サキュバス編集さんと馬鹿作家 〜そのパンティが動かぬ証拠です〜 作:ガイコツ番付
●電撃移籍
「編集さん!」
「話があります!」
私は勝ち誇った顔である。
「何ですか?」
「ついに」
「死にたくなりましたか?」
編集さんはサキュバスです。
「そんなワケないでしょう!」
殺されてたまるか!
「ついに」
「引き抜きの話が来ましたよ!」
編集さんにメールを見せる。
「……」
編集さんは会社の名前を見て。
考え込んだ。
「あなた」
「そこが」
「どんなところか」
「わかって言ってますか?」
ああん?
関係ねえ。
「知るか!」
「バカ!」
「すごい大金ですよ!」
金が全てだろ?
サキュバスは。
そんなこともわからないのか。
「私の知り合いです」
「そんな大金」
「払ってくれるはずないでしょう」
編集さんなんかの知り合いにも。
いい奴がいるんだな。
信じられない。
「うるさい!」
「今日話し合いなので」
「文句があるならついてきて!」
編集さんは。
大きくため息をついた。
●打ち合わせ
向こうの会社で打ち合わせ。
「よろしくお願いいたします!」
「まあ♡」
「先生♡」
「本当に来てくださったんですね♡」
「嬉しいです♡」
「それに――お久しぶりですね♡」
「まさか♡」
「あなたまでついてくるなんて♡」
向こうの会社のお姉さんが。
編集さんに話しかける。
長いのでライバル会社の。
ライバルさんと呼ぶ。
知り合いというのは。
本当のようだ。
「契約内容を確認しに来ただけです」
「ふふふ♡」
「担当作家を取られるのが♡」
「そんなに心配ですか♡?」
「あなたがまともな契約を提示するとは」
「思えませんので」
なかなか。
バチバチにやり合っている。
サキュバスとはいえ。
編集さんは乳のでかい美人だ。
美女同士がやり合うのを見るのは。
なかなか楽しいもんだ。
「失礼ですね♡」
「先生には♡」
「それだけの価値があると思っていますよ♡?」
ライバルさんが。
嬉しいことを言ってくれる。
しかし、何か引っかかる。
そういえば編集さん。
担当じゃなくなると。
作家から食料へ降格されるのではないか?
小声で話しかける。
「編集さん」
「私がそちらの作家でなくなると」
編集さんは。
思い出したような顔をする。
「ええ」
「あなたはただの食料です」
私を引き止めるために。
生命まで条件にしてくるとは。
しかし。
何故かライバルさんが応戦する。
「させませんよ♡?」
なんだ。
どういうことだ?
「どういうお知り合いですか?」
無視された。
「それにこの契約」
「本当にあなたが」
「この額を提示するとは思えませんが」
編集さんはずっと契約のことが気になっているらしい。
サキュバスのくせに細えなあ。
「もちろん♡」
「本当にお支払いしますよ♡」
「契約したその日に全額♡」
「先生のような作家は♡」
「使い方次第で♡」
「とてもよく稼いでくださいますから♡」
編集さんはまだ疑っている。
いい人そうだろ。
乳もまん丸で。
でかいし。
「支払った後で」
「本人に返させるつもりでしょう」
ライバルさんが呆れた顔で返事する。
「人聞きが悪いですね♡」
「先生が自分から♡」
「私のために使いたいと♡」
「思ってくださるだけですよ♡?」
「同じことです」
ん?
「え?」
「使いたいと?」
「何でそうなるんですか?」
編集さんがため息をつく。
「まだ気づきませんか?」
「本当に馬鹿ですねえ」
ライバルさんが人懐っこい笑顔で話す。
「難しく考えなくていいんですよ♡」
「先生が私を大好きになれば♡」
「私のために使いたくなるでしょ♡?」
「契約後に魅了し」
「金も権利も」
「本人から差し出させるつもりです」
「嫌ですね♡」
「先生が幸せな気持ちで♡」
「貢いでくださるだけですよ♡?」
なんか仲が結構悪そうだ。
「編集さん」
「いつものように話し合いましょう」
「私がこの申し出を断る理由って」
「無いですよね?」
全くもって。
メリットしかない気がする。
「今」
「契約後に魅了して金も権利も差し出させると」
「本人の前で説明されたばかりでしょう」
魅了?
