トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる   作:あるてみす@二次創作

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42.巫女の務め

 久々に熟睡した。

 近頃はずっと忙しかったからなぁ、いつも緊張していたし、ズ・スィーは勉強が大変だったし、とセーヤはそれらしい理由を並べ立てながら、ぼんやりと天井を仰ぎ見た。

 ボブ・キャット号の無機質な天井ではなく、板張りだったので若干戸惑ったが、すぐに思い出した。ここは惑星ネゴスであり、セーヤはアシュラの巫女の役割を担った。そして、ここは巫女のための家だ。

「おはようございます、巫女様」

 引き戸越しに声を掛けられ、セーヤはのっそりと布団から身を起こした。

「おはよう、ユイさん」

「朝餉の支度が出来ましたので、身支度が済み次第、いらして下さい」

 ユイの言葉通り、温かな料理の匂いが漂っていた。ネゴスの食事ってどんなものなんだろう、とセーヤは期待しながら、洗面所で顔を洗った。巫女の衣装の他に用意された普段着を着てから三本のレックを整え、白いスカーフを巻いて結び、居間に向かった。

 円形のテーブルには朝食が並んでいた。白くて艶々した白米は炊き立てで、シチューは野菜が柔らかく煮込まれていて、焼き魚と卵焼きも添えられている。

「トワイレックのお口に合えばよろしいんですが」

 ちょっと不安そうなユイに、セーヤは笑みを向けた。

「大丈夫です、好き嫌いはありませんから」

 セーヤはスプーンを取り、朝食を食べ始めた。白米は甘くてねっとりしているが、それも慣れてしまえばおいしかった。シチューは発酵食品を調味料に使っているようで、独特の風味があったが、こちらもすぐに慣れた。焼き魚は骨が多かったが、丁寧に取り除いてから食べると程良い塩気があって白飯が進んだし、卵焼きは香ばしいのに甘かった。

「私がトワイレックだってこと、サクから教えてもらったんですか?」

 セーヤが朝食を平らげると、ユイはお茶を淹れてくれた。

「はい。サクはネゴスを出て外の世界を巡っていますから、色々なことを知っています。私はネゴシアン以外の種族と接したことがなかったので、とても新鮮ですが、ちょっと怖くもあります。粗相をしてしまわないか、と」

 ユイが懸念すると、セーヤはレックを両手で持ち上げてみせた。

「レックには不用意に触らないで下さい、敏感なので。それさえ気を付けてもらえれば、ヒューマンとあまり差はないですよ」

「心得ました」

「それから、ネゴシアンって目元に模様が浮かぶんですか?」

 セーヤがユイの目元を指すと、ユイは目元から頬骨の上辺りに散らばっている丸い模様に触れた。

「はい、生まれつきです。個人差が大きいので、どんな形の模様が出てくるのかは生まれてくるまで解りませんし、親と子であっても全く違う模様である場合も多いです」

「やっぱりツノは敏感?」

「そうですね、巫女様のレックと同じようなものだとお思い下さい。アシュラの力を感じ取るために必要な器官です」

 ユイがツノに触れると、セーヤは懸念事項を確認した。

「それから、私はネゴシアンじゃないんだけど、アシュラの巫女として振る舞っていても大丈夫なんですか?」

「その点も問題ありません。アシュラの巫女は人前に出る際には聖なる布を被り、姿を隠す決まりになっていますから」

「それは……」

 ジェダイの訓練みたいだな、とセーヤはちらりと思った。フォースの感受性を高めるため、セーバー剣術を磨くため、ジェダイは目隠しをしてライトセーバーを振るう。それを繰り返せば、視覚に頼りすぎず、フォースだけを感じて動けるようになるからだ。

「朝餉を終えましたら、巫女のお勤めについて説明いたしますね」

 お下げします、とユイは食器をトレイに乗せて運んでいった。セーヤはユイの後ろ姿を見送り、炊事場で食器を洗う音が聞こえてきてから、コムリンクでテンノーに連絡を取った。

