トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
脱出ポッドは無事に着水した。
だが、陸地らしきものが周囲には見当たらなかったので、テンノーが脱出ポッドのセンサーを利用して調べると、50キロほど先に島を見つけた。幸い、スラスターの燃料がいくらか残っていたので、それを少しずつ使って推進した。
シャトルでの騒動とは打って変わって、静かな時間が過ぎた。セーヤはゆらゆらと揺れる脱出ポッドに身を委ねながら、ぼんやりしていた。コルサントの下層区域にいたのが随分遠い昔のように思えてくるが、まだ一日も経っていない。それなのに、セーヤの人生の方向性はすっかり変わってしまった。
「セーヤ、船酔いしましたか」
テンノーに案じられ、セーヤは膝を抱える。
「そうじゃないんだけど……」
「ジェダイの修行はもう始まっています。困難な時であるほど、ジェダイは心を平静に保ち、フォースとの繋がりを強くするものなのです」
「え、何それ」
セーヤが虚を突かれると、テンノーは言った。
「つまり、瞑想です」
「したことないんだけど」
「瞑想を身に付けるのも、ジェダイには不可欠です」
「どうやるの?」
「こう、座りまして」
テンノーは両足を折って正座すると、俯いた。
「目を閉じて心を穏やかにして、フォースの流れを感じ取るのです。と、マスター・ギ・ハーラは仰っておりました」
「こう……?」
セーヤは見様見真似で正座し、目を閉じた。深呼吸を繰り返し、体の力を抜くと、おのずと感覚が研ぎ澄まされてきた。フォースの流れ、らしきものはなんとなく感じ取れるが、はっきりとしたものではない。空気のように軽く、かすかな揺らぎでしかない。
脱出ポッドに打ち付ける波の音、海水の厚み、吹き寄せる風の強さ、脱出ポッド自体の軋みが、セーヤの聴覚とそれ以外の感覚を掠めていく。それらはすぐ傍にあるが、フォースらしきものは追い求めれば遠くなり、逆に気を逸らせば近付いてくる。
欲を掻くな、ということか。それは難しいなぁ、と心の片隅で思いながらも、セーヤは意識を沈めた。覚醒と睡眠の狭間に浸り、未知の感覚に触れた。
指先で掠める程度だったが。
漂流の末、島に到着した。
岩石ばかりで草も木もなかったが、陸地であるというだけで安心感があった。それからテンノーは脱出ポッドの中身を調べ、サバイバルキットを見つけてくれた。バクタ・スプレーを始めとした応急処置用の医薬品と固形食糧、長期保存可能な水が入っている。
固形食糧を一つだけ齧り、水を少し飲んでから、セーヤは今後について考えた。テンノーが知る限りでは、惑星リョクエンは現住生物と原始的な民族は存在しているものの、宇宙港もなければ通信設備もない。逃亡し続けるにはうってつけだが、脱出手段もない、ということだ。
「であれば、修行に集中出来ます」
テンノーの言葉に、セーヤは面食らう。
「なんでそうなるの?」
「リョクエンから脱出する手段や、セーヤの生命維持の手段は私が計算しておきますので」
「そういうことじゃなくてさ」
「いいですか、セーヤ。あなたはライトセーバーを手にして、フォースにも目覚めつつあるのです。思い出してごらんなさい、賞金稼ぎを吹き飛ばしたことを」
「それは……」
セーヤは自分の両手を見下ろした。確かに、シャトルの中で賞金稼ぎを吹き飛ばしたのは未知の力であり、それがフォースなのは間違いないだろう。だが、生きるか死ぬかの状況で修業を始めるのは正気の沙汰ではない。
「でもさ、テンノー。優先順位がおかしいんじゃ」
セーヤが異を唱えるも、テンノーは譲らない。
「いいえ、そんなことはありません。ジェダイへの道が拓かれたのであれば、その道を一歩ずつ進むべきなのです。いつ、いかなる状況であろうとも己を見失わず、感情を律し、力に溺れず、正しいことを成すのがジェダイなのですから」
「だけど」
「言い訳は無用です」
テンノーが語気を強めたので、セーヤは唇を噛み締めた。本物のジェダイ・マスターの傍に付いていたテンノーは、ジェダイの在り方を知っている。だが、セーヤはそうではない。ライトセーバーを握ったのも、フォースを感じたのも、ほんの少し前だ。
