「私は魔王の娘、リリス。」
仲間の裏切り…パーティーメンバーが必ず一人裏切る物語オブ物語な展開だが…。
いくらなんでも初手は予想できない…。
オープニングで背中見せてないじゃんリリス。
だが、俺は勇者だ。上げてしまったレベルと情をここで断ち切らねば…。
「リリス、何が目的なんだ。」
少なくとも人助けをする彼女に悪意はなかった。
ならば何故…。
「…………。」
杖を握りしめる手に力が入った。
彼女も何か、悩んでいる。
「話してくれ。」
そうだ、だいたい裏切るとパーティーにいた時よりHPが50倍くらいになって、仲間たちから4対1とかで袋叩きにされるが、俺たちはきっと…話せばわかる。
「私は!私は!」
泣き崩れるリリスに歩み寄りそっと肩に手を置く勇者。
「大丈夫、俺は、勇者だ。」
「俺は、仲間を見捨てない。」
さっきっから視界の端で、簀巻きした赤い髪の魔族がリリスに口を封じられて、エビのように跳ねている。
やめてくれ、感動的なイベントシーンだ。
バグだと思われて、クリップとか取られて、ネットで万バズするぞ、やめてくれ。
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「今まで黙っていて、申し訳ありませんでした。」
ひと通り涙した僧侶リリス改め、魔王の娘リリス。
…冷静に考えれば、魔王の娘といえば、相場はリリスだ、少し考えれば…わかる。
「リリスにもなにか、事情があるんだろ。」
「話してくれ。力になりたいんだ。」
少し躊躇ったあと、リリスはゆっくりと話し始めた。
「私は、魔王城から脱走して、遠く離れた魔王も手出しできない地、王都の教会で僧侶として力を蓄えてきました。」
「全ては、魔王を倒すために。」
「…どうしてだ、実の父だろう?」
「…私以外にも魔王の娘は何人かいます。」
「その中で、最も魔力が強い娘をリリスと名付け、後を継がせてきました。」
「ですが、私は跡を継ぎたくはなかった。」
「だから…危険を顧みず、脱走を…」
リリスが魔王の娘…魔族であるなら…沐浴を嫌う理由がわかる。
聖水は魔族には毒だ、泥パックはあっても毒パックは無い。
「私は、生まれ持った魔力のおかけで、結界をうまくすり抜けるすべを身につけました。」
「修練に半年ほどかかりましたが…街に入れず路頭に迷う、あの時のつらさは今でも…。」
「リリス…。」
俺は手を差し伸べる。
「俺達は信頼する仲間だ。」
「勇者として、仲間として、俺はお前の力になりたい。」
「魔王を倒し、リリスにあとは継がせない。」
「俺たちで、この戦いを終わらせるんだ。」
リリスは涙し勇者の手を取る。
「はい!今度こそ、よろしくお願いします!勇者ブレイブ!」
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この瞬間を見ていた赤い髪の魔族、フラムは後にこう語る。
「あれが、勇者ブレイブと姫様…リリス様との絆を決定づける瞬間でしたね。」
「あの温泉地、和平の象徴として二人の彫像が立ちますよ。」
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「俺たちに、隠し事はなしだ。」
「だから聞きたい、リリス。」
「なんで、危険を顧みずに…魔王討伐に?」
「後を継がずに済ませるなら、教会で隠れて過ごす方が…安全だったろ?」
「…やはり…誤魔化せませんか…。」
リリスは顔を伏せる。
今更、何を隠すのだろうか。
魔王の娘であること以外に、バレたくないことなどあるのか。
「…わかりました、お話しします。」
リリスの澄んだ瞳は、まっすぐに、俺を見ている。
何を言われても大丈夫だ、今なら何だって受け入れられる。
俺達は…仲間だ。
「一回しか…言いませんからね…。」
「あぁ。」
「初めは、逃げようと思ったのです。」
「歴代の勇者達は皆、父…魔王や魔族によって敗れ去りました。」
「人間は、魔族には勝てない…。」
「だから、このまま隠れてやり過ごせばいいと。」
「そんな時、ある噂が流れてきました。」
「騎士学校に、歴代最高の勇者が現れた。」
「でも、私は魔王の力の強大さを知っています。」
「だから、噂を聞いても諦めていました。」
「人間の中で上澄みなだけで、魔王には遠く及ばない。」
「そう、思っていました。」
「ちょうどその頃、騎士学校の大規模演習の時期でした。」
騎士学校の大規模演習…実戦で真剣に恐怖しない為に導入されている本当の戦闘だ。
当然、治療や手伝いの為に騎士学校は大勢の人が出入りする。
「私も、教会のお手伝いとして騎士学校に赴きました。」
「そこで私は見たのです。」
「ブレイブ、貴方を。」
「一目見たときに、この人だと思いました。」
「貴方は誰よりも、勇者だった。」
「試合に遅れるのも厭わず、逸れた子どもを、具合の悪くなった観客を…人を…助けていましたね。」
「そして試合に出れば、美しい剣筋で、相手をことごとくなぎ倒していく。」
「貴方の活躍は、天賦の才だと思っていました。」
「ですが、違った。」
「教会のはずれ、あの花畑です。」
「昔の私はまだ未熟で、結界に身を焼かれると、夜に教会を抜け出してあそこで、魔力の回復をしていました。」
「その時に、ひたむきに剣を降るあなたを見たのです。」
「夜遅くまで、ひとり剣と向き合う貴方に。」
「私は、憧れました。」
「そして、この人なら、この人となら、魔王を討てると。」
「それから、貴方の背を追って、慣れない僧侶の魔法を学び、修練を積みました。」
「あなたの努力が実を結び、聖剣に選ばれたと聞いたとき、心の底から嬉しかった。」
「私に希望をくれた勇者が、本当に勇者になってくれた。」
「だから…。」
「だから…勇者ブレイブ、必ず、必ず魔王を倒しましょう、そして私たちで争いのない世界を築きましょう。」
「…あぁ。そうだな…俺たちで成し遂げよう。」
「…なぁリリス、もし…もしだ、平和な世界を勝ち取ったら、何を一番最初にしたい?」
「そうですね…。」
「この温泉に、また来ましょう。」
「勇者と、風呂へ入りに。」