トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
アナキン・スカイウォーカー。
かつてはジェダイ・マスターとしてライトセーバーを振るい、激しい戦いを切り抜け、ジェダイの歴史に名を残す英雄であり、選ばれし者とさえ呼ばれていた。だが、彼は家族を得たことでライトセーバーを手放すことを決意した。と、説明してくれたのはテンノーである。
その後、少年時代に初出場して優勝したポッド・レースに活躍の場を移し、こちらでも目覚ましい結果を出した。復帰した直後のレースでは当然のように優勝したばかりか、他のチームによる妨害をものともせずにトップスピードで走り抜け、コースレコードを何度となく塗り替えた。マシンが故障してエンジンが片方しか動かなくてもスピードは一切落とさず、それどころか自己ベストを更新してしまったのだから、生ける伝説とはこのことだ。
他にも伝説と呼ぶべき記録やレースは枚挙に暇がないのだが、それはそれとして、モス・アイズリーの住民達やポッド・レースを見に来た観光客達は上へ下への大騒ぎになっていた。そこまでのことかなぁ、とセーヤは冷めた目を向けていたが、カミーノとケイだけでなくホーンもがっくりと項垂れている様子を目の当たりにすると少しは捉え方が変わった。
「ファンからすると、銀河がひっくり返るようなことなんだね」
セーヤなりに解釈を示すと、カミーノが前髪を掻き上げながら顔を上げた。
「それも間違いじゃない」
「そうかな……?」
セーヤが首を捻っていると、テンノーが戻ってきた。
「お待たせしました」
テンノーはレースクイーンの衣装を改造し、無理矢理身に付けていた。女性の体形に合わせた服がバトルドロイドに合うはずもないので、胸の部分と股間の部分を切り分け、布地を最大限に引き延ばし、背面で紐を結んでいた。似合うとか似合わないとか、それ以前の問題である。あまりにも馬鹿げている。
しかし、テンノーは至って真面目なので笑うに笑えなくなり、セーヤは曖昧な表情を浮かべるのが精一杯だった。三人の男達も、ポッド・レースのヒーローが引退するショックが抜けていなかったため、こちらもセーヤと似たような反応だった。
「では、私は他のチームの偵察も兼ねて外を回ってきます」
そう言ってから、テンノーはピットエリアを横切っていったが、なんだあのドロイド、持ち主の趣味がイカレてやがる、せめて女の形のドロイドに着せろ、うわあ変なものを見せるな、と評判は最悪だった。
「ひとまず冷静になろう」
テンノーのおかげで毒気を抜かれたのか、カミーノが態度を改めると、ケイも姿勢を直した。
「だな。アナキン・スカイウォーカーが引退するのは銀河の損失だが、優勝候補の筆頭がいなくなったと考えれば、俺達にも勝ち目があるってことだ」
「問題は、他のチームとの差をどうやって埋めるかだ」
ホーンもまた気を取り直し、作戦会議を始めた。ああでもないこうでもないと言い合う三人を横目に見ていたが、セーヤは特にやることもないので瞑想することにした。周囲が騒がしくても集中出来るのがジェダイですよ、とテンノーなら言うだろうから。
やってみると、意外と出来た。
それでも、三日後にポッド・レースは開催される。
アナキン・スカイウォーカーの引退によって混乱は生じたものの、それならアナキン・スカイウォーカーの後釜を狙おうとチームやレーサーが躍起になったからだ。それに、レースが中止となればタトゥイーンの経済が大いに滞り、混乱してしまうし、レースの結果で賭けをしている犯罪組織が大損するからだ。
ポッド・レースの勝敗を巡るギャンブルを掌握し、胴元として丸儲けしているのは言うまでもなくハット・カルテルである。ちょっとした儲けが出て味を占めたとしても、次のレースでは大負けして借金が嵩み、ハットにいいようにされてしまう。
どの星でもギャンブルの構造は変わらないし、胴元以外は儲からないように出来ているのだが、それでも賭けずにはいられない人々がいるので、この商売は成り立ってしまう。
「結局、そういうものなんだよなぁ……」
ピットエリアを離れたセーヤがぼやくと、レースクイーンの格好のままのテンノーが同意した。
「人は愚かですからね。その点、私達のようなドロイドは違いますよ。確率計算が出来ますから、ギャンブルなんて不毛な娯楽はしません」
「その格好、意味はあったの?」
セーヤがテンノーを指すと、テンノーは胸部装甲を覆う布地に触れた。
「奇妙な格好をしていると、そちらに注意が向いて他が疎かになるものです。それを利用して、他のチームの内情や背後の組織、利害関係について調べることが出来ました。今回のレースに出場するのは総勢24チームですが、その中でハット・カルテルと通じているのは12チーム、犯罪組織や海賊がバックに付いているのが4チーム、運営に賄賂を握らせているのが3チーム、残りはホーン・ゴーダのような個人参加の零細チームですね。こちらも背後関係はクリーンとは言い難いですけど、資金不足なので優勝候補ではありませんし、そもそも完走出来るかどうかも危ういです」
「思った以上にひどいね」
「アナキン・スカイウォーカーのチームは複数の大企業がスポンサーに付いていたこともあって、その辺りはきちんとしていたようですけど、たまにちょっと怪しい部分もありましたね。一応、マシンのレギュレーションはあるんですけど、アナキン・スカイウォーカーのマシンはレギュレーションの抜け道を探り出して改造を繰り返していたので。メカニックをしていたドロイドを見つけたのでハッキングして、設計図を見せてもらったんですけど、あれはただの爆弾です。スターファイターのエンジンですらありません」
