勇者ブレイブ。
品行方正、理想の勇者とされるまで研鑽を重ね。
ついに、聖剣に選ばれるまでに至った。
…まではよかった。
目下、彼を悩ませるのは、聖剣の記憶。
歴代勇者の敗因は、風呂に入らないことだった。
彼のパーティーメンバー探しは、混迷を極めた。
その時、彼に光明が指す。
「勇者様私をぜひ、旅のお供にしていただけませんでしょうか。」
振り返るとそこには白い法衣を纏い、純白の杖を握りしめた女の子が立っている。
「不躾なお願いとは思いますが、私はどうしても魔王討伐に加わりたいのです。そのために厳しい修練にも耐えてきました!回復魔法も使えます!必ずお役に立てるかと…!」
勇者は思った。
(ヒーラー問題。解決ですやん。完璧ですやん。これ以上ないくらいテンプレートなヒーラーやん。いやまて、一応ステータス、確認しておくか…。)
勇者ブレイブには聖剣の恩寵か、他人の能力値が見えるようになっていた。
とりあえず、時間がないので、必要なステータスにサッと目を通す。
(筋力− 体力B 魔力S 信仰S Lv30…)
ヒーラー職に筋力は必要ない。
完璧なステータス…とても欲しい人材だ…。
だが、いたいけな女の子を魔王討伐という過酷な旅に連れて行くのは良心が痛む…。
勇者は女の子に向けて言った。
「魔王討伐は厳しい、過去に何度も勇者が遠征し失敗を重ねている。生きて帰れる保証はない。それでも、君は…」
「行きます!」
食い気味に答える女の子、覚悟は決まっているようだ。
「わかった。なら共に魔王を打ち倒そう。私は勇者…」
「ブレイブ様ですね!騎士学校時代から次期勇者と称され、類まれなる武芸と鍛錬、そして勇者らしい非の打ち所のない正義感の持ち主と評判です!」
「勇者として正式に就任されたときぜひ共に旅をしたい一心で修練を積んできました!夢がなかったとても嬉しいです!」
「私はリリス、僧侶です!よろしくお願いします!勇者ブレイブ!」
勇者は感動して天を仰いでいた。
(これだよこれ。よくわからん聖剣の記憶のせいでなんやかんや出鼻をくじかれたが、これぞ勇者とその仲間の出会いだよ)
(俺はなんて愚かなことを考えていたんだ、出会いは人の縁、傲慢だったんだ。パーティーは運命で引き合うようにできているのだ…。)
「では、リリスよこの王都付近に魔物が住み着いたらしい。俺は今からその討伐に向かう。ぜひついてきてほしい。」
「わかりました!勇者パーティー最初のお仕事ですね!お役に立てるように頑張ります!」
一行は正門を抜け、辺り一面の草原、それは抜けるように蒼い、初陣日和だ。
少し進んだ森の中、勇者一行は身を隠しながら森を進んだ。少しひらけたその先にたき火を囲む、魔物の野営があった。
ゴブリンだ。だがまだ、野営地だけだ。数匹で巣立ったゴブリンは、野営地から巣を作るために周囲の村から簒奪して巣を大きくしていく…。早めに始末しなくては…。
勇者は遠方からステータスを確認する。
(Lvは…20…。5体、うち弓兵一騎で岩場の上に控えているか、まぁやれるだろう。)
こちらは2人…正面から突撃してもいいが、数で当たられると分が悪い。
奇襲を仕掛ける必要があるだろう。
「リリス。敵を足止めできる魔法はあるか?」
「睡眠魔法なら…」
「よし、それで行こう。」
リリスが詠唱を始め、周囲を警戒していたゴブリンがバタバタと眠りについていく。
ステータス画面で、眠りと表示され、眠ったのを確認した勇者は、手早くゴブリンを倒すために前へ出た。
まずは岩場から回り込んで弓兵を始末する。聖剣にゴブリンのドロップ品が取り込まれていった。
収納も兼ねているらしい、さすが聖剣…。
無防備に眠るゴブリンを音を上げさせずに短剣で口を塞ぎながら一体一体丁寧に処理していく。
倒し終わったあとステータスを見ると敵の状態とリリスの状態が明確に表示されている。
敵の残hpやリリスの経験値、戦利品、状態異常も克明に記されている。
勇者ブレイブはステータスに目を通しながらふと気になった数字を見つけた。
【ゴブリンの群れ5/6。】
…まだ一匹どこかに潜伏しているらしい。
この世界の魔物はゴブリンに限らず狡猾なものが多い。
討伐したと思って気の緩んだ新人パーティーが奇襲にあって全滅するのは、騎士学校でよく聞いた話だった。
だが最後の一匹は正面から堂々と姿を現した。