まんまるなお尻に気を取られて。
全く聞いてなかった。
なんか、変だぞ。
「差し出させるだなんて♡」
「私が大切にお預かりするだけですよ♡?」
うん。
これはおかしくない。
「そして用済みになれば食べられます」
「その女も、私と同じサキュバスです」
え?
今なんと言った?
「まあ、ひどい言い方♡」
「私は最後まで優しくいただきますよ♡?」
ライバルさんは否定しなかった。
●正体
「な!」
やはりな!
薄々気付いてたぞ!
ほんとだぞ!
ただ――
「ということは金も権利も残らない」
「同じようにサキュバスに監視される生活」
少し違うのは、
「編集さんとは違い、私を魅了してくれる」
「サキュバスが」
ライバルさんは。
とにかくおっぱいがデカく。
まるく。
柔らかそうで。
動くたびに。
遅れてゆさゆさ。
しかも背が低いから。
上目遣いにゆっさゆさ。
「魅了してくれる……」
もう勝てるはずないのだった。
「そうですよ♡」
「私なら先生が何も悩まなくていいように♡」
「毎日たあっぷり可愛がってあげます♡」
「お金も権利も私に預けて♡」
「先生は言われたものを♡」
「気持ちよく書くだけです♡」
編集さんが呆れている。
「それは服従と呼ぶのですが」
「本人が望んでいるなら♡」
「問題ありませんよね♡?」
「契約前からこの有様なら」
「魅了する手間すら必要なさそうですね」
ふむ。
考えをまとめてみよう。
●交渉
「では」
「真面目に交渉に入りましょう」
私は真剣な顔で切り出す。
「あなたの魅了の件ですが」
「それはちゃんとエッチなものだと」
「約束できますか?」
「また」
「そこにはその大きすぎるおっぱい」
「丸すぎるお尻が含まれていることも」
「約束できますか?」
「それが出来ないのであれば」
「契約は難しいですね」
編集さんはゴミを見る目で私を見た。
「もちろんです♡」
「おっぱいもお尻も♡」
「先生が逆らえなくなるまで♡」
「存分に使って差し上げますよ♡?」
「ご希望でしたら♡」
「契約書にも明記しましょうか♡?」
編集さんがまた口を挟む。
「交渉ではなく」
「自分の処刑方法を指定しているだけですが」
「でも先生は♡」
「それをご希望のようですよ♡?」
いい加減。
編集さんには黙っていただきたい。
「編集さん」
「すみませんが真剣な話し合いです」
「茶化さないでいただけますか!」
怒鳴りつけた。
編集さんは頭を抱えていた。
「追加して」
「書けるうちは殺さないと」
「約束していただけますか?」
私は重要な条件を。
ライバルさんに突きつける。
「もちろんです♡」
「契約どおり書けるうちは♡」
「大切な所属作家ですから殺しませんよ♡?」
編集さんがまたもや口を挟む。
いい加減にしてほしい。
「『書けなくなるようなことをしない』とは」
「一言も約束していませんが」
「だって先生から♡」
「書けなくなるほど可愛がってほしい♡」
「と望まれたら♡」
「叶えて差し上げたいでしょう♡?」
私は。
どちらが自分にとってメリットがあるか考える。
そう。
私は真剣だ。
「編集さん!」
「馬鹿は黙ってて!」
編集さんが。
確実にイラッとした表情をした。
「うちの編集さんは」
「書けるうちでも殺さないとは」
「約束してくれてません」
「編集さん」
「どう考えてもこれは」
「あっちの方がいい条件です」
私の頭は。
意外と冴えていた。
おっぱいのことなど考えていない。
本当に。
大きい。
まるい。
「……では」
「その馬鹿から一つだけ確認します」
「『書けるうち』かどうかを」
「判断するのは誰ですか?」
うん?
何を訳のわからんことを言っているんだ?
