トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
雪を踏んだ。
ダース・シャハーは我に返り、足元を確かめたが、そこには水滴一つ落ちていない床が広がっていた。今の感触はなんだ、ただの錯覚か、それにしては鮮明だった。
「雪……」
あの星は今、どうなっているのだろうか。たった一度だけ訪れ、サウス・ギ・ハーラと命を奪い合った場所だ。複雑な感情が去来したが、ダース・シャハーはそれを振り払い、マスクで顔を覆った。
右腕と右足の義肢の具合を確かめてから、合金製の黒いヘルメットを被り、引きずるほど長い黒いマントを羽織る。ベルトにライトセーバーを提げ、自室から出ようとすると、コムリンクが鳴った。
『ダース・シャハー、ユマが帰ってきました』
ショーナ・ディノからだった。
「例の作戦は失敗したのか」
ダース・シャハーが察すると、フォースを通じ、ショーナの思念が揺らいだ。
『詳しい説明は当人から聞いて下さい。俺は別の任務に向かうんでね。先に言っておくが、ユマの尻拭いはごめんですよ』
「その件に関しては殿下とも話し合った上で決定する。ショーナは当初の予定通り、任務に向かってくれ」
『心得ました』
コムリンクの通信が切れると、ダース・シャハーはフォースを用いてコムリンクを引き寄せ、手の中に収めた。フォースを通じ、ユマの機嫌の悪さは伝わってきたが、ひとまず当人に会わなくては。
特定の惑星や星系に留まらず、常に銀河を航海している学園都市船団ズ・スィーを隠れ蓑にしてコーズクリスタルの研究を進める、という発想はよかったし、思惑通りに新共和国の目からも逃れられていた。ズ・スィーで寮生活を送っている学生を実質的な人質にして、多くの技術者や科学者を囲い込めたのも都合がよかった。しかし、それがたった一人のジェダイによって台無しにされた。
セーヤ・ミットー。ジェダイ聖堂に迎え入れられ、マスターによる教えを受け、ライトセーバーを得たわけではなく、その存在はジェダイ・オーダーから見逃されていた。だからこそ、オード・キューがセーヤのフォースを感じ取り、シス騎士団の一員となるべく誘いを掛けようとした。だが、その前にセーヤは逃げ出し、今に至る。
パダワンですらなく、ジェダイと呼べるはずもなく、ライトセーバーを譲り受けただけの素人に過ぎない。そのはずなのに、シス騎士団が立て続けに負けている。セーヤが人殺しに慣れていないので仕留められていないだけマシだ、と思おうとするも、殺された方がまだよかったのでは、との考えも過ぎる。
ジェダイに温情を掛けられるなんて、シスからすれば屈辱極まりない。増して、それが歴戦のジェダイ・マスターですらない、パダワン時代すら経ていない、ジェダイと名乗っているだけの素人ならば尚更だ。
ダース・シャハーはマスクの下で深いため息を吐いてから、歩調を早めた。やがてシス騎士団の後進を担うはずだった子供達を奪われたことで、クレインはひどく荒れていた。オードは当たり散らさなかったが、セーバー剣術の訓練を行う時間が増えた。となれば、ユマの精神状態も危ういだろう。
無理からぬことだが。
惑星モルルの離宮は静かだ。
帝国の皇太子であるヴィシャムが穏やかに過ごすための場所であり、帝国残党のストーム・トルーパーも必要最低限しか配備されていない。モルルは新共和国の管轄外の辺境に位置しており、ハイパースペース航路からも遠く離れているため、民間の宇宙船が出入りすることもない。空を横切るのはスターデストロイヤーや軽クルーザー、TIEファイターばかりだ。
だが、今日に限ってはそうもいかないだろう。ダース・シャハーは平静を装いながらも、腹を括っていた。長い回廊を渡り、ユマの気配を辿っていくと、彼女の私室ではない個室に留まっていた。何のために、とダース・シャハーは訝りながらもドアをノックした。
「私だ」
「……どうぞ」
ユマの返事があったが、明らかに落ち込んでいた。ダース・シャハーがドアを開け、中に入ると、ユマはソファーに座って項垂れ、大きな目に涙を溜めていた。その理由は一目瞭然で、左側の後ろ髪が焼け焦げて切れていた。ライトセーバーの切り口だ。
「その髪は」
ダース・シャハーが歩み寄ると、ユマは俯いて涙を落とした。
「私が未熟だったから……」
「見せてみろ」
ダース・シャハーはユマの焼き切れた髪に触れ、制服の襟にも触れたが、首筋には傷跡は残っていなかった。首を刎ねるよりも、その寸前で手を止める方が難しいというのに。
「ユマ」
ダース・シャハーがユマの前に立つと、ユマは顔を覆う。
