勇者よ、風呂へ入れ   作:金谷 勇作

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第十二話 戦局を、操れ。

 聖剣が教えた過去の勇者の記憶。

 魔物を異様に呼び寄せるのは…。

 風呂に、入らないせいだった!

 

 くそっ、どうする…?

 目の前には差し迫った魔物の群れ千体…。

 聖剣の記憶では…確実に風呂に入っていない獣人の男が狙われ続けていた…。

 多分…ここにいるフラムが…魔物を呼び寄せている。

 だが、今からいきなり風呂に入れと言い出したら…。

 「ブレイブ…今はそんな時では…ありませんよ。」

 なんて、リリスの失望の表情が目に浮かぶ…。 

 「ブレイブ、いきましょう…!」

 そうこう悩んでいる間に、リリスは戦闘準備を整えている。

 「次はアタシも行くぞ!」

 百体ならどうにかなるが、千体ともなるとコイツの力を借りざるを得ない…。

 迷っている暇は…ない。

 答えは、戦いのなかで見つけるしかない…!

 

ーーーーーーーーーー

 

 王都正門には水平線まで続く、魔物の群れが見えた。

 まさに、過去の記憶そのままだ…。

 騎士団は先に到着し、陣形を組んでいる。

 「おぉ!勇者様がいらっしゃった!」

 「仲間のリリス様も一緒だ!」

 「新しいメンバーもいるぞ!」

 イカれた仲間を紹介するぜ。

 コイツはフラム、風呂に入ってねぇ!

 などとしょうもないことを考えている場合ではない。

 くそっ、焦れば焦るほど余計なことばかり思いつく…。

 現実逃避してる場合じゃない。

 魔物の群れの先陣が、王都正門にさしかかる。

 やはり群れ迷うことなく一直線に、フラムを狙っている。

 「こんな低級の魔物、アタシの相手じゃないね!」

 赤い髪の色のような業火が、魔物を包み燃やしていく。

 「…効いてる!これなら何とかなりそうですねブレイブ!」

 

 「いや…。よく見るんだリリス。」

 

 先陣を切った魔物の後ろから、次の集団が押し寄せる。

 しかも、かなり張り切っている…!

 これは…これはおそらく!

 火炎魔法で…燻されたせいか!

 まずい!

 「おいフラム!火炎魔法はやめろ!」

 「どうして!?集団相手には火炎魔法だろ!」

 「ぐっ…それは……。」

 それはそう、延焼させたほうが討伐効率はいい。

 くそっ、どうすれば…どうすればいいんだ!

 「流石は勇者様だ!」 

 フラムと俺の会話を聞いていた騎士の一人が、急に大声をあげて感動している…。

 「勇者様は…俺たちが延焼でやけどしないように…!」

 「なんてことだ!そこまで考えて…。」

 「勇者様は…戦いだけでなく、騎士団の兵力を温存しようとしてくれているのか…!」

 「そうだ!俺たちが傷ついたら、誰が王都を守護するんだ!」

 「俺たちは物理でしか殴れない…でも、やけどすると攻撃力が半減しちまう!」

 「うぉおお!勇者様!勇者様!」

 地を割るような歓声が後ろから聞こえてくる。

 「くっ…たしかにアタシの考えが軽率だった…。」

 「流石、リリス様が認めた男だ…。」

 「ブレイブ、流石です。私も大軍には火炎魔法と考えていました…。」

 言えない、風呂に入ってないフラムが火炎魔法で燻されて、魔物の士気が上がっているなんて…。

 …言えない。

 勇者、たぶんそんな深いこと考えてないと思うよ。

 なんて…言えない。

 何はともあれ、火炎魔法を止めるのには成功した。

 だが、以前として魔物の群れはフラムに向かって突撃続けるだろう。

 戦場に出て確信した。

 フラムを風呂に入れない限り、この戦いは終わらない!

 そうだ!そうすれば、よかったんだ!

 「リリス!フラム!俺が前に出る!」

 「リリスは下がって俺の合図で前線に出てくれ!」

 「フラムは、俺と並ぶくらい前に来い!」

 「騎士団!全軍正門まで下がれ!」

 勇者の号令で、一斉に状況が動き出す。

 やるしか…ない!

 聖剣よ…今こそ…!俺に力を!

 勇者の頭上に、大きな水の塊が生成されていく。

 聖剣を振り下した瞬間、水の奔流が魔物の群れを押し流していく。

 水は大雨のように、勇者に振り注ぐ。

 

 「リリス!今だ!さっきの火炎魔法で焼けてできた灰を風魔法で巻き上げて、水魔法で溶かしてくれ!」

 「わかりました!」

 

 「おい、勇者!アタシは!?」

 「お前は待機だ!!合図するまで火炎魔法を頭上で構えてくれ!」

 「撃つなって言ったり!どっちなんだ!」

 

 二人に指示を出し、俺は手早く魔物を数体仕留める。

 両断された魔物の中に………あった!これだ!

 

 手早く魔物から脂身を切りだす。

 

 「いまだリリス!」

 「灰を溶かした水魔法を真っ直ぐ斜め上に撃て!」

 

 水魔法と火炎魔法がぶつかり合う…その瞬間…

 聖剣で細切れにした脂身を…そこへ…叩き込む!

 

 それと同時に、ブレイブはリリスの元へ駆け寄り、彼女を抱えて奔流から逃れる。

 「リリス!フラムにヒールをかけ続けてくれ!」

 「はい!」

 …これが!これが俺の答え!

 石鹸だ!

 泡まみれになりながら、仁王立ちするフラム。

 口元しか見えないが…。

 「おい!まだか勇者!なんか目に染みるぞ!」

 …流石は魔族耐久力半端ない。

 「まだだ!まだまってくれ!」

 勇者は聖剣で水を生成し、再び魔物の群れに向けて放つ!

 水の奔流は、魔物の群れを巻き込みながら、今度はお湯になってフラムの泡を洗い落とす。 

 「今だ!撃て!」

 「ようやくだな!待ちくたびれたぞ!」

 フラムの火球が魔物の中央で炸裂する。

 吹き返した熱風が、濡れた赤髪を一気に乾かしていく。

 「勝ったな…帰って風呂はいるか…。」

 「なぁ勇者!アタシは一体何をさせられてるんだ!」

 魔物の群れが散り散りになり、退いていく。

 「おおぉぉ!勝った!勝ったぞ!」

 「流石勇者様と、その仲間たちだ!」

 

 後世の歴史家たちは、この戦いを『王都千魔大戦』と名付けた。

 だが、勇者はこう語る。

 「そんな大層なもんじゃない。」

 「そう…風呂のついでだ。」

 

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