トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる   作:あるてみす@二次創作

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33.得意、不得意

 セーヤはキヌガと同じ時間を過ごした。

 授業が始まる前に待ち合わせてカフェテリアに向かい、朝食を摂りながら今日の授業内容について話し合った。そのおかげで、セーヤは慌てずに授業を受けられるようになった。

 図書室で参考書を借り、キヌガの部屋でセーヤがどの科目のどの部分に躓いているのかも確かめた。基礎科目の語学、数学、社会、歴史、化学、物理、生物の過去問題の中からキヌガが出題してくれたが、セーヤはどれもこれも解けなかった。ビッグシップ基地でパイロットになるための座学を受けていたので、航空力学に関する知識はあったものの、それらは数学と物理をみっちりと学んでこそ生かせるものだと思い知らされた。

「でも、語学の成績は悪くないわ。ほら、ウーキーのリスニング問題は正解しているし」

 キヌガはセーヤが解いた過去問題を採点し、ホロを見せてくれたが、セーヤはぼやいた。

「聞き取れる言葉を書き表しただけで、本当に理解しているってわけじゃないよ。銀河標準語(ベーシック)とは文法も違うし、独特の言い回しもあるし。プロトコル・ドロイドを頼ればいいのに」

「全くです。そのための私達なのですから」

 テンノーが不満を零すと、キヌガのアストロメク・ドロイドであるRE5がピギャピギャとバイナリー言語で喋った。

「あなた達が便利だからこそ、頼り切らないようにしているのよ。どんなに道具が発達しても、それを使うのは人なんだもの。使い方を間違えないようにするには、しっかり勉強しないと」

 キヌガはバイナリー言語を理解出来るので、RE5に言い返した。

「あ、これならちょっと解るよ。この宙域は帝国の支配下にある星系が多いんだけど、こっちの星系は反乱を起こして独立したんだよ。で、今は同盟軍に加入しているんだ」

 セーヤはホロの星図を浮かべると、指し示した。キヌガはセーヤが指した星系を覗き込んだが、星図での表記は帝国の支配下のままだった。

「それなら、星図での表記が更新されているはずなんだけど」

「その情報、古いのかも。テンノーの記録を参照してみて」

 セーヤがテンノーを手招くと、テンノーは星図のホロを映し出して重ねた。

「ミッカの言う通りです。更新されていないようですね」

「そんなミスがあるのかしら。まあいいわ、管理部に申請しておきましょう」

 キヌガは学内用のホロ・ネットで管理部にメールを送ってから、RE5に指示した。

「RE5、お茶を淹れて。一休みしましょう」

「結構勉強した気がするんだけどなぁ」

 セーヤが零すと、テンノーが首を横に振る。

「勉強するための取っ掛かりを見つけただけです。本番はこれからですよ」

「私も基礎からやり直すべきだと考えていたから、丁度良かったわ」

 キヌガがにんまりしたので、セーヤはちょっとだけ拗ねた。

「勉強ってそんなに楽しい?」

「私は好きよ。知らないことが解るようになるのは面白いもの」

 キヌガの笑みは陰らなかった。セーヤもその気持ちは解らなくもないが、頭が追い付かないのである。程なくしてRE5が温かなお茶とメイルーランのケーキを持ってきてくれたので、セーヤはやる気を取り戻した。

 ケーキはおいしかった。

 

 

 例の生徒について調べた。

 テンノーが生徒名簿と顔を照会してくれたので、すぐに判明した。中等科の普通科の女子生徒で、学年はセーヤとキヌガよりも一つ上だった。コルサント出身で名前はクリス・ハマーといい、大企業の幹部の娘だった。

 クリスは絵画クラブに所属しており、放課後には美術実習室で絵を描いていると解った。なので、セーヤは授業を終えた後、テンノーを伴って美術実習室に向かった。

 美術実習室では生徒達がキャンバスを立て、思い思いに絵筆を走らせていた。壁には完成した絵が飾られていて、惑星や銀河だけでなく、コップや果物などをモチーフにした絵画もあった。

「不思議な匂いがする」

 セーヤが訝ると、テンノーが答えた。

「それは絵の具の匂いですね。絵の具にも種類がいくつもありまして、油彩は鉱物などを粉末にした顔料を油で練り、それをキャンバスに塗るんですよ」

「塗料のツンとした匂いとは違うの?」

「あれは溶剤です。揮発性の高い物質を混ぜた顔料は発色も良く、落ちにくいんですが、絵画は適していません。用法用途ですね」

「なるほどなぁ」

 セーヤは感心しながら、美術実習室を見回したが、クリスらしき姿はない。今日は休みなのかな、とセーヤが考え込んでいると、背後から不意に声を掛けられた。

「あら、あなた。この前の子ね?」

 セーヤが振り返ると、クリス・ハマーがスケッチブックを手にして佇んでいた。

「入部希望であれば、顧問の先生をお呼びするけど?」

「そうじゃなくて。あなたに会いに来たの、クリス」

 セーヤがクリスに向き直ると、クリスは明らかに面倒がった。

「何の用? 私、次のコンクールに提出するための絵を描いている途中なのよ。邪魔しないでほしいんだけど」

「あまりお時間は取らせませんから」

 テンノーが割り込むと、クリスは不本意そうだったが踵を返した。

「五分で済ませて」

 話を聞く姿勢を見せてくれるだけありがたいので、セーヤはクリスに続いた。美術実習室から少し離れた場所にあるベンチにクリスが腰掛けたので、セーヤもその隣に腰を下ろした。

