トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
事の経緯はこうだ。
物流倉庫に停泊した貨物船が、荷下ろしをしている最中にロズ・キャットが逃げ出した。それというのも、その貨物船の船長の故郷では、航海の安全を祈るお守りとしてロズ・キャットを船に乗せる慣習があり、このロズ・キャットもそのためのものだった。しかし、ドアをロックし忘れていたため、ロズ・キャットは逃げ出してしまった。
船長と乗組員はロズ・キャットを探したが、次の配送先に荷物を運ばなくては違約金を取られてしまうため、出港せざるを得なかった。その際にロズ・キャットに賞金を懸け、それをマチルダが見つけて引き受けたという次第である。
「なるほど、状況は解りました」
ラムダ級シャトルから降りてきたテンノーは、ロズ・キャットのホロコインに目を通した。
「ひとまず、物流倉庫全体の監視カメラの映像を確認しましょう」
テンノーは手近なスコンプ・リンクにシリンダーを接続させ、回転させ、監視カメラのデータにアクセスした。しばらく間を置いてから、テンノーは答えた。
「7番ベイに向かったようですが、そこから先は映像には残っていませんでした。狭いところに潜り込んだようで」
「7番ベイだね。じゃ、行こう」
セーヤが言い出すと、マチルダは物流倉庫のホロマップを投影する。
「テンノー、あんたはここで作業を続けて。私達の指示に応じて援護して」
「同行しなくてもよろしいんですか?」
テンノーに問われ、マチルダはホロマップを消してからヘルメットを被った。
「セーヤがフォースの扱いを学ぶには、いい機会だと思ったのよ。その場合、テンノーが横から口を挟むとセーヤが混乱しちゃうからね」
「そんなことはありません。私はセーヤにとって有益な情報を的確なタイミングで提示しているのです、パダワンでしかなかったあなたが与える情報よりも精度が高いです」
テンノーはすかさず言い返すが、セーヤはむっとした。
「でも、テンノーはセーバーの構え方も教えてくれなかったじゃない」
「それはセーヤがライトセーバーを扱えるだけの経験を得ていない、と判断したからです」
「じゃ、なんで最初に渡したの」
「マスター・ギ・ハーラの命令でしたから」
テンノーが迷いなく答えたので、セーヤはベルトに提げたライトセーバーに触れた。
「ドロイドらしいなぁ、もう」
「というわけだから、セーヤを借りていくわ。大丈夫、悪いようにはしないから。それから、これもお願い」
マチルダはドロイドに運ばせてきたコンテナを指すと、テンノーはそれを見上げた。
「今度は何なんです?」
「シャワーブースの本体と付属品。私達の仕事が終わるまでには取り付けておいてね。代金は私が立て替えておいたから」
マチルダは小さく手を振ってから、セーヤの背中を押した。テンノーはドロイドが差し出したホロの受取書にサインしてから、荷下ろしした。ただでさえ仕事が多いのに増やさないで下さいよ、とテンノーは文句を言いつつもシャトルに運び込んでいった。
完成するのが楽しみだ。
7番ベイは衛星の下部にあった。
到着した貨物船からコンテナを運び出すドロイドの列が並び、コンテナの中身を検品するドロイドが忙しなく動き回り、検閲に引っ掛かったコンテナを排除したドロイドが検疫官に通告しに行き、在庫管理ドロイドが搬出用ドロイドに指示を出していた。
「ドロイドばっかり」
セーヤが率直な感想を零すと、マチルダはドロイドの群れを見渡した。
「この手の仕事に関しては、彼らの方が優秀だもの」
「それで、ロズ・キャットはどっちに?」
「こっちね」
マチルダはコンテナの列の先にある通路を指した。セーヤとマチルダは、一定の速度で流れてくるコンテナの間を擦り抜けながら通過した。通路に入ったが、こちらもまたドロイドが行き交っていて、アストロメク・ドロイドが慌ただしく駆け抜けていった。
これではロズ・キャットは怯えてしまい、奥に引っ込んでしまっただろう。そう思い、セーヤは通路の天井と床を観察していると、パネルが外れて配線が覗いている部分があった。
「あっ」
セーヤは身を屈め、パネルの端に付着した体毛に気付いた。ロズ・キャットのものに違いない。
「ここにはちょっと入れないね……。探査ドロイドも持っていないし」
マチルダはライトを付け、壁と配線の隙間を照らすが、人が潜り込めるほどの隙間はない。それなら、ロズ・キャットはその先に向かったはずだ。そう思い、セーヤは手近なドロイドを呼び止めた。
「ねえ、この配線はどこまで繋がっているの?」
R3シリーズのアストロメク・ドロイドは立ち止まり、ぐるぐると頭部を回転させつつ、ピキピキとバイナリー言語で答えた。
「この配線は通信用ものだから、この先にはトランスミッターがあるんだって」
