トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
ハットの宮殿。
かつては古い密教の寺院だったが、ジャバ・ザ・ハットがタトゥイーンを拠点にするようになってからというもの、ジャバとその部下達の根城と化している。当然ながら、その周囲はハット・カルテルに属するギャングやドロイドによって警戒されていて、近付くことすら容易ではない。
セーヤとケイは岩場に身を伏せ、深夜でも明かりの絶えない宮殿を見張っていた。テンノーは少し離れた位置で身を屈め、周囲を警戒している。暗視機能に切り替えたスコープを借り、セーヤはハットの宮殿を観察したが、忍び込もうにも隙がない。
「どうする? 一旦引き上げる?」
セーヤがケイにスコープを返すと、ケイは岩場の陰に体を引っ込めた。
「実行するのは早い方がいい。ホーン・ゴーダが落としたコードシリンダーを誰かに見つけられて、中身を覗かれて売られたら面倒なことになる」
「新兵器って言っても、大したものじゃないかもしれないよ?」
「帝国に限ってそれはない」
ケイが言い切ったので、セーヤは彼の隣に座った。冷え込みが厳しいので、今回は既にマントを羽織っている。布一枚でも、あるとないとでは大違いだ。
「セーヤ」
ケイに呼ばれたので、セーヤは彼に向く。
「何?」
「カミーノ・スターリバーのことだが」
「ちゃんと帰ったはずだよ。で、スワンプ大佐にみっちり怒られているんじゃないかな」
「そりゃまあそうだろうが……。セーヤは知らないのか、カミーノって言えば何を指すのか」
ケイの言い方が回りくどいので、セーヤは訝る。
「はっきりしてよ」
「カミーノはクローンを製造していた惑星の名前だ」
ケイは僅かな躊躇いを含みながらも、きっぱりと言い切った。セーヤは訳が解らず、目を丸める。
「クローン・トルーパーのことでしょ?」
「セーヤもコルサントにいたなら、見かけたことはあっただろ?」
「戦争が終わった後に行き場がなくなったクローンなら、何度か。でも、なんだか可哀想だった。見た目は老けているのに中身はまだ若い感じがして、だけど戦争で負った傷のせいで働くのも難しいみたいで。でも、身分が保証されていないから、新共和国も持て余しているみたいで……」
クローン達の悲惨な末路を思い出し、セーヤが徐々に語気を弱めると、ケイは言った。
「カミーノ・スターリバーはそのクローンと関係があるんじゃないのか、と思ってな」
「なんで? カミーノはあの人達とは似ていないし、同盟軍にいるんだよ?」
「ああ、見た目は似ていない。声も違う。クローン・トルーパーだった経歴もなさそうだ。だが、ここに手術痕があった。それが何よりの証拠だ」
ケイは親指を立て、ヘルメットの右側頭部をこつこつと叩いた。その意味を知りたくなかったが、知るべきだと腹を括り、セーヤは問うた。
「そこには何が入っているの?」
「クローンを遠隔操作するためのチップが仕込まれているんだ。そいつを摘出したクローンもいるが、そうじゃないクローンもいる。カミーノの場合は前者のようだから、多少は安心出来るが」
ケイが声色を下げると、テンノーが口を挟んだ。
「そのチップによってクローン・トルーパーは操られ、多くのジェダイが殺されたのです」
「でも、それはそれであって、カミーノとは関係ないんじゃ……」
セーヤは否定する材料を探そうとしたが、すぐに思い至らなかった。けれど、カミーノはカミーノだ。戦争のために生み出され、消耗品にされ、戦争が終わると無下にされているクローン達とは違う。そう信じたいが、そう言い切れるだけの根拠がない。
「悪い、余計なことを言って混乱させたな」
ケイが態度を改めると、セーヤはむっとする。
「全くだよ。これから危ない場所に忍び込まなきゃいけないっていうのにさぁ」
