前回までのあらすじ。
ヒーラー問題を解決した勇者。
ステゴロがやたら強い以外は完璧な僧侶リリス
だがしかし、彼女には致命的な欠点があった!
それは…
風呂に入っていない!!!!
聖剣が見せた歴代勇者の記憶、風呂にはいらねば敗北する。
その結末を知る勇者ブレイブにとって、風呂キャンは魔王討伐の成否を分ける重要な要素だった。
「私、沐浴できないんです!」
「香水たくさん振ってきてよかった!」
リリスの無慈悲な笑顔が勇者ブレイブに刺さる。
勇者ブレイブは迷っていた。
想定される最悪の事態だ。
風呂に入れ。と同性にいうのは簡単だ。
だがしかし、相手は女性。
しかも今日知り合ったばかりだ。
ヘタなことを言えば、勇者としての品格を疑われかねない。
この場で、性急に回答をせず、彼女がなぜ水嫌いなのか、風呂に入ろうとしないのかを調べなくてはならないだろう…
落ち着け、勇者ブレイブ、騎士学校で鍛え上げた対人折衝能力を最大限に活用するんだ…!
捻り出した答えは…
「大丈夫、それより今日はつらくなかった?」
話題を、すり替えろ。
リリスは答える。
「ええ、勇者様のおかげでかすり傷一つありません!」
よし、食いついた。
「そうか、何かあったら大変だからな、知り合ったばかりだが、リリスにはうちのパーティーで回復の中核を担ってほしいと思ってる。」
「そんな…私もお役に立てるように精進します!明日からもよろしくお願いします!」
「あぁ!また明日もよろしく頼むよ!今夜はおやすみなさい!」
そう言って勇者は宿へと向かった。
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とりあえず。
一旦、考える時間を得た。
宿に戻り、風呂を済ませ、ベッドに腰掛けた勇者。
両手を組み瞑想して、思考を加速させる。
こうして、新規のパーティーメンバーが入った時に親密度を上げるにはイベントを起こす必要がある。
だがしかし、そう都合よく、なにかが起こるわけもない。
そうすると、大体は問題ごとについて情報を収集するのが定石だ。
幸い、教会というのは常に門戸が開かれている。
誰でも出入りして構わない。
だが、今の俺は勇者、街を歩くだけで目立つ。
注目の的だ。それはもう。
そんな俺が急に教会の修道士に
「あぁーちょっと聞きたいことがあるんだが…」
なんて気軽に話しかけるコマンドを選択してみろ。
翌日、俺がなにについて情報を集めているか、もうそんな噂で教会は持ちきりだろう。
修道士は修道士であって神ではない。人の口に戸は立てられない。
女の園だろ、もう噂話とか爆速で広まるって。
…なんかハードじゃね?
聖剣から見えた別の勇者の記憶だと、町中のありとあらゆる人にしつこく話しかけて、会話のパターン全部見ないと気がすまないなんて奴いたぞ。
…めっちゃ粘着質じゃん。そんなずっと話しかけられたら話すネタも尽きて、同じ事しか言えなくなるって。
とにかく、リリスが沐浴を嫌う理由をどうにかして知らなければ…
初めてのパーティーメンバーを加えた勇者、悩みは深く、夜は更けていくのだった。
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気づけば夜は明けた。
勇者ブレイブ、久々の寝不足である。
風呂キャンするパーティーメンバーをどうやって風呂に入れるか…。
有名な勇者が教会なんて女の園で、聞き込みをしたとあっては、その噂で持ちきりになる。
やたら風呂に執着する勇者として名を馳せてはならない…。
そこで彼は考えた。
頻繁に教会に出入りし、献身的に信者たちの困り事を聞き、それを解決していけばよいと。
教会は迷える子羊たちが訪れる。
身近な人間のトラブルはそう発生しないが、教会は別だ。
教会で神に祈るくらい解決してほしい問題があったりするはずだ。
その中には勇者として解決できる問題もあるだろう。
…私は勇者ではあるが、世界を救った後に
「あの勇者は、戦いしかできねぇ。」とか
「魔王討伐だけが目的で、村のゴブリンの群れなんか気にもとめやしねぇ。お高く止まってやがるぜ。」とか
「あの勇者、会話ができねぇ、どこからかカチカチとボタン連打する音が聞こえてきそうだ。」
等と言われては不本意だ。
魔王討伐タイムアタックがしたい訳では無い。
俺は、必ず魔王を倒す。
計画があるが、そのための名声が不可欠だ。
足繁く教会に通い続ければ、わざわざ聞き出そうとしなくても、噂話を耳にするだろう。
そう、必ず!
