トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
遠い昔、遥か彼方の銀河系で……。
銀河の運命を決する戦いの末、悪しき皇帝ダース・シディアスは、ジェダイのグランド・マスター、ヨーダによって討ち取られたが、オーダー66は既に発令されてしまっていた。
オーダー66に抗えなかったクローン・トルーパーにより、多くのジェダイが命を失い、辛うじて生き残った者達は帝国から逃れることを余儀なくされた。
選ばれし者であったアナキン・スカイウォーカーは苦悩の末にジェダイを退き、家族と生きる道を選んだ。その師であったジェダイマスター、オビ=ワン・ケノービはジェダイ聖堂を再建するべく奮闘した。
いくつもの悲劇と戦いの果てに帝国は倒れたが、銀河は更なる混沌へと沈み、帝国残党を率いる皇太子と、恐るべき力を秘めたシスの暗黒卿が動きつつあった。
そして、今、コルサントの下層区域で奴隷の少女が運命へと導かれようとしていた……。
また幻が見える。
白昼夢のように不意に現れては消えるが、それを振り払うことは難しい。その幻は、この先に起きる出来事に当て嵌まることが多いからだ。絶対に的中する、というわけではないが、これまでの経験からして七割程度は当たる。
セーヤ・ミットーは踊り子の衣装に袖を通しかけていたが、その手を止めた。淡い紫の肌と、幼さを残しながらも整った容貌とスレンダーな肢体、そして三本のレックが特徴だ。
頭部の三本のレックに付ける飾りは、じゃらじゃらして煩わしい。特に、後頭部の中心から生えている短めのレックに擦れて痛い。けれど、セーヤの訴えなど雇い主には聞き入れてもらえないだろう。ただの奴隷なのだから。
扉一枚隔てた先では、バーに集まった客の賑やかな声が聞こえてくるが、酒の匂いだけでなくスパイスの刺激臭も漂ってくる。それが何を意味しているのか解らないほど、セーヤは幼くはない。トワイレックの奴隷の純潔を金で売り飛ばすなんて、珍しくもないからだ。
「でも……」
先程見た幻では、セーヤは踊り子の衣装を脱ぎ捨てて逃げ出していた。この屋敷の裏口から出て、ウォンプ・ラットとロズ・キャットが追いかけっこをしているゴミ溜めの路地裏を通り抜けて、下層区域から抜け出せるトラムに潜り込んで、そこで誰かに出会う。
「誰って、誰?」
見えそうで見えなかった。だが、その誰かがセーヤの味方であることは間違いない。強い確信がある。けれど、逃げた後でどうするのか。コルサントの下層区域から脱したとしても、その先がなければどうにもならない。
再び捕まった後でどうなるのかは知っている。逃亡を図った奴隷の末路は、地下闘技場でクリーチャーの餌にされるか、ブラスターの試し撃ちをされるか、犯罪者の身代わりにされて使い捨てられるかだ。
「支度は済んだか?」
ドアをノックもせずに開け、覗いてきたのはヒューマンの男だった。その名前が何だったのか、セーヤはよく覚えていない。雇い主であるナザ・シーサイはコアワールドで多少は名の知れた商人だが、その実は裏社会であくどい商売をしていて、当然ながら犯罪組織とも繋がっている。だから、部下の顔触れもすぐに変わるし、昨日までは傍に置いていた側近ですらも裏切りの兆しが見えたら殺してしまう。
セーヤの今までの雇い主の中でも最悪だ。それでも、奴隷として買われた以上、やるべきことはやらなくてはならない。機嫌を損ねないように振る舞わなくては、次に殺されるのは自分だからだ。
だから、踊り子らしい化粧をした。
照明の下、薄布を翻して舞う。
三本のレックが目立つように上半身を逸らし、足を高く上げ、胸を反らす。酒とスパイスに酔った男達の視線が突き刺さり、照明の熱さで汗ばんだ肌がちくちくする。それでも、セーヤは踊り続けた。
アイソリアンであるナザ・シーサイは、湾曲した頭部に二つの口を持ち合わせており、側面の口に翻訳機を付けていた。今夜、セーヤを買いたいと申し出る客が現れるのを待ち構えていた。もっとも、いくらで売れたとしてもセーヤには1クレジットも入らないが。