「もちろん私です♡」
「先生のことを♡」
「一番近くで見守ることになりますから♡」
「一文字でも止まれば」
「書けなくなったと判断して食べられる契約です」
「そんな意地悪はしませんよ♡?」
「魅了して」
「全財産を返させる女の善意とやらが」
「契約条件になるとでも?」
なるほど。ようやく理解した。
「むう」
「確かにそうか」
なら条件は同じ。
いや。
でも。
「あちらはエチエチなことをしてくれます」
「甘々サキュバスのお姉さんが!」
「かなり大きな違いです!」
「わかりますか!」
私の決断は決まっている。
「その通りです♡」
「とても甘やかしてあげます♡」
「熔けてしまうくらいにね♡」
●試用期間
「何なら今、お試ししてみますか♡?」
うひょー。
「ええ!?」
「いいんですか!?」
編集さんがゴミを見る目で私を見た。
「ええ、いい子ですね♡」
「おいで」
「先生♡」
「私の胸に包まれて♡」
「何も考えられなくなるまで甘えてください♡」
「お金も契約も♡」
「怖い担当さんのことも♡」
「ぜんぶ♡」
「お姉さんに♡」
「預けてしまえばいいんですよ♡?」
「目が覚める頃には♡」
「私なしでは一文字も書けない♡」
「とっても可愛い先生にしてあげますから♡」
私は。
ライバルさんに吸い寄せられていく。
いくつもの果物が混ざったような。
甘ったるい香り。
妙に心地いい。
脳が何も考えられない程に。
そして柔らかすぎるものに頭を包まれる。
彼女が優しく撫でてくれる。
身体中に電気が流れたように力が入らない。
「はへぇ」
「編集さん」
「今までありがとうございました」
ライバルさんが笑う。
編集さんはイラついている。
「あなたが勝手に廃人になろうと」
「搾り殺されようと知りませんが」
「私は上司にどう説明すればいいんですか」
編集さんの角が生え、模様が浮かび上がる。
「ひい!」
私は思い出す。
編集さんが殺した男の顔。
ライバルさんはまた笑った。
「そんな怖い顔では♡」
「先生が怯えてしまいますよ♡?」
「取り戻したいのでしたら♡」
「あなたもサキュバスらしく♡」
「優しく♡」
「誘ってあげればいいでしょう♡?」
「……この男を」
「ですか?」
「上司に叱られたくないのでしょう♡?」
「それとも♡」
「私から奪い返す自信がありませんか♡?」
「安い挑発ですね」
「では♡」
「先生はこのままいただきます♡」
いただかれますー。
「……その男から離れなさい」
「嫌です♡」
●逆転スカウト
「では」
「そこの馬鹿に伝えます」
編集さんが私の目を見る。
馬鹿な!
そらせない!
鋭い。
突き刺すような目つき。
編集さんが珍しく笑う。
「あなたは以前」
「私の下着を嗅いだとき」
「身悶えして痙攣していましたね」
思い出す。
恐ろしい記憶。
「は、はい」
「まぁ♡」
「そんなはしたないことをしてたのですね♡」
「わるいこですね♡」
「気持ちよかったでしょう」
「たかがあの程度の」
「フェロモンを嗅いだくらいで」
意識がぶっ飛ぶほどだった。
正確には。
記憶すら飛んでいる。
「こちらへくれば」
「それどころではない」
「体験を約束してあげましょう」
「自分で選びなさい」
編集さんがシャツのボタンを外す。
目が逸らせない。
大きすぎる。
見るだけで。
窒息させられそうな。
「ちなみに」
編集さんが大きな谷間を指さす。
「ここの間に漂う」
「フェロモンは」
「あんなもの比ではないですよ」
「来るなら」
「覚悟を決めなさい」
あ、あ、あ、あ、
か、身体が!
危険とわかっているのに!
