トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
学生寮の個室に戻った。
的確な判断を下すためには、まずは落ち着いて冷静さを取り戻すべきだと判断したからだ。セーヤはベッドに寝転がり、天井を見つめていたが、頭は動き続けていた。
クリス・ハマーの正体はシスか、シスに近しい者だろう。セーヤのフォースが反応しなかったのは、フォースの気配を引っ込めることに長けているのかもしれない。それに、初めて会った時の既視感が気になる。クリス・ハマーの容姿は誰かに似ているが、ヒューマンの若い女性なんて似たり寄ったりじゃないか、というのも否定しきれない。
「うーん……」
セーヤは腕を組み、悩んだ。ズ・スィーは帝国残党が研究船に潜り込み、コーズクリスタルを持ち込んで研究を行っていたが、それは学園側が織り込み済みだったとしたら、セーヤが迂闊な真似をすると生徒達の身が危うくなってしまうかもしれない。
だとしても、この事態を放置するのはよくない。かといって、セーヤが出来ることは限られている。クリス・ハマーの口振りからして、彼女とズ・スィーに派遣されている帝国残党は一部隊に過ぎず、作戦を命じているのは殿下とダース・シャハーだ。
クリス・ハマーを倒せたとしても、その先に待ち受けているのはダース・シャハーだ。当人にはまだ会ったことはないが、ジェダイ聖堂でフォースを通じて存在を感じ取っただけで、その力の凄まじさに圧倒された。同時に自分の弱さと脆さも思い知らされた。
それはそれとして、誰に助けを求めるべきだろうか。カミーノに連絡して同盟軍に知らせて、とも思ったが、同盟軍が腰を上げてくれるだろうか、との懸念もある。短い間ではあるが同盟軍基地で過ごしたので、新共和国の統治下における銀河での同盟軍の立ち位置が微妙だということも知っている。
同盟軍は独立星系の連合によって運営されている軍事組織であり、かつての反乱軍のように帝国打倒という同じ目的のために動いているわけではなく、新共和国に属していない星系や惑星を守ることに重きを置いている。
それなら独立星系の大企業が運営しているズ・スィーは同盟軍の管轄なのでは、とも思うが、帝国残党の規模が大きければ新共和国の戦力を借りなければ手を打てない。
「色々なことが解るようになると、却ってややこしくなっちゃうな……」
セーヤが額を押さえると、テンノーがベッドを覗き込んできた。
「それで、いかがなさいますか?」
「新共和国に通報するにしても、私からじゃたぶんダメだよね。市民権も得られなかったぐらいだし、偽名で通報したって信じてもらえる保証もないし。でも、ズ・スィーの中に私の素性を明かせる相手もいないし」
「でしたら、誰かに連絡して取り次いでもらうのはいかがでしょうか」
「カミーノ? それともマチルダ?」
セーヤが身を起こすと、テンノーはホロを投影し、ホロ・ネットを検索した。
「この宙域から近い星系で活動しているのは、ケイ・ホークですね。鳥が描かれたヘルメットを付けたマンダロリアンの目撃情報がいくつかありますし、賞金首が次々に捕らえられてギルドに連行されているようです」
「相変わらずだなぁ」
セーヤが曖昧に笑うと、テンノーはケイに送るためのメッセージを書いた。
「送信しておきますか?」
「一応ね。帝国残党の目的と現時点で把握出来ている戦力と、ズ・スィーの航路と内部構造と生徒の人数の概要と、ズ・スィーの警備システムを誤魔化すためのプロトコルと、それから私の現状について。報酬については要相談ってことで。これだけの乗員がいるんだから、ケイに次の仕事を回してくれる生徒か教師はいるはずだよ」
セーヤが指折り数えると、テンノーはセーヤの指示通りにデータを添付した。
「了解しました」
「言うまでもないことかもしれないけど、ズ・スィーの通信回線を使うと履歴が残っちゃうから、ボブ・キャット号まで戻ってそっちから送信してね」
「心得ております。帝国側の解析プロトコルでは解析出来ないように暗号化した後、送信いたします」
ではちょっと行ってきますね、とテンノーが部屋を後にした。これでいい、私が出しゃばってどうにかなることじゃない、帝国残党の企みが大きすぎる、と思う一方、ちくちくとした不安が心を苛んでいた。
クリス・ハマーを野放しにしておいてもいいのか。セーヤが感付いたことを察知しているとしたら、例の実験を進めるはずだ。そして、クリスが実験台に相応しい生徒として目を付けているのはキヌガに違いない。だとしたら、どうするべきなのか。こんな時にフォースの導きを待ったところで、最適解を見せてくれるはずもない。
考えろ。
それでも授業はある。
