トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
トラムを乗り継いだ。
セーヤは周囲の目が気になったが、気にしていないような素振りに徹した。テンノーはドロイドなので表情が見えないが、彼も心なしか緊張している、ような感覚を覚えた。セーヤの思い過ごしと言えば、それまでなのだが。
コルサントの中層区域で生活している人々は、富裕層とまではいかないまでも、平均よりは余裕のある暮らしをしている。服装や宝飾品、連れているドロイドの価格帯から見て取れる。中には使用人を連れている者もいるが、奴隷との区別は付けづらい。
三本目のトラムに乗り、宇宙港が近付くにつれてセーヤは落ち着かなくなってきた。ベルトに提げたライトセーバーは意外と重たかったし、歩くと太股に当たるし、たまに骨盤に激突して痛みが響く。
「ねえ、テンノー」
セーヤはジャケットの上からライトセーバーを押さえ、テンノーに小声で尋ねた。
「これ、他の人達もこうしていたの?」
「はい、例外はありません」
テンノーはセーヤに合わせて主語を抜いて答えると、セーヤは眉根を潜めた。
「ガツガツ当たって痛いんだけど」
「当たるのですか?」
「だってほら、ぶらぶらしているし」
「ですが、我がマスターからはそのようなことを聞いたことはありません。もちろん、他の方からも」
「そんなことないって、痩せ我慢しているだけだよ。ガツンと来て骨に響くんだから」
「それも修行のうちですよ、セーヤ」
テンノーはそれらしいことを言ったが、セーヤはちっとも納得しなかった。本物のジェダイでも痛いものは痛いはず、きっと服の下に何かを仕込んであるんだ、クッションとか、と言い訳めいたことを考えずにはいられなかった。
トラムが宇宙港の最寄り駅に到着すると、乗客達が吐き出されていった。セーヤとテンノーもそれに続いたが、無事に改札を通り抜けられた。改札を抜ける瞬間、テンノーがセーヤが所持している偽造IDチップのナンバーを偽装したからだ。
セーヤは不安と緊張に苛まれながらも宇宙港に入ると、中所得層向けのシャトルが並んでいた。コルサントの衛星軌道上にある宇宙ステーションに移動するためのものと、個人所有のものと、コルサントを周遊しているものがある。密航するのであれば、宇宙ステーションに向かうシャトルだ。
「テンノー」
セーヤがテンノーを小突くと、テンノーは手近な端末に接続した。
「はい、セーヤ。承知しております」
テンノーは即座に宇宙ステーションへの定期運航便の空き状況をチェックし、奥のシャトルを指した。
「あの便にキャンセルが出ました」
「それじゃ、それを……」
「予約いたします」
テンノーはそう言いながらも、定期運航便の空席にセーヤの偽造IDを入力し、クレジットの支払いも偽装した。犯罪に慣れすぎているのでは、ジェダイってそういうものなのか、とセーヤは懸念しながらも、テンノーの様子を見守った。
「搭乗開始時刻です。参りましょう、セーヤ」
「うん……」
セーヤはテンノーに続いたが、罪悪感は拭えなかった。今のところは立て替えてもらったということで、そのうち何らかの手段で支払おう、と考えずにはいられなかった。
セーヤは幼い頃から奴隷として扱われていたが、雇い主の庇護下にあり、一定水準の生活が保障されていたということでもある。奴隷の身なりの良さや賢さは主人の財力や力量の現れでもあるので、セーヤもそれなりの教育を施されていたし、外に出しても恥ずかしくない振る舞いが出来るように教えられた。
だから、セーヤは読み書き計算も出来るし、飢えたこともなければ盗みをしたこともないし、善悪の分別が付けられる。それはいいことではあるが、裏社会で生き延びるための貪欲さまでは身に付かなかった。そのせいで、あの時までは行動に移せなかった。
「あ、そうだ」
ふと、セーヤはあることを思い出した。他の客と共に平然とシャトルに乗り込んでから、テンノーに尋ねた。
「バーが停電になったのはテンノーのおかげ?」
