トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
ウータ・グータはきつい酒だ。
情報収集や取引のために酒場を訪れるのはいつものことだが、まともに飲むのは久し振りだった。マチルダは酒の熱さを胃の中に感じながら、懐かしさとやるせなさを噛み締めていた。
かつてパダワンだったことを誰かに明かしたのは、これが初めてだった。実の親よりも目を掛けてくれて、愛情を手間を惜しまずに育ててくれたジェダイ・マスター、エア・キャビーの期待に応えられなかったのは何年経っても悔やまれてならない。ライトセーバーを処分するべきだと思っているのに、未だに手放せずにいるのは、マチルダの弱さと甘えの現れだ。
訳知り顔でジェダイについて説明した自分が恥ずかしく、セーバー剣術の実演までしてみせたのは恥の上塗りだ。どれもこれも実戦で役に立たなかったのに。フォースの適性もライトセーバーの扱いも、マチルダよりもセーヤの方が上回っているというのに。
それなのに、セーヤがジェダイについて何も知らず、マスターが不在なのをいいことに、彼女に教えてしまった。マチルダが知っているのはほんの少しだけでしかないのに。いや、知っていると思い込んでいるだけであって、実際には何一つ身に付かなかった。
「珍しいな、あんたが酔っているなんて」
店の奥に座るマチルダの前に現れたのは、鷹の意匠が目立つヘルメットを被ったマンダロリアンだった。マチルダはグラスを置き、その名を口にする。
「ケイ・ホーク」
「そう怒るなよ、今の俺はフリーだ」
ケイはマチルダの隣の席に腰を下ろし、腕を組む。
「だから、次の仕事を探しているってわけだ」
「私には関係ないわ」
マチルダは突っぱねるも、ケイは周囲を気にしながらも話を切り出した。
「三本のトワイレックの少女と何を話したんだ」
「あんた、あの子と知り合い?」
「いや、殺し合った。商人のナザ・シーサイの奴隷だったんだが、逃げ出したから捕まえてくれと依頼を受けたんだが、まさかジェダイだったとは。太刀筋も重心もなっちゃいないのに、俺のブラスターを弾き返してきやがった。将来が楽しみだよ」
「へえ」
マチルダが興味を示すと、ケイは続けた。
「だが、問題はその後だ。シス騎士団と名乗る奴が現われた。同盟軍が乱入したから、あの子も俺達もなんとか逃げ延びたが……帝国は何を考えている?」
「私の知ったことじゃないわ」
「シス騎士団なんて聞いたことあったか? ジェダイ・オーダーのジェダイ騎士団であれば知っている、マンダロリアンであれば必ず」
「帝国のお偉いさんの親衛隊じゃないの? 実物を見たことはないけど噂では聞いたことあるもの、全身真っ赤のエリート部隊」
「それにしては妙じゃないか?」
「未熟なジェダイを誘惑するのはシスの常よ」
「だったら、余計に変だろ。なんでジェダイ・オーダーが動かない? 俺が知る限り、ああいう勘の鋭い子はローブを着た奴らが迎えに来るもんだが」
ケイが首を傾げたので、マチルダは嘆息する。
「あっちも忙しいんでしょ。戦争の後片付けとか、帝国残党の始末とか、新共和国の下支えとかね」
「俺はコンコーディアについてはよく知らないんだ」
「急に話を変えないでよ」
マチルダが言い返すも、ケイは続けた。
「生まれも育ちもマンダロアだから、チルドレン・オブ・ザ・ウォッチの一派が身を潜めていた、衛星のコンコーディアには一度も行ったことがないんだ。だが、マンダロリアンじゃない連中からすると、俺みたいなのとザ・ウォッチのマンダロリアンは区別が付かないらしくて、たまにコンコーディアの話を振られる。その時はちゃんと説明するけどな、俺はマンダロア育ちの純正品だと」
「何が言いたいの」
「つまり、それと同じだ。あの子のこと、ジェダイ・オーダーは知らないんじゃないのか?」
ケイはヘルメットをマチルダに寄せ、声を潜めた。マチルダは目を見開くも、表情を戻す。
「まさか。ドロイドも一緒だったじゃない」
「だから、あの年代物のドロイドも食わせ者だったってことさ」
そう言ってから、ケイは身を引いた。彼は何事もなかったかのように酒場の喧騒に紛れ、賞金稼ぎギルドの関係者に賞金首はいないかと尋ねた。ケイのジェットパックを背負った後ろ姿を見ながら、マチルダはある考えに至った。
サウス・ギ・ハーラは、恐らく。
モト星系、惑星チューク。
寝心地のいいベッドから抜け出したセーヤは、コクピットの先に見える惑星を一望した。気候が程良いらしく、緑の大地と海が薄い大気の下に広がっていたが、都市部らしきものや衛星基地などは見当たらない。セーヤはテンノーを窺う。
「この星、住民が少ないの?」
「原住民が小さな集落を作り、細々と生活している程度です。理由は至って簡単です、ハイパースペースの航路をいくつも乗り継がないと辿り着けないからです。その影響なのか、モト星系のあちこちで重力変動も発生しているので、亜光速飛行では危険ですし」
「取り残されちゃったのか……」
「ですが、そのおかげで帝国の目から逃れられたのです。着陸しましょう」
