トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
営倉は窮屈だ。
そして、どうしようもなく退屈だ。だが、何度も入るとさすがに慣れてくる。だけど反省しないと出られないし、それらしい態度を示さないと飛べないし、とカミーノは固いベッドに寝そべっていた。
ビッグシップ基地を行き交うスピーダーやスターファイターのエンジン音やドロイドの駆動音などが壁伝いに聞こえてきて、奇妙な安心感を覚える。そうしていると、子供の頃を思い出す。
追憶に耽りかけたが、ドアがノックされたのでカミーノは身を起こした。ロックを解除したのはスワンプ大佐であり、その背後には父親が控えていた。
「大佐から報告を受けた。少しは落ち着きを持て」
カミーノの父親であるニース・スターリバー少佐は苦々しげに零した。以前は同盟軍のパイロットだったが現在は前線を退き、教官の職に就いている。
「理由は説明したはずだけど」
カミーノが悪びれずに言い放つと、スワンプ大佐は嘆息した。
「聞けば聞くほど馬鹿げていて、お前のどうしようもなさしか解らなかったよ。哨戒任務の途中で呼び出しを受けたからと言って、タトゥイーンまで飛んでポッド・レースに出場するなんて前代未聞だ」
「前人未踏と言ってほしいね、優勝したんだし」
カミーノがにやつくと、ニースが歩み寄ってきた。
「それはそれ、これはこれだ。俺に対しても詳細な報告をしろ、その上で改めて判断する」
「何を?」
「除隊処分にするかどうかだ。さすがに今度ばかりは庇い切れない」
ニースは息子の肩を押し、背を向けると足早に去っていった。カミーノは肩を竦めたが、スワンプ大佐は苛立ちを堪えた表情で言った。
「それまでは待機していろ。荷物をまとめる時間ぐらいは与えてやる」
スワンプ大佐も去ると、見張りのドロイドがやってきてドアをロックした。カミーノは再びベッドに寝そべり、むっとしながらも言い返した。
「俺にも事情ってもんがあるんだよ」
セーヤを放っておけないからだ。ただでさえトワイレックの女性は悪党に狙われやすいのに、セーヤはフォースに目覚めてライトセーバーも与えられ、探り探りでジェダイを目指している。頼れるマスターがいればまだ安心出来るが、セーヤの傍にいるのは旧式のバトルドロイドだけだ。セーヤは賞金首ではなくなったようだが、シスにも狙われているようだし、それ以外の奴らにも目を付けられかねない。そのくせ、一度は殺しに来たマンダロリアンと仲良くなるなんて、色々な意味で危なっかしい。
せめて俺にフォースがあれば、とカミーノはちらりと思ったが、だからといってどうにかなるものではない。セーヤのライトセーバーを預かっている最中、一度だけ作動させてみたが、実体を伴わないレーザーの刃を扱うのは難しすぎた。
セーヤはやがて本物のジェダイになる。そうなったら、カミーノとは縁遠い世界の住人になる。だったら、そうなる前に出来るだけのことをしてやりたい。
友達として。
営倉から出された。
とはいえ、まだ自由を取り戻せたわけではない。カミーノが連れていかれたのは施錠出来る個室で、スワンプ大佐ではなく父親のニースが同席した。記録用の小型ドロイドが、テーブルを挟んで向かい合っている父と息子を見つめていた。
改まった席を設けられるとやりづらいのはカミーノだけではなく、ニースも似たようなものなのだが、カミーノの証言が文書として記録されるので態度を崩すわけにはいかなかった。あくまでも軍人同士としての接し方だった。
「少尉。タトゥイーンで会ったのはこの二人とドロイドか」
ニースがホロを提示する。三本のトワイレックの少女、セーヤ・ミットー。賞金稼ぎのマンダロリアン、ケイ・ホーク。そして旧式バトルドロイドのテンノー。
「俺を呼び出したのはテンノーだ。非常事態だと言われて。実際、非常事態だったよ。ポッド・レースのチームのレーサーが逃げたから、その穴埋めをしてくれと言われて」
カミーノが答えると、ニースはカミーノの愛機の通信履歴を提示する。
「これがテンノーからの通信か?」
「そうだけど、それ以降は艦隊からの呼び出しだけだよ。そりゃ、レースが終わるまで無視したのは悪かったと思っているけど」
「他に言うことはあるか?」
「他って……ああ、そうか。俺がハットや他の犯罪組織を通じているとでも? そんなことはするかよ、面白くもなんともない」
カミーノが言い返すも、ニースは態度を変えずに話を続けた。
「帝国残党か、それに通じた相手と接触したか?」
「ポッド・レースのチームの監督兼オーナーのホーン・ゴーダは帝国軍の脱走兵で、元はメカニックだと言っていたけどな。セーヤは帝国残党の情報を欲しがっていたんだが、その情報を得るための条件としてレーサーの代わりを探してくれと言われたんだ。で、俺が呼び出されたってわけだ」
「あの子は何のためにそんな情報を?」
ニースに問われ、カミーノは迷った。セーヤがやがてジェダイとなる身だと教えれば、セーヤの行動にも説明が付く。だが、スワンプ大佐のようにジェダイを快く思わない人々も少なくない。クローン戦争を経験しているのであれば無理からぬことだし、多少時間が経とうともジェダイに対する失望は消えるものではないからだ。だが、このままではセーヤが帝国残党に通じているスパイにされてしまう。
「セーヤは……」
カミーノは迷いを振り払い、言い切った。