何事もなかったかのような顔をして、セーヤは教室で席に着いた。隣の席のキヌガは、熱が下がって体調も戻り、セーヤに控えめながらも笑顔を向けてくれた。セーヤもキヌガに笑みを返してから、数学の授業に集中しようとしたが、学園内ネットワーク内の生徒用メッセージアプリにメッセージが届いた。
クリス・ハマーからだった。話があるからカフェテリアに来てほしい、とのことだった。これは罠だ、行くべきじゃない、とセーヤは思ったが、キヌガの身を守るためにはこちらからも動かなくてはならない。
授業が終わったら行く、とセーヤはクリスに返信してから授業を再開したが、数学の問題なんて頭に入ってこなかった。不安を煽って動揺を誘うのもシスの策略だ、落ち着きを持て、とセーヤは自分に言い聞かせた。
数学の授業を終え、次の化学の授業は化学実習室に移動する必要があった。他の生徒達が教室を出ていくと、キヌガも促した。
「ミッカ、私達も行きましょう」
「ごめん、先に行っていて。後から追いつくから」
「忘れ物でもしたの?」
「そんなところ。じゃ、また後でね」
セーヤはキヌガを見送ってから、カフェテリアに向かった。朝食の時間帯は生徒でごった返していたが、今は閑散としていて、あれほど混雑していて取り合いになるテーブルもすっかり空いていた。クリスは椅子に腰掛けて立体映像の空を眺めていたが、セーヤに気付いて立ち上がった。
「あら、もう来てくれたの」
「待たせるのはよくないでしょ」
「ええ、お互いにね」
クリスは静かに歩み寄ってきた。セーヤはベストの下に提げたライトセーバーを握るか否かを迷ったが、クリスが何も手にしていないので、ライトセーバーを取らずに手を下げた。
「あなた、どこまで調べたの?」
「大体のことは」
「それを誰かに教えた?」
「友達に」
「あら、意外ね。キヌガ以外にもいたのね、友達が」
クリスは微笑んだが、目は笑っていなかった。セーヤはライトセーバーをいつでも取り出せるようにフォースを少しだけ放ちながら、クリスに対峙する。
「どうして帝国に尽くそうとするの? 戦争はもう終わったんでしょ?」
「終わっていないわ、何一つとして。だから、私達のような存在が銀河中の潜んでいるのよ。もっとも、私達のやり方が最もスマートなんだけどね。余計な血を流さずに済むから」
「それは嘘だ。だって、生徒を実験台にするって」
「銀河の平和的な統治を果たせるのであれば、ここの生徒が何人死のうが誤差の範囲内よ。そうね、百人は必要かしら。詳細なデータがあれば、ホロ・ヴィジョンの性能はもっと向上するわ」
「ホロ・ヴィジョン? ヴィジョンとは違うの?」
セーヤが訝ると、クリスは制服のポケットから小型の機械を取り出した。それを組み合わせると、手のひらに収まるサイズのライトセーバーが出来上がった。
「やっぱりシスだったか!」
セーヤがライトセーバーを引き寄せて握ると、クリスは身を低くした。
「三本レックのジェダイ、セーヤ! あなたを仕留めるのはこの私!」
クリスは駆け出すと同時にフォースを放ち、一瞬で間を詰めた。セーヤは反射的にライトセーバーを作動させ、緑の光の刃を伸ばす。赤い光の刃が交わり、拮抗して火花が散る。
「くうっ」
セーヤはフォースでクリスを押し、遠ざけるも、クリスはライトセーバーの赤い光の刃を収めた。ひとまずカフェテリアから出ないと、とセーヤは駆け出したが、クリスは迷いのない足取りで追ってきた。
通路の先にあるホールにて、セーヤは改めてライトセーバーを構えた。クリスは腰を落として身構えているが、やはりライトセーバーを作動させていない。しかし、研ぎ澄まされた戦意が漲っていて、彼女のダークサイドのフォースが空気さえも張り詰めさせていた。
どの角度から攻めても斬られる。だが、こちらから攻めなければ勝ち目はない。いや、違う。勝ち目なんてどこにもない。オード・キューやクレインとも違った強さがある。セーヤはクリスと睨み合っていたが、膠着状態は長続きしなかった。クリスが手の内に隠したライトセーバーを作動させると同時に、恐るべき速さで迫ってきたからだ。
セーヤはまたしても反射だけで凌いだが、クリスの赤い光の刃は細くて鋭いわりにひどく重たかった。セーヤはフォースジャンプで身を転じてクリスの背後を取ろうとするも、赤い光の刃が的確に振り上げられた。
だが、セーヤはまだ空中にいた。この状態では斬り返せない。しかし、上手くやれば受け流せる。一瞬にも満たない時間で決断し、セーヤは緑の光の刃でクリスの攻撃を受け止めると、その力を利用して再度身を転じる。
その瞬間、セーヤの脳裏に閃いたのはロズ・キャットの身軽さだった。そうだ、あの動きをすればいい。その上でライトセーバーを操り、自分なりのフォームにする。
クリスから視線を外さずに着地したセーヤは、ライトセーバーの構え方を変えた。シャイ=チョーに適した正面ではなく、アタルに適した斜めに構える。
