トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
ホロ・ネットには膨大な番組がある。
奴隷だった頃のセーヤは、たまにホロ・ネットを見せてもらうことはあっても、番組を選ぶ自由までは与えられなかった。仕事の合間に奴隷仲間がこっそりと見せてくれたが、幼いセーヤには面白さが解らなかった。
ハイパースペースを航行中、セーヤは退屈凌ぎにホロ・ネットの番組をチェックしていた。ライトセーバーとフォースの訓練は一通り済ませたから、と言い訳しながらリストを流していった。
旧共和国時代の映画や音楽番組、帝国時代のプロパガンダ番組、独立星系の文化が色濃く表れたドラマや特撮、新共和国体制に代わってからの映画やスポーツ中継、と眺めていったが、これといって興味が引かれるものはなかった。
「それなら」
フォースに決めてもらおう、とセーヤはホロ・ネットの番組リストに手を翳した。フォースがホロ・ネットにも作用するんだろうか、という若干の疑問を抱きながらもセーヤがフォースを高めると、自動的にスクロールしていた番組リストがぴたりと停止した。
「お?」
手を下げ、セーヤは身を乗り出した。その番組を再生してみると、架空の惑星を舞台にした宮廷恋愛もので、華やかな衣装を纏った登場人物がドロドロの愛憎劇を繰り広げていた。暗殺、謀殺、呪殺、となんでもありなのでばたばたと登場人物が死んでいく。主人公の姫と相手役の宰相との恋愛の機微なんてどうでもよくなるほど、スリリングで一寸先は闇の政治劇が展開されていた。
「思っていたのと違う……」
まあ面白かったけどさ、とセーヤがホロを消すと、テンノーがやってきた。
「そのドラマは旧共和国の腐敗した政治を風刺しているので、政治劇がメインなのは当然です」
「えー……」
セーヤが不満を漏らすと、テンノーはホロ・ネットの番組リストをスクロールさせる。
「こちらの学園ドラマは帝国の恐怖政治に対する皮肉と揶揄がメインで、こちらの企業内の恋愛ドラマは独立星系に対する風刺で、こちらの少年と少女の青春映画は旧共和国の膠着した政権を……」
「どうして純粋な娯楽を作らないの?」
セーヤがげんなりすると、テンノーは肩を竦める。
「端的に言うと、需要がなくて製作費が降りないんですよ。そもそも、こういった番組の制作会社からして何らかの体制の支援を受けているわけですから」
「となると、敵対関係にある相手に一発かましてやろうっていう腹積もりで作るわけか」
「大体そんな感じです。何らかの思想を含んでいない娯楽作品を見たければ、個人の自主制作作品でも漁るしかないんですが、銀河は広すぎる上にインディーズともなれば底が知れないので、面白い映像作品に出会えるかどうかは運ですね」
「それはそれで面倒だなぁ」
セーヤは文句を言いながらも、気分直しに他の映像作品を探した。すると、アウターリムの惑星に降り立った様子と原住民とのやり取りを撮影したものがあった。ドキュメンタリーと言うほどではないが、個人で撮影したものにしては綺麗に撮れているし、編集も上手いので見応えがあった。
その中に《惑星ネゴス訪問記》というものがあった。ネゴスの人々、すなわちネゴシアンは男女を問わずに額から一対のツノが生えていて、目元には模様が浮かんでいた。模様の形状は様々で、個人差があるようだった。トワイレックの肌の色と似たようなものか、とセーヤは思っていたが、ふと記憶が蘇った。
「あ」
ネゴシアンの特徴は、以前、夢の中で出会ったお姫様に似ている。だとすると、彼女はネゴシアンだったのだろうか。しかし、セーヤはこれまでにネゴシアンと接触した経験がないので、ヴィジョンによる未来予知なのだろうか。
「ねえテンノー、この星って」
セーヤが惑星ネゴスの様子を映したホロを指すと、テンノーは首を横に振った。
「独立星系の中でも極めて危険ですので、立ち寄るのはお勧めしません。内戦が続いていますので」
「帝国は関係ないの?」
