トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる   作:あるてみす@二次創作

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30.人生の岐路

 ヴィジョンが見えた。

 前回のそれとは異なり、希望に満ちたものだったので、セーヤは多少なりとも気が楽になった。ボブ・キャット号の針路を定め、ハイパードライブを何度か繰り返した後、辿り着いたのは、アウターリムの片隅にある工業惑星だった。

 惑星オッパー。絶え間なく排出される排気と噴煙によって大気が濁り、分厚い雲によって空が塞がれ、海洋汚染が著しいために海の色も赤茶けていた。ただでさえ巨大な採掘用クローラーを連結させ、その上に工場を築き、資源採掘と並行して製造を行っていた。それにより、オッパーの大陸の地表にはいくつもの深い溝が出来ていた。

「これはまた随分と……」

 セーヤはボブ・キャット号を降下させ、鈍重な速度で前進し続ける工業都市に接近した。火山の火口のような溶鉱炉を囲んで無数の煙突が生え、煙を吐き出しながらキャタピラを回転させている。セーヤが管制塔に着陸許可を求めると、煙突の隙間にある離発着場を指定された。

 ボブ・キャット号は徐々に速度を落とし、翼を折り畳みながら降下して着陸した。セーヤはランディングギアに磁力を帯びさせ、錆びた金属製の床に固定してから、操縦席を離れた。

「一旦降りようか」

「どう考えても空気が悪いぞ」

 ナザが難色を示すと、その腕に抱かれている小さな息子がもぞもぞと身動きした。

「出来る限りの対策を施してから、子供達を連れ出しましょう。その間に補給やメンテナンスもも済ませたいですし。あれから飛びっぱなしでしたから、燃料が底を突いておりまして」

 テンノーがコクピットを指すと、燃料計のメーターが下がりきっていた。

「タック、おいで」

 セーヤがローディアンの幼児の名を呼ぶと、彼はすぐに反応した。よたよたと歩いてセーヤに近付いてきたので、セーヤは彼を抱き上げる。

「これから皆でお外に行くよ」

 タックは大きな目でセーヤをじっと覗き込んできたので、セーヤはその頭を撫でてやる。

「大丈夫、これから会う人は優しいから。ちょっと厳しいけどね」

「ヒヨスの簡易ベッドを改良してきます。反重力装置を付けて浮かせます」

 そう言って、テンノーは船室に向かった。その中では、テンノーが急拵えしたベビーベッドの中でヒューマンの乳児が眠っていた。彼女の名はヒヨスという。ちなみにナザの息子の名はブン。

 いずれの子の名も、その身に着けていた衣服に付けられていた迷子札に書かれていたものだ。親から授かった名で呼んでやると、子供達は反応してくれた。まだ言葉は喋れないが、フォースを通じて様々な感情を伝えてくれた。

「一応聞いておくけど、ブンのお母さんは?」

 セーヤがナザに問うと、ナザはブンの小さな頭をそっと撫でた。

「話さなくても解るだろ、ジェダイなんだから」

「そんなことないよ。それに、私はナザのことは知っているようで知らないし」

 セーヤが首を横に振ると、ナザは深いため息を吐いてから零した。

「ワワカは……ブンの母親は、俺に見切りを付けて出ていったんだ。最初のうちは真面目に商売をしていたんだ。だが、まともに輸送業をしているだけじゃ立ち行かなくなってきて、密輸品に手を出すようになった。密輸を専門にするようになるとようやく金回りが良くなってきたから、俺達の家まで迎えに行ったんだが、その頃にはワワカは姿を消していた。ブンは子守ドロイドに世話をされていたが、置いていかれたんだ。ひどい女だが、そうされるだけのことをしたのも事実だ」

「これからもそうするつもりなの?」

「いや……まだ解らん。解らんが、ここが岐路なんだろうな」

 ナザの横顔は、セーヤが見たことのない表情を浮かべていた。息子への愛情と商売への未練だけでなく、後悔や不安、懸念や妥協などが複雑に入り混じっていた。

 ブンはそんな父親を見つめていた。

 