「あの子、ホープのことを知っていた。どうして? どこで? なんで? 銀河はこんなにも広いのに、なぜ? 私はホープには出会えていないのに、どうしてなの? フォースの導きのせい? だとしたら、なぜフォースはホープを連れてきてくれないの?」
ユマは背を丸め、肩を上下させて語気を荒げる。それに伴ってフォースが漏れ、室内の調度品が浮かび上がっていく。重たいキャビネット、テーブル、ソファー、絨毯。
「ユマ、落ち着け」
ダース・シャハーが言い聞かせるも、ユマは指の間からぼたぼたと涙を垂らす。
「ホープは私のものなのに!」
キャビネットが壁に激突し、呆気なく砕けて木片が飛び散る。ダース・シャハーは自身のフォースでそれを退け、ユマの肩に手を添える。ユマはびくりとしたが、顔を上げなかった。
フォースを用いてがたつくドアや窓を静め、激しく波打つカーテンと絨毯をただの布に戻し、ソファーやテーブルを本来の位置に置いてから、ダース・シャハーはユマの丸まった背中を撫でてやった。
「ああ、そうだ。お前の妹は、お前だけのものなのだ」
ホープ・ハイライトは、ユマの双子の妹だ。双子なのに、ミディクロリアンを生まれながらに宿していたのはユマだけだった。
とあるジェダイがユマを見つけ、ジェダイ聖堂に迎え入れるべく家族の元から離した。そこにシスが割って入り、そのジェダイを討ち、双子の片割れに会えなくなった寂しさに苦しむユマに甘い言葉を掛けた。そして、ユマはシスの道を歩み始めたが、フォースの作用で子供の姿を留めている。大人になるのを拒んでいるからだ。
「落ち着いたか?」
ダース・シャハーが声を掛けると、ユマは涙に濡れた顔を上げた。
「はい……」
「それでも収まらぬようであれば、私が相手をしよう」
「その時はお願いします」
ユマは制服の袖で顔を拭い、頭を下げてきた。ダース・シャハーは義肢の右手で、ユマの髪に指を通す。
「髪はまた伸びる」
「はい」
「人の手を借りるのが嫌なら、ドロイドでも呼ぶがいい」
「そうします」
ユマは何度も深呼吸すると、フォースを宥めた。ダース・シャハーは長いマントを生身の左手で捌いてから、ユマの隣に腰掛ける。
すぐに立ち去ってもよかったが、それでは不測の事態に対処しきれない。オードは経験と年齢を重ねたシスなので負の感情への対処方法を知っているし、クレインは暴れるだけ暴れたら発散出来たが、ユマは二人に比べれば繊細だ。小柄な体躯と俊敏さを生かしたセーバー剣術を扱えるのも、その感覚の鋭さがあってこそだ。
それに、セーヤ・ミットーの話もまだ聞いていない。セーヤは急激に才能を伸ばしているので、ダース・シャハーと相対する時には、どれほどのものになっているだろうか。
期待してしまう。
ユマの髪が整えられた。
ドロイドによって散髪され、艶やかな黒髪はかなり短くなったが、ユマの魅力に遜色はなかった。ユマは鏡に映る自分をじっくり眺め、軽くなった後ろ髪に何度も触れていたが、その表情は穏やかだった。散々泣いて喚いたから、負の感情が発散されたからだ。
ダース・シャハーはユマの様子を確認し、もう大丈夫だと確信したので踵を返した。ズ・スィーから逃げ帰ってきた技術者達とドロイドから、現段階での研究成果を見せてもらい、その上で今後の計画を立て直さなくては。人員の配置、予算の配分、必要な機材と物資の調達、他にもやることはいくらでもある。ホロ・ヴィジョンを完成させるには、着実に進めなくては。
中庭に面した回廊を通り過ぎ、廊下の角を曲がった途端、つま先に柔らかなものが触れた。粉を踏んだかのような感触と底冷えする風が訪れ、ダース・シャハーは立ち止まる。
「これは……」
心臓が冷え込み、マスクの下で顔が引きつる。忘れもしない、忘れるはずもない、決して失いたくない、あの日の記憶だ。
だとすると、この先には彼がいる。ダース・シャハーが目を凝らすと、雪原の彼方で何かが舞い上がり、吹雪に揉まれて飛び去った。ジェダイのローブだ。そして、緑色の光の刃のライトセーバーが白い世界を鮮やかに染めていたが、それが赤に変化する。
「……サウス」
あれはサウス・ギ・ハーラだ。ダース・シャハーは腰に帯びたライトセーバーを握り、抜きかけたが、これはフォースが見せるヴィジョンなのだと気を張った。
途端に雪原が消え、見慣れた廊下に戻ったが、黒いマントの表面には雪の粒が付着しているような気がした。様々な感情を持て余し、ダース・シャハーはマスクを押さえた。
時としてフォースは残酷だ。
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