トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
コレリアは空気が悪い。
巨大な造船所は停止しているので冷え切っていて、宇宙船に使用する部品や合金を製造する工場も同様だったが、長年の大気汚染が収まるにはかなりの時間を要するだろう。
降り始めた雨は重たく、濁っていた。セーヤは肌寒さを覚え、身を縮めた。キヌガとタウロの様子を窺うと、父と娘は穏やかに語り合っていた。キヌガの表情は目に見えて明るくなり、タウロも穏やかだった。二体のアストロメク・ドロイドも寄り添い、情報交換を終えた後はバイナリー言語でお喋りしていた。
「セーヤ、具合はどう?」
キヌガはセーヤに近付いてきたので、セーヤは顔を上げる。
「少しずつ落ち着いてきた。キヌガの方こそ、お父さんと話し合えた?」
「色々とね」
キヌガはセーヤの隣に腰を下ろした。ズ・スィーの制服は汚れ一つなかったが、それは却ってコレリアの造船所では浮いていた。配管を伝って潜り込み、住み着いているウォンプ・ラットが足元を駆け抜けていった。
「私のお母さんは、私を産んで間もなく病気で死んじゃったって。だから、お母さんには会いたくても会えない。それで、お父さんはお母さんを助けられなかったのを悔やんでいたから、私にもしものことがあっても対処出来るようにズ・スィーに預けたんだって。だけど、お父さんの研究が進んで帝国残党に目を付けられて、ズ・スィーにも帝国残党が潜り込むようになったから、なんとかして私を連れ出せないかと考えていたけど上手くいかなくて、時間だけが過ぎていって……」
キヌガはつま先を揃え、膝の上で手を組む。
「そんな時に現れたのがセーヤだった」
「私は、自分がやるべきことのために進んでいたら、そこにキヌガがいたの。それでキヌガを救えたのならよかったよ」
セーヤが笑みを向けると、キヌガは頷く。
「私もそう思うわ。それで、お父さんの研究は通信技術なんだけど、論文や理論を見せてもらったら大体解ったの。コーズクリスタルを利用して作り上げるネットワークで、距離や磁場や重力場に影響されずにリアルタイムでの通信を可能にする技術なのよ。情報を圧縮するためのプロトコルは既に完成しているんだけど、ハードウェアの開発がまだ追い付いていなかったのよ。ズ・スィーのネットワークはホロ・ネットから独立しているから、その運用テストをするには丁度良かったのね。もっとも、私達が知らないうちに運用テストは始まっていたのかもしれないけど」
「えーと……」
キヌガの話の意味がほとんど解らず、セーヤが言い淀むと、テンノーが口を挟んだ。
「シスであり帝国残党の一員であったクリス・ハマーの口ぶりでは、そのテストに生徒を利用しようと考えているようでした。コーズクリスタルから発せられた光を浴びたセーヤが著しく消耗していることも、それらと無関係ではないでしょう」
「そうかなぁ」
セーヤが首を捻ると、テンノーは肩を竦める。
「まあ、断言は出来ませんけどね。研究船から回収したデータを分析しませんと」
「問題はいくつもあるけど、最大の懸念点はお父さんの立場ね。帝国残党からすれば、機密情報を握っているお父さんに逃げられたのはかなりまずいわ。でも、新共和国が私とお父さんを保護してくれるかというと、それも微妙な気がするのよ」
キヌガが嘆息すると、セーヤは訝る。
「なんで? 新共和国は帝国残党を追い回しているし、潰したいんでしょ? それなら、帝国残党に見切りを付けて逃げてきた科学者なんて放っておかないはずだよ」
「お父さん、元々は分離主義勢力に所属していたから」
「え?」
セーヤが面食らうと、テンノーが補足する。
「クローン戦争において共和国軍が戦っていた勢力であり、ドロイドを主戦力とする企業の連合組織です。ズ・スィーもまた、本来は分離主義勢力の幹部となる人材を育成するための教育機関でしたし」
「でも、もう戦争は終わったんでしょ?」
セーヤが戸惑うと、キヌガは頬杖を突く。