いきなり覚悟を決められるわけがないでしょ、もうちょっと段階を踏んでから、とセーヤは言おうとするも、岩だらけの島に奇妙な影が現れた。
漆黒のヘルメットに素顔を覆うマスク、引き摺るほど長い黒のマント、その手には深紅のライトセーバーが携えられている。セーヤがはっとして振り返ると、黒い人影は消えていた。けれど、心臓が痛むほど緊張している。
「今のは、誰?」
「セーヤ。今度は何を見たのですか?」
テンノーに問われ、セーヤは首を横に振る。
「解らない。でも、凄く嫌な感じがした。黒いヘルメットとマスクで、やっぱり黒いマントを付けていて、それから真っ赤なライトセーバーを持っていて……」
「その特徴に一致するのはシスの暗黒卿です」
「シス?」
「ジェダイと対を成すものであり、ダークサイドの信奉者です」
「暗黒卿って、シスの中でも強いの?」
「ええ。ジェダイ・マスターと肩を並べるほどに」
テンノーはセーヤに向き直り、体の前で手を組む。
「マスター・ギ・ハーラを討ったのは、そのシスの暗黒卿なのですから」
逆光の中、テンノーの黄色いバイザーからホロが投影される。ジェダイ装束に身を包んだ男が現れる。体付きはヒューマンだが、ローブの裾からは尻尾がはみ出しているので異種族との混血なのだろう。その眼差しは穏やかだが、険しい面持ちだった。年頃は四十代手前といったところか。
「これがマスター?」
セーヤが目を上げると、テンノーは頷く。
「はい。在りし日のマスター・ギ・ハーラの御姿です。マスター・ギ・ハーラは、かつて師事していたジェダイ・マスター、ソウ・テッセンの意志を継ぎ、アウターリムで独自に活動しておりました」
「マスターのマスター?」
セーヤがちょっと混乱すると、テンノーが付け加えた。
「ジェダイ・マスターは弟子を一人だけ迎え、鍛え上げて独り立ちさせるのです。よって、マスター・テッセンにとっては、我がマスター・ギ・ハーラはかつてのパダワンなのです」
「だとすると、私って何? その、パダワンは弟子って意味なんでしょ? だけど、私を見つけてくれたのはテンノーだし、テンノーはドロイドだし……」
セーヤが更に混乱するも、テンノーは事も無げに告げた。
「ですから、最初に申し上げたではないですか。私はマスターの代理なのです。話を戻しましょう。かつて、マスター・テッセンはアウターリムの星々を巡り、フォースセンシティブを持つ子供を見つけてはジェダイ聖堂へと送り届けておりました。マスター・ギ・ハーラもその中の一人であり、やがてマスター・テッセンを師事し、一人前のジェダイとなりました。そんな中、マスター・テッセンはあるヴィジョンを見たのです。かつて出会った子供達の中から、強大な力を持つシスの暗黒卿が現れると」
「だから、マスター・ギ・ハーラは、パダワンだった頃に出会った人達に会いに行っていたの?」
「はい。ジェダイを目指した者、そうでない者、シスの誘惑に屈した者もいました。そして、長き旅の果てにマスター・ギ・ハーラが出会ったのが、シスの暗黒卿、ダース・シャハーです」
テンノーの背後では大きな波が打ち寄せ、岩にぶつかって砕け散り、海水が飛び散る。セーヤの足元では、無意識に漏れたフォースによって小石がかたかたと震えていた。
「それが、私が見たもの……?」
「私はセーヤのヴィジョンを感知出来ないので断言は出来ませんが、その可能性は極めて高いでしょう」
「だけど、その人と私は何の関係もないんじゃ」
「ええ、今のところは。ですが、今後はどうなるか解りません。フォースのみぞ知る、とでも言うべきでしょうか」
「そんな……」
セーヤは身が竦んだ。ヴィジョンで気配を感じただけで体の芯が冷え込むほどだったのに、本物の暗黒卿と出会ったら指先も動かせなくなってしまう。ヴィジョンを上手く使えば出会わなくても済むのでは、とセーヤは考えたものの、それ以外の未来はない、とうっすらと感じ取っていた。
フォースの揺らめきによって。
フォースには様々な力がある。