「ないこともないでしょうが、情勢が複雑ですし、宇宙港も機能しているかどうかも怪しいです。ただでさえ危険が付き纏っているのですから、敢えて戦火に飛び込む必要はありません」
「それはまあ……そうだけど」
セーヤはテンノーの意見に納得しながらも、なんとなく引っ掛かっていた。ハイパースペースから脱する頃合いなので、セーヤはホロを消した。程なくしてボブ・キャット号は通常の宇宙空間に戻った。
目の前にはガス惑星があった。
惑星ノグマ。
ミッドリムの星系にあるガス惑星であり、その大気からはライドニウムの原料となる成分が採取されるため、濃密な大気の中にガスを加工するための工場が設置されている。
今更言うまでもないことだが、戦時中は稼働率が300%を越えていて、多数の労働者が多額の報酬を目当てに危険な現場で働いていたが、戦争が終わると工場が縮小されてライドニウムの生産量が大幅に減少した。そのため、かつては工場労働者で賑わっていた衛星の内部の街は寂れてしまい、帝国残党はおろか新共和国からも見過ごされている場所と化した。
そうなると裏社会の者達が入り浸るようになり、タトゥイーンのように賞金稼ぎや海賊や密輸業者の吹き溜まりと成り果てる。
紆余曲折を経て手に入れたコードシリンダーを解析したが、帝国残党の新兵器に関する断片的な情報しか入っていなかった。恐らく、他の情報と組み合わせることで完成するように出来ているのだろう。
それでも読み取れたことがいくつかあり、帝国残党は惑星コーズの鉱山で採掘された鉱石を新兵器に利用している、というのは解った。しかし、惑星コーズに関する情報はホロ・ネットには流れておらず。データベースも同様だった。となれば、帝国残党が先手を打って情報を封鎖しているに違いない。
だが、実際に惑星コーズを訪れた経験がある人物であれば話は別だ。直接会い、惑星コーズで何が起きているのかを聞き出せばいい。そう思い立ったセーヤとテンノーは、タトゥイーンを後にしてから情報収集を続けた結果、辿り着いたのが惑星ノグマの衛星というわけだ。そこにいる人物は惑星コーズに行った経験がある、らしいからだ。
これまでの労力が無駄になりませんように、とセーヤは祈りながら、テンノーと共にその人物を探した。タトゥイーンのように人相からして悪辣な連中ばかりで、絡まれそうになるとセーヤはタトゥイーンから来たハットの奴隷だと嘘を吐いて場を凌いだ。裏社会で生きる者達であれば、ハット・カルテルに目を付けられる恐ろしさを良く知っているからだ。
そして、散々聞き回った末にようやく見つけ出した。件の人物はサク・ラギーチョという名の賞金稼ぎで、マスクで顔を覆っていた。横になるためのベッドしか置いていない宿屋の奥で、装備を外して寝そべっていたが、セーヤとテンノーが現れると身を起こした。
「誰だ、お前らは。借金取りか? それなら引き返してくれ、まだ調達出来ていないんだ」
「いえ、そうじゃなくて。惑星コーズに行ったことがあるって聞いたので、お話を聞きに。サク・ラギーチョってあなたのことですよね? 私はセーヤ・ミットー、こっちのドロイドはテンノー」
セーヤが話を切り出すと、サクはマスクを押さえて嘆息する。
「どこで聞いたんだ」
「情報源は様々です」
テンノーが補足すると、サクはブラスターをホルスターに提げ、ブーツにレガースを付ける。
「何が目的かは知らないが、俺は手を貸さない」
「帝国残党の動向を知りたいだけです」
セーヤが答えると、サクは辟易した。
「それこそ関わりたくない。わざわざ殺されに行くようなものだろ、お前らは馬鹿か?」
「殺されないために敵を知りたいんだけどなぁ」
セーヤがむっとすると、テンノーが諫めた。
「仕方ありませんよ、セーヤ。日を改めましょう。タトゥイーンのポッド・レースの優勝セレモニーの一部始終を至近距離で撮影したホロを見て頂くのは、明日にしましょう」
「ちょっと待て」
セーヤが背を向けると、サクに引き留められた。セーヤが振り返ると、サクは顔を上げる。
「お前ら、タトゥイーンにいたのか? あの新チャンピオンのことを知っているのか? クレイト・ドラゴンの奇襲をどうやって躱せたのか、聞いたのか?」
