トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる   作:あるてみす@二次創作

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15.キューゾのジェダイ・マスター

 体が重たい。

 そりゃそうだ、延々とライトセーバーを振り続けていたのだから。セーヤは全身の至るところに筋肉痛を覚え、無意識に力んでいたせいか、三本のレックですらもずきずきする。そのくせ、成果は出ておらず、セーバー剣術の型は身に付かなかった。

 そのため、セーヤはフマガの隠れ家の外には出られなかった。いや、出る用事はあるにはある。木の洞に生活用品を持ち込んであるだけの場所なので、水場がないのだ。つまり、トイレがない。

 トワイレックは身体的特徴がヒューマンに近く、内臓の構造も同様なので、排泄する頻度も一日に数回もある。フマガの様子からして、キューゾは身体能力の高さ故に燃費がかなり良さそうなので、排泄する頻度もそれほど多くないのかもしれない。だが、セーヤはそうもいかない。

「やるせない……」

 セーヤはぐったりしながらも起き上がり、シールドを一旦解除して防水ポンチョを被った。テンノーが遠隔操作し、球状の探査ドロイドが付いてきた。

『事の最中は周囲を見張っておきますので』

「よろしく」

 セーヤは木の側面を伝い、少しずつ降りた。その際も雨に降られているせいで体が冷えてきて、次第に催してくるのだが、懸命に我慢した。

 ようやく地上に到着し、巨木の根の間に潜り込むと、セーヤは探査ドロイドがこちらに背を向けていることを確かめてから用を足した。その上に別の葉を被せておき、雨水で手を洗ってから、セーヤは木の幹を昇っていった。

 セーヤは再び木の洞に戻り、ぐっしょりと濡れた防水ポンチョを脱いでいると、フマガが戻ってきた。彼はウォー・ヘルメットをぐいっと曲げ、若干気まずそうに視線を逸らした。

「拙僧が至らぬばかりに」

「見ていませんよね?」

 セーヤが羞恥心と居たたまれなさから背を向けると、フマガはウォー・ヘルメットの下から覗いてくる。

「無論。だが、フォースを通じて感じ取るが故……」

「こういう時だけオフに出来ないんですか」

「一度、フォースとの繋がりを断つと拒まれてしまう。それ故、容易には出来ぬことだ」

「意外と融通利かないんですね、フォース」

「それは否定せん」

 フマガはウォー・ヘルメットを外して立てかけ、雫を切る。セーヤは羞恥心が収まってから、フマガに向き直った。

「マスター・フマガ。どちらにおいででしたか」

「うむ」

 フマガも気持ちを切り替え、胡坐を掻いた。

「原住民の集落に赴いていた。例の暴走したバトルドロイドに襲撃され、家屋や畑を失うものが後を絶たぬのだ。しかし、その頻度がまばらでな。故に、拙僧は足繁く通っておるというわけだ」

「では、あのキノコと果物は」

 セーヤが食糧を指すと、フマガはそれに倣う。

「彼らが栽培したものを分けてもらった。拙僧はジェダイであるが故、報酬は求めぬが、喜捨(きしゃ)として拒まぬことにしておる」

「きしゃ?」

 聞き慣れない単語だったので、セーヤがきょとんとすると、テンノーが説明してくれた。

『古代ジェダイの慣習です。貧しい人々や敬虔なジェダイに施すことで現世における穢れを払い、来世での幸福を得るための善行を重ねる……といった意味合いがあります』

「聞いたことないです」

 セーヤが怪訝に思うと、フマガは呼吸用マスクの下で吐息を漏らす。

「拙僧は旧共和国の時代からジェダイであった。それ故、それ以前の世代のジェダイの教義が身に付いておるのだ。だが、時代の変化に応じてジェダイの教義もまた少しずつ変容してきた。致し方ないことではあるが……」

「マスター・フマガはおいくつなんですか?」

「数え年で350は越えておるが、キューゾでは珍しくもないぞ」

 フマガが答えると、テンノーが割り込んだ。

『奇遇ですね。私も稼働年数が300年を越えておりまして』

「ほう?」

 フマガは若干興味を示したので、テンノーは稼働して間もない頃の記憶を語り始めた。フマガもまた、ジェダイ聖堂で修業を始めたばかりの頃の出来事や銀河の情勢について話し始めたが、当然ながらセーヤにとっては意味不明だった。

 どうせ私には解らないよ、歴史の授業も受けていないし、とセーヤはちょっと拗ねていたが、あの声がかすかに聞こえてきた。これまでよりもはっきりと。

「あ……」

 セーヤが反応すると、フマガはテンノーとのお喋りを中断する。

「フォースの揺らぎだが、かなり弱い」

「どこから来ていると思います?」

「拙僧の感覚では掴み切れぬな。どうやら、セーヤの方が相性が良いとみえる。案内してくれるか」

 フマガが立ち上がったので、セーヤは快諾した。

「はい!」

 途端に体の重たさや筋肉痛が紛れた。これもまた、フォースによるものなのだろう。もしくは、変な空気を払拭する切っ掛けを得られたから。いずれにせよ、セーヤを呼ぶのが誰なのかを突き止めなくては。