「はい。店内の様子をセンサーで感知しておりましたので、適切なタイミングで電力供給を遮断しました」
「配管パイプのハッチを開けてくれたのも?」
「はい。熱反応でセーヤの居場所を探知しておりましたので」
「やっぱりかぁ。偶然にしては出来過ぎていると思ったんだよ」
「それもこれも、我がマスターの指示によるものです」
では失礼します、とテンノーは一礼してからシャトルの後方に引き下がった。ドロイド達は同じ場所に集められ、床に磁力で固定された。テンノーと離れるのはちょっと不安だが、セーヤはシャトルの座席に腰を下ろした。
出発するのが待ち遠しかった。
アナウンスの後、離陸した。
ドロイドの操縦は的確で無駄がなく、発進したシャトルはコルサントの階層を真っ直ぐに通り抜けていく。無数のスピーダーとシャトルが行き交う様子や、煌びやかな大都市を横目に見ていると、セーヤは緊張の中に複雑な気持ちが過ぎった。もしも私がコルサントの上層区域の生まれだったら、と思わずにはいられなかったが、ふとある建物に目を惹かれた。
「あれは……」
最先端で洗練されたビルの中に埋もれるかのように、古めかしく質素な外見の建物がある。目立たないが、それなのに気になって仕方ない。体の内側が波打つような、神経がざらつくような、それでいて何かが張り詰めてしまうような。
「ジェダイ聖堂の修復、済んだんだね」
セーヤが身を乗り出しているのを見、その視線を辿ったローディアンの乗客が言った。
「クローン戦争の時にひどく壊されたそうだけど、すっかり綺麗になったね。でも、今、あの聖堂にいるジェダイは数えるほどしかいないんだって」
先程の乗客の隣の席にいる客が話を続ける。こちらもローディアンだ。
「だけど、コルサントにいてもジェダイなんて見かけたことはなかったなぁ。もしかすると、これからは観光地にするつもりかな」
「そんなの、誰が見に来るんだよ」
「それもそうか。コルサントに来てまで、歴史の勉強をするのはつまらないもんね」
それから、二人の乗客は旅行の日程について談笑し始めた。セーヤはシャトルの後方にいるテンノーに目をやると、テンノーは首を横に振った。そんなことはありませんよ、とでも言いたげに。
ジェダイ聖堂にはどんなジェダイがいるんだろう、いたとしてもセーヤのことをどう思うのだろう、そもそも私は本当にジェダイになれるのか、とセーヤは徐々に俯いてしまったが、ふと幻が見えた。いや、これはフォースによるヴィジョンか。
「あ」
シャトルが宇宙ステーションに到着する寸前、別のシャトルが横付けしてきて強引に誰かが乗り込んでくる。その人は、セーヤの前の席に座っているヒューマンの男を捕まえていく。けれど、その男がドロイドに命令してシャトルをハイパードライブに突入させて、その後は。
「え?」
その後はどうなるんだ。セーヤは思わず顔を上げたが、宇宙ステーションが見えてきた。シャトル用のドックに真っ直ぐ向かっていたが、減速し始めた途端、別のシャトルが割り込んできた。今し方のヴィジョンで見た通りに。
となると、その次は。セーヤが思わず腰を浮かせると、衝撃の後、シャトルが傾いた。ハッチが連結されてこじ開けられ、突入してきたのは、ヘルメットを被ってブラスターを握り、武器を携えている女だった。賞金稼ぎだ。
「見つけた」
悲鳴が上がる中、賞金稼ぎの女はセーヤの前の席に座っている男に迫ってきた。だが、男はブラスターを抜いて素早く撃った。しかし、賞金稼ぎの女は僅かに体を傾けるだけで回避し、逆に撃ち返した。
「生かしたまま連れていくって契約だからね」
賞金稼ぎの女は肩を撃ち抜かれて崩れ落ちた男を掴み、ずるずると引き摺っていく。セーヤは座席で身を縮めていたが、賞金稼ぎの女に目をやった。女もまた、ヘルメット越しにこちらを見た、ような気がした。
「ここで捕まってたまるか!」
男は激昂し、賞金稼ぎの女のヘルメットをブラスターで撃つと、そのエネルギー弾が跳弾して機内を跳ね回る。それが後方に集められていたアストロメク・ドロイドに掠め、誤作動を起こした。
「どこでもいい、ハイパードライブで飛ばせ!」
