トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
船に名前を付けることにした。
ラムダ級シャトルは銀河に溢れ返っているし、期待を識別する際に必要だからだ。ハイパースペースを航行中、セーヤはしばらく考え込んだ。こんな時こそフォースが導いてくれれば、とは思ったが、ハイパースペースではフォースの働きも今一つなのか、それらしいものは感じなかった。
「うーん……」
セーヤはホロのアーカイブに目を通し、ネーミングの参考になりそうなものはないかと悩んでいると、ロズ・キャットに関するホロが出てきた。
銀河のあらゆる星にいるロズ・キャットは、丸々とした頭部と小さな目、細い足とふわふわした尻尾と可愛らしい鳴き声で愛嬌がある生き物だが、俊敏な動きで獲物を捕らえるハンターでもある。
「でも、ロズ・キャットだとそのままだし……」
セーヤは別のロズ・キャットの映像に切り替えると、惑星の環境に応じて大型となったロズ・キャットが現れた。寒冷な気候の惑星ボブでは、体温を維持するためにほとんどの動物が大型化していて、ロズ・キャットもその例から漏れなかった。
「ボブ・キャット!」
セーヤが声を上げると、シャワーブースの点検を終えたテンノーが振り返った。
「なんですか、いきなり」
「この船の名前。ボブ・キャットに変えて」
「では、そのようにいたします。ああ、そちらのホロを参考になさったのですね」
テンノーはコクピットに向かうと、スコンプ・リンクにシリンダーを差し込んで回転させた。ラムダ級シャトルの機体識別番号と、それに関連する項目を表示させ、セーヤが言った通りの名前に変更した。
「可愛いでしょ」
セーヤがにんまりすると、テンノーはシリンダーを外して引っ込める。
「あれ以来、すっかりロズ・キャットが気に入ってしまったようですね。シャトルの中で飼う、と言い出さないで下さいね? どうせ、世話をするのは私になるんですから」
「なんでそんなことを決め付けるの」
「世の中の常ですから」
そう言って、テンノーはコクピットから離れた。セーヤはちょっとむっとしたが、現状ではロズ・キャットと一緒に暮らすのが困難なのは確かだ。セーヤはジェダイの修行もあるし、シスが再び現れたら戦いになるし、そうなればロズ・キャットを危険に曝してしまう。
せめてぬいぐるみでも、でも無駄遣いすると後に響くし、それに執着を持つのはジェダイには禁物だと、だけどやっぱり可愛いものは可愛い、とセーヤは悶々としていたが、ふと顔を上げた。
「……あれ」
誰かに呼ばれたような気がする。遠い場所から、とても小さな声で話し掛けられたような。
「誰?」
セーヤはその声の主に問い返すも、応答はなかった。すると、新たな名を付けられたばかりのシャトルはハイパースペースを脱し、惑星の上空に出現した。
分厚い雲に覆われた惑星だった。
アロブノ星系、惑星ヨークドー。
セーヤの指示に従い、ボブ・キャット号は降下し、視界の悪い雲の中を進んだ。テンノーが惑星ヨークドーについて調べたところ、数万年単位で雨季が続いている惑星だった。時折、百年程度の乾季は訪れるものの、それでも地表の七割が雲に隠されている。それ故に水棲種族以外には居住環境が悪いため、惑星ヨークドーを訪れる宇宙船は少ない。
「雨の成分は中性ですが、外に出る気にはなりませんね。錆びてしまいます」
テンノーが渋ると、セーヤは苦笑する。
「ごめん、この星のことは知らなかったから」
「それなら、なぜ着陸するように指示を出したんですか? 帝国残党や賞金稼ぎといった追っ手が現れたわけでもないですし」
「誰かに呼ばれた気がして」
「どちら様ですか?」
「それを知りたいの。フォースの導きだったら、無視出来ないし」
セーヤが迷いなく言い切ると、テンノーは操縦桿を傾けた。
「そう仰るのであれば従いましょう」
豊かな水を浴び続ける一方、乏しい日光を少しでも得ようと木々が競い合っていた。そのため、1000メートル近い高さの巨木ばかりで、シャトルを停められそうな場所がなかなか見つからなかった。巨木の枝を擦り抜けると、根元の付近に平たい草原を見つけたので、ボブ・キャット号を無事に着陸させた。
セーヤは防水ブーツと防水ポンチョを羽織り、テンノーはどうしても出たくないと言い張るので、小型の探査ドロイドをセーヤに同行させた。テンノーも意外とデリケートなんだな、と思いつつ、セーヤは外に出た。
降りしきる雨粒は大きく、噎せ返るほど湿った大気は重苦しく、有機的な臭気で溢れていた。セーヤは巨木の枝を伝い、飛び跳ねながら地面を目指した。
「よっ、と!」
