トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
シス帝国。
それは歴史に埋もれた遺物でもなければ、遠い過去に追いやられた敗北の証でもなければ、ジェダイの正しさを証明するための足掛かりでもない。
いつ、いかなる時も、シスの信奉者が追い求めるのはシス帝国の復活と繁栄だ。それがどんな形であり、いかなる手段で成し遂げられるのかは、その時代に生きたシスの暗黒卿によって異なる。しかし、行き着く先はどれも同じだ。圧倒的な力による支配だ。
コルサントの上層区域にある豪邸で、オード・キューは富裕層のパーティーに加わっていた。いかにもシスらしい黒のマントは脱ぎ、華美な服装を纏い、ライトセーバーも長い裾の下に隠さなくてはならないのは不本意だが、これも仕事のうちだからだ。
我らが暗黒卿、ダース・シャハーは人前には出ない。もちろん、帝国残党に軍資金を横流しする経営者や資産家も接待しない。帝国の復興のために水面下で動いている総督や、名前と身分を変えて暗躍している元幹部と接することはあるが、それは若き皇太子の代わりとしてだ。
そうなると、おのずと根回しや中継ぎや裏取引のための下地作りといった地味な仕事はシス騎士団の部下に回されるのだが、それが出来るのはオードぐらいなものだ。クレインは若すぎるし、ショーナは趣味に走りすぎてしまうし、ユマは暗殺専門であって交渉には向かない。
しかし、いずれもシス帝国のためだと思えば苦にならない。修行の範疇だ。そう思いながら、オードは爬虫類じみた尻尾をゆったりと振った。
「オード、例の件だが」
ローディアンの経営者が近付いてきたので、オードは酒の入ったグラスを手にする。
「こちらは順調ですよ」
「ハイパースペースの通信機器を大量に発注してくれたのは何よりだが……」
「お気になさらず。代金は色を付けて払いますので」
余計な詮索はしない方が身のためだ、と念を押しながら、オードはかすかな笑みを作った。
「そうか、それならいいんだ」
ローディアンの経営者はすぐさま引き下がり、他の客と団欒し始めた。この程度であれば、マインドハックを仕掛けるまでもない。今後の作戦のために用意した機器を買うための予算が捻出出来なければ、その時は実力行使をしてしまえばいい。殺してしまえば、誰も文句は言えないのだから。
オードはほとんど飲まなかった酒のグラスを給仕ドロイドのトレイに戻し、壁を背にした。コルサントの都市を見下ろせるデッキに目をやると、遊覧船や高級なスピーダーが空中を行き交っていた。時折、監視ドロイドが通りかかるが、オードには気付かずに去っていった。
皇帝が討たれて帝国が早々と打倒され、新共和国の体制に切り替わってからはまだ日が浅いが、彼らは帝国残党を虱潰しに探している。戦争の火種を灯しかねない者達を排除しているつもりだろうが、オードからすると、それこそが帝国残党の反発を招いているようにしか思えない。
それはジェダイも同じだ。シスを見逃さず、許さず、頑なに拒む。その厳格さがジェダイを敬虔な殉教者にしたかもしれないが、融通が利かなさすぎる。特にジェダイ聖堂は顕著だ。幾度となく勝利を重ね、旧共和国を守り続けていたという成功体験があるが故に、時代に即した変化を受け入れようとしない。
排他的な連中だ。
用事を済ませ、パーティーを去った。
クロークの在庫管理ドロイドから私物を返してもらい、オードは華美な服を脱いで黒いマントを腕に掛けた。エレベーターに乗り込み、クラウドシティのように天空に築かれた都市を横目に下降する。
コルサントはあまり好きではない。シスの気配が取り除かれているからだ。下層区域であれば、シスの信奉者が身を潜めていることもあるが、それでもジェダイの目を盗まなくてはならない。あまりにも不公平だ、理不尽だ、不愉快だ。
その苛立ちが尻尾に現れ、大きく動いたので、オードはそれを隠すために黒いマントを羽織った。透明な筒が次の階層に到達する寸前、コムリンクに通信が入った。
「なんだ」
オードが受信すると、ショーナ・ディノからの通信だった。
『オード! まだ上にいるな、いるよな、ああいるね! 丁度良い、上層区域に新共和国の査察官が向かった!』
「その程度、俺が出る幕はないだろう」
『いいやあるね、大有りだ! 今日、オードが会った奴らが摘発されたら、いずれは俺達に辿り着く! その前にどちらを処分すればいいのか解るだろ、解るよな、オード!』
「ショーナは来られないのか」
『シャハー卿から別の任務を命令されたからな、コルサントを離れなくちゃならない。だから任せる、オードであれば問題ない』
「解った。場所を教えろ」