「俺の考えすぎであれば、それに越したことはない」
「そうに決まっているよ」
セーヤは言い返してから、レックの根元を覆うマフラーに触れた。けれど、もしもケイの考えが当て嵌まっていたとしたら、その時はどうすればいいのだろう。カミーノはカミーノだ、と思う一方、戦争のために生み出されたクローンだとしたら。
その戦争自体がもう終わっているから気にしなくてもいい、と開き直りたいが、帝国残党の動きが活発になってきたらクローンを兵力として徴用するかもしれない。そうなったらどうしよう、と嫌な想像ばかりが駆け巡ってしまい、セーヤは膝を抱えた。
いつになくライトセーバーが重たかった。
偵察の末、行動を開始した。
ハットの宮殿は、その主であるジャバ・ザ・ハットが巨体であるが故に鈍重な種族だからか、宮殿の中で使われているのは主に下層部分だった。かといって屋根や上の階の警備が手薄というわけではないが、潜り込むにはそちらの方が都合がいい。ケイのジェットパックの力を借りる必要はあるが。
テンノーにはスピーダーと一緒に待機していてもらい、セーヤはケイに抱えられて移動した。だが、ジェットパックで空を飛ぶのは、Xウィングに乗って飛ぶよりも不安定で心許ない。
「怖い……」
セーヤが身を縮めると、ケイは笑った。
「誰だってそうだ、俺もジェットパックの飛び方を習った時は怖かった。すぐに慣れたけどな」
「マンダロリアンってそんなのばっかり」
「慣れないと死ぬからだ」
「いつも戦うことしか考えていないの?」
「あながち間違いでもない。マンダロアの歴史は戦いに始まり、戦いに終わる」
「そんなことじゃ、そのうち誰もいなくなっちゃうんじゃない?」
「かもしれない。だが、マンダロリアンは戦い続けなければマンダロリアンじゃないんだ」
ケイはさも当然であるかのように言い切ったので、セーヤは唖然とした。マンダロリアンって変だ、なんでそうなるんだ、と言いたくなったが、ハットの宮殿が近付いてきたので胸の中に収めた。
ケイは監視ドロイドの隙を突いて滑り込み、円形の屋根に着地すると、テラスから中に潜り込んだ。セーヤはケイに手を引いてもらい、彼に続いた。
「うっ……」
宮殿に入った途端、猛烈な不快感に襲われた。セーヤが顔をしかめて呻くと、ケイは案じた。
「どうした」
「なんか、凄く嫌な感じがする……」
凝縮された悪意と底知れぬ欲望と、それに伴う醜悪な感情の塊が押し寄せてきて、セーヤは気分が悪くなってきた。ハット・カルテルともなれば、その辺の犯罪組織とは格が違う。となれば、そこに集まる欲望も同様だ。
「動けるか」
ケイに問われ、セーヤは深呼吸した。
「なんとか」
「コードシリンダーを見つけ次第、すぐに離脱する。無理はするなよ」
ケイはセーヤの背中を軽く叩いてから、暗がりに身を潜め、テラスから廊下に移動した。セーヤは気分の悪さを抑え込み、ケイとは別方向に進んだ。
上の階はそうでもなかったが、下に降りるにつれて様々な種族のギャングやドロイドが行き来するようになったため、その都度身を隠した。手近な部屋に隠れ、階段や壁の端に貼り付いて息を殺す。
それを繰り返しながら降りていったが、その途中で入った部屋は真っ暗だった。それなのに人の気配がするので、どうしてだろう、とセーヤはライトセーバーを付けた。緑色の光が照らし出したのは、太い鎖が付いた足枷を填められているトワイレックの女性だった。
「あ」
この人は奴隷だ。セーヤが察すると、トワイレックの女性はセーヤに気付いた。
「あなたも売られてきたの?」
「そうじゃないんだけど……。あの、ちょっと聞いてもいい? これを切ってあげるから」
セーヤが足枷を指すと、彼女の目に力が戻った。
「何を答えればいい?」
「コードシリンダーを探しに来たんだけど。銀色で細長い、こういう感じの」
セーヤが説明すると、彼女は記憶を辿った。