フォースジャンプも使えるようになってきたので、自分の体をフォースで浮き上がらせてから、巨大な枝に着地する寸前にフォースを放ち、衝撃を軽減する。加減は難しいが、要領さえ覚えてしまえば大して難しくはない。むしろ、体に馴染んでくる。
そして地面に降り立ったが、セーヤは巨木を仰ぎ見て目を見張った。樹木だけでなく、地面の草や花もまた巨大だったからだ。すると、ボール型の探査ドロイドを通じてテンノーが言った。
『セーヤ。この星の大気は二酸化炭素量が多めなので、気を付けて下さい。セーヤの体質であれば呼吸用マスクの必要はないかもしれませんが、運動量を増やしすぎると酸欠を起こしかねませんので御留意を』
「解った、気を付けるね」
セーヤは返事をしてから、ぬかるんだ地面を踏んで歩き出したが、一歩進むごとにブーツがずっぽりと沈んでしまう。これではまともに進む前に、泥まみれになって身動きが取れなくなる。すると、水溜りには巨木の葉が浮いていた。
「そうだ!」
セーヤは思い立ち、巨木の葉をフォースで引っ張ってきた。その上に乗ってみると、セーヤの体重であれば沈まなかった。それなら、と別の葉を丸めて葉脈で縛り、泥を押してみると前に進めた。
セーヤが葉を舟代わりにして柔らかな泥の上を渡っていくと、現住生物らしきトカゲや爬虫類が腹ばいになり、水掻きが付いた足や尻尾を動かして泳ぎ、過ぎ去っていった。やはり、ヨークドーではそうやって移動するのが最適解なのだ。
「あの声は……」
どこから聞こえてきたのだろう。セーヤは葉の舟を漕ぐ手を止めずに、感覚を研ぎ澄ませた。とても小さくて消え入りそうな声だが、確かにセーヤに向けられたものだった。
ざあっ、と木の洞に溜まった雨水が溢れ、滝のように降り注いでくる。水飛沫が霧のように立ち込め、視界が白く曇ったが、その先に何かが見えた。
平たい頭部で細長い体躯の誰かだ。セーヤは反射的にライトセーバーに手を掛けたが、相手の方が早かった。マントを羽織っているのだろう、シルエットが大きく広がって動作を見切れない。騒がしい雨音に紛れる程度の足音で迫ってくると、セーヤがライトセーバーを抜くよりも先に青い閃光が走った。
雨粒が蒸発し、更に濃い霧が立ち込める中、円盤状のヘルメットを被った人物がセーヤの喉元に青い光の切っ先を突き付けていた。ジェダイだ。
円盤状のヘルメットから幾筋もの雨水が伝い、円形の影がセーヤの頭上にも落ちる。セーヤがライトセーバーから手を離すと、ジェダイは身を引いた。
「あの船はおぬしのものか」
「そう、です」
セーヤは雨水の冷たさとは別の感覚で背筋が逆立ち、身震いした。この人はキューゾであり、恐らくはジェダイ・マスターだ。フォースを最小限に押し込めているが、それ故に研ぎ澄まされている。ソウ・テッセンのフォースとは別物だ。
「私はセーヤ・ミットー、マスターのいないパダワンです。マスター、あなたのお名前を窺っても」
セーヤが佇まいを直すと、キューゾのジェダイ・マスターは青い刃のライトセーバーを収めた。
「拙僧はフマガと申す」
「修行中ですか、それとも任務を帯びているのですか」
「そのどちらでもある」
フマガはセーヤを眺め、ウォー・ヘルメットと呼吸用マスクの間にある黄色い目を細めた。
「マスターがいないと申したな。さては帝国残党に仕留められたか?」
「いえ、違います。説明すると長くなるんですが」
セーヤが話を切り出そうとすると、フマガはセーヤの背後に目をやり、キューゾ語らしき濁った声を発してから嘆息した。
「承知した。ソウ・テッセンが見せてくれた」
「マスター・テッセンがそちらに?」
セーヤが振り返るも、雨が降りしきっているだけだった。フマガはウォー・ヘルメットの位置を整えてから、マントを直し、ライトセーバーをベルトに提げた。
「左様、フォースと同じことよ」
フォースと一つになったジェダイは、フォースと同じようにどこにでも存在している、ということだ。
「ここでは雨音がうるさすぎる。付いてこい」
そう言うや否や、フマガはぬかるんだ地面を蹴って跳躍した。巨木の枝まであっさりと到達し、その次の枝にも軽々と飛び移っていく。セーヤのフォースジャンプの数倍、いや、数十倍の飛距離がある。
「うへー……」
マスターって格が違うなぁ、とセーヤは圧倒されながらも懸命にフォースジャンプを繰り返した。しかし、フマガには到底追い付けなかったばかりか、体力もひどく消耗してしまった。その結果、テンノーが危惧していた通りに酸欠を起こし、気を失った。
修行が足りない。
誰かが呼んでいる。
とても小さいが切実で、懸命に呼び掛けているが、その言葉も感情も脆弱だ。あなたは誰、とセーヤは声の主に聞き返すも、やはり返事がなかった。せめて居場所だけでも教えてくれたらいいのに、とセーヤは瞼を開いたが、我に返った。
