トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
契約書の在り処を聞き出した。
輸送船の内部、かつてのナザ・シーサイの居室であり、現在はクレインの所有物となった部屋には金庫があり、その中にも組織の運営に欠かせない書類が保管してある。それ以外にも帝国と新共和国のクレジット、独立星系の通貨、高値で取引される宝飾品などがあるとナザは豪語していたが、セーヤにとってはどうでもよかった。
テンノーに輸送船の内部構造を把握してもらい、その船室に向かうためのルートを確認した。クレインの所在についても調べた。ブリッジと通信室を行き来していて、そうでない場合は居室で過ごしている。どうやら、外部と頻繁に連絡を取り合っているようだ。
「クレインのバックに誰かが付いているってこと?」
セーヤはボブ・キャット号を発進させるための準備を進めつつ、ナザを窺った。ナザは船内の内装を眺めていたが、セーヤに目を戻す。
「間違いなく。それが帝国残党の一派なのか、海賊なのか、他の組織なのかははっきりしていないが」
「倒した後に調べれば問題ありませんよ」
テンノーはスコンプ・リンクからシリンダーを抜いた。
「簡単に言ってくれちゃって」
セーヤがむっとすると、ナザは目を上げる。
「だが、ジェダイであれば相当なものなんだろう?」
「それはジェダイ・マスターとかジェダイ・ナイトであって、私はちょっと慣れてきたって程度。契約書を見つけて破棄するまではやるけど、そこから先は自分でどうにかしてね」
セーヤが言い返すと、ナザは吐き捨てた。
「奴隷のくせに好き勝手言いやがって。この船にしてもそうだ。俺の財産だったのに盗みやがって」
「それも今回のことでチャラにする、ってことでまとまったでしょ?」
「クレインを倒せなかったら、その時は全部返せ。お前もそのドロイドも俺の奴隷に戻るんだ」
「そこまで言うなら」
セーヤはおもむろにボブ・キャット号の重力制御装置を解除し、操縦桿を思い切り傾けた。セーヤは操縦席のシートベルトを出してロックし、テンノーは両足の裏を電磁力で床に貼り付けたので何事もなかったが、ナザはそうもいかなかった。座席から放り出され、ごろんごろんと転がっていく。
セーヤはボブ・キャット号の姿勢を戻し、ナザの様子を窺うと、シャワーブースに激突して動かなくなっていた。思いがけない衝撃を受けたため、目を回してしまったらしい。丁度いい、しばらく黙っていてもらおう。セーヤはテンノーと目を合わせてから、物流倉庫の格納庫から発進した。
小惑星帯に隠れていたが、かつてはナザの持ち物だった輸送船が発進した頃合いを見計らって追尾した。レーダーに引っ掛からない程度の距離を保ち、ハイパースペース航路に突入する寸前に接近し、ドッキングした。
海賊の如く、強引に。
輸送船に侵入した。
セーヤはテンノーが遠隔操作してロックを外したドアを通過し、船内に潜り込んだ。不審なシャトルがいきなり接触してきたばかりか、ドッキングしたので騒がしくなっていた。ボブ・キャット号は輸送船側から乗り込まれる前に離脱し、レーザー砲の射程外まで逃れている。
つまり、ボブ・キャット号が戻ってくる前に決着を付けなければ、セーヤは離脱するタイミングを失ってしまう。クレインの実力はまだ解らないが、輸送船に近付いた時点でフォースがひりついているので、あちらもセーヤを認識している。
明確な敵意と呼べるほどのものではないが、戦いたくてたまらない。その相手が強ければいいが、弱ければつまらない。フォースでどんなことが出来るのか、ライトセーバーの腕前がどれほど上がったのかを確かめ、その先に至るにはどうすればいいのかを知りたい。
クレインの感情は向上心というよりも、暴力の味を覚えた者のそれだった。やはりシスだ。なんて極端な考え方なんだ、それでもフォースは応えてくれるんだろうか、だけどダークサイドならもしかして、とセーヤは複雑な気持ちになりながらも、通路を進んでいった。
もちろん、様々な妨害はあった。ドロイドが割り込んできたり、隔壁に塞がれたり、ブラスターで武装した乗組員に出くわしたが、セーヤはそれらを退けた。フォースとライトセーバーを上手く併用すると、必要最低限の動作で制圧出来るのだから便利だ。といっても、熟練のジェダイからすれば、まだまだ無駄が多いのだろうが。