大型で2メートルはある。獲物は…鉄製の両刃剣、腰にジャラジャラと同じものが付いている。冒険者に一番最初に支給されるものだ。ビギナーを狩って強くなったんだろう。
ステータスは…Lv29で筋力がB…自分の実力に自信があるタイプだな。
「受けて立つか…」
勇者ブレイブは聖剣を抜き放つ、両刃剣だった聖剣は抜き放たれた瞬間に刀へと変化した。
持ち主が知るいまの相手に最適だと思った武器へと変化するようだ。
勇者は切っ先を下げて下段に構えた。
ゴブリンが正面から剣を振り下ろしてくる。
勇者はそれを半身に回転しながら側面へ移動するとともにゴブリンの足を切る。
ゴブリンの傷は両断するほど深くはないが、足を切られ動きが鈍っている。
傷つけられたゴブリンは怒り、斜めに振り払うように剣を振るう。
勇者は身を屈め、ゴブリンの脇腹に素早く突きを差し込み、そして離脱する。
ゴブリンは膝をついた。勇者は深く息を吸い込み呼吸を整え、ゴブリンの首へ一閃。
ごとりと音を立てて首が落ち、ゴブリンが倒れた。
討伐完了。想定より強めの敵だったがリリスにいい経験を積ませられたんじゃないだろうか。
勇者はリリスに優しく微笑みながら
「お疲れ様リリス、頑張ったね」
緊張が切れたリリスは頬を緩めて笑う
「初陣だったので緊張しましたがケガがなくてよかったです!さすがは勇者様ですね!」
直後、木の上からリリスの後にドスンと鈍い音を立てて何かが振ってきた。
ブレイブはとっさに身構える。
ゴブリンだ、しかも2メートル程だろうか、ステータス画面に映らなかった、たまたま遭遇した別の個体だろう…
Lvは…40…リリスよりかなり格上だ、マズイ早く間合いを詰めて一撃で倒さねば…
勇者は聖剣を抜き放ち、数歩の助走から大きく間合いを詰めゴブリンに走りながら叫ぶ。
「リリス逃げろ!」
「え?」
リリスは後ろを振りかえり、状況を理解したようだ。腰が抜けたのか屈んでしまっている。
勇者は叫ぶ
「間に合え!」
直後、鈍い音が聞こえた。
リリス?なぜしゃがんで敵のストレートをかわしてから、立ち上がる勢いを拳に乗せるカウンターを繰り出しているんだ?
リリス?なぜゴブリンが吹き飛んでいるんだ?
リリス?どうして宙を舞うゴブリンの顎に追撃で正確にフックをいれるんだ?
勇者は改めてステータスを見た。
筋力‐ …これ、測定不能の時に出るやつか。
あぁ…もうゴブリンボッコボコだよ…身の丈の2倍近くあるのにとんでもないラッシュ決められてるよ…
k.oだよk.o…ゴングどこ?
ゴブリンが力なく倒れたあと。リリスはこちらに笑顔を向けて言った。
「…危なかったですね!勇者様!」
「あ…あぁそうだね、ケガはないかい?」
(…とりあえず調子を合わせておこう。いま深い詮索はすべきでない)
…とりあえず、街へ戻って報告しよう。
道中、後ろを歩くリリスにただならぬ恐怖を覚えた。
…ゴブリンをステゴロで倒した件について触れるべきか…否か…
言い出せない勇者ブレイブ、悩んでいるうちに王都へ戻った勇者一行。
討伐の報告を済ませ、レストランで食事を取り、一息ついた。
「では、リリス、明朝またこの正門前で」
「了解しました。」
和やかな形で解散する勇者パーティー。
仲間が増えた勇者ブレイブ、ヒーラー、僧侶リリスの加入によりソロからパーティーになった!
しかし、彼の真の苦労はここから始まる。
彼の真の戦場は…パーティーメンバーを風呂へ入れることである。
たしか教会には身を清める、沐浴という文化がある。風呂ではないが、身ぎれいであれば問題ないだろう。
「勇者様、その…」
伏目がちに僧侶がこちらに話しかけてくる。
これは、勇者パーティーだから同じ宿に泊まろう的なやつだろうか。
いやしかし、会って1日、同じ宿でも確実に別室を取る。
私は勇者だ。
紳士であらねば…。
「私、匂いませんでしたか?こう討伐で熱くなってしまって…」
「いや、大丈夫。全然気にならないよ。」
思ってたんと違う、話題だった。
勇者俺。深読みしすぎた。なんか恥ずかしい。
「よかったぁ!実は私、沐浴できないんですよ!水が嫌いで…!朝たくさん香水撒いてきたんで臭わなくてよかったです!」
刹那、勇者に緊張が走る。
…勇者の真の戦いはここから始まる。
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