最初の曲が終わり、指先まで伸ばし切って踊り終えた後、セーヤはふと気付いた。客の中に、見慣れない恰好をした男がいる。黒いフードの付いたローブを纏い、その下の衣装も黒一色だ。体型はヒューマンに似ているが、少しだけ見えた目元には爬虫類めいたウロコがあるので混血なのだろう。それ自体は珍しくもなんともないが、妙に気になった。
二曲目が始まり、セーヤはしゃらしゃらと細い鎖のアクセサリーを鳴らしながらステップを踏んだが、あの黒いローブの男が立ち上がったのが見えた。ナザ・シーサイに近付くと、話しかけている。
「……あ」
照明の熱さで浮いた汗が一瞬で引き、背筋が冷え込む。それでもセーヤは踊りを止めず、動揺を悟られぬように表情を取り繕った。
ナザ・シーサイの反応も良く、黒いフードの男は満足げに去っていったのを見て確信する。今、私は買われたのだ、と。しかし、黒いフードの男に引き渡されてはいけない、気がする。生理的な嫌悪感だけではない、それ以上の何かが語り掛けてくる。
けれど、舞台の上で踊るセーヤに逃げ場はない。それでなくとも、この店に集まっているのは荒くれ者ばかりだ。セーヤが飛び出したところで、すぐに捕まえられるのが目に見えている。だが、逃げるチャンスがあるとすれば今しかない。奥にある控え室に戻れば抜け出せないし、バーの出入口は一つしかない。
不意にあの幻が重なる。セーヤが三曲目を踊り始めるのと同じタイミングで、バーの中で異変が起きて騒ぎになる。それに紛れて脱出し、ウォンプ・ラットが走り回る配管を伝って進み、中層区域に通じるゲートの抜け穴を通ると、その先に誰かがいる。
もしも、この幻が現実になるのなら。ほんの少しでも希望を抱いてもいいのなら。セーヤは背筋を伸ばし、レックの先までぴんと尖らせ、三曲目が始まるのを待った。最初のステップを踏もうとした瞬間、突如、バーの明かりが消えた。
幻と同じだ。ざわつく客の中、セーヤはひらひらする薄布と耳障りな音を立てるアクセサリーをすぐさま放り投げると、身を屈めて男達の足元を擦り抜けた。
裏口のドアがなぜか開いていたので、そこから外に駆け出した。裸足のまま、息を切らし、幻で見た通りのルートを辿っていった。
きっと、この先には。
赤い光が闇を裂く。
バーの店内を照らし出したのは、一条の赤い光だった。それを携えているのは黒いフードの男であり、その光は攻撃的な刃でもある。
「ライトセーバー……」
客の中の誰かがその名を呟くと、黒いフードの男はナザ・シーサイに赤い光の切っ先を向ける。
「あの娘はどこに?」
「どうも逃げたようで……」
ナザ・シーサイが委縮しながらも答えると、黒いフードの男はフードを上げた。顔付きはヒューマンだが、尖った耳と緑色の髪が露わになる。
「必ず手に入れたい」
「では、賞金を懸けます」
「その代金はこちらで支払おう」
そう言って、男は黒いローブの下を探り、帝国のクレジットを五枚取り出した。それをナザ・シーサイの目の前のテーブルに積み重ねる。
「手付金で5000クレジット。それでも足りなければ、帝国の連絡役を捕まえて請求するといい。俺の名を出せば融通してくれる」
「で、では、お名前をお伺いします」
ナザ・シーサイが気後れしながらも問うと、男はライトセーバーをベルトに提げた。
「オード・キュー。所属はシス騎士団だ」
オード・キューと名乗った男が手を翳すと、停電に伴ってロックされていたドアが独りでに動き、開いた。フォースによるものだ。
オード・キューが去っても、バーの店内の空気は冷え切ったままだった。ジェダイもそうだがシスには関わりたくない、と客達は口々に言い合い、逃げるようにバーから出ていった。
ナザ・シーサイはがらんとしたバーに取り残されたが、ぐびりと酒を飲んで思考を巡らせた。シスに関わるとろくなことにはならない、リスクが大きすぎる、たかがトワイレックの奴隷のために、と思う一方、帝国残党から先程の倍以上のクレジットを得られるのは魅力的だった。
早速、セーヤに賞金を懸けなくては。