トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
ウォンプ・ラットを追う。
小さくて素早くて、灰色の毛並みは暗がりに紛れてしまうが、不思議とセーヤはウォンプ・ラットを見失わなかった。どうしてだろう、と疑問を抱くものの、その答えを見つけるよりも走り続けることを優先した。
「いたっ」
だが、素足のままでは厳しかった。セーヤは足の裏に鋭い痛みを感じて飛び上がり、立ち止まった。そうしている間にも、路地裏に潜り込んだウォンプ・ラットは遠ざかってしまう。
「ええと、えっと」
セーヤは周囲を見回し、ゴミ捨て場を見つけた。どこかの酔っ払いが脱ぎ捨てていったのか、ブーツとジャケットが放置されている。どちらもセーヤには大きすぎるし、匂いが気になるが、この際仕方ない。セーヤはそのブーツとジャケットを拝借し、素足を覆って肌を隠し、改めてウォンプ・ラットを追いかけていった。
すると、フギャッと鳴き声が上がった。セーヤがその音源を辿ると、あのウォンプ・ラットが茶色い毛並みのロズ・キャットに襲われている。幻で見た通りの光景だった。
それなら、とセーヤは立ち止まった。下層区域の残飯を漁って丸々と太ったウォンプ・ラットと、都会暮らしでありながらも野性味を失っていないロズ・キャットの戦いは白熱していたが、セーヤはそれどころではなかった。
「あった!」
セーヤは壁を探っていき、配管の点検口を見つけた。これもまた幻で見た通りだ。セーヤは配管の点検口に潜り込んだが、とても窮屈で息苦しく、大人の体では入れない場所だ。けれど、その狭さはセーヤにとっては好都合だった。手足を突っ張らせて昇っていける。
配管の接続部分につま先を引っ掛け、つるつる滑るパイプやケーブルを掴みながら、セーヤは少しずつ上っていった。どこに出るのかは解らない。だが、中層区域には繋がっているはずだ。
そう信じて、ひたすら昇り続けていくと、頭上にハッチらしきものが見えてきた。どうか外に通じていますように、とセーヤは祈りながらハッチを開けようとしたが、ロックされている。
「あれ?」
さっきはすんなり開いたのに。どうしてだろう、と疑問を抱きながらもハッチを何度も叩いていると、急に開いて外に放り出された。
「うわっ」
勢い余って路上に転がり、セーヤは上下逆さまになったが、すぐさま姿勢を戻した。やはり路地裏だったが、下層区域とは空気の質からして異なる。もしかすると、とセーヤは路地裏の先に目を凝らすと、空中をトラムが走り、スピーダーが通り、人々が行き交っていた。そして、空は上層区域の都市によって塞がれていて、重力に逆らったビルが生えている。
「よかった……」
間違いない、中層区域だ。下層区域に連れてこられる前に一度だけ目にしたものと同じだ。セーヤはこの上なく安堵したが、油断は禁物だと思い直した。
コルサントの構造は複雑だが、上層区域に行けば行くほどセキュリティは厳重になり、チェーンコードやIDチップで身分をチェックされ、少しでも怪しければ逮捕されてしまう。
だから、コルサントから抜け出すには中層区域でどうにかするしかないのだが、セーヤは考え込んだ。金を積んで何らかの船に密航させてもらうのが手っ取り早いが、そのためのクレジットが足りない。
「クレジットは……」
セーヤはジャケットの裾から手を入れ、下着と遜色のない衣装の中に手を入れた。素肌にテープで貼り付けておいた、ブロンズの帝国クレジットが一枚だけある。それを使えばトラムには乗れるだろうが、そこから先はない。
セーヤはテープを剥がし、自分の体温が染み付いた帝国クレジットを握り締めた。ナザ・シーサイのバーの客からもらったチップを掠め取り、それ以来、お守りのように持ち続けていたが、この中には10クレジットしかない。それだけでどうにかなるほど、この銀河は甘くない。
それでも、なんとかしなくては。せっかくのチャンスを無駄にしてしまう。セーヤは意気込み、路地裏から抜け出そうとしたが、不意にドロイドが現れた。
「どちらに行かれるのですか」
長身の人型バトルドロイドだが、分離主義勢力のものとはデザインが異なっていた。クラシカルで優雅なボディラインで、武骨さはない。
「えっと……」
どこのドロイドだろう、警備ドロイドじゃなさそうだ、だけど逃げないと、とセーヤが引き返そうとすると、その人型バトルドロイドはセーヤを眺めた。
「あなたは我がマスターが提示した条件に一致しております。よって、私が探していたのはあなたに違いないのでしょう」
「急にどうしたの」
セーヤが戸惑うも、人型バトルドロイドはセーヤの服装に目を留めた。
「ですが、その御召し物は頂けませんね」
「仕方ないでしょ、緊急事態だったんだから」
セーヤがむっとすると、人型バトルドロイドは外装を開き、その隙間から新共和国クレジットを取り出した。しかもゴールドの。
「お召し替えには、こちらをお使い下さい」
「えっ」
セーヤがぎょっとすると、人型バトルドロイドは冷静に指摘した。
「御召し物には発信機が仕込まれています。追跡から逃れるには、速やかに破壊するべきです」
「どこに?」
「胸当ての飾りです」
人型バトルドロイドの言葉を受け、セーヤはジャケットの中に腕を引っ込め、慎ましい胸を覆っているブラジャーを外した。確かに宝石を模した飾りが付いている。
「これ?」
