サキュバス編集さんと馬鹿作家 〜そのパンティが動かぬ証拠です〜   作:ガイコツ番付

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第5話 怪談が書きたい!

●夏といえば

「夏は怪談です!」

怖い話が書きたい。

「いいですね」

「馬鹿の割には理が通ってます」

一言多いやつだ。

編集さんはサキュバスです。

秘密を守らないと殺されるらしいです。

そして。

筆を折っても殺されるらしいです。

「おい」

「そこのサキュバス」

「死にたいようですね」

「違います!」

そう。

まさにホラーにうってつけ。

オスを殺しまくる。

馬鹿乳サキュバスに。

怪談側から。

アイデアをもらおう。

「あなたの存在は」

「怪談の加害者側なんですから」

「少しくらいヒントをくださいよ」

さっさとよこせ。

乳のでかい馬鹿め。

「では」

「深夜」

「帰宅途中の男が」

「美しい女に声をかけられました」

「翌朝」

「その男は路地裏で」

「痩せ細った死体になって見つかりました」

「なぜか」

「ひどく幸せそうな顔をしていたそうです」

「どうです」

「十分に怖いでしょう」

本当にセンスがない。

「馬鹿にしてんですか?」

馬鹿にしてるのか。

協力する気がないのか。

「あなたが普段通りに」

「人を殺しただけじゃないか」

「怪談ってのは徐々に徐々に」

「細かい描写を重ねて」

「あ」

「やばい」

「逃げられない」

「助けて」

「てのが必要なんだよ!」

なんて大味なんだ。

低予算ホラーか。

そもそも怪談側だから。

怪談の恐怖がわからないのか?

「ヒントをあげます」

「人間にとって怪異とは」

「あなたにとっての」

「上司のようなものです」

「理解できますか?」

何故だかこのサキュバスは。

上司をやたらと怖がっている。

「……その例えは非常に不愉快ですが」

「理解はしました」

「逃げても」

「隠れても」

「必ず見つかる」

「いつ現れるか分からず」

「現れたときには言い訳も」

「抵抗も通じない存在ですね」

上司何者なんだよ。

「では」

「最初から話しましょう」

「男は死ぬ七日前から」

「毎晩」

「部屋のどこかで」

「甘い匂いを感じていました」

ふむ。

なかなか不気味そうな導入だ。

悪くない。

「お」

「いいじゃないですか」

「やればできるじゃないですか!」

馬鹿とサキュバスも使いようだな。

「続けてください」

私は尻もデカいだけの。

サキュバス編集に続きを促した。

「最初の夜」

「男は窓の外に咲く花の香りだと思いました」

「二日目には玄関から」

「三日目には廊下から」

「そして四日目には」

「自分の枕元から香っていました」

「その頃には」

「男は夜ごと頬がこけ」

「朝には立てないほど衰弱していました」

「それなのに目を覚ますたび」

「妙に満ち足りた顔をしていたそうです」

「夢の中では毎晩」

「見知らぬ女の声が」

「『もっとよこしなさい』と囁いていました」

「男はなんだか」

「怖くなって」

「次の日は」

「眠らないことにしました」

「五日目の夜」

「部屋中の照明をつけ」

「玄関を施錠し」

「朝を待ちました」

「午前二時を過ぎた頃」

「すぐそばにあった」

「鏡に映った自分だけが」

「目を閉じました」

「本人は」

「目を開けたままだったにもかかわらず」

なんか長くて。

よくわかんない。

でも。

雰囲気はある。

「いいですね」

よくわかんないけど。

やるじゃないか。

さすが経験者!

