トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる   作:あるてみす@二次創作

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36.二つの光

 ケイの気配を感じた。

 やっぱり来てくれた。セーヤはこの上なく安堵し、肩の力がいくらか抜けた。ケイであれば大丈夫だ、ポッド・レースの時と同じように活躍してくれる。だから、セーヤがやるべきことはただ一つだ。クリス・ハマーを止め、コーズクリスタルを壊す。

 研究船へと向かうシャトルの中、セーヤは唇をきつく結んでいた。TIEファイターが迎撃してくるかと思いきや、それらしい機影は現れなかったので、帝国残党側はこの事態を想定していなかったのだろう。だが、シスであるクリス・ハマーを生徒の中に潜り込ませていたことからして、ある程度の予防線は引いてある。

『セーヤ、コーズクリスタルの研究データの解析が終了しました。一部のデータは破損していましたが、概要は掴めました』

 コムリンクからテンノーの報告が入り、セーヤは耳を傾ける。

「それで、何のための研究だったの?」

『コーズクリスタルはかいばークリスタルには劣りますが、フォースに反応する特性があり、エネルギーを増幅する作用も備えております。それを利用したネットワークを形成するために、コーズクリスタルを用いた通信機器を開発していたようです』

「もしかして、それがホロ・ヴィジョン?」

『恐らくは。そして、従来のホロ・ネットと決定的に異なるのは、ホロ・ヴィジョンなる通信システムはフォースを活用しているということです。フォースユーザーでなくとも、誰しもがフォースを帯びております。それを外的要因で増幅し、繋ぎ合わせれば、ホロ・ネットよりも緻密かつ広範囲のネットワークを構築出来るのは間違いありません』

「何のためにそんなことを?」

『そこから先についての情報は得られませんでしたので、私からはなんとも。ズ・スィーの生徒を利用した実験というのも、試作段階のホロ・ヴィジョンに接続させることなのでしょうね。どれほど優れた技術であろうと、実践してみなくては判明しない不具合が発生し、予期せぬトラブルが起こりますから」

「解った。とにかくコーズクリスタルをぶっ壊すから、そのつもりでいて」

『了解しました。ご武運を』

 その言葉を最後に、テンノーからの通信は切れた。セーヤはコムリンクをポケットに入れてから、深呼吸した。

 クリスはケイの接近を感知して引き下がったが、二度目はそうもいかない。フォームⅣ・アタルがセーヤの戦い方に合う、というのはようやく解ったが、アタルは俊敏に動いて相手を攪乱しながら攻める戦法なので、ずっと動き続ければならない。それに対し、クリスの抜刀術はその場からほとんど動かず、こちらの隙を見計らって攻撃してくる。いずれにせよ、決め手に欠ける。

 だとしても。

 

 

 再び、研究船に侵入した。

 テンノーの援護がないので、セーヤはシャトルから降りると同時にライトセーバーを作動させたが、ストーム・トルーパーもドロイドも襲い掛かってこなかった。

「あれ?」

 なんでだろう、とセーヤはシャトルから顔を出すと、ストーム・トルーパー達が倒れ伏していた。皆、ブラスターの弾痕が一発だけ付いていて、たった一撃で仕留められている。ケイの仕業に違いない。

「うわ……」

 フォースを使っていないのに、とセーヤは血の気が引いたが、気を取り直して進んだ。ライトセーバーの刃は一旦引っ込め、ストーム・トルーパーの成れの果てとドロイドの残骸を横目に進んだ。

 火炎放射を喰らってアーマーが焦げた者、ワイヤーで締め上げられた痕跡がある者、至近距離で撃たれた者、降りてきた隔壁に潰された者、ドロイドと同士討ちさせられた者、などなど。帝国残党の兵士達はいずれも的確に倒されていて、一切無駄がない。

「マンダロリアンって……」

 凄いけど怖い。セーヤはケイに対する認識を改めつつ、研究室を目指した。時折、ケイに倒されずに済んだドロイドが現れたり、ストーム・トルーパーが隔壁を開けて乗り込んできたが、それはフォースだけで押し切れる程度だった。

 研究室に近付くにつれて、コーズクリスタルの気配が強くなってくる。クリスもその機能を理解しているので、ダークサイドのフォースを流し込んだらしく、それが増幅されて滲み出していた。先程以上の威圧感があったが、セーヤはそれに屈さずに進み続けた。ライトセーバーの柄を握る手に力が籠ったが、籠めすぎないように務めた。

 そして、研究室に到着すると、コーズクリスタルが光を放っていた。それを背にしているクリスは、ズ・スィーの制服の上に黒いローブを羽織り、フードを被っていた。ジェダイのローブと同じように。

「来たわね」

 クリスはフードを外し、素顔を晒す。笑みの一歩手前のような表情はひどく大人びていて、外見に似合わない色気すらある。その面差しにはやはり既視感があり、セーヤはようやく思い至った。

