トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
ズ・スィーでの日々が始まった。
セーヤは寝心地のいいベッドでゆっくりと眠り、カフェテリアで栄養豊富でメニューも多彩な食事を取り、授業で適度な運動を行ってから座学に勤しんだ。友達と呼べるのはキヌガだけだったが、それだけで充分だった。
ミッカと呼ばれることにはまだ不慣れだったが、セーヤからすれば学園生活には何の不満もなかった。制服や運動着などはクリーニングされるし、部屋の掃除も清掃ドロイドがこなしてくれるし、シャワーの水圧もちゃんとしているし、授業の内容は難解だったが新鮮なので面白かった。
しかし、他の生徒達はそうでもないようで、授業を受ける態度は淡々としていた。彼らは学園生活に慣れすぎているせいで、惰性で授業を受けているようだった。キヌガも例外ではなく、涼しい顔で複雑な数式を解き明かしていくが、それだけでしかなかった。
「キヌガはいつから学園にいるの?」
実習室に移動するためのトラムに乗り込んでから、セーヤがキヌガに問うと、キヌガは少々間を置いてから答えた。
「小さい時から」
「幼等科よりも下があるの?」
「うん。だから、私はそこで育てられたんだ。そういう子は他にもいるわ」
キヌガが平坦に答えると、セーヤはちょっと気後れしながらも質問を重ねた。
「キヌガの家族は?」
「お母さんはいないんだけど、お父さんはいるわ。でも、とても忙しいみたいで、滅多に会えないの。たまに来てくれるんだけど、なんか……どういう顔をして会えばいいのか、よく解らなくて」
「嬉しくないの?」
「嬉しいと言えば嬉しいけど、小さい頃みたいに思えなくなって。何度も会いに来るけど、私を外には連れ出してくれないし、プレゼントは山ほど贈ってくれるけど、それだけだし……」
キヌガの声色は細く、横顔は切なさが滲んでいた。何の不自由もない生活のはずなのに、その不自由のなさが却って自由を奪っているかのように思えてしまうのだろう。だが、キヌガは父親が自分を大事にしたいがためにズ・スィーに入れたことも知っているし、プレゼントを贈るのも少しでも喜ばせたいからだと解っているから、反発しようにも出来ないでいる。難しいことだ。
トラムが到着し、生徒達が教室に入った。キヌガは少し言い過ぎたと思ったのか、唇を噛み締めていたが、セーヤはキヌガの手を取った。ほっそりとしていて傷一つない、綺麗な手だった。
「キヌガのお父さんの話、聞きたいな」
「あんまり面白くないわよ?」
「それでもいいの」
セーヤが笑みを見せると、キヌガの表情が緩んだ。
「ミッカは変わっているわね」
キヌガは少しだけ指を曲げ、セーヤの手を握り返してから教室に入った。生徒達が連れているドロイドも同行する。キヌガが傍に置いているのは小型のアストロメク・ドロイドで、市場に出回っていないタイプなので試作品を与えられたのだろう。
化学実習室には実験器具が揃っていて、薬品のサンプルも用意されていた。ローディアンの教師の指示通りに防護ゴーグルやグローブを付けてから、ごく微量なライドニウムを試験管に入れて別の薬品を混ぜた。すると、ライドニウムの成分が分離し、無害な液体と化した。
「ライドニウムもこうなっちゃうのかぁ」
セーヤが試験管を覗き込みながら感心すると、キヌガは説明した。
「後から入れた薬品が触媒になって、ライドニウムの揮発性を打ち消したのよ。ライドニウムは燃焼効率が高くてエネルギー効率もいいけど、分子構造が繊細だから扱いが難しいんだけど、こういう技術を併用すると比較的安全な混合燃料に変えられるのよ」
「スターデストロイヤーを追い返せるぐらいの火力があるもんね、ライドニウムって」
セーヤが経験を踏まえて納得すると、キヌガはちょっと笑った。
「理屈の上では出来るかもしれないけど、過激すぎるわよ」
「冗談だよ」
「でしょうね」
キヌガは笑みを収め、実験器具をドロイドに渡して回収してもらった。セーヤもドロイドに渡してから、化学実習室の隅にいるテンノーを窺うと、彼は薬品の管理を任されている在庫管理ドロイドとバイナリー言語を交わしていた。
情報が得られそうだ。
授業を終え、放課後を迎えた。
クラブや委員会に加わっている生徒はそちらに向かい、それらとは別に独自のサークルを作っている生徒達は共通の趣味に励み、ゼミ学習でより深く勉強に勤しみ、と皆は思い思いに動き回っていた。
転入したばかりのセーヤはどこにも属していなかったので、校内を見て回った。うっかり見学するとクラブに入れられますよ、とテンノーに忠告を受けたので、セーヤはそれぞれのクラブを遠巻きに眺めるだけだった。