テンノーが淡々と述べると、セーヤはげんなりした。
「よくもそんなのを……」
「彼はジェダイを引退したとはいえ、かつてのマスターからは非常に心配されていたようで、ホロ・ネットやコムリンクのログも見せてもらいましたけど……マスター・ケノービの方が死にそうな顔をしておられました」
「それってどっちのこと?」
セーヤはジャー・ジャーが出したジェダイマスターの名前を思い出したが、どちらにも当て嵌まらなかった。
「そうですね、セーヤはお二人を存じていませんでしたね。マスター・ケノービはオビ=ワンのことです。クワイ=ガンはクワイ=ガン・ジンと仰います」
「へー」
「どちらも立派なジェダイ・マスターですよ」
「だろうねぇ」
マスター・スカイウォーカーに手を焼いていたんだろうなぁ、とセーヤは名前しか知らないジェダイ・マスターに同情を禁じえなかった。アナキン・スカイウォーカーに関する物事を端的に知っただけでも、類まれな才能とそれに裏打ちされた自信、周囲を振り回す性分だと解るからだ。退屈はしないだろうが、付き合わされる方は気苦労が絶えない。
ジェダイなんて似合いそうにない、歩く火薬庫のような男がポッド・レースを引退するなんて、余程のことがあったに違いない。それはちょっと気になるな、とセーヤは頭の片隅で考えていたが、不意にヴィジョンが過ぎった。それを知るためには、彼に会えば教えてくれるだろう。
「テンノー、こっち」
セーヤはテンノーを手招き、混雑してきたポッド・レースの会場から離れた。テンノーはセーヤに従い、モス・アイズリーの市街地まで戻った。宇宙港に通じる路地に入ると、急ぎ足のジャー・ジャー・ビンクスと鉢合わせた。
「あっ、さっきの子ね。また会うなんて素敵な偶然だけど、ミーはもう行かないと。ナブーに向かわなきゃならないのね」
「ナブーで何かがあったんですか?」
セーヤが問うと、ジャー・ジャーは笑った。
「特別に教えてあげちゃう。出産のためにパドメが里帰りしていて、双子ちゃんが生まれたのよ。あ、パドメはアニーの奥さんね」
それじゃまたね、とジャー・ジャーは手を振り、軽快な足取りで去っていった。セーヤはテンノーと顔を見合わせる。
「それなら引退するのも当然だね」
「パイロット以上に危ない仕事ですからね」
「ピットエリアに戻ろうか」
「先程の情報も報告したいですしね」
セーヤとテンノーは踵を返し、ピットエリアに戻った。カミーノとケイとホーンと整備ドロイド達がマシンを調整していたので、テンノーは他のチームの内情について報告した。セーヤはアナキン・スカイウォーカーが引退した理由について言うべきかと迷ったが、胸の内に収めておいた。
「つまり、俺の仕事もあるな」
ケイが立ち上がると、セーヤは彼を見上げる。
「妨害工作を妨害するんだね」
「その通り。コースレイアウトさえ頭に入っていれば、どこでどんな妨害を仕掛けられるのかは想像に難くない。じゃ、ちょっと行ってくる」
そう言うや否や、ケイはジェットパックを作動させて飛行していった。
「地雷でも仕掛けるつもりか?」
カミーノはケイを見送り、機械油に汚れたグローブを外した。
「マンドーの援護があるなら勝ち目が出てきた」
ホーンが意気込むも、テンノーが諫めた。
「いえ、それだけでは足りません。そもそも、マシンのパワーが足りていません。これではスターリバー少尉の操縦に追い付きませんよ。燃焼効率が悪すぎて加速が鈍いですし、他にも問題点はあります。時間は足りませんが、出来る限りのことはします」
「私は何を手伝えばいい?」
セーヤが挙手すると、カミーノは返した。
「買い出しに行ってくれ。途中で足りない部品や道具が出てくるから、その都度指示する」
「解った」
セーヤは了承したが、やっぱり私の出番はないんだな、手伝えないのはちょっと寂しいな、と思わずにはいられなかった。ポッド・レース自体は関わりたくないが、皆の力になれないのは歯痒かった。
仕方ないことではあるが。
夜を徹して作業は続いた。
タトゥイーンは二つの太陽に照らされているため、日中はひどく暑いが、夜は冷え込みが厳しい。砂漠とはそういうものだが、気温差が激しく、セーヤは手足を縮めて丸まっていた。
「寒い……」
「こちらをどうぞ」
テンノーはヒーターを兼ねたランタンを灯し、セーヤの前に置いた。セーヤは温かな光に手を翳すと、少しは寒さが紛れた。
「はあ……」
「自分のシャトルまで戻ったらどうだ」
偵察を終えて戻ってきたケイに案じられ、セーヤはテンノーを見やった。
「うーん、でも、私が引き上げるとテンノーも一緒に来るでしょ? そうなると、整備が滞るし」
「だからって、セーヤを一人で宇宙港に向かわせるわけにはいかない」
カミーノはジャケットを脱ぐと、それをセーヤに放り投げた。
「ほら」
「うん、ありがとう」
セーヤはそれを受け取ると、袖を通した。ぶかぶかで袖と裾が余るが、今のセーヤには温かくて丁度良かった。
「しばらくはそれで凌いでくれ。作業が一段落したら、シャトルまで送るから」
そう言って、カミーノは作業に戻った。ケイはヘルメット越しに意味ありげな視線を向けてきたが、彼もまたエンジンの改造を再開した。
気を遣わせちゃったな、だけどなんか嬉しいな、とセーヤはカミーノの体温が残るジャケットの襟を合わせた。それからしばらくして、ホーンが人数分の夜食を買ってきてくれたので、セーヤは温かいスープを味わった。
タトゥイーンの星空は美しかった。
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