異世界キャンセル、この世界はいま魔王の出現により混迷を極めていた。
世界征服を掲げ、突如出現した魔王城。
魔王征伐のため、王国は武芸に優れたものを勇者とし、仲間を集って魔王征伐へと向かわせたが、第十二次魔王征伐パーティーも全滅の報が入った。
そして、俺ブレイブが十三代目勇者として、新たな仲間たちと共に魔王討伐の任に就こうとしていた!
荘厳な赤と白の王宮、そのなかでも一際豪華に装飾された王の間。
王様に勇者として始めて謁見する。
勇者として鍛錬を重ねること十数年。
ついにここまでたどり着いたんだ!
叙任式が始まる。
「よくぞ参られた!十三代目勇者ブレイブよ!魔王征伐のため、幼い頃から鍛錬を積み、その武名を知らぬ者はいない。」
「また、人徳にも優れ、多くの人々を救うために奔走する姿はまさしく勇者そのものである。」
ブレイブは胸を張り王様の式辞を聞く。
「これからは、正式に勇者となるが、他人の家に勝手に上がり込んでタンスを開けたり、壺を割ったりする世界観ではないことを肝に銘じてくれ。」
「くれぐれもやらないように。」
「ほんともう、大変だったんだからね。」
「何代か前の勇者が家に上がり込んでタンス貯金を奪ってったとか。」
「もうワシのとこにクレーム来まくってたからね。」
「魔法コールセンター設置しないと捌ききれなかったよ。」
「あとはねぇ…」
…王様の愚痴が止まらなそうだ…
宰相が話に割ってはいる。
「王様、あなたの話の終わりは水平線の先よりも見えないんでこの辺で…。」
我に返った王様が立ち上がる。
「では勇者よ、式典の最後だ。これから奥の聖剣の間への立ち入りを許す。」
ついに、勇者の証しである、伝説の剣の間だ。
真の勇者のみが扱えると言われる伝説の剣。
俺は認めてもらえるんだろうか…。
厳重な警備を抜け、階段を下りた先に大きな部屋が広がっていた。
空と見違える、魔法でできた星々の輝き。
夜が明けるような空のコントラスト。
そして、中央に円形の浅瀬と石造りの台が見える。
歴史と時間を感じる荘厳さを感じながら、湖面に反射する星々を踏みしめ、聖剣のもとへと向かう。
「これが歴代勇者に受け継がれる勇者の剣だ。」
「持ち主が死亡するとこの台座にテレポートで戻り、次の勇者を待つという。」
王の説明に勇者は息を飲む。
「これが伝説の選ばれし者にしか抜けない…」
「ああいや、割と誰でも抜けるぞ。」
王様が片手で適当に剣を引っこ抜く。
…伝説感ゼロである。
「まぁまぁ、剣は簡単に抜けるが本当に選ばれた勇者であればこの剣の持ち主の記憶をたどることができるそうだ。」
「今までの勇者で選ばれてそうなの、あんまいなかったけど。」
トスッと剣を台座に戻した王様。
「この剣トリセツなくしちゃったからなぁ…多分なんかこうすごいやつだったはずだよ。」
「蔵の中から鞘と剣だけ出てきたやつだけどピッカピカだったからね。」
「この部屋も作るの苦労したわぁ、最初魔法省に発注かけたらイメージと違うので来ちゃって、リテイクしたり大変だったんだよ。」
先ほど不覚にも荘厳さを感じてしまった。
まんまと王様の術中にハマったらしい。
ちょっと悔しい。
…気を取り直して、勇者は柄に両手をかけ、剣を引き抜こうとする。
刀身が輝き、剣が少しずつ台から抜けていく。
歴代勇者の記憶が…俺に…流れ込んでくる…。
これは、魔王戦の記憶…
魔王と勇者一行の記憶だ…適当に抜ける剣にはガッカリだったが、戦いの記憶は本物だ…。
(あぁ…痒い、めっちゃ痒い、兜って蒸れるんだよな。
頭痒い。
魔王なんか言ってるけど、もうぜんっぜん話はいってこない。
めっちゃ気ぃ散るわぁ…。)
(あっなんか斬り掛かってきた、戦闘開始だ。)
「ここで終わりだ!魔王!覚悟!」
場面が暗転した。
…肝心な戦闘の映像ないんかい。
行動パターンとか初見で攻略してくださいのやつじゃん…。
撮影禁止区間入っちゃったよ。魔王戦。
勇者が地に伏せている…。
「愚かな勇者よ、私を倒すには後ろの燭台を攻撃し、消さねばならぬというのに、私にばかり斬り込んできおった。」
「いや、…わざわざ説明してやったというのに、ダメージを軽減され、その上でも倒すことで魔族が二度と刃向かえなくなるように力の差を見せつけようとした…ということか…。」
「こいつが本気であれば…私は負けていた…人類への侵略は千年ほどの時間をかけて慎重に進めなければならんな…」
地に伏した勇者は今際の際に思った。
(…ええまじ?話してた…?