「バイナリー言語が解るの?」
マチルダに問われ、セーヤはアストロメク・ドロイドを見送ってから答えた。
「仕事仲間にドロイドがいて、ずっと一緒にいるうちになんとなく解るようになったの。テンノーは
「なるほどね。トランスミッターが設置されているのであれば、そこの空間があるはず。機械熱で温かいから、ロズ・キャットが潜り込むのには丁度良いわ」
マチルダは再度ホロマップを確認し、進んだ。セーヤはドロイド達の脇を通り過ぎ、通路の先に出ると、マチルダの後を追っていった。
マチルダはセーヤよりも頭一つ半は背が高く、全身に武装しているのに身のこなしに隙がない。腰に帯びたブラスター、弾帯には複数の実弾、仕込みナイフ、ポーチには手榴弾や予備の武器が入っている。マンダロリアンよりも軽そうだが、頑丈なアーマーの至るところに傷がある。
「あれ」
ふと、セーヤは気付いた。マチルダの腰の後ろには分割された武器が提げてあるが、ブラスターとは構造が異なる。これはなんだろう、とセーヤは疑問を抱いたが、マチルダが角を曲がったのでそれに続いた。
仕事が済んだら、その後で聞けばいい。
予想通りだった。
マチルダが溶接されたパネルをレーザーカッターで焼き切り、外すと、その中ではトランスミッターにロズ・キャットが寄り添っていた。程良く温かくて気持ちいいようで、すやすやと眠っている。
「んっ……」
しかし、腕を伸ばしても届かない。セーヤは精一杯頑張ったが、肩が抜けそうになったので身を引いた。
「私でも厳しそうね」
マチルダも試してみたが、やはり結果は同じだった。
「どうしよう……」
セーヤはロズ・キャットを覗き込んだが、目を覚ます様子はなかった。
「下手に起こすと却って奥に行っちゃうわ。ロズ・キャットは警戒心が強くて気難しいから」
マチルダの意見に、セーヤは悩んだ。
「だったら、この壁を剥がす……ってわけにもいかないか。大きな音がするし、驚かせちゃう」
「フォースで呼び掛けるのを試してみたら?」
「そんな使い方も出来るの?」
セーヤが訝ると、マチルダは説明した。
「フォースは万物に流れているものだから、ロズ・キャットにも流れているのよ。それにそっと働きかけて、ロズ・キャットを招き寄せるのよ。でも、そのためにはセーヤが心を開かないとダメ」
「マチルダは?」
「私は精神感応系のセンスがなくて。フォースジャンプは割と得意なんだけどね」
マチルダが肩を竦めると、セーヤは言い返す。
「私だって、やったことがないんだけど」
「とにかく試してみて」
「それじゃ、まあ……」
セーヤはロズ・キャットをじっと見つめながら、手を翳した。そうすると、フォースの方向性が定まる、ような気がするからだ。自分の中に流れるものを感じ取り、その感覚を外側に広げていく。
すると、自分という個人を覆っている薄膜が取り除かれたかのように、周囲の情報が膨大に流れ込んでくる。物音、人々の話し声、ドロイドの熱量、ケーブルを伝う電流、ありとあらゆる感情が複雑に重なり合い、波のように打ち寄せてくる。
「う……」
その情報量の多さに、セーヤは圧倒されそうになった。だが、その中に細い糸のようなものを感じ、それを手繰り寄せていった。ロズ・キャットは眠っているから、感情も落ち着き、意識も弱くなっている。だから、無理に繋げようとすれば、ロズ・キャットが驚いて拒むのは目に見えている。
落ち着け、大丈夫、しっかりと気を持って。セーヤは自分にそう言い聞かせながら、ロズ・キャットの意識を自分の意識に寄り添わせる。こちらも眠っているかのように気持ちを静め、呼吸を整える。
すると、ロズ・キャットの内心が流れ込んできた。不安と寂しさ、空腹と悲しみにより、隠れずにはいられなかった。セーヤは手を伸ばす。
「大丈夫だよ、迎えに来たから」
だから、こっちにおいで。セーヤが穏やかな感情を伝えると、ロズ・キャットは目を覚ました。背中を丸めて伸びをしてから、大きな三角の耳をぴんと立て、狭い空間を歩いてやってきた。
にゃあ、と甘えた声を発し、ロズ・キャットはセーヤの腕の中に収まった。セーヤはロズ・キャットのふわふわした毛並みを撫でてやり、抱き締めた。
生き物の温もりを感じた。
ロズ・キャットをケージに入れた。
セーヤと繋がったことで安心してくれたようで、ロズ・キャットは昼寝を再開しているが、また逃げられたら見つけ出すのが大変だからだ。その無防備な寝顔を見、セーヤが頬を緩めていると、マチルダはロズ・キャットの首輪を確かめた。
「この子の首輪も無事だったね」
「それがどうかしたの?」
セーヤが振り返ると、マチルダはケージを持った。
「後で説明するから、ここで待っていて。この子を飼い主に送り届けたら、すぐ戻ってくるから」
