TS転生天与呪縛病弱摩虎羅系天才美少女禪院澪ちゃん(18歳) 作:むーちゃん
若干性的描写がある(たぶん初回だけ)ので苦手な方はご注意を。
縛り、というものがある。
何かを差し出し、その対価を得る。
例えば血肉、例えば信条、例えばその魂すら。
大きなモノを天秤に載せれば、当然それに釣り合う益も大きなものとなる。
呪術師は縛りを活用し、己の力をより効率的に、より相応しい形へと整える。
天与呪縛、というものがある。
これはまた縛りの一種ではあるが、通常のそれとは一線を画すものだ。
名の通り、天が与えし縛り。
この世に産まれ落ちたその時から、本人の意志とは関係なく結ばれるその縛りは、より強大な力をその者に与える。
もちろん、その対価も大きなものとなるのは、言うまでもない。
そしてここに、頭の先まで呪いに浸かった家がある。
御三家の中でも武闘派として知られる禪院家。
その分家の分家のそのまた分家。禪院の名を名乗ることも憚られるほどには血の薄い弱小の木端。
代々何故か女児が多く産まれる家であり、禪院本家に仕える下女を何人か送り出している、呪術師としては三流以下の家。
そこに、天与呪縛の子が産まれた。
名は
天より与えられし体を巡る呪力は──負と負を掛け合わせて初めて発生するはずの、正なるもの。
生まれながらの反転術式持ちである彼女はしかし、やはり相応の対価を支払っていた。
それ即ち──ミジンコ以下の呪力量。
ただでさえ燃費の悪い反転術式。通常の呪力の二倍を消費してようやく効果を発揮するソレ。
その上、天与呪縛により意識せずとも勝手に産み出される正の呪力は、澪の呪力をゴリゴリと削り続けることとなる。
その結果、澪は反転術式を垂れ流し続け、年中呪力切れ状態で気絶寸前の体調激悪美幼女となる。ちなみに姉の一人に付けられたあだ名は『木偶の坊』。
「ふーむ、まあ何かの役に立つやもしれん。屋敷の隅にでも置いておけ」
しかし澪の特異体質を知った当主の投げやりな一言により、彼女は実家から禪院本家へと売られた。
澪、齢三つの頃の話である。
そして三年後のある日、禪院家に衝撃走る。
「わたし、なんか出せそう」
そんな言葉と共に澪は両手を合わせ、犬の影絵を作り出し。
生得領域に刻まれた本能に従って、祝詞を唱えた。
「【玉犬】」
術式の自覚の時期はおよそ四歳から六歳。
天与呪縛の子として、澪がどんな術式を発現させるのか。
禪院家戦闘部隊『灯』の訓練所にて設置型反転術式アウトプットとして活用(?)されていた彼女については、密かに噂されているものではあったが。
まさかまさかの、澪の術式は十種影法術。
禪院の虎の子、相伝術式の中でも最も格の高いものだった。
ぱしゃんっ。
「あ、れ……」
しかし彼女は天与呪縛。天より与えられたのであれば、天に奪われる運命の愛し子。
影から這い出た白黒の狼は一瞬にして空気に溶け。
「おえっ、げほ……」
澪は唐突に胃の中身をぶち撒けながら、意識を宙へと飛ばした。
澪、齢六つの頃の話である。
結論として、澪は軟禁状態となった。
理由は二つ。
一、術式が十種であったこと。
十種影法術は強力な術式だ。特に、禪院と同じく御三家である五条家に六眼無下限の抱き合わせがいる今、それに対抗しうる術式持ちを事故で喪うことは避けたかった。
呪術界は今大きく揺れ動いている。十種持ちである澪に実力がなかったときても、その子が産まれればあるいは五条悟に勝る才能があるかもしれない。この時点で、澪の将来は子産みの胎となることに決定した。
二、彼女の体調が更に悪化したこと。
原因は不明。元より反転術式アウトプットをし続ける体質のため呪力切れの症状──軽度の頭痛、吐き気──が付き纏う澪ではあったが、現状はそれより二段階程悪い。
嘔吐に高熱、全身の異常な倦怠感。まともに生活することすらままならないほどに、呪縛は身体を蝕んでいる。
しかしそれでも正の呪力の生成は止まらない、止められない。それを生み出すために澪の身体は壊れていき、しかし生み出した正の呪力によって澪の身体は癒されていく。
死なないギリギリでの低空飛行。それが今の澪だった。
「術式を展開し続けているようだな……術式反転でもしたか? 呪力切れが深刻すぎる」
「過去の十種の保有者が、反転術式を併せ持っていた記録はない。勿論、術式反転の詳細も不明だ」
顔が厳つい男と当主の話し合いが、苦痛に悶え苦しむ澪の耳を素通りしていく。
「もし仮にコイツが術式反転を無意識的に使い、それによってこうなっているのであれば──」
「本人が術式を解くしか無かろうて。尤も、その自覚も無さそうだがな」
「ぬぅ……」
痛い。苦しい。術式反転ってなに? 誰か助けて。もう嫌だ。気持ち悪い、気持ちわるっ、──
「うっ、おえぇ゛……」
「ま、そのうち何とかなるだろうよ。なぁに、死にはせんさ。反転術式の使い手ならばな」
「そう、だな……」
苦しむ幼女を目の前にしても、救いの手が差し伸べられることはない。
何故ならここは禪院家。ドブとカスが集う、呪術界の悪い所を煮詰めたような、弱い者にとっては地獄の環境なのだ。
澪は生まれて初めて、他人を呪った。
澪、十四歳。初潮来たる。
「よろしゅうなあ、澪ちゃん」
「……よろしく、おねがいいたします」
禪院直哉、現着。
「まずは俺の子供産んでもらう。その後は……甚一君にでも払い下げやな。股の緩い女に興味ないねん」
「…………」
「返事しろやカス」
「う゛っ……かはっ……」
「ああアカン、君弱すぎてすぐ殺してまいそうやわ」
澪は。
「……はい、申し訳ございません」
「はあ……こんなカスに十種宿るとかほんま勿体ないわ」
澪は、何のために生まれてきたのだろう?
