宿に到着して一息つく間もなく、再び警報音が鳴り響く。
魔物襲来、今度は…千!?
…いくら何でも多すぎる。
敵がいくら紙のように飛んでいってもキツイ。
制圧したエリアが、すぐに陥落するくらいキツイ。
1人が戦場を駆け回って、陥落寸前の拠点をことごとく守っていくとしても1000は多い…。
突如、聖剣が輝きを放つ。
「…者、勇者よ。」
「お前の頭のなかに直接語りかけておる。」
「勇者よ…。」
「歴史が繰り返そうとしている。」
「早く、早く…。」
なんだ…これは…聖剣の…記憶…?
「そっちに行ったぞ!」
「くそっ、なんでこんなに魔物に襲われるんだ!」
「しかも、毎夜毎夜よ!」
…これは…過去の勇者パーティーだ。
魔物の数は…水平線まで広がっている。
「もう眠いの!いつもいつもいつも!遅くまで起きてて!いつか手元が狂って魔法を誤爆しそうよ!」
半狂乱の魔法使いの目元には、影より深いクマができている。
「君だけがつらいわけじゃない!俺たちだって!交代で夜襲に備えてるだろ!」
「それにしたって、ここのところずっとよ!」
…パーティー全員が寝不足らしい…。
毎晩こんなに夜襲を受けては、寝る暇もないだろう。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて…っ!」
獣人の男が二人をなだめようとする。
「「わかってる!」」
シュンとした様子で尻尾が垂れる獣人。
「ほらまた来たわよ!」
「戦士!頼む!」
「おう!まかせろ!」
大柄の筋骨隆々な…男がテントから現れた。
彼が盾を斧でガンガン叩いて、ヘイトを稼いでいる。
音に釣られた魔物たちは、戦士の盾へと吸い込まれるように攻撃を続ける。
盾で捌く戦士、横から勇者と魔法使いと獣人が魔物を倒していく。
「いい感じだ!」
「早めに終わらせて、今日こそ早く寝たいわ!」
「よし、もう一度だ!」
またしても戦士が盾を叩いてヘイトを稼ぐ。
しかし、吸い込まれるように走り寄ってきた魔物たちが、突如方向を変えた!
魔物はずっと獣人の男を狙い続けている。
「おい!こっちだ!」
焦って戦士はヘイトを取り返そうと盾を叩く。
だが、魔物は見向きもしない。
魔物は一直線に、獣人の男に向けて突撃する。
獣人の男は持ち前の素早さを活かして走り回り、なんとか難を逃れている。
「戦士!早くヘイトを取ってくれ…っ!」
魔物に追われて、走って逃げる獣人。
「ちょ…まっ…て…ば。」
獣人を追いかける、勇者と魔法使い。
だが、寝不足が祟ったか、魔法使いと獣人の距離がぐんぐんと離れていく。
勇者はなんとか追いついて、敵の数を減らしている。
だが、鈍い音を立てて、勇者の剣が魔物の途中で止まる。
「ぐっ…。」
力を込めて、魔物を倒す勇者。
「おい!魔法はまだか!」
振り返ると魔法は遥か後ろで、へたり込み肩で息をしている。
「頼む!走り回らずに魔物を集めるように動いてくれ!」
「無理だよ…っ!」
魔法使いと距離が離れすぎたせいか、徐々に魔物が溢れ始める。
「くそっ!何でだ!何で…ヘイトを取り返せねぇ!」
走り疲れてへたり込んだ魔法使いを、必死に戦士がかばう。
獣人も次第に息が上がり始める。
そしてついに、獣人が魔物に追いつかれ…。
プツン。
場面が暗転した。
聖剣の記憶はここまでだ…。
聖剣は言った、歴史は繰り返すと。
ならこの情報に、ヒントがあったはずだ。
魔物が襲撃してくるのは、今のこの状況と一致している。
なら、原因も必ず同じはずだ…。
だがなぜ…。
睡眠不足で、魔法使いは半狂乱だった。
彼女の悪い感情が、魔物を呼び寄せたのか…?
…いや、もしそうなら魔物は彼女を狙うはずだ。
魔物は獣人を執拗に狙っていた。
なら…彼を見返せば何かわかるんじゃないか…?
シークバーを戻す…便利機能に思わずニコニコと笑顔になりそうだ。
魔物の弾幕はあるが、動画に弾幕はない。
…あった。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて…っ!」
温和そうな獣人だ、勇者と魔法使いの喧嘩の仲裁をしている。
ちょっと変わった口癖だが…。
いや、待て。
もう一度見てみるか…。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて…かゆっ!」
…………………。
「早くヘイトをとってくれ…かゆっ!」
……………………………。
「無理だよ…かゆっ!」
……………………………………。
この口癖、虫網で叩いても、いいやつだよな?
だいたいは叩いちゃダメだが。
この時だけは、叩くと感謝されるやつだよな。
…とびだしてきるよな、ノミ。
あつまってるよな、敵。
…もしかして、コイツ。
風呂に、入っていない。