それをどのように使い、いかなる効果をもたらすのかは個々の才能とセンス、そして引き出せたフォースの強さ次第だ。セーヤは未来予知のヴィジョンに特化しているのは解っていたが、それ以外に何が出来るのかはセーヤ自身も解っていない。
フォースを用いて物体や自分の体を浮かばせるのは、その中でも初歩的な技術だ。だからこそ、磨き上げれば突出した能力となり、大いに役に立つ。セーヤにもそれらしいことが出来たのだから、と思い、セーヤは石を浮かばせようとした。
「ぶはっ」
だが、ちっとも上手くいかない。セーヤは無意識に呼吸を止めていたが、集中力が切れた。
「力んではいけません。そこにあるものを感じ、その力を借りて作用させるのです」
テンノーはそれらしいアドバイスをしてくれるが、セーヤには今一つ飲み込めなかった。
「感じろって言うけど、何を?」
「万物の力です」
「どこからどこまで?」
「この宇宙そのものに宿っております」
テンノーが両腕を大きく広げると、セーヤは手近な岩に腰掛けた。
「ちょっと休憩する」
「なぜですか。まだ修行を始めたばかりですよ」
「スケールが大きすぎて付いていけないんだもん」
「そのうち理解出来ますよ」
「だから、私はまだ……」
セーヤはそう言いかけたが、かすかな気配を感じた。間を置かずにテンノーが反応する。
「スターファイターらしき熱反応です。こちらに接近してきます」
「なんでここが解ったの?」
セーヤが立ち上がると、テンノーは脱出ポッドを指した。
「トランスポンダーが作動していたからですね」
「どうして切っておかなかったの?」
「そう命令されておりませんから」
テンノーがしれっと言い放ったので、セーヤは怒りたいが怒れなくなった。それはそうだ、ドロイドは命令されたことに対しては忠実だが、命令されなければ何もしない。だから、ドロイドの働きの巧拙は命令する側の問題なのだ。
セーヤが自分への不甲斐なさと苛立ちを持て余していると、先程のスターファイターが向かってきた。ゆっくりと旋回してきたのは、同盟軍のXウィングでオレンジのマーキングが目立っていた。
Xウィングは緩やかに着水すると、キャノピーが開き、パイロットが現れた。ヘルメットを外すと、鮮やかなオレンジの髪が潮風に靡く。ヒューマンの若い男だった。
「やあ、君か。冒険は楽しかったか?」
「えっと……」
セーヤが身じろぐと、パイロットはコクピットでいくつかのスイッチを操作し、Xウィングを閉じた。主翼の先端を岩に接岸させると、身軽に歩き、ひょいと島に飛び移った。
「俺は同盟軍のオーク小隊、カミーノ・スターリバー少尉だ。無事でよかった、ドロイドも一緒だな」
「でも、私は」
セーヤが気後れするも、カミーノ・スターリバーは馴れ馴れしく近付いてきた。
「なあに、脱出した言い訳なら適当にすればいい。どうせ罪には問われないし、賞金稼ぎの襲撃で混乱したせいだと言い張ればいいんだから」
「私は奴隷で、逃げてきたんです。だから、連れ戻されるのはちょっと……」
セーヤが言い淀むと、テンノーが二人の間に割り込んできた。
「そして、セーヤはジェダイの修行を始めたばかりなのです。救助に来て下さったのはありがたいですが、修行を妨げないで頂けませんか」
「ジェダイ? 君が?」
カミーノがきょとんとすると、セーヤはテンノーを押しやった。
「そんなわけないじゃないですか! このドロイド、墜落のショックで誤作動しているんです!」
「まあいいや、とにかく乗ってくれ。後ろの座席に座って、スイッチには触らないでくれ」
カミーノはそう言って、Xウィングに戻っていった。セーヤはテンノーの外装を引っ叩く。
「なんで言っちゃうの」
「誤魔化したところで、いずれバレますし」
テンノーの開き直りに、セーヤは嘆息した。
「そういう問題じゃないでしょ」
「では、どういう問題なのですか?」
「だって、私はまだジェダイじゃないんだから」
先程言いかけたことを改めて言い直してから、セーヤは腹を括り、Xウィングに向かった。カミーノは身を乗り出して手を差し伸べ、セーヤが飛び移る際に手伝ってくれた。テンノーはジャンプして難なく主翼に着した。セーヤとテンノーは後ろの複座席に収まると、カミーノは再びXウィングを浮上させ、発進した。
一瞬で海が遠ざかった。