テンノーが操縦し、ラムダ級シャトルは大気圏へと突入した。シールドの前方に断熱圧縮が発生したが、程なくして消え失せ、続いて雲を破った。人工重力とは異なる重力が船内に至ったが、セーヤの心身に負担が掛かるほどではなかった。
高度を下げても、都市どころか街の気配すらなかった。鬱蒼と茂った木々の間に集落が点在しているが、家屋の数も限られていて、田畑の面積もそれ相応だった。言うまでもなく宇宙港はなく、たまに大きな建造物らしきものが見えても、石で組み上げられた古代遺跡だった。
本当に何もないんだ、とセーヤは安堵を覚えた。ここなら、シスに追われることもないだろう。テンノーは徐々に高度を下げていき、古代遺跡の手前に着陸した。ラムダ級シャトルは翼を折り畳み、ランディングギアを出して接地する。
「うわー……」
セーヤはシャトルを下りると、古代遺跡を仰ぎ見た。コルサントの積層都市のビルやタワーは見慣れていたが、どれもこれも巨大なので却ってサイズ感が掴めなかった。だが、この古代遺跡は周囲には木々しかないので巨大さが際立っていた。
「テンノー、これを作ったのはこの星の人達?」
セーヤが振り返ると、テンノーも降りてきた。
「ええ。遠い昔、フォースを利用して文明を築いた種族がいたのですが、彼らはやがて滅びてしまいました」
「なんで?」
「一部の者がダークサイドに傾倒したからです。負の感情や怒りによって引き出されたフォースは強大ですが、安易で扱いづらいものなのです。それにより、彼らは内部分裂を起こし、やがて戦いとなり……」
テンノーは古代遺跡の外壁を指した。そこにはセーヤには読めない文字が刻まれていた。
「そう書いてあるの?」
セーヤが古代文字を見上げると、テンノーは続けた。
「はい。電子頭脳を増設し、プロトコル・ドロイドと同じ機能を得ましたので」
テンノーは古代遺跡に近付き、文字を辿っていくと、その先には四角く区切られた部分があった。
「これは?」
セーヤが四角い部分に触れると、テンノーは一歩身を引いた。
「ジェダイ寺院の入り口です。歴史が示すように、この惑星には強いフォースが宿っているため、ジェダイが寺院を建立したのです」
「どうやって入るの?」
セーヤは四角い部分を押してみたが、びくともしなかった。扉だろうと察しは付くが、重たい岩を隙間なく組んであるので中も覗けない。
「フォースを使うのです」
テンノーの言葉を受け、セーヤはちょっと離れてから両手を向けた。ロズ・キャットと通じ合った時の感覚を思い出し、フォースの流れを捉え、それにほんの少しセーヤの意志を作用させた。しかし、地面に転がる石がいくつか持ち上がっただけだった。
「ダメっぽいね」
セーヤが肩を竦めると、テンノーは首を横に振る。
「一度で諦めてはいけませんよ、セーヤ」
「お腹空いちゃった」
「セーヤ、話を聞いて下さい」
「あったかいの作ろう」
テンノーをやり過ごし、セーヤはシャトルに戻った。食糧保管庫を開け、物流倉庫の市場で買ってきたバンサの肉の塊とトマトの缶詰、調味料を取り出した。バンサの肉の塊をナイフで薄く切り、トマトの缶詰を入れ、塩、ブルーミルクのバター、香辛料を鍋に入れてヒーターに掛け、じっくり煮込むと出来上がり。
宇宙空間やハイパースペースを移動中は保存食で済ませてもいいが、惑星に留まっている時はちゃんとした料理を食べたいからだ。
「せっかくだから外で食べよう」
セーヤはバンサのシチューを盛ったボウルにパンを添え、シャトルから出た。テンノーは呆れながらも、セーヤが戻るのを待っていてくれた。セーヤは古代遺跡の一部と思しき四角い岩に腰掛け、バンサのシチューを味わいながら、ふと思い出した。
今頃、カミーノはどうしているだろう。あれ以来、連絡も取っていない。元気にしていると伝えるべきだろうか、だけどそれをシスに傍受されたら、でもまた会いたいし、会ってどうするつもりなんだよ、普通にお喋りとか、話題なんてないくせに、とセーヤは思い悩んでしまった。
そのせいでシチューが冷めた。
惑星チュークには三つの月がある。
夜を迎えると、サイズの異なる衛星がそれぞれの位置で巡ってきた。その月明かりを浴びた森は騒がしく、夜行性の虫や獣の鳴き声が聞こえてきた。セーヤはシャトルの後部ハッチを開け、三方向から注ぐ月明かりに照らされた古代遺跡を見上げていた。
気持ちを静めると、フォースの流れを感じ取れるようになった。広々とした川のような、豊かな海のような、空を渡る風のような、惑星全体を包み込むほどのフォースが満ちている。だが、それは同じ場所には留まっておらず、ゆったりと動き続けている。
古代遺跡は無作為に建てられたわけではなく、フォースの流れに沿っていて、その流れが一点に集まるように出来ていた。それこそが、セーヤの目の前にある古代遺跡であり、その内部に秘められているジェダイ寺院だった。
「────待っていたよ」
穏やかな声が届き、セーヤがはっとすると、ジェダイ寺院の入り口の手前に人影が佇んでいた。フードの付いた長いローブを羽織り、古めかしい衣服を纏い、腰にはライトセーバーを帯びた壮年の男。