「セーヤはジェダイなんだ。まだ一人前じゃないし、マスターもいないんだけど、テンノーと一緒に頑張っている。セーヤが何のために旅をしているのか、誰と戦う運命にあるのかは知らないけど、俺達を帝国残党に売るような真似はしない」
「その証拠は?」
「ライトセーバーを持っていた」
カミーノが語気を強めると、ニースは少しだけ態度を緩めた。
「そうか、ジェダイか」
「少佐はジェダイと会ったことがあるのか?」
「一度だけだ」
ニースは記録用の小型ドロイドに命じる。
「今日はここまでだ。尋問の続きはまた明日だ」
「会ったって、どこで?」
カミーノが腰を上げると、ニースはドアを開けた。
「営倉に戻れ。それから、あまり深入りするなよ。ジェダイは素晴らしい力の持ち主だが、俺達では到底辿り着けない境地にいる」
憧れても無駄だ、と釘を刺された。ニースの足音が遠ざかってから、カミーノは脱力した。また営倉に逆戻りか、とうんざりする一方、セーヤに対する疑いが晴れたのは喜ばしかった。当のセーヤは、そんなことは知らずに旅を続けているだろうが。
今頃、どこにいるのだろう。
三日ぶりに営倉から出された。
カミーノが帝国残党や犯罪組織に通じておらず、同盟軍の情報を売っておらず、タトゥイーンで妙な連中と繋がったわけではないと信じてもらえたからだ。とはいえ、ビッグシップ基地にいる人々からの視線は冷ややかだったが、こればかりは仕方ない。自業自得なのだから。
久々に自分の部屋に戻り、カミーノは埃っぽくて雑然としたベッドや床に散乱する服やゴミを片付け、クリーナーを掛けた。正直言ってかったるいが、掃除を怠ったままでは居心地が悪い。アウターリムの哨戒任務に出る前に脱ぎ捨てていった衣服をまとめ、ランドリーに向かった。
全自動洗濯機に放り込み、洗濯と乾燥が終わるまで待つことにした。ベンチに腰掛け、唸りを上げて回転する洗濯機をぼんやりと眺めていると、ニースが現れた。
「なんだ、ここにいたのか」
「少佐。明日からはまた訓練のやり直しで、それが済んだら任務に復帰する」
カミーノがやる気なく返すと、ニースは隣に座った。
「今度は真面目にやれよ。それから、連絡を怠るな」
「解っているって」
カミーノは父親を窺い、尋ねた。
「いつ、どこでジェダイに会ったんだ? そんな話、今まで聞いたこともなかったんだけど」
「話す必要がなかったからだ」
「でも、今は違う。教えてくれよ」
カミーノが乞うと、ニースは息子に目をやる。
「そうだな……。いい機会だ、話してやる」
父親の大きな手が、すっかり大きくなった息子の頭に置かれる。
「俺がまだお前と同じぐらいだった頃、哨戒任務の最中に海賊が輸送船を襲撃しているのを見つけた。すぐに応援を要請して、俺はその輸送船から海賊船を引きはがそうとしたんだが上手くいかなかった。挙げ句に迎撃されて、輸送船の方になんとか不時着してスターファイターから乗り移ったんだ。輸送船の中は既に海賊に荒らされていたんだが、俺が乗り込んだ時には半数以上が倒されていた。ブラスターを握って進んでいくと、青い光の剣を持った男がいた」
「それがジェダイ?」
カミーノが身を乗り出すと、ニースは頷く。
「その通り。フォースを使う場面は見られなかったが、恐ろしく強かった。ブラスターを撃たれてもライトセーバーの一振りで弾き、一太刀で仕留める。動きに全く無駄がなくて、次にどんな攻撃を受けるのかが解っているようだった。彼は俺が不時着したことにも気付いていて、海賊を倒し終えてからこう言った。この輸送船には誘拐されてきた孤児がいる、どうかその子を預かってくれないか、と」
ニースは息子と目を合わせる。
「それがお前だ、カミーノ」
「俺、そんなのちっとも覚えていないんだけど」
カミーノが呆気に取られると、ニースは笑う。
「そりゃそうだ、まだ小さかったんだから。んで、俺の養子にして今に至るってわけだ」
「それで、そのジェダイはどこの誰なんだ?」
「ソウ・テッセン。それから、俺よりも年下の弟子を連れていたよ。その弟子の名前までは聞かなかったが、かなり強かったよ」
「ソウ・テッセン」
カミーノはその名を口にした。セーヤはソウ・テッセンのことを知っているだろうか。いや、テンノーに聞いた方が確実だろう。
「クローン戦争では色々なことがあった。俺も理不尽な目に遭ったし、ひどい戦場を見てきたし、クローン・トルーパーを忌み嫌うのも当然だ。ジェダイのこともそうだ。あれだけの強さを誇っておきながら、クローンに裏切られて大勢殺されたのは、ジェダイ・オーダーにも多少なりとも落ち度があったんだろう。だが、あの時、俺とお前を救ってくれたのもジェダイなんだ」
ニースの話を聞き終えると、カミーノは手の中にライトセーバーの重みが蘇ってきた。決して軽くはなかったが、ジェダイが握り締めているのはそれ以上のものだ。セーヤの小さな体では耐えきれないほどの。
「それなら、俺は」
カミーノは空っぽの手を握り締める。
「ジェダイの力になれるだろうか」
「だったら、いい友達でいてやれ」
ニースは息子の背中を荒っぽく叩くと、ランドリーを後にした。カミーノは背中の痛みに顔をしかめながらも、握り締めた手を開いた。
それが誰かなんて言っていないじゃないか、と今更ながら反論したくなったが、カミーノの知るジェダイはセーヤしかいないのだから、ニースがそう思うのは無理からぬことだ。
程なくして洗濯機が止まった。
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