トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
ようやくジェダイの修行が始まった。
とはいえ、瞑想すらまともに出来ていないセーヤからすれば、ベテランのジェダイ・マスターであるソウ・テッセンの教えは厳しかった。物腰は柔らかく、フォースの使い方もしなやかだが、確固たる信念とフォースへの信頼を持っているからだ。故に、それと等しい力を身に付けてほしいという期待を寄せられ、おのずと訓練の内容も過密になる。
そうなるとどうなるのか、答えは明白だ。セーヤは不慣れな生活と訓練でストレスが溜まり、寝込んだ。周囲の物音や生き物のざわめきが鋭敏に届き、惑星全体の揺れや風の動き、森に蠢く者達の声、海が育む命の息吹、それらを繋げるフォースからの言葉。
「つらい……」
セーヤはベッドに突っ伏し、力なく零した。霊体のソウ・テッセンはセーヤに寄り添う。
「無理もない。ジェダイ聖堂で少しずつ学ぶことを、短期間で学んでしまったのだからな。私も少し焦ってしまったようだ」
「私と宇宙の境目がなくなっていく……」
「自分を見失わないように、自分の意識を繋ぎ止めてごらん」
「どうやって……」
「それは自分で考えることだ」
ソウの言葉に、セーヤはぐったりした。
「それが一番難しい……」
セーヤという個の中に確立されたもの。周りにはなく、セーヤだけが得たもの。自分という存在を明確に定義するための楔。あるのかなぁ、そんなもの、とセーヤはぼんやりと考えた。
泡のように浮かんでは弾け、消えていくのは、セーヤのこれまでの人生の記憶の断片だった。物心つく前から、セーヤは奴隷だった。育ての親と呼べるものは、いるようでいない。なぜなら、その人物にとってのセーヤは愛玩動物だったからだ。
銀河は格差が激しく、貧民と富裕層の間にはあらゆる面で断絶がある。生まれて間もないセーヤを買ったのも、コルサントの上層都市に邸宅を持っているような富裕層だった。可愛がられたのは最初のうちだけで、しばらくするとベビーシッターのドロイドがセーヤの世話をしてくれた。
少しだけ大きくなって子供らしい振る舞いが出来るようになると、別の富裕層の家庭に買われ、子供の遊び相手をさせられた。最初の買い手よりもいくらかまともな倫理観を持っている人達だったので、我が子と同じようにセーヤにも教育を施し、平等ではなくとも対等に接してくれた。
けれど、その家庭での日々も長続きはせず、セーヤは売りに出された。次の仕事場は広大な屋敷で、セーヤは昔ながらのメイドとして扱われた。他のメイド達もいたが、主な働き手はドロイドばかりで、給仕ドロイド、園庭ドロイド、清掃ドロイド、洗濯ドロイド、農耕ドロイドなどが忙しく働いていた。彼らとの意思疎通が欠かせなかったので、おのずとバイナリー言語が解るようになった。
だが、その屋敷の持ち主は帝国の官僚だったらしく、クローン戦争が終結するとドロイド達を含めた従業員は一斉に解雇された。それを期に、皆、別の生き方を選んだが、セーヤはそれを許されなかった。屋敷に出入りしていた客に目を付けられ、またしても奴隷として買われたからだ。
奴隷と言っても、雇い主の種族の文化や倫理観によって扱い方がまるで違う。最初の雇い主はセーヤをペットにしたが、それ以降の雇い主はかなりまともな感覚を持っていた。帝国の官僚も、屋敷で寛いでいる時は冷酷な幹部ではなく善良な当主だったからだ。
しかし、四番目の雇い主はそうではなかった。セーヤが思春期を迎えて肉体が女らしくなってきたこともあり、薄っぺらい服を着せて眺めたり、変な格好をさせたり、よく解らないことを言わせて喜んでいた。そのくせ、セーヤ自身には性的な行為は求めず、愛人に性欲をぶつけていたのが奇妙だったが。
小さい頃から、周りの奴隷や使用人からも言い聞かせられていた。あんたはトワイレックだけど安売りはしないようにね、奴隷だからって何もかも差し出さなくてもいいのよ、ちゃんとした大人に出会えることを願っているわ、と。
だから、ナザ・シーサイから逃げ出した。セーヤがセーヤで在るために。時折見えていたヴィジョンを信じて、自分の意志で外に飛び出した。その先で待ち受けていたのがテンノーであり、フォースであり、ジェダイへの道筋だった。
「マスター」
セーヤは涙が滲み、枕に顔を埋めた。
「私は……」