「あなたはホープに似ている」

「……ホープ・ハイライトに会ったことがあるの?」

 クリスは余裕のある表情を収め、手の中に隠れるライトセーバーを握った。

「二度会った。いい人だった。あなたはホープの妹?」

 セーヤは両手でライトセーバーを握り、斜めに構えて足を広げる。いつでも地面を踏み切り、跳躍出来るように。

「いいえ」

 クリスはセーヤを見据え、腰を落とす。赤い光の刃が伸び、クリスの横顔をシスの色に染める。

「姉よ」

 クリスが踏み込んで直進すると同時に、セーヤも舞い上がる。抜刀術めいた剣術は、懐に入られれば終わりだ。セーヤはクリスの頭上を巡り、背後に着地するも、クリスはそれを見逃さなかった。

 鋭い突きがセーヤを襲うも、セーヤは緑の光の刃を斜めにして受け、薙ぎ払う。火花が散る中、セーヤは円を描くようにクリスの視界から逃れ、横からの斬撃を加える。それも防がれたが、想定の範囲内だ。

 二人の少女が躍る。緑の光と赤い光を煌めかせながら、一瞬でも判断を誤れば命を落とす戦いを繰り広げる。目まぐるしく攻守が入れ替わり、優劣が変わり、迷いのない太刀筋が互いの首を狙う。

 このままでは消耗戦だ。体力が尽きた方が負ける。その前に戦局を変えなくては。セーヤがそう思ったように、クリスも同じ考えを抱いていた。故に、二人はフォースのテレキネシスを放ち、拮抗させる。

 力と力が押し合い、周囲の物体を浮かばせ、床と天井が捻じ曲がって配管と配線が露出する。セーヤは汗を滲ませながら歯を食い縛り、フォースでの戦いを耐え切ろうとしたが、クリスはフォースを緩めずにライトセーバーを放り投げた。

 放物線を描いた後、ライトセーバーが激突したのは最も大きいコーズクリスタルだった。そして、クリスはライトセーバーにフォースを向けて作動させた途端、コーズクリスタルから赤い閃光が迸った。

 乱反射した閃光が視界を焼いた。

 

 

 ────見知らぬ星。

 ライトセーバーを握っていたはずが、手の中から失せていた。セーヤは慌てて周囲を窺うも、それらしいものが見当たらない。その上、景色が一変している。

 氷と雪が大地を覆い尽くし、分厚い雲に空が塞がれ、吹き付ける風は肌を切るように冷たい。ズ・スィーの研究船ではない。それなら、ここはどこだ。

 吹雪の先に、かすかに光が見えた。緑色の光だ。あっちにライトセーバーがあるんだ、とセーヤは雪を踏み締めながら歩み出した。足にまとわりつく雪は重たく、冷えすぎたつま先がじんじんと痺れ、手が棒のように重たくなり、吐いた息で視界が曇る。それでも、緑色の光だけは見失わなかった。

 やっとのことでライトセーバーまで辿り着いたが、それはフードを被った男の手の中にあった。セーヤは男の前に回り、フードの内側を覗き込む。その顔には見覚えがある。

「サウス・ギ・ハーラ」

 セーヤがその名を呟くと、彼はセーヤに目を向けてきた。

「……ああ、君か」

「ここは?」

「フォースの中でもない。俺はジェダイではなくなったから、フォースに還れなかった。だが、ここでは少々事情が異なるようだ」

「もしかして、コーズクリスタルのネットワークの中?」

「恐らくは。フォースの繋がりを模した別のサーバー、とでも言ったところか」

 サウスは身を屈め、セーヤと目線を合わせてきた。セーヤはライトセーバーの本来の持ち主と会えたことで、複雑な感情が入り乱れていた。マスターになるはずだったジェダイとようやく会えた嬉しさと、彼が既にシスに堕ちているという落胆と、サウスの元でパダワンとして過ごす時間があったはずだ、というやるせなさ。

「セーヤ」

 サウスはセーヤの肩に手を添えてきた。冷え切っているはずなのに暖かい。

「私、あなたに出会うはずだった」

「そうだ。俺もそのヴィジョンを見ていた」

「それなら、どうしてシスになる道を選んだんです? それさえなければ、きっと」

 セーヤは涙を拭った。フォースを通じ、サウスがどんなジェダイだったのかを感じ取ったからだ。

 ソウ・テッセンの教えを受け、ジェダイの伝統的な教義と戦い方を身に着ける一方、ジェダイ・オーダーの在り方について疑問を抱いていた。しかし、ジェダイ評議会からの命令には逆らわず、クローン戦争でもジェダイとしての務めを果たした。オーダー66によって敵と化したクローン・トルーパーを憐れむも恨みは抱かず、彼らを救える道がないだろうかと模索していた。