「鏡の中の男が目を閉じると」

「鏡の中だけ」

「照明が一つずつ消えていきました」

「現実の部屋は」

「明るいままです」

「暗くなった鏡の奥で」

「見知らぬ美しい女が」

「男の背後へ近づいてきました」

「男が振り返っても」

「誰もいません」

「もう一度鏡を見ると」

「女は男の肩へ顎を乗せていました」

「男は怖くなって」

「鏡を叩き割りました」

「しかし」

「床へ散らばった破片にも女が映り」

「先ほどより不気味に見えました」

「六日目」

「男は家中の鏡と窓を覆い」

「光を反射するものを」

「すべて捨てました」

「午前二時になると」

「捨てたはずの携帯電話が」

「机の上に」

「画面が光りました」

「表示された着信相手の声は」

「男自身でした」

「電話へ出ると」

「自分の声に」

「『後ろを見たら終わる』と言われました」

「その直後」

「耳元で女が『もう遅いですよ』」

「と囁きました」

「失踪した男の」

「携帯電話には」

「その後の音声が」

「七分間残されていました」

「最初の三分間」

「男は『来るな』」

「『助けてくれ』」

「『死にたくない』と」

「叫び続けています」

「ところが」

「残りの四分間は」

「反対です」

「『行かないで』」

「『もっと』」

「『やめないで』と」

「そこからは」

「寝台の軋む音が続きます」

おい。

お前の食事だろ。

それ。

「ずっこんばっこん」

「してるだけじゃないか!」

いや。

まぁ。

そら死ぬだろうが。

まぁ。

サキュバスのホラーなんて。

そんなもんだろうけど。

「なんか!」

「なんか違うんですよ!」

「そもそも」

「サキュバスがホラーじゃないのか?」

 

●気づき

ここで私は気づいてしまった。

コイツら行動がエグいだけの。

痴女なのでは?

「怪異に追い詰められ」

「逃げ場を失い」

「意思を奪われ」

「最後には殺される」

「十分にホラーでしょう」

「寝台の軋む音から」

「妄想をしたのは」

「あなたの問題です」

「それに」

「自分を殺そうとする怪異へ」

「『やめないで』と」

「懇願してしまうのですよ」

「死ぬことより」

「その瞬間を失う方が怖くなる」

「これのどこが怖くないのですか?」

長い理屈を。

よくペラペラと。

「いや」

「怖いのは怖いんですけど」

「こう」

「口裂け女とか」

「都市伝説みたいなのをね」

ほんとうに。

「当てにならないサキュバスですね」

編集さんはムッとしていた。

腕組みをした。

デカすぎる乳が盛り上がった。

「……では」

「あなた好みの」

「もう少し俗っぽい怪談を一つ」

「ある男が」

「深夜に自宅で原稿を書いていました」

「午前二時を過ぎたころ」

「突然」

「部屋の電気がすべて消えます」

「停電かと思いましたが」

「窓の外では」

「向かいの部屋も街灯も明るいままでした」

「暗闇の中」

「男の足元から」

「低い唸り声が聞こえました」

「机の下を照らしても」

「何もいません」

「次に」

「天井の隅から」

「女の高い笑い声が聞こえました」

「男が玄関へ逃げようとすると」

「鍵が」

「外側からゆっくり回ります」

「がちゃり」

「と」

「ですが」

「扉は開きません」

「その代わり」

「男のすぐ後ろで」

「誰かが息を吐きました」

「翌朝」

「男は鍵の掛かった部屋で」

「冷たくなって発見されました」

「ひどく幸せそうな顔で」

さっきより短くなった。

だけど。

結局のところ。

「やっぱり一緒じゃないですか」

ほんとコイツは。

経験が。

ワンパターンすぎる。

「それのどこが」

「怖いと思うんですか」

「都市伝説とか知ってます?」

「ただエロいことされて」

「サキュバスに殺された話」

「ただのエロ話でしょうが!」

核心をついてやった。

お前はただのエロ女だ。

「私は」

「男が何をされたのか」

「一言も説明していません」

「幸せそうな死に顔から」

「勝手に」

「エロい死因を妄想したのはあなたです」

「しかし」

「そうだとしても」

「逃げたいのに逃げられず」

「生きたいという意思まで快楽で塗り潰され」

「最後には命を奪われる」

「殺される瞬間には」

「自分から続きを望んでしまうのですよ」

「あなた」

「本当に」

「サキュバスに殺されることが」

「怖くないと思っているのですか?」

いや。

その怖さは。

以前二人のサキュバスにやられて。

わかってはいるが。

それでも。

なんかこう。

「怖くないとは言いません」

うーん。

何故わからんかな。

 

●有名どころ

「例えば」

「口裂け女やてけてけは知ってますか?」

編集さんは他の妖怪を。

知っているのだろうか?