オードが承諾すると、ホロが届いた。上層区域の25番区画、すなわちオードが今し方までいた場所だ。新共和国の査察官とその部下達が乗ってきたスピーダーは、物資搬入用のゲートに向かっていた。一旦引き返さないといけないのか、面倒だな、と思いつつ、オードはエレベーターが到着したので下りた。
すぐに別のエレベーターに乗り換え、物資搬入用ゲートへのルートを確認しつつ、オードはフォースを高めた。幸い、周囲にはフォースユーザーもいなければジェダイの気配もない。とはいえ、フォースを無駄遣いすると感付かれるので程々にしなくては。
いくつかの通路を抜け、物資搬入用ゲートと接続している倉庫の区画に入った。富裕層は豊富な資産と権力を持っていることが特権階級だと思い込みがちなので、隠し財産や違法改造されたドロイド、効力を高めたスパイス、時には奴隷までもが倉庫に持ち込まれる。査察官はそれらを摘発するために訪れるが、買収されるか、弱みを握られて丸め込まれるのが常だ。あるいは、腹を探られたくない者が賞金稼ぎを雇い、査察される前に始末されるかだ。
オードはコンテナの陰に隠れ、様子を窺った。スピーダーから降りてきたのは、新共和国の制服姿のヒューマンの男とR3シリーズのアストロメク・ドロイドだった。二人がこちらに向かってきたが、オードは先に倉庫内の監視カメラをフォースで壊した。続いて照明もフォースを用いて消すと、闇の中に躍り出る。
査察官が身構える間もなく、赤い光の刃で胴体を貫く。オードは査察官を蹴り飛ばした後、アストロメク・ドロイドにライトセーバーを振り下ろした。
縦に両断した。
倉庫を後にした。
オードは査察官とアストロメク・ドロイドの死体をスピーダーに乗せ、エンジンを付けた状態で空中に放り出したので、いずれは燃料切れで失速して落下するだろう。もしくは、他のスピーダーやシャトルに激突し、死因が解らないほど粉々になるかのどちらかだ。
オードは再びエレベーターに乗り、上層区域から中層区域に移動した。程なくして到着し、外に出ると、広々としたホールでは人々が行き来していた。中層区域とはいえ裕福な部類に入る人々が住んでいるため、ブティックやレストランの客の身なりは良かった。
フォースユーザーがいないか、オードは目を配らせると同時にフォースを研ぎ澄ました。だが、それらしい気配はなかった。ジェダイに仕立て上げられる前にシスに引き込み、やがてシス帝国を築くための戦力を確保しておきたいのだが、そう都合良くいかない。
三本のトワイレックの少女、セーヤ・ミットーはフォースの適性を秘めていながらも、まだどちらにも染まっていなかった。だからこそ、シスの素晴らしさを教え込もうとしたが、ジェダイに仕えていたドロイドが先に接触していたせいで、セーヤは既にジェダイの教義に毒されていた。
「惜しいことをした」
オードは思わず独り言を漏らした。セーヤがやがてシス騎士団に加わり、ダース・シャハーの部下になっていたら、例の作戦も円滑に進んだだろうに。もしも、と考えずにはいられないが、それに囚われすぎるとヴィジョンが歪んでしまうので自制した。
フォースは力を与えてくれるが、正しさまでは保証してくれない。何かを強く望めば、望んだ形に捻じ曲がってしまう。そして、やがてダークサイドへと導いてくる。シスの信奉者であるオードとしては、ダークサイドのフォースは歓迎すべきものなのだが、だとしても限度があるからだ。
フォースに操られないために。
かつてヴィジョンを見た。
生まれ持った力を持て余し、フォースとの付き合い方も知らず、感情を発露する手段もなく、ライトセーバーすら握っていなかった頃。
周囲との隔たりが埋められず、孤独な世界に生きていた幼いオードを慰めてくれたのは、シス帝国のヴィジョンだけだった。赤い光に照らされた都市、美しい寺院、シスの聖堂、そして崇高な戦士達。いずれ自分もそこに加わるのだと思えるようになると、生きる目的が出来て、シスの戦士にも見つけてもらえた。
「故に、だ」
訓練を終え、オードはライトセーバーを下ろす。足元には切断されたボール型訓練ドロイドが転がり、火花を散らしていた。そして、いくつものバトルドロイドの残骸が倒れていた。
「俺は使命を果たさねば」
オードはフォースを放ってバトルドロイドの残骸を押し退けると、トレーニングルームを後にした。オードはシスの暗黒卿に至れるほどの力を備えていなかったが、ダース・シャハーは違う。文字通り、桁違いのフォースの持ち主だ。故に、ダース・シャハーの覇道を阻むものを取り除くことがシス帝国への近道だ。
俺の居場所だ。
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