 

 工業都市は混雑していた。

 コルサントの例に漏れず、地位と財産がある者達は空気が浄化されている上層区域に住み、それなりの収入がある者達は中層区域で商売に明け暮れ、日々過酷な労働を強いられている貧困層は劣悪な環境の下層区域に押し込められていた。

 そんな中、セーヤとテンノーは子供達を連れ、下層区域に向かっていた。ナザもまた、ブンを背負って同行していた。タックは好奇心旺盛だがフォースの影響で感覚過敏なので、セーヤにぴったりとくっつきながらも周囲を窺っていた。ヒヨスはテンノーが守っており、シャッターに覆われて空調装置が付けられた簡易ベッドの中で大人しくしている。ブンは父親の不安を顕著に感じ取っているせいか、しきりにぐずっていた。

 土埃と煤に汚れた作業着姿の労働者達は、子供連れの一行を不思議そうに眺めるものの、近付いてこなかった。訳ありかもしれないから関わらない方がいい、金にもならないのに揉め事に首を突っ込んでたまるか、とでも言いたげな顔をしていた。

「本当にこんな場所にいるのか?」

 ナザは息子をあやしながらも訝るが、セーヤはパイプやシャフトが複雑に入り組んだ通路を迷わずに進んでいった。

「いるよ。もう少しだから」

 幌で区切られた住居の群れを横切り、荒れた酒場を通り過ぎ、女達が我が身を削って日銭を稼いでいる娼館を越えた先に、その人物は佇んでいた。

 長いマントで体を覆って座し、円盤型のウォー・ヘルメットを伏せていたが、セーヤに気付いて立ち上がった。その姿を見、ナザはたじろいだ。

「キューゾの賞金稼ぎか?」

「いや、人違いだ。奴の名が売れすぎた弊害だな」

 ウォー・ヘルメットをくいっと持ち上げて目元を覗かせたのは、ジェダイ・マスター、フマガだった。

「セーヤ、息災であったか」

「マスター・フマガ、お久し振りです」

 セーヤが深々と礼をすると、テンノーもそれに倣う。

「その節はお世話になりました」

「なあに、お互い様だ。して、それが所要だな」

 フマガは膝を折って身を屈め、三人の子供達と目線を合わせた。タックは見知らぬ相手に戸惑いを見せたが、フマガから敵意を感じなかったようで、大きな目でフマガを見つめ返した。

「ふうむ、なるほど。それは災難だったな」

 フマガがフォースを通じて事の次第を察すると、ナザはフマガの正体に気付いた。

「あんた、もしかしてジェダイか?」

「拙僧はその末席に連なっているに過ぎぬ。長らくパダワンも育てておらぬからな」

 フマガはマントの下で、ベルトに提げたライトセーバーに手を掛ける。

「だが、それもまたフォースの導きがあればこそ。ジェダイ評議会によって示されずとも、巡り合えばおのずと師と弟子になろうというもの」

「それなら、俺の息子は……」

 ナザは背中からブンを下ろし、横抱きにする。フマガはブンを見つめていたが、僅かに目を細めた。

「善きフォースを宿しておる」

「マスター・フマガ。私は……私のマスターになるはずだった人は、ジェダイの道を外れました。ですが、私はマスター・ギ・ハーラのライトセーバーを受け継ぎ、自分が進むべき道を歩もうと決めました。だから、私はジェダイ聖堂には顔を出せません。この子達をよろしくお願いします」