「戦争は終わっても、色々なことが燻っているのよ。実際、帝国残党が何かを企んでいるでしょ? それに、皆にはそれぞれの言い分や立場があるから、そう簡単には鞍替え出来ないのよ」
「だったら、同盟軍は?」
セーヤの提案に、キヌガは考え込む。
「それも考えたんだけど、お父さんは同盟軍側には知り合いがいないのよ。信用してもらわないことには、安全も確保出来ないし」
「それなら任せて、同盟軍の連絡先は知っているから。私の友達だって言えば、少なくともカミーノは信用してくれるはずだから。Xウィングのパイロットなの」
セーヤが身を乗り出すと、キヌガはセーヤの手を取った。
「ありがとう、セーヤ。お願い出来る?」
「テンノー、カミーノに連絡を取って」
セーヤが指示すると、テンノーは応じた。
「仰せのままに。今回の旨を説明するメッセージを作成、送信しました。あちらからの返答を待ちます」
「カミーノって、そのパイロットの名前?」
キヌガに問われ、セーヤは頷く。
「そうだけど、それがどうかしたの?」
「同じ名前の惑星を知っているわ。クローンを製造していた惑星で、今は閉鎖されているのよ。ただの偶然かもしれないけど」
キヌガの言葉に、セーヤは今まで聞いたことが頭から吹き飛んだ。カミーノの出自なんて考えたこともなかったし、髪の色が独特なのでヒューマンと他種族の混血なのだろう、という程度だった。
それに、彼はクローン兵にはちっとも似ていない。コルサントの下層区域には、戦争が終わった後に放り出されたクローン兵がうろついていた。彼らは薄汚れて壊れたアーマーを身に着けていて、同じ顔をしていて、同じように老いていた。成長を促進するために遺伝子操作されているため、老化する速度も早いからだ。
カミーノはそうじゃない、彼らとは違う。名前が同じ、それだけのことだ。セーヤは胸の内が重苦しくなり、不安を振り払おうとするも、上手くいかなかった。
こんな時ほどヴィジョンは見えない。
同盟軍からの返答があった。
セーヤはカミーノに連絡したが、返答してきたのはスワンプ大佐だった。ズ・スィーでの一連の事件に帝国残党の暗躍、コーズクリスタルを利用した通信技術の開発を巡る企業の思惑、そしてタウロ・スーの出自、とそれらの問題点を提示した。その上でタウロとキヌガの身の安全を確保しておくべきだ、と判断し、惑星ビッグシップの同盟軍基地に身を寄せることを許可してくれた。
「スワンプ大佐、厳しいけど優しいね」
返信を読み終え、セーヤが安堵すると、キヌガは言った。
「同盟軍も帝国残党に対抗するためのカードが欲しかったのでしょうね」
「いずれにせよ、身を寄せられる場所があるのはありがたい。その惑星はどこに?」
タウロの質問を受け、テンノーは彼が乗ってきたシャトルを指した。
「惑星ビッグシップの座標をインストールするついでに、ハイパードライブもセットしておきますね。微調整が必要であれば、RE5に頼んで下さい」
「それじゃ、今度こそお別れだね」
セーヤが零すと、キヌガは眉を下げた。
「そうね。せっかく仲良くなれたのに……」
けれど、ここで別れを惜しんだり、引き留めてしまえば、キヌガの旅立ちを妨げてしまう。セーヤはキヌガの手を握ろうとしたが、引っ込めた。
すると、不意に強いフォースを感じた。セーヤは我に返って振り返り、フォースを放つと、建造途中の宇宙船の外装が浮かび上がってきた。それがコントロールタワーに突き刺さりそうになったので、セーヤはフォースを強めて押し留める。だが、いつまでもそのままではいられないので、ライトセーバーを作動させて身を躍らせた、
空中に飛び出したセーヤはライトセーバーを振るい、外装を両断してからフォースで遠ざける。離発着場に着地してから身構えると、鉄骨やフレーム、エンジンの部品、レーザー砲の砲身などのガラクタと共に小柄な人影が浮かび上がってきた。その手には、赤い光の刃を帯びたライトセーバーがある。
「ジャワ?」
シスのライトセーバーを握る者の姿を認め、セーヤは面食らった。子供のような矮小な体躯でフードを被り、顔を隠しているが、目は黄色く輝いている。
『いかにもジャワだが、それがどうした!』