そして、かつてのナザ・シーサイの居室であり、クレインが待ち構えている部屋に到達した。セーヤはドアのロックをテンノーに解除してもらうか、それともライトセーバーで破壊するかと少し迷っていると、セーヤが動く前にドアが開いた。
これは誘われている。セーヤはライトセーバーの刃を収めると、コムリンクでテンノーに連絡を入れた。
「テンノー。これから暴れるけど、場合によっては私の帰りを待たずに離脱して」
『解りました、セーヤ。ですが、引き際を見極めるのも大事ですよ』
「うん、そのつもりだよ」
そう言ってから、セーヤはコムリンクをオフにした。オード・キューに勝てたからと言って調子に乗れるほど、浅はかではない。増して、相手が未知のシスともなれば尚更だ。
ナザ・シーサイの居室だけあって、内装は悪趣味だった。これまでの商売で手に入れた宝飾品が棚に並べられていたが、いざという時に換金するためのものだろう。護身用のブラスターもあり、ストーム・トルーパーなどの帝国軍兵士のヘルメットも床に転がされていた。
それらを横目に進んでいくと、広々としたデスクがあり、そこに大柄な女が腰掛けていた。赤い肌で頭部には太いツノが生えており、体格が良くて筋肉質だった。
「あんたがクレインだね」
セーヤが身構えると、クレインはデスクから降りて直立した。身長も高く、ライトセーバーの柄を弄んでいる手も骨太だ。
「その通り。あんたのことはオードから聞いていたけど、思った以上だった」
クレインは威圧的な眼差しでセーヤを見下ろしてくる。セーヤは唇をきつく結び、睨み返すが、迫力では勝ち目がなかった。
「一人で乗り込んでくるなんて、身の程知らずにも程がある!」
クレインは手を突き出してフォースを放ち、セーヤを吹き飛ばした。セーヤは壁まで追いやられ、棚に激突しそうになったが、とっさにライトセーバーを起動させて壁を切断した。
断面が赤く熱した壁の破片がずり落ち、宝飾品の残骸が散らばる中、セーヤは隣の部屋に転がり込む。すかさず身を起こしてライトセーバーを握り直すと、赤い光の刃が翻り、壁の穴が拡張された。そこから大股に踏み入ってきたクレインは、セーヤに赤いライトセーバーを振り下ろす。
「うっ」
セーヤは防戦を強いられた。クレインの太刀筋は大振りだが、それ故にパワーがあり、セーヤの腕力では受け流すだけで精一杯だった。その合間にフォースで吹っ飛ばされそうになるので、セーヤは自身のフォースで相殺するも、そちらでも力負けしてしまった。
結局、セーヤは通路まで追い出されてしまった。クレインの狙いは何なんだろう、と探りを入れたくても、それどころではない。
「その程度でジェダイを名乗るな!」
クレインはセーヤとの間合いを詰め、ライトセーバーではなく蹴りを繰り出した。それは想定していなかった、とセーヤはぎょっとしたが、まともに喰らってしまった。
受け身も取れずに壁に激突し、下腹部の激痛から遅れて背中の痛みが来る。そのせいでセーヤはライトセーバーを落とし、フォースで引き戻そうとするも、クレインはそれを蹴って通路の奥に滑らせた。
「セーヤといったね? あんたは特別でもなんでもないよ、上には上がいる。それこそ、私のマスターみたいにね」
クレインは手を翳し、セーヤの細い喉をフォースで締め上げる。喉が圧迫されて息が詰まり、身動きが取れなくなったセーヤを、クレインはフォースを用いて持ち上げていく。床が遠ざかるにつれて圧迫感が増し、セーヤが身悶えしていると、クレインはうっすらと笑みを浮かべた。
「ここで首を折るのは簡単だけど、それじゃ勿体ないね。連れて帰って、今度こそシスになってもらわないと。実力はさておき、作戦のためには人手は少しでも多いほうがいいんだから」
作戦。それはなんだ。セーヤは意識が朦朧としてきたが、その反動なのか、却ってフォースの感覚が冴え渡ってきた。クレインの内面には潜り込めなかったが、輸送船全体の様子を敏感に感じ取った。その中には、セーヤよりも幼く、弱々しいが、生命力に溢れたフォースの持ち主が隠れていた。それも三人も。
子供を攫ってきたんだ。それを運ぶために輸送船を奪って、新共和国の目を逃れようとしていたんだ。それに気付いた途端、セーヤは怒りよりも先に悲しみに襲われた。そして、それはセーヤのフォースを高ぶらせてくれた。