「これだ」
セーヤは確信した。クリスはセーヤの構えだけで察したのか、先程と同じようにライトセーバーを構える。太刀筋を見せず、斬り伏せるために。
「付け焼刃のフォームで私に勝てるとでも?」
「さあ、それはどうだか!」
セーヤは跳躍する。フォースジャンプでクリスの頭上を取り、ライトセーバーを振り下ろすが、クリスが抜刀して弾く。角度、位置、前後とセーヤは身を転じながらクリスをあらゆる方向から攻めていく。いずれも決定打に掛けるが、何度も続けていくうちにクリスの戦い方の弱点が見えてきた。
抜刀術とでもいうべき戦い方は、相手に手の内を見せずに一瞬の隙を突いて仕留められるが、最小限の動きで最大限の威力を発揮するためには僅かではあるが溜めが必要だ。だったら、その溜めをさせなければいい。
それから、この戦いに勝たなくてもいい。あくまでも時間稼ぎだ。ケイのことを信頼しすぎかな、と思わないでもないが、この状況を切り抜けるにはケイの助力が不可欠だ。だから、きっと来てくれる。
セーヤは着地し、息を弾ませながらもライトセーバーを握り締めていた。クリスの足元には両者の斬撃の痕跡が刻まれ、ライトセーバーによる熱気が漂っていた。
「これ以上は付き合い切れないわ」
クリスはセーヤを睨みながらフォースを発し、ホールに並べられているベンチを複数浮かばせた。そのベンチはセーヤに向けて放り投げられた、かと思いきや、セーヤを通り越していった。
「まさか!」
すぐさま振り返ると、そこにはセーヤを迎えに来たキヌガがいた。セーヤはフォースジャンプで加速し、キヌガとベンチの間に割り込むと、それが彼女に激突する寸前に切断した。最後の一つまで斬ったが、その頃にはクリスの姿が失せていた。恐らく、セーヤの意図を察したのだろう。
「ミッカ……」
ベンチの残骸に囲まれながら、キヌガは青ざめて震えていたが、セーヤはライトセーバーを収めて呼吸を整えた。
「もう大丈夫、とは言い切れないかな。あいつをどうにかしないと、キヌガや皆が危ないから。ごめんね、今まで黙っていて。私、本当は」
「ジェダイ……」
キヌガが目を見開いて呟くと、セーヤは笑った。今までと変わらない表情を作ったつもりだが、正体を明かすことはキヌガとの別れを意味しているので、ちょっとぎこちなかった。
「セーヤって、ミッカの本当の名前?」
「あ、うん、そうだけど」
キヌガの言葉に拍子抜けしてしまい、セーヤが答えると、キヌガはセーヤの手を取る。
「なんだかよく解らないけど、頑張って。セーヤ」
「ありがとう、キヌガ」
セーヤはキヌガの手を握り返した後、名残惜しかったが放し、背を向けた。クリスの行き先は解っている、研究船だ。テンノーと合流してから、行動を起こさなくては。
絶対に負けられない。
一方、その頃。
学園都市船団ズ・スィーの位置を捕捉したガンシップが、静かに接近しつつあった。コクピットに座しているのは、マンダロリアンのべすかーアーマーに身を包んだ男、ケイ・ホークだった。
「あの子、なんでこんなにヤバい事件に首を突っ込んでいるんだ?」
テンノーから送られてきたメッセージを読み、添付されていたファイルにも目を通したが、駆け出しのジェダイの手には余る。ケイの助力を乞うたのはいい判断だが、正直言ってケイだけでは難しい気もする。
「敵の数と規模がなー……」
帝国残党のトルーパー部隊とバトルドロイドの総数はかなりのもので、戦力差がありすぎる。だが、ここで音を上げて引き返してしまっては、銀河の伝説と名高いマンダロリアンの名が廃る。ケイの賞金稼ぎとしての評判にも影響が出る。
「まあ、なんとかなるだろ」
ケイはガンシップの相対速度を合わせ、学園都市船団の間に滑り込むと、研究船にドッキングした。
「我らの道」
マンダロリアンの古い教義の言葉を口にして、ケイは己を鼓舞した。負けると思えば負ける、勝てると思えば勝てる。セーヤもきっとそうしている。故に、結論は一つだ。
全力を尽くし、戦うまでだ。
好きな登場人物は?
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セーヤ・ミットー
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テンノー(NO-10)
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カミーノ・スターリバー
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ケイ・ホーク
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