ジャワ語とフォースの思念を交えたものが飛んできて、セーヤは軽い頭痛を覚えた。消耗しているせいで、ダークサイドの強烈なフォースの影響を受けてしまう。
セーヤはテンノーと目を合わせると、キヌガとタウロを逃がすために離発着場から離れた。セーヤはシスのジャワを退けるべく、駆け出したが、シスのジャワはセーヤには目もくれずに通り過ぎていった。
『俺の目的はお前じゃない、奴だ!』
シスのジャワは軽やかに跳躍し、赤いライトセーバーを振り上げる。その先にはタウロが立ち尽くしている。セーヤはフォースをできる限り高め、シスのジャワを空中で固定したが、シスのジャワもまたフォースを放ってセーヤのフォースに抗ってくる。
もう一息で押し切れる、とセーヤは力もうとしたが、フォースとの繋がりが急激に弱まった。体調が戻っていないのに無理をしたからだ、と気付いたが、どうにもならない。
セーヤのフォースから逃れたシスのジャワは、タウロの頭上に赤いライトセーバーを振り下ろす。キヌガが思わず顔を背けたが、シスのジャワのライトセーバーは、タウロを脳天から両断する寸前で硬直していた。
『別のジェダイか!?』
シスのジャワが声と思念を荒げたが、セーヤはそれらしい存在は感じ取っていなかった。だとすれば、どこの誰だ。
『邪魔をするな!』
シスのジャワはフォースでガラクタを投擲するも、ブラスターの光弾が的確に命中して軌道を変えた。セーヤはその姿を捉えようと目を凝らすも、今度こそ体力が底を突いた。
そこで意識が途切れた。
フォースを感じる。
だが、ジェダイのそれとは異なる感触だ。ジェダイのフォースは整えられているので、なめらかで整然としている。それに対し、シスのフォースは荒々しくて尖っている。しかし、今、セーヤが感じているのはどちらでもなかった。だとすれば、誰だ。
「起きたか」
セーヤの傍にいたのは、仮面で素顔を隠した賞金稼ぎ、サク・ラギーチョだった。セーヤは目を見開き、起き上がる。
「シスのジャワは!」
「撤退しました。奴の目的はタウロの奪還、或いは処分だったようですが、タウロとキヌガはコレリアから離脱しましたので」
テンノーに説明され、セーヤは脱力するほど安堵した。
「よかったぁ……」
「それで、今度はサクの話を伺いましょう。セーヤとその友人を助けて下さったことには礼を言いますが、あなたは賞金稼ぎです。何らかの目的がなければ、セーヤを追ってこないでしょう。どこの誰がセーヤに賞金を懸けたんです? 事と次第によっては、それ相応の対処をいたしますが」
テンノーがサクを見据えると、サクは佇まいを直した。
「俺の故郷、ネゴスからの依頼だ。アシュラの巫女に相応しい人材を確保し、連れてこいと。それがネゴスの内戦を封じる手立てになるかもしれないんだ」
「それ、って……」
セーヤは徐々に意識が鮮明になった。アシュラの巫女が何なのか、聞かされなくても察しは付く。惑星ネゴスとその住民のネゴシアンのためにフォースを整える役割だろう。その役割を担ったらどうなるのか。尽くすだけ尽くした後、自由を取り戻せるのか。そもそも、なぜセーヤを選んだのか。
疑問は尽きなかったが、惑星ネゴスにはいずれ行く運命にあったのだ。セーヤは身構えているテンノーを制し、答えた。
「行くよ、ネゴスに」
避けては通れぬ道であれば、真っ直ぐに進むまでだ。セーヤの返事に満足したのか、仮面の下でサクの眼差しが和らいだ。期待と不安は変わらなかったが、正面から受け止めようと開き直れるようになった。
それだけでも大きな進歩だ。
好きな登場人物は?
-
セーヤ・ミットー
-
テンノー(NO-10)
-
カミーノ・スターリバー
-
ヒル・スワンプ
-
ホープ・ハイライト
-
ナザ・シーサイ
-
ケイ・ホーク
-
マチルダ・グランベリー
-
エア・キャビー
-
サウス・ギ・ハーラ
-
ソウ・テッセン
-
ダース・シャハー
-
オード・キュー
-
クレイン・ミーネ
-
ショーナ・ディノ
-
ユマ・ハイライト
-
ヴィシャム
-
フマガ
-
サク・ラギーチョ
-
その他