セーヤは歯を食い縛り、体の内側から溢れ出すものを最大限に解き放った。それはクレインのフォースチョークを一瞬で弾き飛ばし、クレイン自身も壁に叩き付けられたが、それだけでは収まらなかった。セーヤは右手を伸ばしてライトセーバーを引き寄せ、取り戻してから、左手でクレインを持ち上げた。
「しばらく出てこないで」
セーヤはクレインを部屋の中に放り込むと、壁と天井の内壁をフォースで剥がし、ドアを塞いだ。悔しさと悲しさに任せてクレインと戦えば、ダークサイドに引きずられかねないからだ。深呼吸して気持ちを落ち着けてから、今一度、セーヤは子供達の居場所を感じ取った。
格納庫のコンテナの中にいる。
コンテナのドアを開けた。
真っ暗な空間に光が差し込むと、コンテナの奥では子供達が身を寄せ合っていた。生後半年程度のヒューマンの赤ん坊、二歳程度のローディアンの幼児、ベビーキャリーの中で眠っているアイソリアンの乳児。セーヤは焦る気持ちを抑えながら、子供達に歩み寄る。
「大丈夫だよ。ほら、おいで」
セーヤが手を差し伸べると、ローディアンの幼児はよたよたと歩み寄ってきた。急に親から引き離された恐怖と不安がフォースを通じて流れ込んできて、セーヤはますます悲しくなったが、それに押し潰されないように自分を強く保った。
「すぐに外に出ようね。それから……」
親元に連れ戻すのがいいのか、それともジェダイ・オーダーに引き渡すべきなのか。セーヤは僅かに迷ったが、ローディアンの幼児を抱き締めて宥めた。そうしなければ、この子のフォースが周囲に被害をもたらしかねなかったからだ。
「そうだね、それは私が決めることじゃない」
セーヤは気を取り直してから、三人を連れてコンテナを抜け出した。クレインがバリケードを突破して追ってくるのは時間の問題なので、セーヤは脱出ポッドを利用することにした。
セーヤと三人の子供達は手近な脱出ポッドに入り、輸送船から分離させると、トランスポンダーをボブ・キャット号に送信した。程なくしてボブ・キャット号が現れ、追撃される前に回収してくれた。
ハイパースペースに突入した後、セーヤが子供達を連れてボブ・キャット号に戻ると、テンノーとナザが待ち構えていた。
「その子達もフォースの持ち主なのですね」
テンノーが子供達を眺めると、セーヤはローディアンの幼児と手を繋いだ。
「だけど、私じゃ助けきれない。ジェダイ・オーダーに引き渡すべきか、それとも新共和国に助けてもらうか……」
「ジェダイに連れていかれたら、二度と会えない。そうなんだろ?」
ナザはアイソリアンの乳児を見つめ、苦々しげに零した。その様子でセーヤは察した。
「ナザ、その子は」
「俺の息子だ。だから、何もかもクレインにいいようにされちまったんだ。無事でよかった」
ナザは幼い息子をそっと撫でると、アイソリアンの乳児は短い手足をばたつかせた。
「だが、俺の傍にいても不幸になるなら、シスに目を付けられたのなら、ジェダイにならないと自分の身を守れない。だが……だからって、そう簡単に割り切れるもんじゃない」
「だったら、考えたらいいよ。ジェダイ・オーダーに連絡を入れるのは、その後でもいい」
セーヤの言葉に、ナザは目を上げた。
「それで、契約書はどうなった?」
「手に入れそびれちゃった。この子達の存在を感じ取ったら、じっとしていられなくて」
セーヤが苦笑すると、ナザは息子の小さな手を優しく握った。
「それなら、契約書は俺がなんとかする。悪い取引じゃないだろ?」
「うん、差し引きゼロ」
セーヤは頷いた。すると、ヒューマンの赤ん坊がぐずり出したので、セーヤはその様子を確かめた。空腹なのか、喉が渇いているのか、それともおしめが汚れているのか。テンノーに湯冷ましを作ってもらってから、セーヤは赤ん坊の汚れたおしめを脱がし、手近な布と交換した。
それから、湯冷ましを飲ませてやった。
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セーヤ・ミットー
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テンノー(NO-10)
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サク・ラギーチョ
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