 セーヤが再度頭を下げると、フマガはセーヤとも目線を合わせてきた。

「その道は険しいぞ」

「承知の上です」

「ともすれば、ジェダイ・オーダーですらも敵に回すかもしれん」

「解っています」

「それでも進むと言うのであれば、拙僧は引き止めぬ。だが、セーヤ。ジェダイの本質とは、他者のために己を費やすことだけではあるまい」

「マスター、それは」

「大義に準じるのは結構だ。フォースの導きを信じ、従うのも正しい。しかし、セーヤが全てを担う必要もなかろう。幸い、我が剣術はまだ鈍ってはおらぬからな」

 フマガの言葉は力強く、セーヤの心を支えてくれた。迷いや躊躇いはない。それでも、頼れる相手がいないのは心細かったので、セーヤは頬を緩めた。

「頼りにしています、マスター」

「その言葉を裏切らぬように精進せねばな。さて、迎えの船を呼ぶとしよう」

 フマガは姿勢を戻すと、セーヤ達を促して歩き出した。子供達は幼いなりに神妙な面持ちで、セーヤとフマガのやり取りを見つめていた。ナザは息子を背負い直すと、浮遊する簡易ベッドを押すテンノーの後を追った。

 別れの時が近付いていた。

 

 

 離発着場にシャトルがやってきた。

 そのシャトルから現れたのは、以前、同盟軍基地で顔を合わせた人物だったのでセーヤは少なからず驚いた。ホープ・ハイライトだった。彼女もまたセーヤに気付き、目を丸める。

「あれ? あなたって確か、ビッグシップ基地にいたパイロット見習いの子じゃなかった?」

「ええまあ、色々ありまして」

 セーヤが曖昧に笑うと、ホープはシャトルを指した。

「言っておくけど、荷運びのついでに途中まで運ぶだけだからね?」

「構わぬ。そこから先は自力でどうにかする」

 フマガはタックを抱き上げ、ヒヨスの簡易ベッドを押した。

「その子達、迷子か何か?」

 ホープの指摘に、セーヤは答えた。

「そんなところです。だから、マスター・フマガが然るべき場所まで連れていって下さいます」

「ああ、そういうこと」

 ホープは納得したようだった。ナザは背負い紐を外してブンを下ろし、我が子を見つめていたが、フマガへと差し出した。

「この子も連れていってやって下さい」

「承知した」

 フマガは踵を返し、ブンを受け取ると、ナザは床に膝を付いて頭を下げた。

「よろしくお願いします」

 寂しさを振り切れないが、我が子の未来を思いやる気持ちに満ちた言葉だった。そしてナザが身を引くと、フマガと子供達はシャトルに乗り込み、ホープがハッチを閉じた。

 遠ざかっていくシャトルを見送り、セーヤは子供達の無事を祈っていたが、ナザが踵を返した。

「俺はここに残る」

「それでいいの?」

 セーヤが拍子抜けすると、ナザは手を振る。

「船も部下も財産も失ったし、息子は送り出した。何もかも一からやり直しだ。それから、契約書についてだが、俺の商売のための名義を綺麗さっぱり消しておく。そうすれば、お前は今度こそ自由だ。どこにでも行きやがれ」

 そう言い残し、ナザは去っていった。セーヤはテンノーと顔を見合わせたが、歩き出した。

「行こうか」

「ええ、どこへでもお供します」

 セーヤは振り返らなかったし、テンノーも同様だった。これからどうなるのか解らないが、解らないからこそ頑張れるものだ。ナザへの複雑な感情は少しだけ残っていたが、それも時間を経るにつれて薄らいでいくだろう。

 人生は長いのだから。

 

好きな登場人物は?

  • セーヤ・ミットー
  • テンノー(NO-10)
  • カミーノ・スターリバー
  • ヒル・スワンプ
  • ホープ・ハイライト
  • ナザ・シーサイ
  • ケイ・ホーク
  • マチルダ・グランベリー
  • エア・キャビー
  • サウス・ギ・ハーラ
  • ソウ・テッセン
  • ダース・シャハー
  • オード・キュー
  • クレイン・ミーネ
  • ショーナ・ディノ
  • ユマ・ハイライト
  • ヴィシャム
  • フマガ
  • サク・ラギーチョ
  • その他
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