セーヤがそのブラジャーを差し出すと、人型バトルドロイドは不意に火炎放射した。ごわっ、と炎の塊が噴出し、一瞬でブラジャーが消失し、燃え残った飾りは破損して電子部品を覗かせた。
「うわ……」
先程とは違った意味でセーヤが驚き、身を引くと、人型バトルドロイドは手を差し伸べてきた。
「お供いたします」
「うん、まあ、そうだね。服は買わないと……」
目の前に炎を出されたショックが抜けないまま、セーヤは人型バトルドロイドの手を掴んだ。硬くて冷たかったが、不思議と安心した。
「そういえば、あんたの御主人は?」
「それについては後で説明いたします」
「名前はあるの?」
「はい。私の形式番号はNO-10なのですが、我がマスターはテンノーと愛称を付けて下さいました」
「なんで逆にしたの?」
「それは我がマスターのセンスですので」
テンノーと名乗った人型バトルドロイドは、流暢で癖のない
若者向けで手頃な価格の服を扱う店を見つけたので、セーヤはひとまずその店に入った。テンノーが気を利かせ、あれこれと持ってきてくれたが、実用性と動きやすさを優先した結果、こうなった。
体格に合うサイズのボディスーツとブーツ、グローブ、裾が長めのジャケット、ポーチの付いたベルト、それからレックの根元を覆うためのヘッドバンド。
「万が一ってこともあるし、加圧出来るタイプにしておいたの。宇宙空間に放り出されても、ちょっとは耐えられるやつ」
セーヤはヘッドバンドの位置を整えた。トワイレックのレックには感覚器官が詰まっていて敏感なので、カバーしておくに越したことはないからだ。
「それは賢明な判断です」
「でしょ? ああ、そうだ。私からはまだ名乗っていなかったよね」
セーヤはゴミ捨て場から拾ったジャケットとブーツを、ゴミ回収ドロイドに放り込んでから、テンノーに向き直った。
「私はセーヤ・ミットー。さっきまでの格好で察しが付くだろうけど、奴隷だったの」
「ええ、そうでしょうとも。トワイレックは奴隷としての需要が高いですから。嘆かわしいことですが」
「チェーンコードにはライロスの生まれだって書いてあるんだけど、私はライロスで暮らしたことはないし、家族の顔も知らないんだ。名前は孤児院の院長が付けてくれたんだよ。でも、その孤児院の経営が芳しくなくなったとかで売られて、それからはずっと奴隷」
「それは苦労なさいましたね」
「でも、私は自由になりたいんだ。好きなように生きたいの。それに、あのままでいたら、凄く嫌なことが起こりそうだったから」
「ヴィジョンがお見えになると?」
「ヴィジョン? うーん、どうなんだろう。白昼夢みたいにふっと映像が見えるんだけど、それは未来の出来事でね。全部当たるわけじゃないんだけど、正しい未来もあるんだ。テンノーに出会えたのも、それを見たからであって」
「やはり、あなたは私が探していた御方です」
人目に付きますから、とテンノーはセーヤの手を引き、雑踏を離れて狭い路地に入った。物陰に身を潜めてから、テンノーは腹部の外装を開き、棒状の機械を取り出した。
「どうぞ、こちらを」
テンノーがその機械を差し出してきたので、セーヤはなんとなく受け取った。すると、緑色の光の刃が現われ、真っ直ぐに伸びていく。
「……へ?」
これは、まさか。
「我がマスター、ジェダイ・マスターのサウス・ギ・ハーラが遺したライトセーバーです」
「えっ、あ、あっ?」
セーヤがひどく動揺するも、テンノーは穏やかに述べた。
「マスター・ギ・ハーラはオーダー66によって命を失いましたが、私にライトセーバーを託す際にこう仰いました。やがて現れるシスの暗黒卿に立ち向かえる、若きジェダイの騎士を探し出せ、と」
「違う違う、絶対違う、私じゃない!」
セーヤはライトセーバーを手放すと、光の刃も引っ込んだ。がしゃんと音を立てて落ちたライトセーバーの本体を、テンノーは厳かに拾い上げる。
「いいえ、間違いありません。私はドロイドですのでフォースを感じ取ることは出来ませんが、このライトセーバーのカイバークリスタルは別です」
テンノーが両手でライトセーバーを掲げると、独りでに浮き上がり、セーヤの目の前にやってきた。
「これが何よりの証拠ですよ、セーヤ」
「ジェダイ、なんて……」
セーヤは両手を差し出すと、手の中にライトセーバーが収まった。ジェダイの噂は聞いたことがあるが、それだけだ。不思議な力を使い、光の剣を振るい、善を成さんとする崇高な騎士だが、クローン戦争の最中に多くが犠牲となった。それ以上は知らない。
ライトセーバーの重みを感じながら、セーヤは悩んだ。受け取っていいのか、突き返すべきだ、ジェダイなんて無理だ、そもそも私にはそんな力はない、と言い返したかった。けれど、奴隷ではない生き方を選びたいと願っていた。自由になりたかった。
この銀河で生きるには、それ相応の力が必要だ。どの星でも例外ではない。本当にジェダイになれるとしても、なれなかったとしても、戦う方法を身に着けておいて損はない。
「解った」
セーヤはライトセーバーを握り締めた。
「だったら、まずはここから逃げるのを手伝ってくれる?」
「もちろんです。そして今後は、私はマスター・ギ・ハーラの代理としてセーヤを導きます」
「マスターの代理?」
「ええ。そのための知識は充分に備えております」
テンノーは胸に手を添えた。セーヤは多少なりとも不安を覚えたが、今、頼れるのはテンノーしかいない。ライトセーバーをベルトのフックに提げ、ジャケットの裾で隠してから、セーヤはテンノーを伴ってトラムに向かった。
コルサントから脱出するために。