「どこに行けばいいかな」
セーヤが零すと、テンノーが提案した。
「図書室はいかがでしょうか」
「本しかないんでしょ?」
「場合にもよりますね」
「とりあえず行ってみるかぁ」
セーヤはあまり期待せずに、母船の中にある図書室に向かった。ズ・スィーの船団は、この母船を中心として構成されており、初等科と中等科の船、高等科と大学部の船、研究船、実験船、講堂船など専門的な機能に特化した船が連なっている。なので、常に船と船の間をシャトルやトラムが行き交っている。
図書室は全ての生徒に開放されており、母船にあるものが最も広くて蔵書量も多い。自習室も隣接しているので、大半の生徒はそちらと併用していた。個室があるのになんで自習室を使うんだろう、とセーヤは疑問に駆られたものの、集中するには気分転換する必要があるのだろう、と結論付けた。
「図書室へようこそ。私は蔵書管理ドロイド、Z200です」
セーヤを出迎えてくれたのは、上半身が人型で下半身が車両型のドロイドだった。
「えーと……」
利用するにしても、目的がなければ指示の出しようがない。セーヤが考え込んでいると、テンノーが口を挟んだ。
「興味のある物事を伝えてみるとよろしいのでは? そうすれば、Z200が最適な書籍を照会してくれますよ」
「それならロズ・キャットは……」
セーヤが遠慮がちに呟くと、Z200はロズ・キャットに関する書籍をリストアップし、ホロに提示した。
「こちらにございます。より細かな指示を下されば、分類を更に絞れますが」
「意外と多い」
セーヤはそのホロをスクロールさせたが、ロズ・キャットがタイトルにある書籍と本文に登場する書籍、画像が掲載されている書籍と様々だった。ロズ・キャットの生態を研究した論文や、銀河のロズ・キャットの分布と惑星の環境による特徴の違いを調べた学術書といったお堅いものだけでなく、ロズ・キャットの可愛さをひたすら追求した写真集や動画もあった。
「じゃ、これとこれを」
セーヤはロズ・キャットの写真集と動画集を指すと、Z200は快諾した。
「了解しました。少々お待ち下さい」
Z200は下半身の車両から小型ドロイドを分離し、浮遊させると、電子書籍のデータファイルが保存されている棚に向かわせた。セーヤは小型ドロイドの動作を目で追っていったが、その棚の奥にある保管庫に気付いた。
「あれは何?」
「紙の本が入っております。貴重な品物ですので、厳重に保管してあるのです」
Z200が説明してくれたが、セーヤはぴんと来なかった。しばらくすると小型ドロイドが電子書籍のデータカードを二枚運んできたので、Z200が書籍番号を確認した後にセーヤに渡してくれた。
「返却期限は七日後です」
「はあい」
セーヤはデータカードを受け取り、テンノーを伴って図書室を後にした。図書室や自習室は静まり返っているので、ロズ・キャットの可愛さを堪能するには自室に戻ってからにするべきだろう、と判断したからだ。
セーヤはうきうきしながらエレベーターホールに向かい、ボタンを押して待っていたが、ふと妙な感覚を覚えた。フォースのかすかな揺らめきだが、無視出来るものではない。
「ちょっと預かっていて」
セーヤはテンノーにデータカードを渡し、駆け出した。生徒やドロイドにぶつからないように擦り抜けながら走り、感覚に促されるままに進んでいくと、キヌガの姿が見えた。
彼女は他の生徒達に囲まれていたが、あまりいい雰囲気とは言えなかった。キヌガは身を縮め、俯いている。大人しい性分だから、強く出られないのだろう。
「キヌガ・スー。あなたが提出した論文で特許が取れたそうじゃない。素晴らしいわ。であれば、それで得た収入は学園に還元すべきだわ。そうは思わない?」
キヌガに笑みを向けているのは、リーダー格らしきヒューマンの女子生徒だった。セーヤはその顔に既視感を覚えたが、今はそれどころではないので生徒達の輪を押しのけた。
「キヌガ!」
「ミッカ……」
キヌガが今にも泣きそうな顔をしたので、セーヤはキヌガの手を取った。
「なんかよく解らないけど、私の部屋に来て! ロズ・キャットの写真集を借りたから、一緒に見よう!」
「う、うん」
キヌガは戸惑いながらも頷き、セーヤに引っ張られて抜け出した。セーヤは多少のフォースを使ってキヌガの手を引き、エレベーターホールまで駆け戻ると、テンノーが二人を待っていてくれた。
繋いだ手は離さなかった。
セーヤの個室に戻った。
キヌガは安堵しながらも、ちょっと居心地が悪そうだったので、セーヤはキヌガをベッドに座らせた。セーヤはその隣に腰掛ける。