「あっ!」
セーヤが反射的に飛び起きると、ボール型の探査ドロイドが覗き込んできた。
『セーヤ、目を覚ましたんですね。よかったです』
「テンノー、私は」
『感謝するのであれば、マスター・フマガに』
探査ドロイドが下がると、ウォー・ヘルメットを外したフマガが胡坐を掻いていた。セーヤの泥まみれの防水ポンチョを脱がし、洗ってくれたようで、物干し竿に引っ掛けられていた。
どうやら、ここはフマガの棲み処なのだろう。木の洞の中には機材が持ち込まれていて、エアロックのシールドを用いて外部と内部が遮断されており、雨水の侵入を防いでいた。天井から吊り下げられたランプが灯り、キノコや果物などの食料に浄水装置もあり、フマガの身長に合わせたサイズの寝床もある。セーヤが寝かされていたのは部屋の奥で、柔らかな肌触りの葉の上だった。
「マスター・フマガ、ありがとうございます。それから、お手数掛けてしまって」
セーヤが深々と頭を下げて謝ると、フマガは立ち上がり、歩み寄ってきた。
「筋は悪くないが、体が追いついておらんな」
「修行を始めたのはほんの少し前なので」
「道理で。フォースと肉体が馴染んでおらん」
「御迷惑であれば、すぐに帰ります」
セーヤが顔を上げると、フマガはセーヤの前に胡坐を掻いた。長い足を折り畳み、背を丸めて視線を合わせてきた。
「そこまでは言っておらん。だが、拙僧の妨げにはならぬように気を付けてくれ」
「では、マスターはこの星で何をなさっているんですか?」
セーヤが問うと、フマガはセーヤの背後の壁を指した。そこには複数のバトルドロイドの残骸があり、いずれも鮮やかな太刀筋で切断されていた。
「ヨークドーに不時着した兵員輸送船に搭載されていたバトルドロイドが暴走し、原住民に危害を加えている。故に、拙僧はあれを斬っている」
「手強いんですか?」
「いや。だが、数が多い。兵員輸送船にはバトルドロイドを一括で管理するシステムがあり、それを停止させたが、奴らはまだ動き続けている。故に、最後の一体まで斬らねばならぬ」
「お手伝いします」
「頼りにはせん。元より、拙僧のパダワンではないからな。だが、勝手に動くがいい」
「ありがとうございます」
セーヤが礼を述べると、フマガは立ち上がり、ライトセーバーを手にする。
「しかし、腕前は確かめさせろ」
「……はい」
セーヤはふらつきながらも立ち上がり、ライトセーバーを握った。
「それはおぬしが作ったものではないな? 手に馴染んでおらぬ」
フマガに指摘されるも、セーヤはライトセーバーを作動させる。緑の光の刃が伸び、熱を発する。
「お察しの通り、マスター・サウス・ギ・ハーラから譲り受けたライトセーバーです」
フマガもまたライトセーバーを構え、青い光の刃を掲げる。その姿勢はマチルダが見せてくれた手本に似ているが、決定的に違うのは隙がないことだ。
セーヤは順手でライトセーバーの柄を握り、フマガの斬撃を受けるも、速さと威力が桁違いだった。受け切った、と思えても吹き飛ばされ、逃れたつもりでも足を払われ、凌いだ気でいても急所を突かれる。
「それでは外には出せん。もう少し寝ていろ」
フマガは首を横に振ると、セーヤに背を向け、ウォー・ヘルメットを被ってマントを羽織った。シールドを一旦解除して外に出ると、再びシールドを閉ざし、雨の中を駆けていった。
『セーヤ、大丈夫ですか?』
テンノーに案じられ、セーヤは座り込んだ。フマガの斬撃を受け切っていないのに、衝撃で手が痺れ、踏ん張りが効かなかった足腰がひどく疲れている。修行が足りない、なんて言葉では足りない。戦い方をまるで知らないという証拠だ。
悔しさや苛立ちよりも、自分の不甲斐なさに押し潰されそうになったが、セーヤは歯を食い縛って立ち上がった。重たいライトセーバーを握り締め、テンノーに探査ドロイドを遠隔操作してもらいながら、セーバー剣術の基礎を一つずつやり直した。
焦る気持ちを押さえながら。
好きな登場人物は?
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セーヤ・ミットー
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テンノー(NO-10)
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サウス・ギ・ハーラ
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