サキュバス編集さんと馬鹿作家 〜そのパンティが動かぬ証拠です〜 作:ガイコツ番付
●自供
「編集さんはサキュバスです!」
「証拠もあります!」
「認めますか!」
私は今回こそ証明するつもりだった。
だが。
編集さんの返事は意外なものだった。
「ええ」
「認めます」
「証拠は要りません」
「あなたの素行のせいで」
「私は上司に叱られました」
「とても機嫌が悪いです」
「ですから今日は」
「私から逃げない方が」
「賢明ですよ」
あっさり認められてしまった。
いや。
何か裏がある。
しかも。
品行方正な私の素行にまで言及している。
「素行不良については」
「全く心当たりがありません」
「何より」
「いま認めると言いましたか?」
おかしい。
会社の悪口を。
匿名なのか匿名じゃないのかわからんところで。
ボロカスに発言したことだろうか?
酔っ払って編集の上司のカツラを引っ剥がしたことだろうか?
受付の可愛い女性に絡みまくったことだろうか?
出版社の備品を持ち帰りまくったことだろうか?
トイレを長く占領していることだろうか?
全く心当たりがない。
「ええ」
「二度は申しません」
「私が何者か理解したうえで」
「これからの話を聞きなさい」
編集さんが腕を組むと。
馬鹿みたいに大きな乳がさらに盛り上がった。
「いや」
「本当なら」
「退治されるべき存在でしょう!」
馬鹿みたいな乳をしたサキュバスなど。
この世に存在してはいけない。
男が死ぬ。
「そうかもしれませんね」
「ですが今ここにいるのは」
「退治する者ではなく」
「私を怒らせたあなたです」
「順番を間違えないでください」
信じられないデカさの尻をしたサキュバスなど。
治安の乱れの原因にもなるだろう。
「ちょっと待ってください」
「状況を整理しましょう」
「つまり」
「この状態はサキュバスと」
「サキュバスを怒らせた男」
「あれ?」
「もしかしてピンチですか?」
編集さんは頷いた。
馬鹿みたいな乳が大きく揺れる。
「ええ」
「ようやく正しく整理できましたね」
言葉は理解できた。
だが。
さすがにあり得ない。
「いや!」
●証拠
「そんな簡単に」
「信じられません!」
「逆に本当に」
「サキュバスだという」
「証拠がありません!」
いつも正体を。
隠していたはずだ。
なぜ今になって。
「では」
「証明して差し上げましょうか」
「今回は袋も」
「対照実験も必要ありませんね」
編集さんが手を私に向けた。
手のひらから。
桃色の光が放たれている。
絶対に危険だ。
「わ、わたしに」
「危害を加えるのは無しです!」
私は通りすがった。
男性社員を見た。
「あそこの」
「男性社員で証明してください!」
編集さんが面倒くさそうにため息をつく。
「仕方ないですね」
編集さんは男性に声をかけ。
肩に手を置いた。
男性が。
何か言おうと口を開く。
「へん、あ、おおおほおおおおおおおおおおお!」
男性社員は絶叫し。
白目を剥いて痙攣し始めた。
意味不明な言葉を叫び。
桃色の光を放ちながら床をのたうち回っている。
編集さんが戻ってきて。
楽しそうに言う。
「へんあおお」
「ですって」
「虫みたいに跳ねて」
「日本語も喋れていませんでしたね」
クスクス笑っている。
なんて最低の女なんだ。
馬鹿な乳と。
無駄に綺麗な顔をしているだけで。
「いや」
「まだ偶然かもしれません」
「それだけで」
「サキュバスの証拠と言えますか」
私は問い詰める。
この女を許さない。
「ええ」
「彼一人では」
「私がサキュバスだという」
「証明にはなりません」
「ですから次は」
「あなたで再現性を確かめましょう」
何を言ってるんだ。
このどすけべ。
