トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
御社。
それはアシュラの巫女がお務めを果たす場であり、アシュラとより強く繋がるための空間でもある。それでなくとも、ネゴス全体がジェダイ寺院のようなフォースに満たされているのに、それ以上ともなれば、並みのフォースユーザーでは耐えられないだろう。
そのための巫女なんだ、とセーヤは自覚した。シスのホロクロンを開くには、シスとしての力に目覚めた者でなければならないように。
セーヤはジェダイとなり、これまでの旅路でジェダイ・マスターやパダワン、やがてジェダイとなる子供達と出会ってきたため、フォースユーザーをそれほど珍しいとは感じていない。だが、それはフォースユーザー同士が互いの存在を感じ取り、出会っているからであって、実際にはとても数が少ない。
旧共和国時代にジェダイ・オーダーには最大で一万人ものジェダイが所属していたそうだが、銀河の総人口と比較すれば、それがどれほど貴重なのかがよく解る。だからこそ、ジェダイは次世代を担う子供達をジェダイ聖堂で育て、シスもまた弟子を得るために子供達を攫ったり、ジェダイをシスの道に向かわせようと画策する。
テンノーによれば、現在のネゴスの総人口は七億人前後で、内戦が始まる前は十億人を超えていた。しかし、アシュラの巫女の資格を持つネゴシアンはその中から現れなかった。サクのようにアシュラの力を操れるように訓練した者はいるだろうが、それだけで通じ合えるほど容易ではない。
「私みたいなのって、結構貴重なんだね……」
スピーダーに牽引される貨車の中で、セーヤは隣に座るテンノーに囁いた。
「星系を巡っても、知覚種族の中に一人いれば幸運だと思える程度には少ないですとも」
テンノーが答えると、セーヤは巫女の装束の長い袖を合わせ、その中で手を組む。
「私からすると、そうでもないような気がしていたんだけど」
「セーヤは当事者ですから、その辺りの認識が薄いのは無理からぬことです」
「テンノーもそうなの?」
「私は同型のバトルドロイドと出会ったことはありませんが、私自身はレアリティの高いドロイドだとは捉えておりません。持ち主の目的に合わせてカスタマイズされたドロイドが、唯一無二であるように。それと同じことです。更に言えば、私は同型のドロイドと出会えなくても不便はありませんから」
「ドロイドは繁殖しないもんね」
「部品にしても、互換性があるものに置き換えていますからね」
「そういえば、テンノーがどこから来たのかは聞いたことがなかったけど」
セーヤはふと興味を抱いた。マスターなら知っているかも、と辺りを見回したが、サウスの霊体は見当たらなかった。
それもそうか、ソウ・テッセンの霊体と会えたのはジェダイ寺院の中だけだったし、ほいほい会える方がおかしいよね、とセーヤは落胆しつつも気を取り直した。
「いや……。そうでもないんだ」
不意に声が響き、セーヤがはっとすると、貨車の向かい側の座席にサウスの霊体が座っていた。ユイとヤナグも同乗しているが、気付いた様子はない。セーヤだけがサウスを捉えている。
「マスター!」
セーヤは思わず声を発しそうになったが、なんとか抑えて思念に切り替えた。サウスはちょっと居心地が悪そうだったが、セーヤへと思念を伝えてくる。
「シスのホロクロンを開けたことで、ネゴスのボーガンに俺の霊体が馴染んだようだ。だから、今のところはセーヤの傍にいられる」
「よかった、聞きたいこともあるんです」
「テンノーの出所だろ? 惑星ゴーラを訪れた時に見つけて、道案内をさせるために修理したんだ。ゴーラにはコアクシウムの鉱山があるんだが、過去にカイバークリスタルが採掘されたという情報があった。俺はそれを確かめるためにゴーラを訪れたんだ。分厚い氷と雪の下にカイバークリスタルが埋もれているのは解ったんだが、具体的な場所までは割り出せなかった。そこで、ゴーラの鉱山の警備をしていたバトルドロイドを拾って、色々と手を加えて今に至るというわけだ」
サウスの説明を受けたが、セーヤは納得しきれない部分があった。
「だったら、なんでテンノーは他のドロイドとは似ていないんですか?」
「今でこそゴーラは寒冷化して氷河期を迎えているが、それは星系の重力場が変動した影響でゴーラの地軸が傾いたから、という説があるんだ。だから、雪と氷の下には、俺達とは与り知らない文明が眠っているんじゃないかという話もある。だから、ゴーラのドロイドはかつて存在していた文明の技術や文化が反映されている、ということらしい」
「根拠がありそうでない話なんですね」
「それはそうなんだが、身も蓋もないことを言わないでくれ。俺だって、もうちょっとマスターっぽいことを言いたいんだが」
サウスは苦笑いした。シスに堕ちたジェダイらしからぬ、親しみの持てる態度だった。マスターともっと話がしたいな、とセーヤは思わずにはいられなかったが、スピーダーが停まって貨車も止まった。
目的地に到着したからだ。
ネゴスの王都は栄えていた。
内戦が続いていても、宮殿を中心とした城下町では人々がごく普通の生活を送っていた。食料も申し分なく、店には品物が並び、水や電気なども供給されているようだった。
だが、それは一部の選ばれた者達だけであり、労働者達は薄汚れた服装で痩せていた。ブラスターで武装した兵士が至るところに配置されていて、敵が攻めてきたら即座に対応出来るように準備されていた。
