トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
帝国残党の輸送船を調べた。
積み荷の詳細は明かされていなくても、寄港地やハイパースペース航路の長さ、補給した燃料の総量、ドロイドの通信履歴などの細々とした情報を収集し、解析していけばおのずと手掛かりが得られる。ドロイドの演算能力があればこそだ。
とはいえ、スワンプ大佐から得た情報を一つ一つ精査するとなれば時間が掛かる。テンノーが解析している間、ボブ・キャット号の船内でセーヤはセーバー剣術の訓練に励んでいた。オード・キューの言葉が引っ掛かっていたからだ。
構えはシャイ=チョーだが太刀筋はマカシ、動きは中途半端なアタル。つまり、どれもこれも身に付いていないのだ。表面的に捉えただけであって、セーヤに合った型ではない。
レックの根元を覆っているマフラーで目を隠し、訓練用ドロイドが不規則に発射してくるレーザーをライトセーバーで弾きながら、セーヤは自分の内側のフォースの流れとライトセーバーの動きが最も馴染むのはどの型なのか試していた。
自然と体が動き、フォースの流れが淀まず、力みすぎず、それでいて確かな威力を発揮出来るフォーム。もう少しで掴めそうだ、とセーヤはライトセーバーを振り上げたが、訓練用ドロイドが止められた。
「セーヤ、情報の解析が完了しました」
テンノーだった。セーヤはマフラーの位置を直し、結んでから、三本のレックを払う。
「それで、有力な手掛かりはあった?」
「あるにはありましたが……」
テンノーはブリッジに移動し、ホロを表示させた。セーヤは帝国残党の輸送船と取引している密輸業者のリストに目を通したが、声を潰した。
「うげっ」
ナザ・シーサイの名があったからだ。
「帝国残党の輸送船に近付き、より詳しい情報を収集するにはナザ・シーサイを利用するのが得策でしょう。セーヤは奴の手の内を把握しておりますから」
テンノーの意見は尤もだったが、セーヤは渋った。
「出来れば関わりたくないんだけど」
「ですが、この宙域から最も近い物流倉庫に出入りしているのはナザ・シーサイの所有する輸送船です」
「せめて他の誰かを雇うとか」
「生憎、ポッド・レースの賞金の分け前も底を突きました。セーヤは人を雇う時に大盤振る舞いしてしまいますので」
「だって、報酬は多い方がいいでしょ?」
「だとしても、それは交渉を経てからです。いずれはマインドトリックも使うようになるでしょうから、そのためにも交渉術を身に着けておきませんと」
「でもなぁ……」
セーヤはますます渋った。マインドトリックはフォースによる技術の一つであり、相手の感情や思考を操るものだ。相手が特に何も考えていない状態であれば上手くいくが、そうでない場合は疑問を抱かれ、却って不利な状況を招いてしまう。
セーヤも通りすがりの人物を捕まえて、害のない思考や感情を持つように促してみたが、上手くいった試しがなかった。セーヤ自身がマインドトリックを信じ切っていないから、というのが原因なのだが。
「フォースを操るには自信が必要でしょ」
セーヤがこれまでの経験を踏まえると、テンノーは同意する。
「そうです。それこそフォースと通じ合うための第一歩なのです」
「でも、自信を持ちすぎると慢心に繋がるでしょ」
「当然です」
「慢心は油断と驕りを招く」
「その通りです」
「だったら、自信と慢心の境界線ってどこにあるの?」
セーヤが疑問を呈すると、テンノーは考え込んだ。
「難しい質問ですね。私はそれに対する明確な答えは持っていませんが、一つだけ言えることがあります。そうして自省と客観視が出来るのであれば、セーヤは慢心せずに済む、ということです」
「そうかなぁ」
「ですが、自己評価が低すぎるのはジェダイとしてはよろしくありませんので、バランスが大事です」
「また難しいことを……」
セーヤはテンノーに言い返しながらも、ナザ・シーサイと接触するか否かを悩んだ。正直言って、リスクしかない。だが、避け続けていても、やがては立ち向かわなければならないのは事実だ。それに、最も重大な問題がある。セーヤの契約書を破棄してもらわなければ、いつまでたってもナザ・シーサイの所有物のままだ。契約書自体が存在していれば、の話ではあるが。
「とりあえず行くだけ行ってみるかぁ」
セーヤが気を取り直すと、テンノーは励ました。
「それでこそセーヤです。では、物流倉庫に向かうためのハイパースペース航路を計算しますね」
「気乗りはしないけどね」
そうは言いながらも、セーヤは腹を括った。テンノーが座標を計算し終え、ハイパースペースに突入すると、宇宙空間が一変した。セーヤは雑念と不安を振り払うべく、訓練を再開した。
集中すると、少しは気が晴れた。
銀河のあちこちに物流倉庫はある。
星系を跨いで膨大な物資を供給するためには、それ相応の大きさの輸送船とルートが不可欠であり、中継地点には巨大で鈍重な輸送船が停泊出来るだけのサイズの宇宙ステーションが用意されている。これまでにもセーヤは物流倉庫を訪れたが、今回のモトマ倉庫は特に大きかった。