そう言って、マチルダは去っていった。程なくして、駐機場からは彼女のガンシップが発進した。セーヤはロズ・キャットを抱っこした余韻に浸りながら、ラムダ級シャトルに戻った。
「わあっ」
セーヤは真新しいシャワーブースを見つけ、ドアを開けた。ボタンを押すと、ちゃんと温水も出てくるし、使用後に乾燥させるためのヒーターも作動する。セーヤはひとしきり眺めてから、配線と配管を終えた壁を元に戻しているテンノーに飛び付いた。
「ありがとう、テンノー!」
「いえ、これも私の仕事ですので」
テンノーは手を止め、セーヤに向き直る。
「ロズ・キャット探しも終わったようですね」
「マチルダのおかげだよ。フォースのことはよく解らないけど、フォースがどういうものなのかは感じられるようになったんだ」
セーヤはテンノーの外装に触れた。硬くて冷たくて頑丈な、ドロイドの肌だ。
「でも、テンノーには流れていないんだね」
「ドロイドですので」
「ちょっと残念だなぁ」
セーヤはテンノーの胸部装甲に、こつんと額をぶつけた。ドロイドは生き物だから仕方ないとはいえ、通じ合えないのは寂しい。
「セーヤ。次はベッドでしたね」
テンノーが肩に手を添えてきたので、セーヤは顔を上げた。
「そう、マットが欲しいの。でも、シャワーブースの部品が1200クレジットで、ロズ・キャット探しの報酬が半分の1500クレジットだから、余りは300クレジットでしょ? 食糧と水と必要物資を買い揃える方を優先するべきだから、マットを買うのはまた今度だね。寝心地は悪いけど、ないよりはマシ」
セーヤは壁に作り付けのベッドを見、妥協した。雇い主の元から逃げ出し、シスに目を付けられている状況なのだから、眠れる場所があるだけでも良しとしなくては。
「あっ、そうだ」
セーヤはあることを思い立った。シャトルから出て雑貨を売る店に行き、黄色と茶色のペンキと刷毛を買ってくると、シャトルの台形の機首に乗っかった。
「よーし!」
セーヤは意気込んだ。黄色のペンキを楕円形に塗り、三角の耳を二つ付け、丸っこい胴体と大きな尻尾を付ける。そこに茶色のペンキで縞模様を描き足し、牙を生やし、真ん丸の目を入れる。
「ほら見て! ロズ・キャット!」
セーヤは船内からテンノーを引っ張り出し、まだ乾いていない絵を指すと、テンノーはそのロズ・キャットの絵を見上げた。
「特徴は捉えていますね」
「下手だって言いたいの?」
セーヤがむっとすると、テンノーは残ったペンキの缶と刷毛を手にした。
「いえ、そのようなことは決して。これはシャトルの外装を塗るために使いましょう、勿体ないので」
「可愛くしてね!」
「帝国の機体だと誤認されないように、視認性を上げるための措置です。そのような意図はありません」
テンノーはセーヤの頼みを突っぱねてから、作業に戻った。どうせなら可愛い方がいいのになぁ、他の船は可愛くないんだから、とセーヤは釈然としなかったが、もうちょっと居心地を良くしよう、と船内に戻ろうとした。
すると、マチルダのガンシップが入港してきた。本当にすぐに帰ってきた、とセーヤは意外に思いながらも、彼女のガンシップに近付いた。
「お帰り、マチルダ」
セーヤが出迎えると、マチルダは降りてきた。
「ただいま、セーヤ。作業は順調?」
「ロズ・キャットを描いてみたんだけど」
セーヤがラムダ級シャトルの機首を指すと、マチルダはをそれを見て笑った。
「可愛いじゃない」
「でしょ? それで、用事は済んだの?」
「あの子はちゃんと飼い主の元に送り届けてきたし、報酬ももらってきた。だから、半分」
マチルダはセーヤの手を取り、クレジットを渡してきた。新共和国のゴールドのクレジットが二枚。
「へ?」
セーヤが呆気に取られると、マチルダは笑う。
「あの子の首輪にはチップが仕込まれていて、その中には帝国残党の機密情報が入っていたんだよ。その情報をここで取引するはずだったんだけど、ロズ・キャットが逃げ出したんでそうもいかなくなって、20000クレジットの賞金が懸けられていたってわけ。3000クレジットは表向きの値段ね。だから、その中には10000クレジットを入れてあるから、それで船の設備を買い足すといいよ」
それじゃ私も買い出しに行ってくるから、とマチルダはセーヤの肩に軽く手を置き、去っていった。セーヤは唖然としていたが、10000クレジットを慎重にポーチに収めた。急に大金を手にすると、嬉しさよりも先に恐怖を覚えてしまう。
とりあえずベッド用のマットを買った。
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セーヤ・ミットー
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