「変な理由で絡まれていたみたいだけど、なんでなの?」
「私にもよく解らなくて。確かに論文をいくつか書いて提出したら、その論文の理論を元にした情報圧縮用のプロトコルが作られて、普及しているけど……。でも、特許絡みの権利や収入はお父さんの名義にしてあるし、私が成人するまでは銀行に保管しておくって約束してあるのよ。持て余すような金額であれば、税金対策も兼ねて寄付することにはなっているけど、学園からは何も言われていないし……。そもそも、なんであの人達が私に絡むようになったのかも解らなくて」
キヌガがため息を零すと、セーヤはテンノーを窺った。
「なんで寄付すると税金対策になるの?」
「仕組みを説明すると長くなるので割愛しますが、富裕層がよくやる節税ですよ。社会貢献しているとアピールしてイメージアップを図るには、慈善事業に寄付するのが手っ取り早いですし、誰も損をしませんから」
テンノーが説明すると、セーヤは納得した。
「なるほど。言われてみれば、ナザからもらった給料の一部が差っ引かれていたもんなー……。そっか、税金かぁ」
「気にするところ、そこなの?」
キヌガが呆気に取られると、セーヤはキヌガに向き直った。
「だって、話を聞く限りじゃキヌガに非はないんでしょ? 論文がお金になったのはいいことだし、そのお金だってお父さんに預けてあるわけだから、キヌガが無駄遣いしているわけでもないんだし」
「そうなんだけど……」
「だったら、なんでそういうことを言われるようになったのかを調べないの?」
「あの人達、なんだか怖くて」
「私は別に怖くないけどなぁ」
シスに比べたら、とセーヤは内心で付け加えた。キヌガは膝の上で両手を握り締めていたが、顔を上げた。
「ミッカ。編入してきたばかりのあなたに、こんなことを言うのは気が引けるけど、でも、私だけじゃどうにもならないのよ。さっきだって、何も言い返せなかった。だから、私の力になってほしいの。もちろん、そのお礼はちゃんとするから」
「それなら、勉強を教えて。解らないことばっかりで、どこが解らないのかすらも……」
セーヤが徐々に語気を弱めると、キヌガは少しだけ頬を緩めた。
「ええ、構わないわ」
「ありがとう、キヌガ。約束通り、コルサントの話もしたいけど、まずはロズ・キャットからだね。テンノー、さっきのデータカードを出して」
セーヤが命じると、テンノーは二枚のデータカードを差し出してきた。
「はい、こちらに」
「これで再生するんだよね?」
セーヤは授業でも使うタブレットにデータカードを差し込むと、ロズ・キャットの写真集のホロが浮かび上がった。しなやかに飛び跳ね、ごろごろと転がり、じゃれ合うロズ・キャットはとても可愛かった。それを見ているとキヌガも気が紛れてきたのか、次第に表情が柔らかくなった。
友達って、こういうものなのか。
好きな登場人物は?
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セーヤ・ミットー
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テンノー(NO-10)
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カミーノ・スターリバー
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ヒル・スワンプ
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ナザ・シーサイ
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ケイ・ホーク
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マチルダ・グランベリー
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サウス・ギ・ハーラ
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ユマ・ハイライト
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フマガ
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サク・ラギーチョ
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