 ジェダイの正道とは何なのか、フォースの導きに盲目的に従うべきなのか、最善の結果をもたらすためにはどう動くべきか。それがサウス・ギ・ハーラのジェダイとしての生き方だった。

「だから、俺は」

 サウスはセーヤの肩を押して歩みを進め、ジェダイのローブを脱ぐ。吹雪によってローブが舞い上がり、雪原の彼方に消え去ると、サウスの視線の先に赤い光が灯った。

「ダース・シャハーを倒すための、最善の策を取ったんだ」

 白い世界が黒に穢される。黒いヘルメットとマントを羽織った人物が、赤い光の刃を帯びたライトセーバーを構える。サウスはセーヤを一瞥した後、ライトセーバーを握り直すと、緑色の光の刃が鮮やかな赤に染まった。

 そして、二人は────。

 

 

 赤い光が弾け、消える。

 セーヤは仰け反りかけたが踏み止まり、ライトセーバーを握り直した。クリスが自身のライトセーバーを引き寄せ、握り直すが、セーヤが迫る方が僅かに速かった。

 唸りを上げ、首筋に緑の光の刃が添えられる。クリスが目を見張り、黒髪が焦げて千切れ、制服の襟が裂けた。セーヤはフォースを放ってクリスを吹き飛ばし、コーズクリスタルを支えている土台に激突させると、ライトセーバーを収めた。

「クリス、あんたの負けだよ」

「首を落とせばいいものを。そんなことで生き延びられるほど、甘いもんじゃないわ」

 クリスは顔を歪めながらも立ち上がろうとしたが、はっとしてフォースを別の方向に向けた。直後、ブラスターの光弾の弾道が逸れ、作業台の上の実験器具を破壊した。

「ケイ!」

 セーヤがブラスターの主を悟ると、青いアーマーのマンダロリアンがブラスターを手にして現れた。

「俺の仕事は片付いた。ちょっと手間取ったが、これぐらいの規模であれば制圧出来る。マンダロリアンだからな」

「は?」

 クリスが唖然とするも、ケイはブラスターの銃口をクリスに向ける。

「子供は撃ちたくないが……いや、それは見た目だけか。どうやって化けたんだ」

「なぜそれを」

 クリスが苦い顔をすると、ケイはちょっと首を傾げた。

「賞金稼ぎってのは人を見る目が養われるのさ」

 クリスは目線を泳がせかけたが、コーズクリスタルをフォースで乱暴に引き摺り落とした。その衝撃によって先程のエネルギーが再度放出され、研究室全体にレーザーが撒き散らされる。セーヤとケイは物陰に飛び込んだが、その隙にクリスは研究室から抜け出した。

「あっ」

 セーヤが気付いた頃には、クリスは隔壁をフォースで降ろして塞いだ。セーヤは追おうとするも、コーズクリスタルが隣接したコーズクリスタルと共鳴し、エネルギーを高ぶらせていた。このままでは、いずれ爆発してズ・スィー全体に被害が及ぶ。それを防げるのは、セーヤだけだ。

「ケイ、下がっていて」

 セーヤは呼吸を整えてフォースを落ち着かせると、コーズクリスタルに触れた。火傷しそうなほど熱く、怯えたように震えている。セーヤはサウスと出会った雪原の冷たさを思い起こし、コーズクリスタルの中で荒れ狂う熱と震えを少しずつ鎮めていった。

 光が失せ、コーズクリスタルが静かに横たわると、セーヤは力尽きて膝を突いた。ケイはすかさずセーヤを支える。

「俺はこれで引き上げるが、用件はあるか? 引き受けてやるよ、内容次第だが」

「ホープにお姉さんがいたかどうか、調べておいてくれる?」

「造作もない」

「それから、キヌガが……」

 無事かどうか確かめてほしい、と言おうとしたが、セーヤは気が遠くなった。いつになく手の中のライトセーバーが重たい。サウス・ギ・ハーラの生き様を、覚悟を、シスに至る前の姿を知ったからだ。

 サウス・ギ・ハーラ、セーヤのマスターになるはずだったジェダイ。ダース・シャハーと並び立つために、強い力を得るためにシスと化す道を選んだ。心の底からダース・シャハーを恐れているのに、嫉妬めいた疼きが起きるのはなぜだろう。

 自分の心なのに解らない。

 

好きな登場人物は?

  • セーヤ・ミットー
  • テンノー(NO-10)
  • カミーノ・スターリバー
  • ヒル・スワンプ
  • ホープ・ハイライト
  • ナザ・シーサイ
  • ケイ・ホーク
  • マチルダ・グランベリー
  • エア・キャビー
  • サウス・ギ・ハーラ
  • ソウ・テッセン
  • ダース・シャハー
  • オード・キュー
  • クレイン・ミーネ
  • ショーナ・ディノ
  • ユマ・ハイライト
  • ヴィシャム
  • フマガ
  • サク・ラギーチョ
  • その他
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