トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
惑星ネゴスに到着した。
外から見ただけでは、緑豊かな大地と瑞々しい海を湛えた惑星だが、大気圏に突入するために接近すると地表には内戦の痕跡が痛々しく刻まれていた。爆撃で焼き尽くされた森と木々が枯れて禿げた山、道路が寸断された上に破壊された市街地、無人の集落と墓標だけが植えられた田畑。
「うっ……」
ネゴスに漂うフォースには死者の無念が宿っているからか、セーヤはなんだか気分が悪くなってきた。体の内側が冷え込むような、内臓を冷たい手で握られるような、なんともいえない不快感がある。
『俺の指示に従って降下しろ。そうすれば迎撃されずに済む』
無線を通じ、サクは指示してきた。彼のガンシップはボブ・キャット号の前方を飛んでいたが、左翼を軽く振ってから緩やかに旋回し始めたので、セーヤもそれと同じルートを辿って高度を下げていった。
サクのガンシップのライトがちかちかと小刻みに点灯すると、地上からも同じ間隔で光が点滅した。すかさずテンノーが説明する。
「航空信号ですね」
「なんて言っているの?」
「ネゴスにアシュラの加護を、と」
テンノーの言葉に、セーヤは気持ちを引き締めた。アシュラの巫女としての務めを果たそう、とも思うが、一方でこんな考えも抱いていた。今まで誰もアシュラの巫女を引き受けなかったのは何らかの問題があるのでは、と。疑いすぎるのもよくないが、無防備に受け入れるのもよくない。
サクのガンシップは深い森へと降下していき、滝の手前にある広場に着陸した。ボブ・キャット号もそれに倣い、着陸すると、森の中から少女が現れた。
「お帰りなさい、サク」
サクを出迎えたのは、一対のツノが額から生えている少女だった。髪の色は黒で肌の色はヒューマンに近く、目元には小さな丸が散らばっていた。それがネゴシアンの特徴なのだろう。
「ユイ、出迎えご苦労」
サクがガンシップから降りると、セーヤとテンノーもボブ・キャット号から降りた。ユイと呼ばれた少女はセーヤに向き直り、一礼する。
「アシュラの巫女となる御方ですね。お初にお目に掛かります、私はユイ・ガハム。巫女様のお世話をいたします」
「私はセーヤ・ミットー、こっちはテンノー。これからよろしくね」
セーヤが名乗り返すと、ユイは促した。
「こちらへどうぞ」
ユイが歩き出すと、サクはセーヤと歩調を合わせて小声で囁いてきた。
「ライトセーバーは隠しておけ」
「どうして? いざって時に使えないと困るんだけど」
「ネゴスの民はジェダイを嫌っているんだ。そのせいでつまらない諍いを起こされても困るんでね」
サクに小突かれ、セーヤはユイに気取られないようにしながら、ベルトに提げたライトセーバーを外してテンノーに預けた。テンノーは腹部装甲を開き、ライトセーバーを収めて外装を閉ざした。
膨大な水量が注がれ続けている滝の傍を通り過ぎ、森に足を踏み入れた途端、セーヤは強いフォースを感じて立ち尽くした。光の粒が虫と戯れ、鳥の羽ばたきがフォースを波打たせ、小動物の気配が鋭敏に感じられ、長い年月を生きた木々からは静謐なフォースが滲み出していた。
「これは……」
まるでジェダイ寺院だ。セーヤが圧倒されていると、ユイが立ち止まって振り向いた。
「やはり解りますか」
「フォース……じゃないや、アシュラの力で満たされている。命が濃い、みたいな感じがする。ネゴスは今までの星とは全然違う、アシュラはネゴスそのものなんだ」
セーヤが手を差し伸べると、フォースの光の粒が集い、輝きを増した。
「その通りです、巫女様」
ユイは小さく頷いた。
「ネゴスはアシュラによって育まれ、アシュラによって繁栄した星なのです」
「だが、それ故にアシュラとボーガンのバランスが崩れると、呆気なくボーガンに飲み込まれてしまった」
サクが仮面の下で苦々しげに零すと、セーヤは手を下げた。
「ボーガンがダークサイド、だったよね?」
「すぐにお解りになります」
ユイは再び歩みを進めたので、セーヤとテンノーはそれに続いた。サクは周囲をしきりに気にしながら、いつでもブラスターを抜けるようにホルスターに手を添えていた。
ネゴシアンはフォースならぬアシュラの使い手であり、シスのジャワを撃退した時のように力を使えるのであればブラスターに頼る必要はないのでは、とセーヤは思いはしたものの口には出さなかった。きっと、何らかの事情があるのだろう。
それはセーヤも同じだ。
案内された先には洞窟があった。
ユイはランプを手にして進み、セーヤ達もそれに続いた。一歩足を踏み入れただけで、外界から隔絶された空間だと肌で感じられた。冷ややかな空気と静寂に満ちていて、水滴が滴り落ちる音が響き渡る。