自分の意志で何かを決め、選び、欲することを許されずに生きてきた。それなのに、フォースは多くを求めてくる。セーヤを通し、セーヤが見ている世界に触れたいかのように。けれど、自分自身の空虚さは、他ならぬセーヤ自身が知っている。
自分の内側には、何も。
お父さん、お母さん。
きっと、いつか迎えに来てくれる。事情があるからセーヤを置いていったけど、それが済んだら来てくれて、ライロスにある家に連れていってくれる。ライロスには行ったこともないけど、トワイレックの故郷なのだから、素晴らしい星に違いない。
同年代の子供達と一緒に、学校に通ってみたかった。毎日同じ時間に家を出て、待ち合わせをして、授業を受けて、一緒に遊んでみたかった。友達も作ってみたかった。でも、セーヤには仕事がある。だから、学校に行っている暇はない。
可愛い服、甘いお菓子、キラキラしたアクセサリー、大人っぽい恋の話、愉快なホロムービー、煌びやかな遊園地、紙の本、それから、もっともっと欲しいものがある。ありすぎるぐらいあるのに、セーヤが働いて得たクレジットはなんだかんだと理由を付けて巻き上げられるから、何一つ手に入らない。
ジェダイになっても変わらない。むしろ、もっと遠くなる。テンノーがしきりに言うからだ。ジェダイは自分を律し、欲を掻くべきではないと。でも、そんなのは無理だ。だって、世の中には素敵なものが溢れ返っているのだから。
それを我慢するなんて。
赤い光が真っ直ぐ伸びる。
闇の中、闇の権化が佇んでいる。それが誰なのか、何なのかは直感で知る。けれど、なぜセーヤの前に現れるのかは解らない。解らないが、やがて巡り合うのだとフォースが伝えてくる。
「だけど、私じゃなくても……」
本物のジェダイがいる。セーヤは虚空に叫ぶも、手の中にはライトセーバーがあった。黒衣の暗黒卿は音もなく迫り、そして。
セーヤの首を刎ねた。
黒く、ずしりと重たいマント。
視界が狭くて頭が重いから顔に触れてみると、マスクを被っていた。それを外してみると、先程の暗黒卿のマスクだった。そんなはずはない、とセーヤはマスクをごとんと落として後退る。
「お待ちしておりました、暗黒卿」
セーヤの肩を支えたのは、シスのオード・キューだった。セーヤはその手を振り払おうとしたが、オードは示した。
「あらゆる欲望を満たし、己を抑圧せず、より強いフォースを得ることこそシスの本懐です。あなたは正しい、そしてシスとなる資格がある」
セーヤが望んだものがあった。素敵な服、甘いお菓子、キラキラしたアクセサリー、それ以外の全ても。
「どうぞ、あなたのライトセーバーです」
オードが握らせてきたのは、サウス・ギ・ハーラのライトセーバーとは異なるものだった。作動させると、赤い光の刃が瞬時に伸びた。
そうだ、私には強い力がある。だったら、それを振り翳して生きるのは恥じることではない。多くの人々がそうしている。ブラスターを握り、賞金を稼ぐのと何が違うのだろう。
「違う!」
違わないはずだ。
「私は……」
重たいマントを脱ぎ捨て、赤いライトセーバーを放り、セーヤは駆け出した。目の前の闇はどこまでも深く、底がなく、自分の手さえも見えない。
それでも。
赤い光が翻る。
見覚えのある基地で、Xウィングが切断され、パイロットの残骸が散乱する。カミーノのヘルメットがごろりと転がり、首のない胴体が倒れた。
物流倉庫の宇宙港でガンシップが破壊され、ブラスターを構えていたマチルダが倒れる。上半身と下半身が分断され、ずるりと下がり、どちらも突っ伏した。
「あ……」
伸ばした手を下げ、セーヤは立ち尽くした。
「何が違わないの?」
二人を斬ったのは、黒いマントとマスクを身に付けた自分自身。
「戦おうとしないくせに。自分と向き合うことからも逃げようとしたくせに。そんなことだから、ジェダイにもシスにもなりきれなくて、初めて出来た友達に愛想を尽かされて、誰からも見放されて」
もう一人のセーヤは、赤いライトセーバーで自分自身を斬る。
「だから、私はもう誰も信じない」
赤い光に緑の光が拮抗し、火花が散る。セーヤは震える手でライトセーバーを握り、斬撃を弾いてから構え直す。
「だったら、一緒に戦おう」
「どうせ勝てないのに? あの暗黒卿に出会ったとして、私に何が出来るの? 思い上がらないでよ、身の程を弁えなさいよ、ただの奴隷なんだから」