「うん、まあ、それなりに。情報交換ってことでどう?」
セーヤがにんまりすると、サクはベッドから立ち上がる。
「引き受けた。だが、あくまでも情報だけだ」
外で待っていろ、とサクに追い出され、セーヤとテンノーや宿屋の前に並んだ。セーヤはテンノーを見上げ、ちょっと笑う。
「全銀河に中継されていただけのことはあるね」
「こんなことなら、スターリバー少尉にサインでも書いて頂くんでしたね」
「ブルース・ライナーの方でね」
「それはもちろん。次の機会に頼んでみましょう」
テンノーの語気も上擦り、明らかに笑っていた。思わぬところで意外なことが役に立つものだ。それからしばらくして、アーマーと武器を身に付けたサク・ラギーチョが宿屋から現れた。
それから、食堂に移動した。
労働者向けの食事は味が濃い。
その上、量が多い。セーヤは山盛りのヌードルをずるずると啜ったが、なかなか減らなかった。細切れの肉と火が通りすぎた野菜が少しだけ混じっていて、塩気も強いが辛味も強く、ヌードル自体が柔らかすぎるので喉に引っ掛かる。
コルサントの下層区域にあるチェーン店、デジズ・ヌードルに比べれば味は劣るが食べられないことはない。しかし、いくら食べてもヌードルが減らない。それどころか、時間が経つにつれて膨張しているような気さえしてくる。
「減らないだろ、それ」
マスクを半分上げて骨付き肉を齧っていたサクに指摘され、セーヤは頷く。
「減らない」
「残したらウォンプ・ラットに喰われるぞ」
サクはマスクを下げた。
「それで、さっきの話の続きだが」
「そちらからどうぞ。私が録音しておきますので」
テンノーが示すと、サクは姿勢を正した。
「ああ、そうかい。それなら、惑星コーズについて俺が知る限りのことを教えてやる。コーズには鉱石の鉱脈があって、それを掘るために色々な業者が手を出していたんだが、戦後のゴタゴタに乗じて帝国残党が全ての鉱山を占領しやがった。俺は帝国残党が来る直前までコーズにいたんだが、なんとか脱出した。労働者とドロイドもいたが、機密保持のために宇宙船の類は奪われたんで、あいつらは今でもコーズに閉じ込められたままだ」
「なんでコーズを訪れていたの?」
セーヤが問うと、サクは肉を食べ終えた骨を放り投げた。途端に物陰からウォンプ・ラットが駆け出してきて、その骨を奪って逃げていった。
「そこまで教える義理はない。さあ話したんだ、そっちも話す番だ」
「コーズからの脱出ルートを逆に向かえば、コーズに潜入出来ますか?」
テンノーが問うと、サクは酒を呷る。
「さあな。俺のガンシップが帝国艦隊の封鎖を擦り抜けられたのは、運が良かったからだ。同じことをもう一度やれって言われても無理だ」
「なんか、行かなきゃいけないような気がする」
セーヤはフォークを置いた。惑星コーズに向かわなければ、とフォースが促してくる。ヴィジョンよりも明確で逆らい難いものだ。
「おいおい、勘弁してくれ」
サクは身を引いたが、セーヤは優勝賞金の一部である新共和国のクレジットを置いた。
「中身は5000」
「……少し、考えさせてくれ」
サクはゴールドのクレジットに手を伸ばしかけたが、しばらく悩んでいた。セーヤが大金を持っていることを訝り、タトゥイーンで何をしてきたのかと警戒し、迂闊に関わると面倒なことになると危惧している。マスクで顔を隠していても、フォースを通じて伝わってくる。となると、彼もフォースユーザーなのか。
それにしてはマチルダやマスター・フマガとは違う感じがする、と思いつつ、セーヤはヌードルを食べ進めた。二杯目の酒を呷ってから、サクはようやくクレジットに手を伸ばした。
「行くだけだ。俺は手を貸さない」
サクはクレジットをポーチに入れると、腰を上げた。ガンシップの整備に向かうためだ。セーヤもボブ・キャット号に戻るため、ヌードルがたっぷり残った皿を物陰に潜んでいるウォンプ・ラットに差し出した。
一瞬で食べ尽くされた。
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