「あ……」
その姿には見覚えがある。あのお姫様の夢に出てきた人だ、とセーヤは気付いた。
「セーヤ。もう一度試してごらん」
男に促され、セーヤはジェダイ寺院の入り口に近付いた。両手を翳してフォースの流れを掴み、その方向を変えようとしたが、やはり上手くいかなかった。
「フォースの表面ではなく、その先を捉えるんだ」
男の指示を受け、セーヤは集中した。フォースの流れ、大きな流れ、ゆったりとした流れ。流れを妨げないように感覚を沈め、同調させると、その先にはより激しく強いフォースが駆け巡っていた。
「あった!」
セーヤが目を見張ると、男は続けた。
「それを遺跡全体に流すんだ。そうすれば……」
言われた通り、セーヤは激しく強いフォースの方向性を変えた。古代遺跡に馴染ませ、広げ、走査させると、地鳴りが聞こえ始めた。ジェダイ寺院への入り口が迫り出し、口を開き、階段が現れた。
「やった……」
セーヤが感嘆すると、男は静かに述べた。
「その感覚を覚えておくといい。だが、あまり喜びすぎてはいけないよ。君自身が引き出したのではなく、フォースが応えてくれただけなのだから」
「はい」
「さあ、おいで」
男に促され、セーヤは階段に入った。長らく誰も訪れていなかったのだろう、階段には砂が堆積していて空気も古かったが、不思議と気持ちが落ち着いた。セーヤの歩調に合わせて壁がほんのりと光り、足元を照らしてくれた。
やがて広い部屋に到着すると、男は足を止め、セーヤも立ち止まった。壁に飾られている鉱石が青い光を滲ませ、二人の影を作り出す。その光はライトセーバーに似ている。
「マスター」
男の正体が誰なのか、セーヤはフォースを通じて感じ取っていた。
「あなたは、マスター・テッセンですよね?」
「いかにも。だが、私はフォースに還った身だ」
「テンノーからそう聞いています」
「彼はとても頑張っているね。我が弟子、サウス・ギ・ハーラの遺志を継いでくれている」
ソウ・テッセンは、穏やかな面持ちでセーヤを見つめてきた。この人がマスターだったら、とセーヤは思わずにはいられなかった。そうすれば、奴隷の身分から解放されてパダワンとなり、もっと早いうちからフォースに親しみ、ジェダイとなる道を歩めていただろうに。切なさややるせなさが込み上がり、セーヤが唇を噛み締めていると、ソウはセーヤに寄り添った。
「フォースの導きにより、やがてセーヤと出会うヴィジョンは見えていた。だが、その時にはもう私もサウスも果てている、とも解っていた」
「はい」
セーヤが俯くと、ソウはセーヤの丸まった背中をゆっくりと撫でた。父親が娘にするように。
「だから、フォースと一体化して待っていた」
「それなら、マスター・ギ・ハーラは」
「サウスはいない。ここにも、フォースの中にも」
ソウは手を下げ、首を横に振った。セーヤがソウを見つめると、ジェダイ・マスターは感情を込めずに告げた。
「サウスはダークサイドに堕ちたからだ」
驚きや戸惑いよりも、やはりそうだったんだ、とセーヤはこの上なく納得した。それを知ると、テンノーの行動にも説明が付くし、ジェダイ聖堂に頼らなかったのも腑に落ちる。
ジェダイではなくなったから。
好きな登場人物は?
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セーヤ・ミットー
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テンノー(NO-10)
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カミーノ・スターリバー
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ヒル・スワンプ
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ホープ・ハイライト
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ナザ・シーサイ
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ケイ・ホーク
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マチルダ・グランベリー
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エア・キャビー
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サウス・ギ・ハーラ
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ソウ・テッセン
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