忍夜想曲者<しのびよるおもいはくせもの>   作:雀野夜靄

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第10話 夜の果て

 鐘の音が、陽が沈み切った森に響く。

 それは、三時間に渡る演習「又鬼ごっこ」の終わりを告げる合図だった。

 

 

 折霜涼と穂月錬次は、地面に座り込んでいた。

 二人の手には、手錠が掛けられている。

 

 あの時、錬次の攻撃を受けた煤御(すすみ)は倒れなかった。

 そして煤御は、力を使い果たした二人に手錠を掛けると、何も言わず森の奥へ消えた。

 

「煤御先輩、強かったな」

 

「ああ、悔しいなぁ!」

 錬次の言葉に、涼は悔しげに笑う。

 

「もっと強くなろうぜ、錬次」

 

「そうだな、涼。次は負けないように」

 傷だらけの身体を動かし、二人は拳を打ち付けた。

 

 敗北の悔しさだけが、夜気の中で静かに熱を持っていた。

 

 

 

「おや? 理界くん、そんな所で何を考え込んでいるんだい? もう演習は終わったよ」

 風切栞瑚(かざきりかんこ)が、笹舟理界(ささぶねりかい)にそう声を掛ける。

 

「栞瑚か。いや何、今年の新入生も、なかなか面白いと思ってな」

 理界は鬼の面を外し、そう答えた。

 

「うわ、珍しい。理界くんが妹以外の人に関心を持つなんて。それとも兄として、妹の同級生を見定めてでもいるのかな?」

 栞瑚が意地の悪そうに笑う。

 

「栞瑚、しばらく黙れ」

 理界は深く溜息を吐くと、そう言い放った。

 

 

 

 あの後、勿朽は何も言わずに去っていった。

 今も離れた場所で、独りぽつんと立っている。

 その顔は見えない。

 

(怒らせただろうか?)

 僕、風見宙飛はじっと勿朽の背を見つめる。

 

 どれくらいそうしていただろうか。

 演習終了の鐘からしばらくして、森の方から足音が聞こえた。

 森の中から、真神雷哉、傷代苅砥、鹿深珪晶の三人が歩いてくる。

 

「その傷、大丈夫? 三年生に捕まったの?」

 僕は三人に駆け寄った。

 

 真神は足元がおぼつかず、傷代は肩で息をしている。

 鹿深だけは比較的ましだったが、それでも制服は土埃にまみれていた。

 

「俺と真神は倒されたが、鹿深は逃げ切れた」

 

「ぼくと傷代くんが手錠を掛けられている時に、鐘が鳴ったんだ」

 

「二人が時間を稼いでくれたおかげで、手前は捕まらずに済んだよ」

 傷代、真神、鹿深がそれぞれ答える。

 

「皆、揃ったようじゃな」

 そこで、巌倉先生の声が響いた。

 

「玄武組の生徒で、時間いっぱいまで逃げ切れたのは、鹿深と由密の二人か。まずまずじゃな」

 巌倉先生は鹿深と一人の女子生徒を見て、そう告げる。

 

 その言葉を聞いた瞬間、待機所のあちこちで安堵の息が漏れた。

 

「健闘ご苦労。そうそう、他の組も何人か逃げ切れたようじゃぞ。では、これで演習を終了とする」

 

 

 それぞれの想いを連れて、夜は更けていく。

 僅かばかりの余韻を残しながら。

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