 そこで何をするべきなのかも。

 

 

 原住民の集落に差し掛かった。

 彼らがセーヤを呼んでいたのか、とも思ったが、特にそんなことはなかった。カエルに似た特徴の人型種族で、雨水を粘液で固めたドームを作り、その中に集落を形成して農業に勤しんでいた。

 光と熱を発する鉱石をドームの天井に設置し、太陽光の代わりにしていて、水耕栽培の果物や野菜、キノコを育てていた。集落ごとに作物を取引しているようで、セーヤが作ったものと似たような葉の舟がいくつも用意されていた。

 フマガが集落に足を踏み入れると、原住民達はゲコゲコとカエルの鳴き声に近しい言語を発した。セーヤには聞き取れなかったが、キューゾ語と近しい部分があるらしく、フマガはそれを難なく聞き取ったばかりか似たような言葉で応じていた。その間、セーヤとテンノーは遠巻きに見守っていた。

「特に異変は起きていないようだが」

 会話を終えてフマガが戻ってくると、セーヤは考え込んだ。

「じゃ、この先にあるのかも」

『上空から撮影した映像を解析した限りでは、この集落の先にあるのは件のドロイドの兵員輸送船だけなのですが……』

 テンノーが懸念すると、フマガは言った。

「それなら拙僧が何度も足を運んでおる」

「でも、ドロイドは一緒じゃないですよね?」

「うむ。連れ歩く習慣がなくてな」

「マスター・フマガが見落としたことも、テンノーであれば見つけるかもしれません。行きましょう」

 セーヤが促すと、フマガは探査ドロイドに目をやる。

「かもしれぬ。試すだけ試してみよう」

 原住民達に見送られ、セーヤ達は集落の先に進んだ。フマガが暴走したバトルドロイドを次々に斬り捨てているようで、その証拠に見事に切断されて機能停止しているドロイドの残骸が泥に埋もれていた。

 フマガがフォースで操る葉の舟に乗せてもらい、移動しながら、セーヤはドロイドの残骸を観察した。テンノーもまた、探査ドロイドを通じてスキャンする。

『特にこれと言って不審な点は見当たりませんし、機能停止して久しいのでバッテリーも上がっていますが……』

「うーん……」

 セーヤは考え込んでいたが、不意に葉の舟が止まった。セーヤがつんのめると、フマガはマントの下からライトセーバーを取り出した。彼の視線の先には、奇妙な姿勢のバトルドロイドが佇んでいた。頭部は脱力しているのに四肢がぎくしゃくと動き、ブラスターをぶらぶらさせている。危なっかしい。

「あれだ」

 そう言うや否や、フマガは跳躍した。フォースジャンプで一息に空中を突っ切り、暴走したドロイドへと向かっていく。セーヤもそれを追おうとするも、フォースジャンプの高さが足りず、途中で巨木の根や落ち葉を足掛かりにする必要があった。

 一瞬でフマガは距離を詰め、バトルドロイドの目の前に着地すると同時にライトセーバーを作動させる。青い光の刃が雨粒を切り裂いた直後、バトルドロイドの胴体に斜めに熱した切れ目が生じる。それが雨水で冷やされ、僅かな蒸気が漂う中、バトルドロイドは上半身が滑り落ちて泥に埋もれ、両膝を突いた。

「お見事です」

 セーヤが率直な感想を述べると、フマガはライトセーバーの刃を収める。

「セーヤ。拙僧が思うにマカシはおぬしには合わぬ、他のフォームを選ぶがいい」

「シャイ=チョーですか?」

「それは基礎だ。全てのセーバー剣術はそこから始まり、個々のフォースの特性に応じて変容する。よって、まずはシャイ=チョーを身に付けよ」

「解りました」

「それから、ライトセーバーの出力を絞り、刀身も三分の一は縮めるべきだ。細かな加減は己で決めよ」

「どの辺で出力を下げるんです?」

 セーヤがライトセーバーを取り出すと、フマガはちょっと面倒臭そうだったが振り返った。

「見せてみろ。ほら、ここに増幅器の調整回路が仕込まれておるだろう? そのスイッチを、こう」

「あっ、縮んだ」

 その状態でライトセーバーを作動させ、セーヤは目を見張った。緑の光の刀身が針のように細くなり、長すぎなくなった。

「世話の焼ける……」

 フマガはウォー・ヘルメットの位置を直しながらセーヤに背を向け、フォースを用いて葉の舟を引き寄せた。再び葉の舟に乗り、先へと進んだ。

 絶え間ない雨の中、巨木の枝の表面が擦り切れ、葉が大量に落ちているのが目に付いた。恐らく、例の兵員輸送船が墜落する際に引っ掛けたのだろう。セーヤはその巨木の枝を見つめていたが、ふと気付いた。

