トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
ポッド・レースの参加方法は様々だ。
企業のスポンサーを背負ったレーサーもいれば、チームで参加するレーサーもいれば、参加費用からマシンまで個人でどうにかするレーサーもいる。だが、どのレーサーも自分の命よりも一瞬の快楽と栄光と莫大な賞金を求めずにはいられないのは同じだ。
ケイ・ホークがセーヤとテンノーを連れていったのは、ポッド・レースのマシンが集められているピットエリアだった。形は違うが、どれもこれも剥き出しのエンジンにお情けのような座席がくっつけられているだけで、操縦方法も単純だ。ブレーキが見当たらない。
「あれってどうやって止まるの?」
セーヤが青ざめると、ケイは両手を上向ける。
「エンジンを切るんだよ」
「でも、普通はブレーキぐらいはあるでしょ」
「エアブレーキぐらいは使うだろうが、そんなもんを付けたら重量が増えてマシンが重くなっちまう」
「Xウィングだって減速するための逆噴射装置が付いているのに?」
「お行儀のいいスターファイターと一緒にするなよ」
ケイに受け流され、セーヤは唖然とした。
「まともじゃないよ」
「そりゃ褒め言葉だ、ここの連中にはな」
ケイはヘルメットの下で笑った。セーヤはこの場から去りたくなったが、ケイに代金を先払いしたからには情報源となる人物に会わなくては意味がない。改造しすぎたエンジンが爆発し、整備ドロイドが吹っ飛んでいったが、それもいつものことなのか誰も気に留めていなかった。
そして、ピットエリアの端でケイは足を止めた。例によってスターファイターから取り外されたエンジンが二基並んでいて、整備ドロイドが配線を繋げていた。その手前では、ヒューマンの男が項垂れていた。
「久し振りだな、ホーン・ゴーダ」
ケイが話しかけると、男は顔を上げた。
「マンドー。なんだ、今はタトゥイーンにいたのか」
「仕事を探しに来ていてな」
「丁度良かった、レーサーの知り合いはいないのか」
「また逃げられたのか?」
「頼む、誰でもいいんだ。なんならお前でも!」
「無茶を言うなよ」
「そっちの子は?」
ホーンがセーヤに気付くと、セーヤは後退る。
「いや……私は……」
「セーヤ、ホーンは元帝国軍のメカニックでな。ある程度なら帝国残党にも通じている。こいつから情報を引き出したいだろ? そのためには、どうすればいいのか解るよな?」
ケイに迫られ、セーヤは更に身を引く。
「ちょっと待って、そこまでとは聞いていない」
「セーヤは俺のブラスターを跳ね返せたんだ、それぐらいはなあ?」
だが、ケイはセーヤに詰め寄ってくる。セーヤが逃げ腰になると、テンノーがセーヤの背を支えた。
「それでしたら、最適な人材がおります。私から連絡を取りましょう」
「早くしてくれよ。次のレースで勝たないと、スポンサーに違約金を支払わなきゃならない。それでなくても借金まみれなんだ」
ホーンに懇願されるも、セーヤは同情よりも苛立ちが先に立った。だったらポッド・レースなんてやらないでまともに働くべきじゃないのか、と言いたくなったが口には出さなかった。仮にも情報源となるであろう相手に角を立てたくなかったからだ。
それからしばらくして、テンノーが報告した。カミーノ・スターリバーに連絡を入れた、と。なんでカミーノなんだ、とセーヤは呆気に取られるも、そういえば彼は言っていた。スピーダーバイクでポッド・レースの真似事をした、とかなんとか。セーヤはただの冗談だと思い、笑って受け流したのだが。
だとしても、来てくれるだろうか。
数時間後。
タトゥイーンの上空に見慣れたXウィングが現れた。オレンジのマーキングが施されたXウィングは滑らかに降下し、モス・アイズリーの宇宙港に降下した。そのコクピットから降りてきたのは、カミーノ・スターリバーに他ならなかった。
「本当に来た」
出迎えに来たセーヤが驚くと、カミーノはむっとする。
「俺を呼び出したのはそっちだろ。非常事態とかなんとか言って」
「実際、非常事態ですので」
テンノーはカミーノに歩み寄り、事の次第を説明した。
「ポッド・レースのレーサーがいなくなったのですが、セーヤがその代わりをさせられそうになりまして。ですが、スターリバー少尉であればマシンを乗りこなせるでしょう」
「軍規に違反しない?」
セーヤが問うと、カミーノはヘルメットを抱えて背を丸め、しばらく考え込んだ。
「そこはまあ、なんとかする。言い訳も考えておく。今だって、アウターリムの哨戒任務を抜け出してきたわけだし」
「ははは、そりゃいい」
