四月末から五月頭の大型連休。
僕は実家に帰ることにした。
今のままでは、玄冬に勝てるはずがない。
勝てる見込みがあるとすれば、あの技だけだ。実家でみっちりと修行するしか道はないだろう。
旧友の折霜涼と穂月錬次も誘ったが、断られた。
二人とも部活動があるらしい。
(青春しているなぁ)
なので、僕は錬次に一つ頼み事をして、一人帰路に着く。
「こんなに早く帰るなんて。気が重いなぁ」
僕は電車に揺られながら呟いた。
5月5日、木曜日。大型連休最終日の夜。
修行を終えて戸隠学園に戻ってきた僕は、涼と錬次を戌亥訓練場に呼び出していた。
「そこまで!」
暗い訓練場に、錬次の声が響く。
僕の忍者刀は、涼の首筋に添えられていた。
これまで涼とは何度も模擬戦をしてきたが、僕が勝ったのは初めてだ。
「何だよ、今のは?」
「修行の成果だよ」
僕は涼の首筋から忍者刀の刃を外し、困惑した涼の問いに答える。
「意味分からん。どういう原理だよ。おれにも教えろ!」
「風見家の秘伝だから教えられないよ。それに教えても、涼には無理じゃないかな」
「どういう意味だよ」
「そのままの意味だよ」
「風見家秘伝ってことは、親父さんに教わったのか? 彼は何か言ってなかったか?」
僕が涼と言い合っていると、錬次がそう問いかけてくる。
『今まで逃げ続けてきたのに、どういう風の吹き回しだ?』
「……別に何も。この技をずっと教えてもらっていただけだよ」
脳裏を過ぎる言葉を無視して、僕はなんでもないように答えた。
「その技もそうだけど、竜巻を出しても気絶しないし、成長しすぎだろ」
「気絶しなかったのは、俺が備品置き場から拝借してきた手甲のおかげだろう」
涼の主張を、錬次が訂正する。
「『
「力の使い方が分からない初心者用の玩具じゃねーか。高校生にもなってそんなの使う奴なんていねーよ」
錬次の説明に、涼が呆れた声で言う。
(ここにいるのだが)
悔しくないと言えば嘘になる。
それでも、今の僕には必要な道具だった。
(まあいい。使えるものは何でも使うのだ)
「ありがとう、錬次。これを使えば僕でも、なんとか力を制御できるよ」
左手に装着された鈍色の手甲を見て、僕はそう呟く。
「涼に勝てるなら、何もできずに敗北ってことはないだろ。健闘を祈るぞ」
「おれに勝っておいて、無様な結果は許さねえぜ。気張っていけ」
錬次と涼の激励を受け、僕は答える。
「まあ、やれるだけやってみるよ」
決戦は明日。最強と最弱の闘いが、幕を開けようとしていた。