勇者よ、風呂へ入れ   作:金谷 勇作

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第十一話 記憶を、辿れ。

 宿に到着して一息つく間もなく、再び警報音が鳴り響く。

 魔物襲来、今度は…千!?

 

 …いくら何でも多すぎる。

 敵がいくら紙のように飛んでいってもキツイ。

 制圧したエリアが、すぐに陥落するくらいキツイ。

 1人が戦場を駆け回って、陥落寸前の拠点をことごとく守っていくとしても1000は多い…。

 

 

 突如、聖剣が輝きを放つ。

 「…者、勇者よ。」

 「お前の頭のなかに直接語りかけておる。」

 「勇者よ…。」

 「歴史が繰り返そうとしている。」

 「早く、早く…。」

 

 なんだ…これは…聖剣の…記憶…?

 

 「そっちに行ったぞ!」

 「くそっ、なんでこんなに魔物に襲われるんだ!」

 「しかも、毎夜毎夜よ!」

 

 …これは…過去の勇者パーティーだ。

 魔物の数は…水平線まで広がっている。

 

 「もう眠いの!いつもいつもいつも!遅くまで起きてて!いつか手元が狂って魔法を誤爆しそうよ!」

 半狂乱の魔法使いの目元には、影より深いクマができている。

 「君だけがつらいわけじゃない!俺たちだって!交代で夜襲に備えてるだろ!」

 「それにしたって、ここのところずっとよ!」

 …パーティー全員が寝不足らしい…。

 毎晩こんなに夜襲を受けては、寝る暇もないだろう。

 「まぁまぁ、二人とも落ち着いて…っ!」

 獣人の男が二人をなだめようとする。

 「「わかってる!」」

 シュンとした様子で尻尾が垂れる獣人。

 「ほらまた来たわよ!」

 「戦士!頼む!」 

 「おう!まかせろ!」

 大柄の筋骨隆々な…男がテントから現れた。

 

 彼が盾を斧でガンガン叩いて、ヘイトを稼いでいる。

 音に釣られた魔物たちは、戦士の盾へと吸い込まれるように攻撃を続ける。

 盾で捌く戦士、横から勇者と魔法使いと獣人が魔物を倒していく。

 「いい感じだ!」

 「早めに終わらせて、今日こそ早く寝たいわ!」

 「よし、もう一度だ!」

 またしても戦士が盾を叩いてヘイトを稼ぐ。 

 しかし、吸い込まれるように走り寄ってきた魔物たちが、突如方向を変えた!

 

 

 魔物はずっと獣人の男を狙い続けている。

 「おい!こっちだ!」

 焦って戦士はヘイトを取り返そうと盾を叩く。

 だが、魔物は見向きもしない。

 魔物は一直線に、獣人の男に向けて突撃する。

 獣人の男は持ち前の素早さを活かして走り回り、なんとか難を逃れている。

 「戦士!早くヘイトを取ってくれ…っ!」

 魔物に追われて、走って逃げる獣人。

 「ちょ…まっ…て…ば。」

 獣人を追いかける、勇者と魔法使い。

 だが、寝不足が祟ったか、魔法使いと獣人の距離がぐんぐんと離れていく。

 勇者はなんとか追いついて、敵の数を減らしている。

 だが、鈍い音を立てて、勇者の剣が魔物の途中で止まる。

 「ぐっ…。」

 力を込めて、魔物を倒す勇者。

 「おい!魔法はまだか!」

 振り返ると魔法は遥か後ろで、へたり込み肩で息をしている。

 「頼む!走り回らずに魔物を集めるように動いてくれ!」

 「無理だよ…っ!」

 魔法使いと距離が離れすぎたせいか、徐々に魔物が溢れ始める。

 「くそっ!何でだ!何で…ヘイトを取り返せねぇ!」

 走り疲れてへたり込んだ魔法使いを、必死に戦士がかばう。

 獣人も次第に息が上がり始める。

 そしてついに、獣人が魔物に追いつかれ…。

  

 プツン。

 場面が暗転した。

 聖剣の記憶はここまでだ…。

  

 

 聖剣は言った、歴史は繰り返すと。

 ならこの情報に、ヒントがあったはずだ。

 魔物が襲撃してくるのは、今のこの状況と一致している。

 なら、原因も必ず同じはずだ…。

 だがなぜ…。

 睡眠不足で、魔法使いは半狂乱だった。

 彼女の悪い感情が、魔物を呼び寄せたのか…?

 

 …いや、もしそうなら魔物は彼女を狙うはずだ。

 

 魔物は獣人を執拗に狙っていた。

 なら…彼を見返せば何かわかるんじゃないか…? 

 シークバーを戻す…便利機能に思わずニコニコと笑顔になりそうだ。

 魔物の弾幕はあるが、動画に弾幕はない。

 …あった。

 「まぁまぁ、二人とも落ち着いて…っ!」

 

 温和そうな獣人だ、勇者と魔法使いの喧嘩の仲裁をしている。

 ちょっと変わった口癖だが…。

 いや、待て。

 もう一度見てみるか…。

 「まぁまぁ、二人とも落ち着いて…かゆっ!」

 …………………。

 「早くヘイトをとってくれ…かゆっ!」

 ……………………………。

 「無理だよ…かゆっ!」

 ……………………………………。

 この口癖、虫網で叩いても、いいやつだよな?

 だいたいは叩いちゃダメだが。

 この時だけは、叩くと感謝されるやつだよな。

 …とびだしてきるよな、ノミ。

 あつまってるよな、敵。

 

 

 …もしかして、コイツ。

 

 風呂に、入っていない。

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