「怖がらなくていいんですよ♡」
「先生♡」
「あの人はまだ約束しただけ♡」
「私はもう♡」
「こんなに優しく♡」
「してあげているでしょう♡?」
「契約前から判断力を奪っておいて」
「優しいとは」
「サキュバスが男を誘惑する方法に♡」
「文句でも♡?」
「いいえ」
「随分と甘い使い方だと思っただけです」
「では――お手並みを拝見しましょうか♡」
身体は勝手に。
編集さんへ向かっていた。
編集さんは背が高い。
私の顔の前に。
大きな山と谷間がある。
本当に見ているだけで。
息ができなくなりそうだ。
相変わらず鋭く。
見下すような目つき。
なのに。
なんで。
「きましたね」
「褒めてはあげません」
「あんな三下の誘惑に引っ掛かり」
「私に色気を使わせましたね」
声が耳から脳へ。
直接届く。
一言一言が。
脳の細胞を焼くような。
「ただし」
「約束は守ってあげます」
「下着ごときと同じとは思わないことです」
「わかりますね?」
「わたしの乳です」
「触れるだけで」
「どうなるかくらい想像できますね」
包まれた。
比較にならない。
息ができない。
声も冷たい。
なのに身体中が熱くなる。
芯まで熱を通されるような。
何も考えられない。
身体が震える。
助けて。
やめないで。
「まあ♡」
「そこまで本気を出して♡」
「先生を壊してしまっていいんですか♡?」
「この程度で壊れるなら」
「どのみち作家として使えません」
「でも死なせたら♡」
「上司に叱られるのでしょう♡?」
「……」
●両者拮抗
「先生♡」
「今度はお姉さんの方を見てください♡」
「苦しくないように♡」
「もっと優しく蕩かしてあげますから♡」
振り返ると。
少し下に大きなお山。
見上げる大きな瞳。
私は上からも下からも。
サキュバスに包囲されていた。
身体が上から下まで。
馬鹿みたいに熱い。
上から生命力を吸われると思えば。
次は下へ引き寄せられる。
下へ落ちたと思えば。
今度は上へ引き戻される。
意識も身体も。
二人の間を目まぐるしく行き来した。
必死で声を振り絞り。
二人に問いかける。
「ま、まだ」
「私死にませんよね?」
「無事を約束するつもりはありません」
「しかし」
「まだ生きるか死ぬかを考えられる程度なら」
「これは序の口です」
「せいぜい今のうちに味わっておきなさい」
「ふふ♡」
「大丈夫なんて言ったら♡」
「先生が安心してしまうでしょう♡?」
「生きることも死ぬことも忘れて♡」
「二人に挟まれている幸せだけ感じてください♡」
「サキュバス二人に本気で可愛がられる意味を♡」
「先生はまだ何も知らないんですから♡」
サキュバスが二人。
一人でも男を殺す存在。
その二人が私を取り合い。
力の歯止めを失っていく。
「おほおおおおおおおおおおおお!」
「んほおおおおおおおおおおおお!」
「まあ♡」
「まだ声が出せるんですね♡」
「先生♡」
「思っていたより丈夫です♡」
「あなたから意識を逸らす余裕まで」
「残っているようですが」
「では♡」
「もう少しだけ本気を出しても♡?」
「その程度を本気と呼ぶのですか」
「……言いましたね♡?」
「先に壊した方が負けです」
「原稿を書ける程度は残しなさい」
「ふふ♡」
「壊しさえしなければ♡」
「どこまでしてもいいんですね♡」
●スカウトの果て
そして時間が経ち。
「んお!お!お!お!お!お!」
跳ねることしかできず。
人の言葉を忘れた男が転がっている。
死んではいない。
妙に幸せそうな顔だった。
「……思っていたより♡」
「かなり気持ち悪いですね♡」
「最初から申し上げています」
「今日のところは♡」
「契約は見送ります♡」
「今のこの男は食料としてならともかく♡」
「所属作家には要りません♡」
「また治ることがあれば奪いに行きます♡」
「壊しておいて返すつもりですか?」
「あなたも半分は壊したでしょう♡?」
「……原稿を書ける状態に戻してから返しなさい」
「嫌です♡」
こうして私の移籍はなくなった。
数日間は、まともに文字が書けなくなった。
編集さんが。
「文字が書けない」
「つまり執筆放棄ですね」
と冷たい目で言ったので。
泣きながらなんとか書き続けた。
誰のせいだと思っているんだ!
私の生活は危険な二人に包囲されていた。
「何を考えているのですか」
「ちゃんと書かなければ」
「今度こそ息の根を止めますよ」
酷い、酷すぎる。
「移籍すればよかった……」
本気でそう思う。
「では」
「食料としてなら引き取るそうなので」
「連絡しましょうか」
「今が幸せです!」
そう言わされた。