ランプの明かりが四人の影を作り、歩調に合わせてゆらゆらと揺れ動いていたが、光の粒が混じっていた。ドロイドであるテンノーの影には光の粒が近付かなかったので、フォースは生き物とそうでないものを区別している。ドロイドだって生きているんだけどなぁ、とセーヤはちらりと思ったが、胸の内に収めた。
「こちらです」
ユイが足を止め、ランプを掲げると、ぽっかりと大きな空間が広がっていた。その先には祭壇があり、ロウソクが灯っていて、二つの小さな光が照らしているのは赤い光が滲み出している金属製の三角形の立方体だった。立体パズルのように細かな部品が複雑に組み合わせられているようで、いくつもの切れ目がある。
それを目にした途端、セーヤは一気に体温が下がった。シスの気配がする。それも、今までのものよりも遥かに強烈だ。作られてからかなりの時間を経ているが、衰えることのない、ダークサイドの蠱惑的かつ禁欲的なフォースを感じる。
「あれ、は」
セーヤは身を強張らせたが、サクがセーヤの背を押してきた。
「あの箱を開くことが出来れば、アシュラの巫女として認められる」
「違う、私は、あれに触れたら」
ダークサイドに引きずり込まれる。セーヤが首を横に振るも、ユイがセーヤを促した。
「さあ、巫女様」
岩から滲み出した水滴が滴り、岩肌を打つ。耳が痛むほどの静寂と緊張に苛まれ、セーヤはどうやって逃げようかと懸命に思考を巡らせたが、サクの手はブラスターに添えられていた。退路はない。となれば、開き直るしかなさそうだ。
「……解った」
セーヤは重たい足取りで、祭壇へと近付いていった。三角形の立方体は手のひらに収まるほど小さいが、赤い光は鮮烈だった。直に触れるのも恐ろしかったが、触らなくては始まらない。けれど、これはシスのものだ。セーヤのフォースでは開けないはずだ。
「フォースで持ち上げろ」
不意に間近で声が聞こえ、セーヤが周囲を見回したが、サクもテンノーも離れていた。ユイは儀式をじっと見守っている。そして、この声には聞き覚えがある。サウス・ギ・ハーラに違いなかった。
「あ……」
セーヤは振り返り、サウスの霊体を認めた。けれど、彼が見えているのはセーヤだけのようで、サクもユイも反応していない。サウスに言われた通り、セーヤはフォースで箱を浮かばせると、サウスが三角形の立方体に手を翳す。
「これはシスのホロクロンだ」
ホロクロン。初めて聞く言葉だった。セーヤが見守る中、サウスのフォースにより、三角形の立方体が動き始めた。切れ目に従って滑らかに動き、金属の花が開くように赤いクリスタルを露わにする。
「これぞ正しく、アシュラの巫女のお力です」
ユイが満足そうに頷くと、サクも仮面の下で目を見張った。
「これほどのものだったとは」
「えっと……」
マスターがいてくれたおかげなんだけど、とセーヤはサウスの霊体を窺うも、彼はセーヤの傍で囁いた。
「ホロクロンは所有者に知識を授け、望んだ情報を与えてくれるが、シスのホロクロンはそれだけじゃない。セーヤには危険すぎる。だから、俺が開けたんだ」
セーヤはホロクロンを手にして振り返るも、その時には既にサウスの霊体は消えていた。
「では、儀式を行います」
ユイはセーヤを促し、祭壇の裏へと連れていった。セーヤはホロクロンの赤い光を見つめたが、そうしていると心の奥底がざわめいてくる。開けた本人じゃなくても誘惑してくるんだ、やっぱりシスなんだ、とセーヤは慌ててホロクロンから目を逸らした。
それから、セーヤはアシュラの巫女の装束を着せられた。元から着ていた服はテンノーに預けた。袖と裾が長く、帯も立派で身動きが取りづらかったが、巫女とはそういうものなのだろう。その後、セーヤは祭壇の前に傅き、ユイが呪文のような言葉を唱えながら、酒を振りまいた。
そして、アシュラの巫女となった。
その後、サクとは別れた。
俺には俺の仕事がある、と言い残し、サクはガンシップに乗って去っていった。セーヤはボブ・キャット号をそのままにしておくのは気掛かりだったが、巫女には専用の住居があるので、ユイに案内されてテンノーと共に移動した。
滝を離れて森を抜けた先に、小さな集落があった。だが、住民の姿はなく、その代わりに武器を積んだスピーダーや戦闘用に改造されたスピーダーバイクが並んでいた。
「内戦っていつから?」
セーヤがユイに問うと、ユイは武装したスピーダーを一瞥する。
「二十五年前からです」
「切っ掛けはなんだったんです? ネゴスに関する情報は出回っていないので、検索しても照会出来なかったものですから」
テンノーが割り込むと、ユイは大柄なバトルドロイドに目をやる。
「ネゴスを統治していたのはエイ一族という王家なのですが、二十五年前のあの日、宮殿にて王家の皆様が一人残らず虐殺されてしまいました。生まれて間もない王子もです。それを機に、宰相や豪族が独自に自治政府や武装組織を立ち上げ、ネゴスの統治者になるべく争い続けているのです。その結果、ネゴスは荒れ果ててしまいました。私が生まれた頃には既に内戦が始まっていたので、平和なネゴスを知らないのです」