噂話や話好きな、ボスが、いる!
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朝の光は、王都の外縁にも平等に降り注いでいた。
宿を出ると、夜の間に冷やされた空気が、爽やかな風となって通りを吹き抜けていく。
振り返れば、幾重もの城壁に守られた中央の王城が、眩い朝日にその輪郭をくっきりと浮き上がらせていた。
城壁の影が伸びる石畳の道を歩き出す。
朝の散歩といえば、リリスにも怪しまれずに教会に近寄れるだろう…。
10分ほど歩くと、外縁の最果て、深い森の境界線に佇む教会が視界を占めた。
圧倒的な歴史を感じさせる、苔むした重厚な石造りの建築。
その最頂部では、美しい女神像が、まるで世界の理をすべて見通しているかのような慈悲深い微笑を湛えて佇んでいる。
特に有名なのが、その加護の強さであり、古の時代から続く霊脈が、魔の物を寄せ付けないことで有名である。
教会を囲む森の木々から、風に乗って澄んだ旋律が流れてきた。
木漏れ日を浴びる緑の奥で、誰かが聖歌を口ずさんでいる。
爽やかな朝の静寂と、森に響く聖歌の調べに心奪われそうになった。
歌に誘われ歩いて行くと、甘い花の香りが鼻に抜けた。
一面の花畑のなかに咲く花のように、声の主は木陰に座り旋律を紡ぐ。
青い鳥が集まり、歌に合わせるかのように囀る。
美しい銀の髪と澄んだ青い瞳に映える、透き通る白い肌は文字通り高嶺の花のようだった。
「あら、勇者様。お怪我でもなさいましたか?」
勇者に気づいた僧侶リリスが歌を止め、不思議そうに勇者に尋ねる。
「いや、今日は早く起きたんだ。僧侶なら教会だろうと思って迎えに来たんだ。」
「それから、今後の方針について話しておきたいと思ってね。」
…まぁ、一睡もしてないが。
僧侶の眉間によっていたシワがとれ、ハッとした様子で口元に手をやった。
「あぁ、なるほど。昨日は私も疲れていてそれどこれではありませんでしたね。」
「では、勇者様。今後の方針をお聞かせください。」
勇者はできるだけ心を落ち着かせ、できるだけ神妙な面持ちを作った。
本心がバレてはマズイからである。
「いきなり見ず知らずの人間と命を懸けた旅に出る、というのは危険な行為だと思う。」
「連携や作戦行動には人となりを知るのが大切だ。」
「そこで、暫くはこの街に留まって、待の人たちの悩みを解決しながら、練度を高めていきたいと思う。」
僧侶といえば話を聞くプロフェッショナルだ。
当然、ウソかホントかを見極める方法にも長けているはず…。
だから、不安を表に出すな。
嘘はいっていない。
僧侶は話を聞き、考えを巡らせている。
数秒の沈黙が長く感じる。
あれだけ聞こえた鳥の声が、よりによって聞こえない…。
僧侶が沈黙を破り口を開いた。
「勇者が始まりの街で留まっては、税金の無駄使い等と言われて示しがつかない。」
「ですが、民のため、世の平和のためであれば皆納得するでしょう。」
「名声が得られれば、勇者という肩書に仕方なく従っている人々からも、心からの信頼を得られるはずです。」
…とりあえず提案を了承してもらえたようだ。
なら、できるだけ勇者らしく、颯爽とした感じでこう返事をしよう。
「あぁ、改めてこれから宜しく頼む。共に魔王を討ち果たそう!僧侶リリス!」
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…さて、ひとまずパーティメンバー正式加入的なイベントは済ませた。
それなりに勇者っぽい感じに振る舞えたはずだ。