「それらしいものなら見たことがあるかも。ハットがいる玉座の間は、床下でランコアを飼っているんだけど、そこに人を落として喰わせるの。その時、銀色の細長いものが光ったのを見たわ。でも、コードシリンダーじゃなくてシャフトかもしれない」
「ランコア……」
その名を聞いてセーヤは血の気が引いた。ランコアは狂暴なクリーチャーであり、それ故に犯罪組織や海賊が拷問や処刑のために飼っている。ハットも例外ではなかったのだ。どうしよう、でもここまで来たんだし、と悩みながらも、セーヤはライトセーバーを用いて足枷を切った。
「ありがとう、後は自力で逃げるから」
足枷を外された途端、トワイレックの女性は背筋を伸ばして立った。
「売られてきてからずっと、どうやって逃げ出そうかって考えていたの。あなたも頑張ってね、可愛いパダワンさん」
彼女は微笑むと、素早くドアを閉めた。逞しい人だ、それなのに奴隷にされちゃっていたのか、とセーヤは複雑な思いに駆られたがコムリンクを取り出した。ケイにランコアの穴にコードシリンダーがあると伝えると、彼は即答した。
『よし解った、混乱させる。上手く動けよ』
「混乱って」
どうやるんだろう、とセーヤが懸念していると、程なくして判明した。爆発音が響いたからだ。
「雑だなぁ」
マンダロリアンって極端だ。セーヤはそれを痛感しながら、不意の襲撃に戸惑う人々やドロイドの間を擦り抜け、下の階に向かっていった。必要とあればライトセーバーで斬り、階段を駆け下りていくと、宮殿の間に到着した。
玉座にはハットの姿はなく、逃げ出したようだ。それならよかった、と安堵しつつ、セーヤは玉座の下にある扉を見下ろした。この下にランコアがいる。
セーヤは息を詰めて集中し、フォースを高めた。分厚い石造りの扉は少しずつ動いてくと、その下から金属製の柵が現れる。途端に咆哮が響き、ランコアが掴みかかってきた。
「うわっ」
セーヤは思わず飛び退いた。ランコアの太い爪が柵の隙間から突き出され、荒れ狂う。あんなものに刺されたらひとたまりもない。だが、階段を下りてくる足音が近付いてきたため、セーヤは玉座の裏に隠れようとした。
だが、焦ったせいか足が滑り、ランコアと玉座の間を隔てている柵に落ちた。こうなったら仕方ない、とセーヤは再びフォースで扉を動かし、塞いだ。僅かな隙間に身を潜め、暗闇の中で爛々と輝くランコアの目を捉えた。セーヤは恐怖と不安を押さえ、ランコアの爪にそっと触れた。
「大丈夫……」
私はあなたに何もしない。だから、あなたも何もしないで。ロズ・キャットにそうしたように、セーヤがフォースを通じて語り掛けると、ランコアは徐々に落ち着いてきた。爪を引っ込めて後退したので、セーヤは呼吸を取り戻した。それから、ランコアに尋ねた。
「ねえ、銀色の細長いものは落ちてない? 私、それを探しに来たんだけど」
セーヤが呼び掛けると、ランコアは穴の中を見回し、それらしいものを指した。セーヤはそちらに手を向けてフォースを放つと、銀色の細長い物体は浮き上がり、セーヤの手中に収まった。間違いない、コードシリンダーだ。
「ありがとう、協力してくれて」
セーヤは礼を述べてから、フォースを使って柵を開け、ランコアの頭上に降りた。ランコアはセーヤを食うことはなく、受け止めてくれた。彼の内面が流れ込んできて、空腹と孤独と恐怖から狂暴にならざるを得なかったと知った。
「それなら、あなたも外に出よう」
セーヤがランコアの頭を撫でると、ランコアは太い柵が填まった出入り口を指した。セーヤはランコアの背中から滑り降りると、ライトセーバーを振るって柵を切り、ついでにランコアの自由を妨げている鎖を切ってから外に駆け出した。
そして、ケイとテンノーと共に脱出した。
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