私が自分を。
危険に追い込むわけないだろう。
「だめです」
「私が死なない保証がないですよね?」
「それに」
「あなたが」
「証明する相手がいなくなります!」
窓を見下ろすと。
入り組んだ路地の手前に助平そうな男がいた。
スマホ片手に暇そうにしている。
「あの男性に何か」
「さっきと違うことを出来れば認めてあげますよ」
同じ会社の人間なら。
グルだった可能性も否定できない。
部外者なら。
さすがに仕込みはできないだろう。
「あなた」
「自分がどんな残酷な行動をしているのか」
「理解していないんですね」
「面白い」
「逃げずに待ってなさい」
編集さんが会社を出た。
しばらくして。
通行人の男に声をかける。
胸元をアホみたいにはだけた編集さんに。
男の視線は釘づけだった。
編集さんは男の首に手を回し。
逃げられないように口づけをした。
男が桃色に光る。
何かを言いながら。
そのまま二人は路地へ消えた。
何が起きたのかは見えない。
ただ時折。
「んぎもんおおおほおおおおお!」
という男の声が聞こえた。
やがて声が止まり。
路地から強烈な光が放たれた。
男が倒れ込んだのだろうか。
見える範囲に。
男の腕らしきものが現れた。
その腕は。
信じられないほど痩せ細っていた。
男は動かなかった。
路地から出てきた編集さんは。
真っ直ぐこちらを見ていた。
まるで。
逃げても無駄だと言わんばかりに。
「行儀良く見てましたか?」
「んぎもお」
「とか言ってましたね」
「気持ち悪いですねえ」
編集さんは、また無邪気に笑う。
いつもはもっと仏頂面なのに。
「お望みどおり」
「先ほどとは違うことをしました」
「まだ疑うのなら」
「次はどなたをご指名になりますか?」
「それとも」
「今度こそご自分で確かめますか?」
ダメだ。
ここは一旦。
認めるしかない。
下手に逆らえば。
何をされるかわからない。
「い、いやです」
「あの人は死ん……」
言いかけてやめた。
「ごめんなさい!」
「答えないでください!」
「ごめんなさい!」
聞きたくなかった。
だが。
この女に弱みを見せるのだけはダメだ。
喰われる。
「賢明です」
「では」
「私が何者かは理解しましたね」
「次は」
「なぜ私がこれほど機嫌を損ねているのか」
「理解していただきます」
理解などしてたまるか。
こいつに主導権は取らせない。
●取引
「いやです!」
「考えてみてください!」
「こんな状況で話し合えますか!」
「私が不利すぎます!」
戻ってきた編集さんは。
胸元のボタンをきっちり閉めていた。
「話し合いではありません」
「これは通告です」
「あなたに必要なのは」
「有利な条件ではなく」
「私の機嫌をこれ以上損ねない返事です」
編集さんは笑わない。
業務命令のように。
冷たく言葉を発する。
「損ねると」
「あの男みたいにするつもりですね?」
あの男の痩せた手。
跳ね続けていた男性社員。
「その事実は」
「よく覚えておきなさい」
だが。
まだだ。
まだ。
のまれはしない。
「私は!」
「原稿を書く限りあの男のようにはならない!」
「あなたは編集さんだから!」
逆に、有利な立場を取り続けるんだ。
そうしなければ死ぬ。
●条件
「これまでは」
「そうでしたね」
「ですが」
「今後もそうすると私が約束しましたか?」
「従わないあなたを」
「原稿だけを理由に」
「いつまでも生かしておくと思います?」
急なルール変更なんて不公平だ。
だが。
ここまで編集さんに悪態をつく作家が。
ほかにいなかった可能性もある。
サキュバスといえど感情はあるのかも。
私はそれを逆撫でし続けているのかもしれない。
しかし。
死ねと言われる筋合いはない!