ケイが現れると、カミーノはぎょっとする。
「あの時のマンダロリアン!」
「今回は雇い主がセーヤだ。だから、あんたとは殺し合う必要がない」
ケイが両手を上向けると、カミーノはセーヤを窺った。
「なんでこんな奴を?」
「まあ……色々と事情があって」
セーヤがはぐらかすと、カミーノはパイロットスーツの襟元を緩めた。
「仕方ない。その辺は後で聞かせてもらうとして、まずはポッド・レースのマシンを見せろ。俺が乗るからには、俺に合うように調整しないと」
なんだ、意外と乗り気じゃないか。セーヤは安堵してテンノーに目をやると、テンノーは僅かにバイナリー言語を漏らした。
だが、今はカミーノの調子の良さに頼るしかない。カミーノが死なない程度に持ち上げよう、それはそれとして優勝したらファンが付くのかな、さすがに顔出しはしないでしょ、同盟軍のこともあるし、とセーヤはカミーノの後ろ姿に目をやった。
めちゃくちゃ上機嫌だった。
ポッド・レースについて語られた。
ホーン・ゴーダのピットを訪れたカミーノは、どのレースの誰が凄かったのかとしきりに話し、ケイもあのマシンがよかった、このコースレイアウトはヤバかった、と熱弁していた。セーヤは二人の会話には付いていけなかったし、そもそも理解出来なかったので、ドロイド達のマシンの整備風景をぼんやりと眺めていた。
「わっかんないなぁ……」
セーヤが思わず零すと、整備を手伝っていたテンノーがぐるりと首を回した。
「セーヤはロマンチストではありませんからね」
「ちょっといいか?」
ホーンに呼ばれ、セーヤは応じた。
「あ、はい?」
「君はトワイレックだろ? レックが一本多いけど、それは個人差だし。で、これを着てほしいんだが」
ホーンが渡してきたのは、レオタードの衣装だった。レースの花を添えるコンパニオンが着るものなので、足を長く見せるためのハイレグが際どく、胸を覆う布地も少なく、背中に至っては丸出しだ。
「サイズ合わないですよ」
セーヤが苦笑するも、ホーンは食い下がる。
「そこはなんとか出来るだろ」
「せめて後付けのスカートぐらいは欲しいかも」
セーヤが際どい衣装を眺めていると、ポッド・レースの話題で盛り上がっていた二人が急に大人しくなった。カミーノはセーヤの手から衣装をひったくると、ケイに押し付ける。
「マンダロリアン、お前が着ろ。依頼人を守るのも仕事のうちだろ!」
「誰が得をするんだよ」
ケイは押し返そうとするも、カミーノは食い下がる。
「自分の立場を弁えろ、賞金稼ぎ!」
「いやあ、さすがにそれはちょっと……。うちのチームの評判が地に落ちるだろ」
ホーンの真っ当な指摘に、セーヤは頷く。
「あんまり見たいもんじゃないよね」
「俺はアーマーを脱がないからな、絶対に。だが、これだけは言っておく。俺の体は高値が付く」
ケイがベスカーアーマーに覆われた胸を叩くと、カミーノは失笑した。
「それは言いすぎだろ」
「だったら、レースの前に俺が相手をしてやる。Xウィング如き、俺の敵じゃない」
「うっかり壊されて帰れなくなったらどうするんだよ」
「知るかよ、そんなの。やられないように立ち回るのがパイロットってもんだろ」
売り言葉に買い言葉で、カミーノとケイの言い合いは次第にヒートアップしてきた。このままだと殴り合いになりそうだ、とセーヤが間に入ろうとすると、テンノーが先んじた。
「あの衣装は私が着ます」
虚を突かれたのか、カミーノとケイは呆気に取られた。
「は? なんで?」
「それこそ誰が喜ぶんだよ」
二人が半笑いになると、テンノーは胸に手を添える。
「人目を惹きますし、話題にもなります。チームの宣伝には貢献出来ますよ」
それは間違いない。レースクイーンの衣装を着たドロイドがいるチームなんて、他にいないからだ。ホーンは何か言いたげだったが、テンノーはカミーノの手から衣装を受け取り、ホーンに一礼した。
「では、サイズを直してきます」
テンノーの思いがけない行動で水を差されたため、ケンカする空気でもなくなってしまい、カミーノとケイは落ち着きを取り戻した。今回は私の出る幕はないな、それは別にいいんだけど、とセーヤはちょっとした疎外感と共に安堵も感じた。
すると、にわかにピットエリアが騒がしくなった。レーサーやメカニックが走り回り、しきりに叫んでいる。何事かとセーヤは彼らに近付くと、その手にはホロ・ペーパーが握られていて、見出しにはこう書いてあった。《アナキン・スカイウォーカー ポッドレーサーを引退》と。
やがてモス・アイズリーが大騒ぎになった。
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