外れていた。

彼は同性愛者だった。

だが。

繋がった。

「わかってきましたよ!」

「あなたの能力の発動条件」

「そしてその真相もね!」

 

●解決編

「そうですか」

「では」

「その法則を説明してみなさい」

編集さんは腕を組み。

デカすぎる乳を上に乗せる。

その馬鹿みたいな身体も今日で見納めだ。

「その前に」

「初対面の元作家へ」

「私の下着で興奮するかと聞いたのですか?」

「あなたより先に」

「私がEへ謝罪する必要がありそうですね」

追い詰められてなお。

平静を装っている。

「最後に聞いておくぞ!」

「このサキュバス!」

「死んだA、B、Cは巨乳好きで」

「巨尻好きで」

「性欲が強い」

「ロリコンでも同性愛者でもなく」

「特殊な性癖もない」

「これに当てはまっているよな?」

「そして」

「あんたのことをエロいと思っていた」

「間違いないな」

答えは分かっている。

聞くまでもない。

「……確認できる範囲では」

「概ねその通りです」

「ですが」

「故人三名の嗜好を並べただけで」

「まだ私が殺した証明にはなりません」

「さあ」

「その条件から」

「何が分かったのですか?」

ここまで来た。

真相を突きつけてやる。

「あなたは」

「作家を辞めた男のうち」

「あなたに性的に興奮する者を」

「サキュバスとして殺した!」

「能力の条件として」

「相手があなたに性的に興奮している必要がある!」

「何一つ間違いはないよな!」

編集さんの目が僅かに揺れたのを。

私は見逃さなかった。

乳が揺れるのも。

見逃さなかった。

「……食事対象へ移る条件と能力の発動条件」

「そこまでは正解です」

「書くことを捨てたオスは」

「もう私の担当作家ではない」

「ただの食料にすぎません」

「そして」

「性的に興奮していない相手には」

「確かにサキュバスの能力が通用しません」

「ですが」

「A、B、Cを私が殺した証明にはなっていません」

何を言っているんだ。

今ので説明できたはずだ。

「なってるだろ!?」

ここまでの時間は何だったんだ。

「なっていません」

「三人が私へ性的に興奮し得たことと」

「死亡時に実際に興奮していたことは別です」

「さらに」

「その瞬間に私が搾精した証拠もない」

「可能な条件を並べただけです」

悔しいほど涼しい顔で。

彼女は言い切った。

「屁理屈を並べやがって!」

ちょっと待て。

いま。

食事。

能力って言ったよな。

「認めたんだな!」

「このサキュバスめ!」

だが。

何かを見落としている。

その発動条件なら。

私は恰好の標的だ。

そして。

秘密を暴いた私は。

 

●真実は味方しない

「もしかして編集さんにとって」

「私は今」

「すごく邪魔な存在になってしまいましたか?」

急いで態度を軟化させた。

刺激してはいけない。

編集さんが少し微笑んだ。

「ええ」

「ようやく気づきましたか」

「ただ」

「ミステリーが書けそうではないですか?」

「今は何もしません」

「一旦これを元に執筆しなさい」

「今すぐ」

「私の機嫌がいいうちにね」

そう。

私は彼女に逆らえるはずがない。

「カシコマリマシタ」

死にたくない。

ただそれだけだ。

「遅れたらどういう目に遭うかはわかりますね?」

「はい」

私は書いた。

命がかかると。

筆は速かった。

「出来ました!」

「編集さま!」

「及第点です」

助かった。

そう思った。

「では」

「顔を上げなさい」

言われるまま、見てしまった。

角と紋章。

編集さんは笑っていた。

今まで見たことがないくらい。

嬉しそうに。

こんな時なのに。

本当に。

私は救いようがない。

「少し記憶を失う程度に」

「あと」

「死なない程度に寿命をいただきます」

そんな。

「約束が違います!」

ばかな。

「『今は』何もしないと言いました」

「もう原稿は完成していますよ」

そういえば。

何も約束していなかった。

「おほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

●真実のあと

「腹の足しにもなりませんね」

私はボロ雑巾のように床に投げ捨てられた。

編集さんに逆らってはいけなかった。

そして。

記憶にないがミステリ短編を書き上げた。

内容はすごく馬鹿みたいだった。

全然面白くなかった。

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