格差がひどいなぁ、とセーヤは路地裏にうずくまる痩せた子供達に目をやったが、テンノーにそっと背中を押された。
「今はお役目に集中しましょう」
「うん」
セーヤはユイに手を取られ、導かれるままに進んだ。ヤナグの部下である自治政府軍の兵士達に前後を囲まれていて、人々は遠ざけられていた。けれど、アシュラの巫女の到来に喜ぶ声がいくつも聞こえてきた。これで戦争も終わる、やっと平和になる、巫女様が来てくれたならもう安心だ、と。
そして、御社に到着した。首都の中心部に位置している寺院に併設していて、石造りの分厚い扉は固く閉ざされていた。セーヤはその扉に手を翳し、フォースを放つと、扉が少しずつ動いていった。
「ジェダイ寺院と同じ要領だったな」
セーヤの背後でサウスの霊体が呟くと、セーヤは手を下げて思念で返した。
「ソーゴのジェダイ寺院で、マスター・テッセンにお会いしました」
「ソーゴか……。俺もパダワンだった頃に連れていってもらったよ。そこで試練を受けた」
「自分の弱さと向き合うための?」
「弱さを認めることこそが、ジェダイとしての第一歩だからだ。マスター・テッセンは厳しいが、厳しさの中に優しさがあった」
サウスは懐かしげに語った。セーヤはその話ももっと聞きたかったが、サウスの霊体が消え失せたので、御社へと足を踏み入れた。ユイとヤナグはしきりに驚きを示していたが、テンノーだけは無反応だった。
「えーと……。次はこれかな?」
セーヤは埃を被った祭壇に近付き、祭られている円形の鏡に手を翳した。こちらもフォースに反応して光を放ったが、やはりシスの赤だった。これもシスのホロクロンだろうか、とセーヤは危惧するも、それにしてはフォースの流れが異なっている。
「それなら」
セーヤは両手を翳し、ボーガンの流れを制しながら、アシュラの流れを引き寄せた。シスのホロクロンと接したことで、ダークサイドのフォースの捉え方が解ってきた。
バランスを取り戻せ、とネゴスは言った。だったら、二つの力を寄り添わせなくては。セーヤは息を詰めて集中し、アシュラとボーガンを拮抗させ、鏡の真ん中へと招いた。そして、それを思い切って混ぜ合わせると、赤い光と青い光が鏡から溢れ出した。
「お?」
上手くいったのかな、とセーヤが鏡を覗き込むと、鏡の内側から誰かがこちらを覗き返してきた。誰だろう、マスター・ギ・ハーラでもないし、とセーヤは不思議に思ったが、その人影は引っ込んでしまった。
まあいいや、やることはやった。セーヤが御社から出てくると、ユイとヤナグ、そして自治政府軍の兵士達が平伏していた。
「感謝いたします、巫女様」
ユイは地面にツノが埋もれかねないほど頭を下げていて、その背中には光の粒が降り注いでいた。御社だけではなく、首都全体に雪のように舞い降りている。アシュラとボーガンのどちらの力も併せ持つ輝きで、人々や植物、地面や水に染み込み、ありとあらゆるものに生命力が満ちていった。
光の粒は温かかった。
王都の防衛線が強化された。
アシュラの巫女の加護により、自治政府軍の士気が一気に高まったからだ。自治政府軍は元を正せば王立軍であり、王家であるエイ一族が指揮権を持っていたが、王家が一人残らず虐殺されたために軍隊だけが取り残された。そこで一計を案じたのがヤナグの父親である先代の宰相で、臨時政府を立ち上げ、王家に集中していた権力を分散させた。
二十五年前は一時的な措置であり、王家の落胤を見つけ次第、執政権は王家へと戻るはずだった。しかし、ネゴスを洗いざらい探しても落胤は見つからなかったため、臨時政府は自治政府と名を変え、王都に拠点を置いてネゴスをまとめようとしている。しかし、豪族派はそれに強く反発しており、自治政府軍の基地や政府機関を襲撃してくる。
「というのが、大体の経緯ですね」
テンノーの説明を受け、セーヤは納得した。
「つまり、王都まで攻め込まれる前になんとかしないといけないわけだね」
宮殿の一室で、セーヤは布を外して素顔を晒していた。ユイは温かいお茶と軽食を用意してくれたので、セーヤはそれをありがたく頂いた。布を被っていると、好きなように飲み食い出来ないからだ。
「ですが、巫女様はお役目を果たしました。お帰りになるのがよろしいかと」
ユイがお茶のお代わりを淹れてくれたので、セーヤは湯気の昇るカップを手にした。
「せっかく宮殿に来たからには、色々と調べていこうと思います」
「ですが……」
ユイは気が進まないようで、目を泳がせた。二十五年も経ったとはいえ、惨劇が起きた場所には長居したくないのだろう。
「それなら、ユイさんは外で待っていて下さい。私とテンノーだけで調べますから」
「いえ、巫女様から離れるわけにはいきません。お供いたします」
ユイは態度を改めたが、顔色は芳しくなかった。
「あまり無理はなさらないで下さいね」
テンノーが案じるも、ユイは言った。
「巫女様がネゴスに尽くされたように、私も巫女様に尽くしたいからです」
セーヤは窓の外に目をやると、あの光の粒は未だに王都を覆っていた。この光をネゴス全体に行き渡らせたら、内戦も止まり、人々は穏やかな暮らしを取り戻せるのだろうか。
いや、そうとは限らない。この光が届いているのは王都だけで、その外にいる人々には何の影響も与えていないのだから。
アシュラの巫女も万能ではない。
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