燭台壊さないとダメージ1/10とか聞いてないって。
聞いてたら狙うわ。
もう初手から全体攻撃でガリガリ削ってったわ。
あっ…なんか最初の方で言ってたな。
頭痒くてそれどころじゃなかったな。
くっそ、昨日はボス前到着おめでとう会で飲み過すぎて、風呂入れんかった。
あぁ風呂はいっときゃよかった…。
とりあえずなんか勇者っぽいこと言っとこ。)
「この私が倒れても次の勇者が必ずお前を倒す!お前を倒すまで人類は諦めない!」
(よしセーフ、とりあえず後世にこれで初代勇者としてメンツは保てたろ。
危ねぇ、話聞いてなくて負けたとか一生の恥だわ、もう死ぬけど。)
初代勇者の記憶はここで終わっている。
別の勇者の記憶が流れ込んでくる。
勇者と魔法使いが話をしている情景が見える。
勇者はバツが悪そうだ。
「なぁ魔法使い…言いにくいんだけどさ。」
「火炎魔法、やめてくれないかな。」
「えっどうして、確かにこの間、木のモンスターにファイアボールを打って、危うく山火事を起こしそうになったけど。あれはうっかりだったじゃん!」
魔法使いは心外そうである。
「…さいんだ。」
「え?」
「臭いんだ。」
「え?」
真顔になる魔法使いに勇者は言いにくそうに続ける。
「火炎魔法で燻されると…なんというかこう…キツイんだ。君の匂いが。」
「どうして、私女だし臭くないわよ!」
「…だからって…髪を洗うのがめんどくさいとか、メイク落とすのがダルいって前の街でも、その前の街でも風呂にはいらなかったじゃないか!」
「僕や修道士は2回目の風呂キャンから耐えられなくなったが、獣人の戦士はもうずっと魔法使い臭いって1回目の時から嘆いてたよ。匂いが強すぎて索敵もできないって不安で毎晩眠れず、もう限界だよ。」
「いやぁ!風呂は嫌ぁ!臭くない!私臭くないもん!」
魔法使いが床で駄々をこねて転げ回る。
頭を抱えた勇者が同じ女性の修道士に助け舟を求めるが…
「えぇ…、勇者様ぁ、これはもう手遅れですよ、筋金入りです、筋金入り。」
「話聞く気ゼロですもん。懺悔は聞けますが、懺悔する気ゼロですもん。」
「やだぁ!風呂嫌ぁ!そんなんだったら火炎魔法なんかもう使わないもん!あたし臭くないもん!」
転げ回って砂浴びする動物のように、砂ぼこりまで立ち上っている。
「うわぁ、戦士が吐いたぁ!」
…ローリングで魔法使いの体温が上がったせいか、嗅覚のつよい戦士には耐えられなかったようだ。
この勇者の記憶はここで終わりだ。
…この勇者パーティーが中盤の難所で有名なアイスドラゴンを相手に全滅したのは想像に難くない。
また別の記憶。
今度は火山で、しかも戦闘中の記憶だ!何かモンスターの動きを覚えられるかもしれない。
なんだ、ちゃんとしたのもあるじゃないか。
ブレイブは安堵する。
勇者の思考が流れ込んでくる…
このモンスターの動きは覚えている。
ここに来るまで散々戦った騎士型ゴーレムだ。
こいつは行動パターンがある。
右から左下に向けて切る、袈裟懸け斬りの場合、次は必ず突きがくる。
そこを盾でパリィすると大きく体勢を崩す。
一撃の威力が重いが慣れれば問題はない。
おぉ、勇者らしい記憶だ…しかもちゃんとパターンを観察している。
この勇者…できる…。
騎士型ゴーレムが勇者に攻撃を続ける、中々狙いの袈裟懸け斬りが来ない。
敵の剣戟に合わせて盾を構え、剣を振るうも致命傷にはならない。
やはり、体勢を大きく崩すためにパリィを狙わなくては。
勇者の額に火口と戦闘の熱で汗がにじむ。
刹那、騎士型ゴーレムから狙いの袈裟懸け斬りが繰り出された。
勇者の構えた盾の上を剣が滑り、敵の剣が後ろに引かれた…突きが…来る。
直後、勇者に激痛走る。
一体どこから…。
(ぁぁぁぁぁぁ、汗が目に入ったぁぁぁあ)
(めっちゃ目が痛い、やばい、全然前見えない、3日は風呂入ってないせいで顔の皮脂が汗に乗ってめっちゃ染みる。)
(まずい、パリィする?え?狙える?…まぁでもいけるか、タイミングは身体が覚えているって言うし、いけるいける。)
「ここだぁ!」
プツン。場面は暗転した。
目を閉じていた勇者ブレイブは、その眼を大きく開き、引き抜いた剣を天高く掲げた。
剣は主の意思に呼応して強く輝いている。
光がゆっくりと薄れ、ブレイブは剣を鞘に納めた。
そして…
「風呂入ってねぇせいじゃねぇか!」
膝から崩れ落ち、床を叩いた。
明日12時08分、2話投稿予定です。