「世の中には」
「私くらい嫌な性格の」
「作家の男性もいっぱいいるわけです」
「それを編集さんだって」
「いちいち殺してるわけじゃないでしょう?」
「私だけ急にルール変更は」
「不公平ではありませんか!?」
会話の中から。
生き延びる道を探る。
「ええ」
「嫌な男性作家というだけでは、いちいち殺しません」
「ですが」
「あなたは私に実害を出しました」
「不公平だと訴えれば」
「生かしておく理由が増えるとお思いですか?」
実害。
上司からのお叱りか。
編集さんは妙に。
上司からの注意や小言を気にしている。
いわゆる社畜なのだろう。
「編集さんが」
「サキュバスだと」
「他の人は知ってるんですか?」
隠しているなら。
それ自体が弱点になるかもしれない。
「答えてください!」
私に見せてみろ。
どこまで隠し通したいのかを。
「会社では」
「誰も知りません」
「それで?」
編集がまんまと答える。
本当にエロいだけの馬鹿なサキュバスだ。
「ということは」
「隠し通したいワケですよね?」
「このフロアにはあなたに触れられて」
「おかしくなった男性社員が」
「オフィスの近くの路上には」
「おそらく搾精されてしまった男性が」
「どう考えても妙ですよね?」
「大丈夫なのかなあ?」
明らかにおかしい事件だ。
会社に警察や。
怪異の専門家だって来るかもしれない。
ただ。
編集さんが普段どうやって遺体や証拠を処理しているのか。
私は知らない。
まずは出方をうかがう。
「ええ」
「このままでは」
「少々目立ちますね」
「ですが」
「何が起きたのか説明できる方は」
「今のところあなただけです」
「私が最初に片づけるべきものは何か」
「よく考えてから続きをどうぞ」
まずい。
完全に墓穴を掘った。
完全犯罪を成立させるために必要なのは。
目撃者の始末だ!
「まぁ落ち着いてください」
「絶対に口外しないと誓いますので」
「まずは」
「どうやって犯行の証拠を消すか相談しましょう」
「何か私が」
「助けになれる可能性だってある」
「いつもお世話になってる」
「編集さんの力になりたいだけです」
もちろん。
これだけでは弱すぎる。
だが。
時間は稼げる。
「口約束は信用しません」
「それに」
「証拠の処理を目撃者へ相談するほど」
「私は不用心ではありません」
ぐう。
なんて冷静な女だ。
とりあえずハッタリでもかましておくか。
●前提条件
「そういえば私」
「昨日から2次元専門の同性愛者で」
「ケモナーになりましてね」
私はケモノの良さを語り始める。
確か。
能力の使用条件は相手の性的興奮だ。
あれ?
では。
あの男性社員は。
仕事中に編集さんへ興奮していたのか?
酷い目に遭って当然の変態かもしれないな。
「編集さんも」
「際どい性癖があったりしますか?」
傍から見れば酷い変態だろう。
だが。
頭は高速で回転している。
「そうですね」
「サキュバスに追い詰められて」
「助かるために」
「性癖まで偽る」
「醜く」
「弱いオスなどは」
「弄び甲斐があります」
「逃がしてしまうには」
「少し惜しいですね」
まずい。
完全に読まれている。
「そ、そうですか!」
「そんな男がいるんですねー」
「私は二次元のケモナー同性愛者なので」
「当てはまりませんのですが」
「なかなか色んな癖がありますね!」
編集さんが近づいてくる。
シャツの胸元を少しはだけさせ。
紺のブラを覗かせた。
いつも隠している胸は。
やはりデカすぎる。
まさか。
ここで口封じに殺すつもりなのか?
近づくだけで。
窒息しそうな。
熱気がある。
編集さんが口を大きく開き。
舌を見せた。
信じられないくらい長い。
さっきの男は。
このサキュバスに絞られて死んだのか?
それなら。
幸せだったのかもしれない。
こんなエロい女に。
だめだ。
私は二次元専門同性ケモナーだ!
しっかりしろ!
この女はサキュバスだ!
絶対に……。
目が、離せない……!
いい匂いが鼻腔から流れ込む……!
身体の奥が熱くなる!