「テンノー、そっちはどんな感じ?」

『セーヤ。芳しいとは言えませんね。ネゴスは外界との交流が乏しいですから、ドロイドの数も少ないんですよ。やっと見つけたと思っても、老朽化で主要な回路が破損しているスクラップばかりでして』

「手掛かりっていうか、なんでもいいから見つかったことはない?」

『そうですね……。25年前の惨劇に関しては真実です。司書ドロイドから王族の家系図を見せてもらい、死亡届を照会したところ、名前と人数が一致しました』

「ジェダイがどうとかっていうのは」

『それについてはまだ調査中です。ネゴスには宇宙港がありませんから、宇宙船が離発着した履歴が残っていないんですよ。ですが、他の手段で調べられるはずなので、引き続き作業します。セーヤはいかがですか?』

「アシュラの巫女っぽいことは、これからかな。まだ何も教えてもらっていないし」

 ユイが戻ってくる気配がしたので、セーヤはコムリンクを切った。それから、昨日と同じ衣装を着せてもらい、最後に布を被せられた。視界が塞がれたが、それが却ってフォースを研ぎ澄まさせてくれた。

 見えないが、視えてくる。

 

 

 ユイに手を引かれ、外に出た。

 セーヤは視界に頼らない状態に慣れてきたので、正直に言えばユイの力を借りずに歩けるのだが、アシュラの巫女らしく振る舞うためには必要なのだと思うようにした。

 ユイの手は小さかったが、少し前までのセーヤのように肌が荒れていた。常日頃から水仕事をしているからだ。奴隷だった頃のセーヤも色々な仕事を任されていたから、よく解る。

「ユイさん」

 セーヤはユイの手をしっかりと握り、布越しではあるがユイを正視する。

「私、やれるだけのことをします。期待には応えられないかもしれないけど、出来ることはあるはずですから」

「巫女様がいらしたのであれば、それだけでも多くの者が報われております。私もその一人です。私の一族は先祖代々、アシュラの巫女をお世話する役割を仰せつかっておりました。ですが、アシュラの巫女に相応しい者が現れなかったので、あの家と御社を守り続けることしか出来ませんでした」

「それなら、前回は誰がアシュラの巫女に選ばれるはずだったんです?」

「王家であるエイ一族の姫君、ビーナ様です」

「その人は……」

「あの日に殺されました」

 ユイは迷いなく言い切った。それなら、ジェダイが疎まれるのも無理はない。王族の虐殺したばかりか、ネゴスに平和をもたらすアシュラの巫女さえも殺したと思われているのだから。

「その方はどんな御姿なんです?」

 セーヤがユイの背中に尋ねると、ユイは山の麓にある集落を見下ろした。森の中からスピーダーバイクが飛び出してきたが、それに跨がっているのはサクで、テンノーも後ろに乗っかっていた。サクに続いて武装したスピーダーも現れ、やはり武装した者たちが下りてきた。

「巫女様、そのお話はまた後にいたしましょう」

 ユイの横顔が強張り、セーヤの手を握る手にも力が込められた。森の木々がざわめき、フォースも波打ち、セーヤの内面も揺れ動く。明確な言葉にはなっていないが、ネゴスがセーヤに語り掛けてきた。

 バランスを取り戻せ、と。

 

 

 集落は無人だった。

 木造の家屋は住民が慎ましく生活していた痕跡がそこかしこにあり、軒先には野菜が吊るされ、炊事場には発酵食品を詰めた壺があり、食器や布団なども家族の人数分揃っていた。布を継ぎ接ぎして作ったぬいぐるみが部屋の隅に転がっていて、余程可愛がられていたようだが、その持ち主は家から追い出されてしまったのだろう。