魔王討伐の後、なんかこう伝説とかで語り継がれる時に僧侶リリスも俺のことを
「まるで、伝説の勇者の再来のようでした。」
なんて、証言してくれるだろう。
そして、この花畑が伝説の始まり風の場所になって、数百年は保存されるだろう。
銅像とか立ちそうだ。良くやった、俺。
それはそれとして、連携に関しては場数を踏まなければ、風呂キャンとか関係なしに普通に死に直結する。
低レベルで奇襲にあおうものなら、全滅は免れない。
この聖剣、便利機能はそれなりにありそうだが、無限コンティニューなんてものはなさそうだ。
…有れば歴代勇者があんな死に方で成仏できるわけがない。
俺なら死んでも死にきれんぞ…風呂はいらなかったせいで汗が目に入ってパリィミスって死亡なんて…。
聖剣の記憶、それは勇者達が何らかの理由で風呂キャンしたせいで負けた、あまりにも、信じてもらえないようなものだった。
目下、この俺勇者ブレイブも、僧侶リリスが何らかの理由で風呂を拒否しているため、同じ危機に瀕している。
…パーティ入りを断る線もあった。
だが、僧侶リリスのステータスは高く、これ以上ない人材だ。
魔王城に向かう中盤の街とかで、急に優秀な人材が現れて、馬車の中で僧侶リリスに倉庫番をしてもらうなんてことは、まず無いだろう。
…相場中盤で急に助っ人的に入ってくる奴は、ステータスが高いから、だいたい即戦力としてパーティに入れる。
そして、レベルが上がってパーティの中核になってきたタイミングで、最高の装備品ごと持ち逃げするんだ。
なんでか知らないが、勇者としてのカンがそう告げている。
そして抜けた穴を埋めるために、馬車で倉庫番をしていた初期メンバーをパーティに入れる。
だが、倉庫番ばかりしていた初期メンバーは機嫌を損ねて指示を聞いてくれなくなる。
しかも、戦闘経験を積んでいないからレベルが足りない。
だから、もう一度関係を修復しつつ、レベルを上げ直すために、来た道を必死になって逆走することになるだろう。
なら、俺がパーティを5人編成にする、あえて馬車に乗せないという方法もある。
だが、…無理だろう。
冷静に考えて、思い出してみてほしい。
頂点だか先端だかを目指したり、ピシャっとなるハイカラな感じの街での射撃訓練のときのことだ。
3人チームやら4人チームを組んだ。
そう、5人より少ない人数で、完璧な意思疎通や連携ができたか…?
前に出すぎて、気づいたら箱に変身している。
皆いると思ったら、誰もいなくて魂が出る。
なぜ、カバーに来ないのか。
ウルトラな技のタイミングが合ってない。
ちょっと男子!早くフラッグ取って!
キルレいいのに負けたわーキルレいいのになー!
そして、不満がたまるとどうなるのか。
喧嘩だ。
身内で喧嘩してる雰囲気が最悪な時に、狙って奇襲を仕掛けられたらどうなるか。
あぁ…アイツとはいま喧嘩してるから気まずいんだよなぁ…
フォローしてほしいけど、なんかこう、話しかけにくい…
なんて考えてる隙に、喧嘩してる二人から倒されてそのまま全滅だ。
それに…4人ならギリギリ連携も取れるし、喧嘩しても俺が仲裁できるだろう…。
そういう意味でも中盤のパーティー変更は避けたい。
だからここは僧侶リリスになんとしても風呂に入ってもらうようにしなくては…。
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とりあえず、僧侶リリスを納得させ、暫くは教会に入り浸れるようになった勇者ブレイブ。
彼の冒険はより混迷を極めることになるが、また次回。