「待ってください、まだ」
「まだ」
私は言葉を絞り出す。
少しでも時間を稼がないと、殺される。
「まだ、何ですか?」
「二次元の男性と」
「獣しかお好きでないのでしょう」
「でしたら」
「私が近くにいても何も起こりません」
「どうぞ」
「目を逸らしなさい」
「できるのでしたら」
編集さんは胸を。
馬鹿みたいにデカい胸を。
わざと揺らしながら。
ゆっくり近づいてくる。
「まだ、殺さないで……」
デカすぎる胸が迫る。
このまま殺されるのは、幸せに違いない。
●閃き
「まだ……まだ……」
まだ終わってない……。
終わってない?
ハッとした。
そうだ!
原稿!
原稿が!
まだ終わってない!
「そこまでですよ!」
「あなたがまだ」
「私を」
「殺せない理由があります!」
私は。
誘惑を振り切った。
生き残る。
必ず。
「では」
「聞きましょう」
「ただし」
「『殺さない理由』を一つ見つけたくらいで」
「『殺せない』と希望的観測を」
「口にしないように」
「続きをどうぞ」
やはりサキュバス。
エロが強いだけで。
頭は弱いらしい。
「いいえ!」
「殺せませんよ!」
「あなたは」
「上司から怒られることを」
「恐れていましたね!」
サキュバスが恐れる上司。
魔王か何かなのだろうか?
なんだ。
この出版社。
「間違いありませんね!」
編集さんの目が一瞬揺らいだ。
私は見逃さない。
サキュバスの弱点に食らいつく。
「ええ」
「上司に叱られるのは」
「避けたいですね」
「だからこそ」
「あなたを生かしておく場合と」
「黙らせる場合の損失を比較しています」
「まだ」
「ご自分が有利だと断定しますか?」
私が彼女のために。
絶対に生き残らなければならない理由がある。
「もちろんです!」
正直。
勝率はわからない。
だが。
生き残るためにはかますしかない!
●交換条件
「私は」
「あなたの上司を怒らせたのに」
「まだ謝罪もしていない!」
そして、それだけじゃない。
「私はまだ」
「締切までの原稿を完成させていない!」
つまり、こういうことだ。
「私を殺して」
「存在を消せば」
「上司の機嫌を戻すのは」
「難しい」
「あなたの現場責任も」
「かなり重い」
「必ず叱責されます!」
もう。
このサキュバスは私に手出しできない。
主導権は私が握った。
「その推論は正しいです」
「あなたを今殺せば」
「私は叱られるでしょう」
「ですから」
「殺さずに従わせる方法を選びます」
「それを安全と呼びたいのでしたら」
「どうぞ」
編集さんは。
誘惑を止める気がない。
まだ勝負をする気か?
やめておけ。
お前の負けだ。
「いや!」
「まだだ!」
「あなたが上司に」
「さらに怒られない為の鍵となるのは」
「他でもない私です!」
「安全な方法を」
「編集さんがとらないのであれば!」
「私は上司にも謝りません!」
「締切も」
「守りません!」
「つまり」
「私の安全が確保されない限り」
「編集さんは大ピンチというワケです!」
お前は。
もう終わりだ!
「……なるほど」
「能力で身体を従わせても」
「あなた自身が謝罪し」
「原稿を書かなければ意味がない」
「そこは」
「あなたの勝ちです」
「安全の条件を提示しなさい」
その後。
上司に謝罪し。
原稿を書き上げるまで。
編集さんは約束どおり何もしなかった。
ただ。
苛立っているのは明らかだった。
まず。
没が多かった。
何枚も書き直しさせられた。
そして。
この地域で痩せ細った。
妙に気持ちよさそうな。
死に顔の男の変死体が複数見つかった。
編集さんだろうと問い詰めたが。
答えは教えてくれなかった。
やけ食いみたいなものなのだろうか。
あと。
オフィスでは。
突然よがる男性社員が続発した。
なぜか犯人は見つからなかった。
そして。
そんな編集さんが恐れる上司。
カツラを被った中年の男性。
一体、何者なんだ?
編集さんは。
自分がサキュバスだと。
会社の誰も知らないと言っていた。
上司は一体何者なのか聞いても。
答えは教えてくれなかった。