「知っていますよ」

「質問に答えれば殺される女と」

「上半身だけで人間を追い回す怪異でしょう」

「どちらも」

「遭遇すれば逃げ切れずに殺される」

「私の話と何が違うのですか?」

「被害者が最後まで嫌がっていれば」

「あなたはホラーだと納得するのですか?」

ああいえば。

こういう。

なぜわからないのか。

「口が減りませんね」

「結局サキュバスの怖さって」

「伝わりにくいんですよ」

「有名な都市伝説は」

「血だったり身体欠損だったり」

「目に見えて」

「こわ!」

「てなるでしょう?」

「サキュバスってわかりにくい」

「淫紋」

「搾り取る」

「なんかエロい格好とかしてるし」

「都市伝説とあなたが並んだら」

「アンケート取れば」

「あなたなんて」

「ただのエロいお姉さんですよ!」

言ってやった。

編集さんの乳が揺れる。

「先ほどあなたは」

「細かな違和感を重ね」

「逃げられないと気づかせるのが」

「怪談だと言いましたね」

「今度は」

「見た瞬間に怖いと」

「分からなければ怪談ではないと?」

「主張を変えないでください」

「それに」

「口裂け女やてけてけなら」

「見た人間はすぐ逃げようとします」

「ですがサキュバスを見たオスは」

「自分から近づいてくる」

「危険だと教えても信じず」

「魅了されていることにも気づかず」

「殺される直前には逃げる理由さえ失う」

「周囲からは」

「ただ美しい女と」

「幸せそうな男にしか見えません」

「怪異だと認識されたときには」

「もう手遅れです」

「ただのエロいお姉さんに見えるからこそ」

「怖いのですよ」

今日はなかなか認めないな。

もしかするとだが。

このデカ尻女サキュバスは。

 

●例えばなし

「なるほど」

「その怖さの理屈は理解しました」

「ですがその怖さって」

「体験を伴わないと理解できませんよね?」

「目の前をナイフ持った男がガンギマリで歩いてくる」

「スーツ着たビジネスマンが内ポケットにピストル入れてる」

「あなたが言ってるのは」

「ビジネスマンの方が怖いよね」

「てことですよ?」

これならどうだ?

理解できるだろう?

「いいえ」

「その例えなら」

「読者にだけ内ポケットの拳銃を見せておくのです」

「被害者はただのビジネスマンだと思い」

「安心して話しかける」

「会話するうちに」

「何かがおかしいと気づく」

「逃げようとしたときには」

「すでに銃口を向けられている」

「それが物語でしょう」

「最初からナイフを振り回している男では」

「あなたの言う」

「『徐々に逃げられなくなる恐怖』になりません」

「体験しなければ分からないのではなく」

「体験しているように書くのがあなたの仕事です」

「怪異の責任にして」

「能力の問題から逃げないでください」

今日も屁理屈で返される。

口だけは減らないエロ馬鹿サキュバスめ。

「ぐ!」

痛いところをつかれた。

「ずるいですよ」

「怖さの話から仕事の話に転換して」

「サキュバスのくせに!」

そうそう。

話を転換するな。

仕事の話などしたくない。

「編集者ですので」

「怖さを読者へ伝えられるかどうかは」

「最初から仕事の話ですよ」

「それを怪異の見た目や殺し方のせいにしたのは」

「あなたでしょう」

「サキュバスでも原稿の欠点くらい指摘できます」

「むしろ」

「人を怖がらせることもできない人間に」

「怪異の素質を論じられたくありませんね」

人を怖がらせることもできない?

もしかしてプライドを持ってるのか?

エロいのが得意で爆乳爆尻なだけなのに?

見えた!

ここが弱点だ!