ビガビッ、と暴走したアストロメク・ドロイドは客席を突っ切り、コクピットに突っ込んだ。
「ああっ、お止めください!」
パイロットのドロイドが慌てふためいて制止するも、アストロメク・ドロイドはハイパードライブにランダムな数値を入力して起動させた。
直後、シャトルはハイパースペースに突入した。
どうしてこうなった。
そう思っているのはセーヤだけではないだろう。あの男は賞金稼ぎの女に改めて捕まり、拘束されたが、シャトルは未知の領域を目指して飛び続けていた。強引に通常の宇宙空間に出たら事故が起きかねないので、出口に至るまで待つしかない。
「ねえ、あんた」
賞金稼ぎの女に呼ばれ、セーヤははっとする。
「えっ、私?」
「そう、あんた。武器を持っているでしょう、出して」
「なんで?」
それが解ったの、とセーヤは言いかけたが、腕の立つ賞金稼ぎであれば武装しているか否かは体の動かし方や重心の取り方で解るのだろう。
「私が捕まえに来たのはあいつだけど、余計なトラブルを起こしたくないでしょ?」
賞金稼ぎの女はブラスターの銃口を下げ、左手を出した。セーヤは他の乗客からの視線を浴びながら、ジャケットの下にあるライトセーバーに触れた。セーヤがこれを握ったのはついさっきだが、それでもライトセーバーが大事なものなのは解る。増して、それがテンノーの主人の形見であれば尚更だ。
「渡せない」
セーヤは首を横に振り、後退する。
「変に意地を張らない方がいいよ、長生き出来る」
賞金稼ぎの女はセーヤに歩み寄ってくるが、セーヤは更に後退り、コクピットまで至った。そこから先へは下がれない。けれど、来てほしくない。セーヤは反射的に両腕を前に出すと、力が溢れ出した。
「うっ!」
賞金稼ぎの女が仰け反り、吹っ飛んだ。その拍子にヘルメットが外れ、青い肌と赤い目の素顔が現れる。セーヤは呆気に取られ、自分の両手を見つめたが、パイロットのドロイドが叫んだ。
「間もなくハイパードライブを抜けます! 安全のため、お客様はお席にお戻り下さい!」
セーヤが立ち尽くしていると、賞金稼ぎの女はヘルメットを拾って被り直した。
「……ああ、そういうこと」
賞金稼ぎの女はセーヤを一瞥すると、男を引き摺っていった。
「それじゃ、いい旅を」
賞金稼ぎの女はハッチを通り抜け、自分のシャトルに戻ると、ハイパースペースから抜け出した直後に切り離し、シャトルは軽やかに去っていった。
「ここ、どこ?」
セーヤが我に返ってパイロットのドロイドに問うと、パイロットのドロイドは誤作動しているアストロメク・ドロイドに電流を浴びせて強制停止させた。
「今、検索いたします」
少々間を置いた後、ホロを用いて宙域と現在位置が表示された。
「ミッドリムのズミーノ宙域、惑星リョクエンの重力圏内です」
その言葉通り、シャトルの前方に海洋惑星が現れた。セーヤがリョクエンの広大な海に見入っていると、シャトルの後方に突如として宇宙船が出現した。ハイパースペースを通過してやってきた、同盟軍の艦隊だった。恐らく、シャトルの航空会社から通報を受けて出動したのだろう。
「あっ……」
これもよくない気がする。セーヤは客席を通り抜けてドロイドの群れに向かい、テンノーの足元の電磁ロックを解除した。磁石の効果が失せ、テンノーは自由を取り戻す。
「セーヤの考えは察しが付いておりますよ」
「あの人達はいい人かもしれないけど、このままだと連れ戻されちゃう」
セーヤは船内を見回し、シャトルの脱出ポッドを見つけた。
「おいで、テンノー!」
テンノーはセーヤの言葉に従い、脱出ポッドに乗り込んだ。セーヤもその中に入り、素早くドアを閉めてロックした後、シャトルから切り離した。この先に惑星があるのなら、なんとかなるだろう。たぶん。
途方もない不安を紛らわすため、セーヤはお守りのようにライトセーバーを握り締めた。テンノーは四肢を折り曲げて少しでも体を小さくするように努力しながら、目の前にある海洋惑星に無事に着陸出来るようにスラスターの出力を調整した。
重力に引かれ、惑星に落下した。