「あれ……」

 枝の表面の擦り傷から、何かが覗いている。生き物であって生き物ではないような曖昧なものが、フォースを通じてセーヤに語り掛けてきた。とても苦しいから外に出してほしい、と。

 破損した兵員輸送船に到着すると、その意味が解った。ハッチが故障した格納庫の中で、バトルドロイドが動き回っているようで物音が聞こえてきた。しかも、その数は一体ではない。複数だ。

『予備電源でハッチは開けられますが……どうします?』

 テンノーは探査ドロイドからシリンダーを伸ばし、スコンプ・リンクに接続する。

「開けろ。その後はどうにでもなる」

 フマガの指示を受け、テンノーは予備電源を利用して兵員輸送船の機能の一部を回復させた。鈍い音を立ててハッチが動き始めると、隙間からバトルドロイドの腕が何本も飛び出してきた。

「わあっ」

 セーヤがぎょっとするも、フマガは動じなかった。ハッチが開き切り、でたらめな動作をするバトルドロイドの群れが押し寄せると、フマガは身を屈めて飛び込んだ。そして、鋭くも的確な斬撃により、バトルドロイドの群れはブラスターを撃つ暇さえ与えられずに斬り伏せられていった。

『セーヤ!』

 テンノーの声でセーヤが振り返ると、別の通路からやってきたバトルドロイドがブラスターを向け、撃ってきた。セーヤは考えるよりも先にライトセーバーを構え、エネルギー弾を弾き、弾き、更に弾く。

 フマガの足捌きを参考にして、セーヤはバトルドロイドと間合いを詰める。懐に滑り込むと、ブラスターを持つ右腕を斬った後、胴体を両断した。その瞬間、セーヤに呼びかけていた声が大きくなった。

 ドロイドの内部からキノコが溢れた。

 

 

 故障したトランスポンダーを解除した。

 すると、バトルドロイド達は大人しくなり、静かになった。セーヤが斬ったバトルドロイドの内部から、のそのそと這い出してきたキノコは、フォースを通じて何度となく礼を述べてきた。

 キノコの正体は巨木の表面に付着している寄生生物で、普段は死にかけた虫に潜り込んで操り、より遠くに移動させて繁殖する習性がある。いつものように過ごしていたのだが、兵員輸送船が墜落してきて巨木の表面を掠め、寄生生物も取り込んでしまった。その後、墜落の衝撃で故障したトランスポンダーから発せられる信号によって寄生生物の脳波が乱され、バトルドロイドの中で繁殖した挙げ句、暴走してしまった。

「そんな顛末であったか」

 フマガが納得すると、キノコに似た寄生生物は言葉を発さずに語った。誰かに助けてもらいたかったが、原住民ではフォースの念話が通じないし、他の星に呼び掛けることも出来なかったし、フマガのフォースとは少々相性が悪かった。そんな折、セーヤが反応してくれたので、ようやく聞いてもらえた、と。

「役に立ててよかったです」

 セーヤが微笑むと、寄生生物は何度も笠を下げてから、ねちょねちょと粘菌のような体を這いずらせて去っていった。

『行きましょうか、セーヤ』

 テンノーに促され、セーヤはフマガに向いた。

「マスター・フマガ」

「ああ、どこでも向かうがいい。拙僧もまだまだ未熟が故、鍛え直さねばならぬ」

「そんなことはないですよ」

「セーヤ。多少戦えるようになったとしても、満足してはならぬぞ。やがて慢心を招き、破滅に至る」

「はい、マスター」

 セーヤは深々と頭を下げてから、探査ドロイドを伴って兵員輸送船を去った。フマガはセーヤを見送った後、船内に戻った。葉の舟に乗って柔らかな泥の上を進み、ボブ・キャット号を目指しながら、セーヤは強烈な衝動に駆られていた。

 温かいシャワーを浴びて着替えたい。

好きな登場人物は?

  • セーヤ・ミットー
  • テンノー(NO-10)
  • カミーノ・スターリバー
  • ヒル・スワンプ
  • ホープ・ハイライト
  • ナザ・シーサイ
  • ケイ・ホーク
  • マチルダ・グランベリー
  • エア・キャビー
  • サウス・ギ・ハーラ
  • ソウ・テッセン
  • ダース・シャハー
  • オード・キュー
  • クレイン・ミーネ
  • ショーナ・ディノ
  • ユマ・ハイライト
  • ヴィシャム
  • フマガ
  • サク・ラギーチョ
  • その他
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