「それで? キヌガ・スーに文句を言ってこいとでも吹き込まれたの? あの子は賢いけど、人のあしらい方が下手ね。友達がいないからって、自分の立場も知らない転入生を使おうだなんて。いい根性じゃないの」

「キヌガは何も悪いことはしていないよ。特許がどうとかも、キヌガに非はないんだし」

 セーヤが言い返すも、クリスは眉根を寄せる。

「悪いことをしていないんじゃなくて、何もしていないのがいけないのよ。子供の頃からずっと学園の世話になっておいて、特許の一つも譲らないなんて恩知らずにも程があるわ。あなたからも言い聞かせてもらえる? 資本主義の社会で生きていたければ、我を張るのは得策じゃないわ。お金の流れというものがあるんだから」

「それだけ?」

「それだけって……これ以上の理由がある?」

 クリスが毒気を抜かれると、セーヤは首を傾げた。

「それだけのことでキヌガを責めるの? 人のやることに不満があっても、きつく言うのはよくないよ。キヌガもお父さんと話し合った上でそうしているんだし、家庭の事情は色々なんだから」

「あなた、どこの企業から支援を受けているの? それとも独立国家の政府から?」

「今度は何なの」

 セーヤが戸惑うも、クリスは語気を強める。

「私達がこの学園にいる理由は、巨大な組織を運営するだけの知識を得るためよ。いずれにしても、期待されているのだから、それ相応の成果を出さないと資金援助が打ち切られてしまうし、学園からも追い出されるわ。その点、キヌガ・スーは父親が名のある科学者で、学園を運営している企業グループがその父親を手放さないから、のうのうと過ごしていられるのよ。優遇されているくせに卑屈でいるなんて、傲慢にも程があるわ」

 クリスは不意に立ち上がった。

「五分経ったから行くわ」

「あ、私の名前は」

 セーヤが偽名を名乗ろうとすると、クリスは背を向けた。

「ミッカ・キョウでしょ。そんなの、調べたから知っているわ」

 クリスが美術実習室に入り、ドアを閉めたので、セーヤはテンノーと顔を見合わせた。

「きっついなぁ」

「学歴と経済事情による格差は簡単に覆せるものではありませんからね。とはいえ、クリス・ハマーは神経質になりすぎではないでしょうか」

 テンノーが肩を竦めると、セーヤは立ち上がった。

「まあいいや、帰ろう。キヌガにも一応説明しておいて……」

 セーヤが歩き出そうとすると、コムリンクが鳴った。キヌガからだった。

『ミッカ、私の部屋に来なくてもいいわ』

「今から行こうと思っていたんだけど、どうして?」

 セーヤが聞き返すと、キヌガは弱々しい声色で答えた。

『ミッカと一緒に過ごしてはしゃぎすぎちゃったみたいで、熱が出たの。だから、今日は一人にしてくれる?』

「食べたいものはある?」

『冷たいアイス。でも、それはRE5に頼むから……』

 その言葉を最後に、キヌガはコムリンクを切った。それだけのことで熱が出るんだろうか、とセーヤは困惑したものの、キヌガの様子からして不調なのは間違いない。購買に寄ってアイスクリームを買い込んでから、セーヤとテンノーはキヌガの部屋に向かった。

 放っておけない。

 

 

 キヌガの部屋は広い。

 大きなベッドがある寝室、居心地のいいリビング、広々としたテラス、洗面所付きのバスルーム、勉強に適した書斎まである。

 セーヤとテンノーが訪ねると、RE5がドアを開けてくれた。セーヤは買い物袋を開け、アイスクリームを見せてやる。

「キヌガが食べたがっていたから」

 RE5はぐるんと頭部を回転させると、中に進んだ。セーヤはRE5を追っていくと、RE5は寝室のドアをノックしてから開けた。

「キヌガ、お見舞いに来たよ」

 セーヤが中の様子を窺うと、広いベッドの左端で丸まっていたキヌガが顔を上げた。顔色が悪く、汗が浮いている。

「ミッカ……」

「アイス、冷蔵庫に入れておくね」

 セーヤがアイスクリームを見せると、キヌガは目を潤ませて頷いた。

「ありがとう」

「それから、キヌガの熱が下がるまではここにいるね」

「でも……」

「リビングにいるから、何かあったら声を掛けてね」

 セーヤは小さく手を振り、ドアを閉めた。その瞬間、キヌガは安堵の色を見せたので、迷惑ではないようだ。その間、自習でもしておこうかとセーヤは思ったが、ライトセーバーに触れた。ズ・スィーに来てからというもの、瞑想は出来てもセーバー剣術の訓練は出来ずにいた。人目を避けられて適度に広い場所がなかったからだ。その点、キヌガの部屋であれば最適だ。

 セーヤはフォースでテーブルやソファーを壁まで押しやってから、ライトセーバーを取り出して起動させた。自分に最適なフォームは何なのかと自問しながら、緑の光の刃を振るった。

 その答えはまだ出なかった。

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  • セーヤ・ミットー
  • テンノー(NO-10)
  • カミーノ・スターリバー
  • ヒル・スワンプ
  • ホープ・ハイライト
  • ナザ・シーサイ
  • ケイ・ホーク
  • マチルダ・グランベリー
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