ユイは静かに述べたが、終わりの見えない内戦に閉塞感を抱いているのは明らかだった。
「それで、内戦の切っ掛けとジェダイとは関わりがあるのですか?」
テンノーが更に踏み込むと、セーヤはぎくりとしたが顔には出さなかった。ユイは僅かに迷ったようだが、口を開いた。
「はい。宮殿での虐殺が起きたのは、ネゴスにジェダイが訪れた直後だったのです。ですので、ジェダイが王家の皆様を狂わせたのだろう、と……。実際、ジェダイは人の心を惑わす術を使いますからね」
「えっ」
さすがにそれは無理だ。セーヤはそう言おうとしたが、喉まで出かかったところで飲み下した。マインドトリックで操れるのは目の前にいる相手で、相手の心に隙がなければ入り込む余地はないし、種族によってはマインドトリックは通じない。アシュラと共に生きているネゴシアンとなれば、恐ろしく困難だ。ジェダイを相手にマインドトリックを仕掛けるようなもので、半端なことをすれば逆に絡め取られてやり返されてしまう。
これはどういうことだろう。セーヤはテンノーを窺うと、彼も首を傾げ、バイナリー言語で呟いた。
「これは調べる必要がありそうですね」
セーヤは言葉には出さなかったが、手を動かして指示を出した。テンノーは同意を示すと、セーヤから一旦離れた。
「賢明ですね。巫女様の世話は私にお任せ下さい」
ユイはテンノーに微笑みかけてから、セーヤを促した。セーヤはテンノーを見送り、巫女のための住居に向かった。その家は山の斜面の中腹にあり、丸太を組み合わせた台座が迫り出していた。セーヤはユイの手を借りて斜面を登り切り、家に入った。
簡素な造りだったが、炊事場と水場があるので生活には不自由しなさそうだ。長旅でお疲れでしょうから、とユイは温かな茶を淹れてくれた。セーヤは苦みの中に甘さを含んだ茶を飲みつつ、考え込んだ。
これからどうする。
好きな登場人物は?
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セーヤ・ミットー
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テンノー(NO-10)
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カミーノ・スターリバー
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ヒル・スワンプ
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ホープ・ハイライト
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ナザ・シーサイ
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ケイ・ホーク
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マチルダ・グランベリー
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エア・キャビー
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サウス・ギ・ハーラ
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ソウ・テッセン
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ダース・シャハー
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オード・キュー
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クレイン・ミーネ
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ショーナ・ディノ
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ユマ・ハイライト
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ヴィシャム
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フマガ
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サク・ラギーチョ
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その他