 

●真相は

「あ」

「もしかして劣等感ですか?」

せいぜい嫌なヤツの顔をして言ってやる。

「怪異や妖怪」

「モンスターの類でも」

「他の皆さんはホラーで引っ張りだこ」

「あなた達は」

「薄い本や大人の読むものにしか出れません」

「妬ましいんでしょう!」

編集の表情が。

一瞬崩れるのを見逃さなかった。

「……訂正してください」

「サキュバスは本来」

「眠る人間のもとへ現れ」

「悪夢を見せ」

「抵抗する意思と生命を奪う妖怪です」

「夜ごと衰弱させ」

「最後には死体にする」

「十分にホラーでしょう」

「それを人間が勝手に」

「性的な部分ばかり強調してきただけです」

「薄い本にしか出られないのではありません」

「あなた方が」

「恐怖より先に興奮するほど愚かなだけです」

完全に顔が真っ赤だ。

プルプル震えている。

乳と尻はブルンブルン揺れている。

「はいはい」

「せいぜい頑張ってくださいよ」

今日は私の勝ちだろう。

「まぁ」

「原稿は明日までに何か考えときますよ」

「もっと有名で」

「もっと怖ーい」

「都市伝説の方々を研究してね」

「死ぬほど怖い」

「背筋も凍るような妖怪とかね」

「エローい姉ちゃんじゃなくて」

見せつけるように言ってやった。

今日は完全勝利というしかないな。

もう反撃もしてこない。

「……承知しました」

「では」

「有名で恐ろしい怪異に負けない原稿を」

「明日までに提出してください」

「あなたがそこまでおっしゃるのですから」

「さぞ背筋の凍る作品になるのでしょうね」

「楽しみにしています」

「お疲れ様でした」

 

●ひたりひたり

夜。

私は必死で原稿を考えていた。

「あそこまで啖呵切ったんだから」

「何とかしないとな」

しかしあの編集の悔しそうな表情。

気持ちがいいなあ。

時刻は午前二時前。

「もうこんな時間か」

プツン。

照明が消える。

「停電?こんな時間に?」

窓を見る。

「あれ?ウチだけか?」

そう言えば、あの編集が何か言っていたような。

んほぉぉぉぉぉぉぉぉおお。

下の階から大きな声が聞こえる。

「なんだ!」

こんな時間になんて声を上げるおっさんなんだ!

迷惑すぎる!

しかも絶対エッチなことしてる声じゃねえか!

気持ち悪い。

「通報してやるぞ!」

「迷惑豚野郎!」

声を荒げた。

しばらくして電気がつく。

「原稿やらないと」

くすくす。

今度はどこからか女の声が聞こえた。

というか。

なんか。

「編集さん?」

あのサキュバスの声に聞こえた。

ヤツの話を思い出す。

なんて言ってたっけ。

がちゃり。

玄関の方から音がした。

「嘘だろ」

私は護身用のバットを持ち玄関に向かう。

誰もいない。

鍵も閉まっている。

「編集さんでしょ?」

「仕返しのつもりですか?」

翌朝。

男は。

鍵の掛かった部屋で。

冷たくなって発見されました。

編集の話が脳裏をよぎる。

確かに編集はエロねーちゃん。

だがサキュバスだ。

何人も男を殺している。

簡単に。

天気の話でもするように殺せるだろう。

でも。

私アイツの作家だぞ?

そこまでしないよな。

どこからか甘い香りがする。

冷や汗が止まらない。

首のすぐ後ろに。

吐息を感じる。

くすくすと笑い声が混じる。

甘く。

熱い。

脳を溶かすような。

やめて。

肩に手がかかる。

「んおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

●結論

翌朝。

私は病院のベッドで目を覚ました。

夜明けまで、何者かに痙攣させられ続けていたらしい。

死んではいない。

救急の医者によると、身体中の水分という水分を抜かれたような、ひどい脱水状態だったそうだ。

何者の仕業だったのか。

証拠は何一つ残っていなかった。

ベッドの横では、編集さんが少しだけ勝ち誇った顔をしていた。

「それで」

「背筋も凍る原稿は完成しましたか?」

原稿は仕上がっていなかった。

訂正。

サキュバスは怖い。

サキュバスだと分かっている相手に。

狙われたときだけは。

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