「けど便利やね、君。反転術式持ちなんやろ? いくら殴っても治るなら好きに扱えるわ」
親の愛を感じたことはなかった。天与呪縛などという彼らの理解の及ばない領域に身を置く澪は、いつもどこか遠ざけられていた。
「面はええ。乳も尻もでかい。貧弱で世間知らずで男に従順。十種持ちで当主公認の孕み袋。ハッ、なんや、肉便器になるためにでも産まれてきたん?」
「…………ぁ」
家族の愛を感じたことはなかった。実家では親も姉も澪を疎んだ。本家では誰からも見向きもされなかった。当主はただ出来損ないを見る目で澪を見ていた。
「ま、俺が一番乗りや。せいぜい楽しませてくれや、澪ちゃん」
澪は孤独だ。
澪は、弱い。
だからこうして、強者に蹂躙される。
「返事。頭の悪い女は嫌いやで」
「い゛っ……、し、承知、いたしました……」
澪は、澪は。
「澪、を……可愛がってくださいませ……」
いつか皆殺しにしてやると。
心に誓った。
□□□□
歳を重ねるごとに、澪の体調は少しずつ改善していっていた。
呪力量が増えていたのだ。ミジンコ以下だったものがアリ以下程度まで。
一般的な術師からすれば誤差の範囲ではあるが、ギリギリを生きている澪からすれば砂漠の中のオアシスの如き呪力だった。
そのせいで遅れていた初潮が来て、子供が産める年齢になったと判断されてしまったのは、泣きっ面に蜂ではあったが。
「……【玉犬】」
とはいえいい事はいい事だ。こうして式神を呼び出したとて、気絶することがなくなったのだから。
「わんっ!」
「…………」
「わ──」
ぱしゃんっ。
「やっぱり、すぐに消えちゃう……」
強烈な吐き気に耐えながら、澪は己の術式について思考する。
十種影法術。
自身の影を媒体に、十種の式神を召喚することができる術式。
初めに【玉犬】が与えられ、それぞれの式神を調伏していくことで、扱える式神の数を増やしていくもの。
現状、澪が所有している式神は【玉犬】のみ。他にも増やしていきたい所ではあるが、召喚した瞬間に影に溶けて消えてしまうのだから、満足に調伏の儀を行うことすらままならない。
そもそも【玉犬】以外を召喚した瞬間に、澪の方が呪力切れで死んでしまいそうだが。
しかし、何故式神は消えてしまうのか。
澪の意識が保たれているということは、式神の維持に必要な呪力量は確保できているはずだというのに。
「反転、されてるのかな」
己が身に流れる呪力は正。
それを術式に流し込めば、当たり前のように術式は反転されてしまう? ということらしい。澪はろくな教育も受けていないため、そういった呪術の理論的な部分は明るくなかった。
「……忌々しい」
しかし、天与呪縛、どこまでも澪の足枷にしかならない。
復讐のために力を付けようとしても、その第一歩からこのザマである。
いっそ、反転術式などなく、どこかで死んでしまえていれば楽だった。
そうすれば、こんな惨めな思いをせずに済んだというのに。
「…………」
また夜がくる。
あの悪魔が澪を嬲りにやって来る。
「……だれか」
澪を救ってくれる誰かは、どこにもいない。
澪は薄暗い部屋の中、一人静かに呟いた。
「ころして」
〇禪院 澪
所有術式:十種影法術
特異体質:天与呪縛。体内で生み出す呪力が正のものとなる代わりに、呪力量が大幅に減少する。通常の二倍の呪力を必要とする反転術式を持ちながら、カスみたいな呪力しか持たないことを運命付けられた、生まれながらの宝の持ち腐れ。
特徴:黒目黒髪低身長の可愛い系美少女。十四歳ながら起伏を感じさせる体つき。