「持ち主が帰ってくるといいね」

 セーヤはそのぬいぐるみを拾い、埃を払ってから部屋の隅に座らせてやった。その拍子に首が曲がり、頷いたように見えた。

「巫女様、お客人です」

 ユイが客間を示したので、セーヤがそちらに向かうと、テンノーがやってきた。

「私もお供しますよ、巫女様」

「お帰り。どこまで行ってきたの?」

 セーヤがテンノーを見上げると、テンノーは外で待機しているサクを指した。

「サクに案内してもらって、王立図書館と通信施設を訪れました。どちらも電源は落ちていましたが、私のバッテリーを使って通電させるとコンピューターは息を吹き返しました。とはいえ、収集出来た情報は断片的なのですが……」

「今、解っていることだけでも教えて」

「はい、巫女様。内戦の根本的な原因は王族が全滅したことにより、統治者がいなくなったためであり、その後釜に収まるべく蜂起した勢力です。大きく分けると、自治政府組織を旗揚げした一派と豪族を束ねた一派で、双方のリーダーがネゴスの自治権を主張しております。王家の再興を図る勢力もありますが、こちらは彼らに比べると小さいですね」

 テンノーが説明すると、ユイが言った。

「その王家復興派のリーダーが、私の姉です。シチリー・ガハムといいます」

「あ、そうなんだ」

 セーヤがちょっと驚くと、ユイはテンノーを仰ぎ見る。

「いずれの勢力も、アシュラの巫女を味方に付ければ民意を掌握出来ると踏んでいます。姉もそう考えるでしょう。巫女様が誰に与するのかは、やがてアシュラが決めて下さいます。私はその時を待つだけです」

「どう思う?」

 セーヤがテンノーを小突くと、テンノーは首を横に振った。

「私からはなんとも言えませんね。彼らには主義主張も大義名分もありますから」

「帝国残党を追い払う方がまだ簡単かも」

「そうですね、その場合はそれぞれの顔色を気にしなくて済みますからね」

 テンノーが事も無げに返すと、ユイは立ち止まった。

「巫女様とあなたは、帝国と関わったことがおありなのですか?」

「ああ、いや、物の喩えで」

 セーヤがはぐらかすと、ユイは納得してくれたようで、それ以上は問い質さなかった。ネゴスのように閉鎖的な星でも、帝国の悪行は知れ渡っているようだ。

 ユイが廊下に膝を突き、客間の引き戸を開けると、数人のネゴシアンが待ち構えていた。立っているのは部下達で、座布団に腰を据えているのはリーダーだろう。細面だが荒事を潜り抜けてきた者の凄味があり、額には一対のツノが生え、目元には網目に似た模様が付いていた。

「この御方がアシュラの巫女ですか。お初にお目に掛かります、ヤナグ・コーザと申します」

 ヤナグと名乗った男は、深々と頭を下げた。セーヤは彼の前に座り、同じように頭を下げる。

「ご丁寧にありがとうございます」

「早速ですが、巫女様。御社に赴き、我らにアシュラの導きを与えて下さいませんか」

「御社ですか」

 セーヤがユイを窺うと、ユイは眉を寄せてヤナグを見据える。

「ヤナグ宰相。お気持ちは解りますが、巫女様は儀式を済ませたばかりです。アシュラと巫女様が深く通じ合うまでは、お待ち頂けないでしょうか」

「ユイといったか。こうしている間にも、豪族派の奴らが攻めてきている。王都を落とされるのも時間の問題だ。それまでに決着を付けなければ、ネゴスの自治権を奪われてしまう。そうなれば、ネゴスは完全に秩序を失って無法地帯と化す。それだけは阻止しなくてはならない」

 ヤナグの言い分からして、彼は自治政府組織のリーダーなのだろう。セーヤは少し迷ったが、ヤナグに向いた。

「御社に行きます。アシュラの導きがあれば、無用な戦いをせずに済むのですね」

 ヤナグと部下達は喜んだが、ユイは渋い顔をしていて、テンノーも不安げだった。だが、ここでじっとしていても何も始まらない。セーヤはテンノーの中に隠したライトセーバーの存在を感じながら、ユイの手を借りて立ち上がった。

 きっと、これもジェダイの務めだ。

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  • セーヤ・ミットー
  • テンノー(NO-10)
  • カミーノ・スターリバー
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