アウターリムの小惑星帯に浮かんでいて、本来は惑星の一部だったであろう小惑星の内部を改造してあり、多種多様な輸送船がひっきりなしに訪れては積み荷を入れ替えていく。新共和国による検閲はあるが、それを掻い潜るための手段もあり、見るからに怪しげな輸送船や海賊と思しき連中も出入りしていた。
セーヤはボブ・キャット号の補給を済ませてから、テンノーと共に入港する輸送船をチェックしていた。すると、その中に船籍を偽装しているが、ナザ・シーサイの密輸組織に関わっている宇宙船を見つけた。
「これだね」
セーヤはテンノーを伴い、宇宙港に向かった。ナザ・シーサイの部下が乗り込んでいるだろうから、ボスに連絡を入れてもらって交渉に持ち込んで、とセーヤは考えを巡らせながら近付いた。
すると、ドロイドに混じって荷下ろしをしているのはナザ・シーサイに他ならなかった。それどころか、かつての部下に叱責されている。どういうことだろう、とセーヤは疑問に駆られた。
「どうしたんだろう」
セーヤが首を傾げると、テンノーがナザ・シーサイを指した。
「セーヤがケイに襲撃された際、ナザ・シーサイは同盟軍に追われましたから、その後で組織の中で何らかのトラブルが起きたのでしょう。奴隷に逃げられただけでなく同盟軍にも目を付けられたとあっては、裏社会では恥ですから、それに付け入られて失墜させられて組織を乗っ取られた、というところでしょう」
「だとすると、今のリーダーは誰?」
セーヤが訝ると、テンノーは輸送船を仰ぎ見た。
「それに関しても調べてみませんとね。取引するにしても、相手が違えば要領も違いますから」
いずれにしても、付け入る隙があるのは確かだ。セーヤはコンテナを運ぶドロイドの間をすり抜けていき、薄汚れた作業着姿でコンテナを押しているナザに声を掛けた。
「久し振りですねえ、ご主人様」
「あっ、お前は!」
ナザは途端に激昂して掴み掛かろうとするも、セーヤはするりと避けた。テンノーはナザを押さえ付け、セーヤとの一定の距離を保つ。
「お元気そうで何よりです」
「冗談じゃない、お前のせいで何もかも台無しだ! 奴隷の分際で!」
ナザは短い手足を振り回して暴れるが、テンノーはそれを遮る。
「こちらも話があるので、お時間を頂けますか?」
「そんなもん、今の俺にあるわけがないだろう!」
ナザは二つの口をしきりに動かして怒鳴り散らすと、異変に気付いて現場監督が歩み寄ってきた。セーヤは現場監督の前に立ち、手を翳す。
「今は労働者の休憩時間だ」
セーヤはフォースを通じ、現場監督の精神に触れる。単調で感情の波が激しいので、その隙間にフォースを滑り込ませ、セーヤの思考と同調させる。
「……今は、労働者の休憩時間だ」
現場監督は同じ言葉を繰り返したので、セーヤは続けた。
「だから、作業を中断する」
「だから、作業を中断する」
現場監督はセーヤと同じ言葉を発し、くるりと身を転じて去っていった。ナザは目を剥いていたが、恐々とセーヤを窺う。
「それはジェダイの技か?」
「成功したのは初めてだけどね」
とにかくこの場を離れよう、とセーヤはナザを促した。テンノーは荷下ろしをしていたドロイドにシリンダーを接続し、こちらも休憩を取るように指示を出してから、セーヤに続いた。
マインドトリックは成功したが、他人の精神に直接触れるのは変な感触がある。セーヤは背筋がぞわぞわしてきたが、これもまたジェダイの試練なんだ、きっとそうだ、と気を紛らわした。
その違和感はなかなか消えなかった。
テンノーの予想通りだった。
セーヤに逃げられ、同盟軍に追い回されたことでナザは部下達から不信感を抱かれるようになり、そのタイミングでより強いリーダーが現れたため、実に呆気なく組織が乗っ取られてしまった。ナザは見せしめとして格下げされ、きつい労働を命じられていた。
「それで、そのリーダーって?」
セーヤはドリンクスタンドでメイルーランのジュースを買い、飲んだ。
「デヴァロニアンの若い女だ。名前はクレイン。これまでにもデヴァロニアンの輸送会社や密輸組織とは取引してきたが、底では見かけたことはなかった。そんな奴が、なぜ俺の組織に目を付けたのかはよく解らんが……」
ナザはセーヤと同じものを飲んでいたが、背中が丸まっているせいで情けなかった。
「だが、まさかお前がジェダイになっているとはな。道理で変な連中に狙われるわけだ。おかげで大損だ」
「私の契約書ってどうなっているの?」
セーヤが問うと、ナザは察した。
「それを取引の材料にするつもりか? 馬鹿を言うな、手放せるもんか! お前がジェダイになったとあれば、今まで以上に価値が上がる! これまでの損失の埋め合わせをさせるに決まっているだろう!」
「ですが、セーヤの話を受ければ、あなたは本来の権力と財産を取り戻せますよ?」
テンノーの言葉に、ナザは悔しげな呻きを漏らしていたが、最終的にはセーヤの契約書を破棄することと引き換えにクレインを追い出すことでまとまった。そのクレインが話が通じる相手ならいいんだけど、とセーヤはちらりと思ったが、そうはいかないんだろうな、とも思っていた。
ヴィジョンが見えたからだ。
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