「でも、今は違うよ」
セーヤは自分と向き合い、ライトセーバーを正しい持ち方で握り、背筋を伸ばした。
「私は誰のものでもない」
「フォースに言われるがままになっているのに?」
「そうかもしれないけど、そうじゃない。フォースは自分の心の動きに応じるから。私が無意識のうちに、大きな力に動かされたいと願っていたから。そうであれば、自分の責任や心の弱さを誤魔化せるから」
セーヤは間合いを詰め、ライトセーバーを振るう。もう一人のセーヤは鏡のように同じ動きをして、セーヤの斬撃を全て受け、防ぐ。
終わりの見えない戦いは、いつまでも続くかと思われたが、セーヤはもう一人のセーヤの姿勢が崩れた瞬間にライトセーバーを放り捨てた。そして、両腕を広げ、もう一人の自分を抱き締めた。
不安と恐怖の塊を。
温かい。
石造りの床は冷たいのに、体の内側が熱している。セーヤは結晶が光を放つ壁と、古代文字が描かれた天井を仰ぎ見ていたが身を起こした。
「どこからどこまでが夢?」
「フォースが見せたヴィジョンだが、セーヤにとっては現実だ。そうだろう?」
セーヤの傍らに立ったのは、霊体のソウ・テッセンだった。セーヤは立ち上がり、ソウに向き直る。
「マスター。私は自分には勝てませんでした」
「それでいい。勝ちも負けもないのだから」
「でも、向き合い方は少しだけ解ったような気はします。だけど、解ろうとすると遠ざかるんです」
「私も同じだよ、フォースと一つになろうとも完全に理解出来たわけではない」
「欲しいものが一杯あります。大事な友達もいます。だけど、私が選べるのは一つだけなんです」
「それは?」
「一人前のジェダイになって、使命を全うすることです。私には運命があるなんて信じられないけど……いえ、信じる必要もないんです。ただ、私が見てきたヴィジョンの先にあるというだけで」
セーヤが手を翳すと、壁から結晶が外れて浮き上がり、セーヤの手元までやってきた。フォースもまた、そこに在る。それを受け入れるか否かだ。
「私は成すべきことを成します。その時が来るまでに己を鍛え上げて、暗黒卿を止めます」
「その言葉を待っていたよ、セーヤ」
ソウは力強く頷くと、セーヤの背後を示した。ジェダイ寺院の出口であり、外界への帰路だった。
「フォースと共にあらんことを」
銀河の人々が挨拶代わりに口にする言葉であり、セーヤも意味も解らずに使ったこともあったが、今のセーヤはその重みは実感出来る。ソウに深々と頭を下げてから、セーヤは階段を上った。
一歩ずつ、着実に。
ジェダイ寺院の入り口が塞がった。
もしかすると、最初から入り口なんて存在していなかったのかもしれない。ソウ・テッセンに促されたフォースが、セーヤと通じ合うために一時的に入り口を作ってくれただけかもしれない。そう思えてしまうのは、入り口の在り処を示す境目が消えたからだ。
「不思議だね……」
セーヤが呟くと、テンノーは言った。
「セーヤがジェダイ寺院に入り、戻ってくるまでには三日も掛かりました。その間、ずっとこうでした。セーヤの生体反応も消えていたので、私はここで待つことしか出来ませんでした」
「もしも帰ってこなかったら?」
「その事態も想定しましたが、私はここを離れなかったでしょう」
「ありがとう、テンノー」
セーヤが笑みを向けると、テンノーもセーヤを見下ろしてきた。
「マスター・テッセンとお会いしたようですが、どんな教えを受けたんですか?」
「当たり前のことを当たり前だと認めること、かな」
「ジェダイに相応しい学びです」
「それから、自分がやるべきことも見えた」
「お聞きしましょう」
「シスの暗黒卿を止めること。そのためにも訓練するから、手伝ってくれる?」
「もちろんですよ、セーヤ」
「じゃ、早速やろうか!」
セーヤはライトセーバーを握り、駆け出した。テンノーは背中の外装を開き、訓練用ボール型ドロイドを発進させると、ヘルメットをセーヤに投げ渡した。セーヤはそれをフォースを用いて受け取り、被ると、視界を塞いでライトセーバーを構えた。
初歩の訓練から始めよう。
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セーヤ・ミットー
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