トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
宮殿は未知の世界だ。
その星の文化や王族の立場によって違いはあるだろうが、国家を運営するための多くの人々が出入りする場所であり、軍事施設としての側面もあるので、恐ろしく広かった。
今までセーヤがホロ・ネットの映画やドラマで目にしてきた宮殿は、いずれもセットなのでごく一部でしかなかったので、映っているのはほんの少しだけだった。見栄えのする広間や謁見室、広々とした寝室、花の咲き乱れる中庭ぐらいなものだ。
しかし、実際の宮殿には多くの建物があり、広大な敷地の中には一つの街が形成されていた。宮殿では王家の一族が丸ごと住んでいるため、それぞれの家族のために立派な邸宅と庭園が用意されていた。王族が口にする食料を生産するための田畑もあり、農場では家畜が飼育されていた。そして、それらを運用するための使用人の数も膨大だった。
王とその部下達が執政するための建物には百を超える部屋があり、余程慣れなければ迷ってしまうだろう。かつては王立軍の兵士達が常駐していた兵舎も大きく、隣接している演習場も同様だった。王とその家族が暮らすための王宮は最も高く、中庭に面した塔は見張り台も兼ねているので更に高かった。
「これは……」
セーヤは宮殿の広大さに圧倒され、多少なりとも動揺した。セーヤが休憩していた部屋は宮殿の手前にある建物の中にあったので、使用人の住居だったらしい。
「調べると言っても、どこから?」
セーヤが戸惑うと、テンノーは頭部を回転させて宮殿をぐるりと見渡した。
「記録によれば、王族が虐殺された現場は王宮の大広間だそうです」
「で、その王宮は?」
「一番奥にある建物ですね」
テンノーが敷地の奥を指すと、セーヤは納得しながらもげんなりした。
「だよねぇ」
スピーダーバイクでもないかな、とセーヤは辺りを見回していると、エンジン音が聞こえてきた。セーヤがそちらに向くと、宮殿内の荷運び用と思しきトラックがやってきた。運転席に座っているのはサクで、彼は減速してセーヤ達の前に停めた。
「乗っていくか?」
「お願い。王宮まで行きたいんだけど、ちょっと遠くて……」
セーヤが王宮を指すと、サクはトラックの荷台を指した。
「警備は気にするな、どうせ誰もいないんだ。いたとしても、せいぜいドロイドだ」
「あなたはなぜこちらに?」
ユイがサクを窺うと、サクは肩を竦めた。
「仕事の話があったんだよ」
「では、出して下さい」
テンノーはセーヤとユイを抱えてトラックの荷台に乗り込むと、三人分の重量でトラックの後部が下がった。サクは反重力装置の出力を調整し、車体の高さを保ってから、アクセルを踏んで発進させた。
「ところで、サクはネゴスで何をしていたの?」
セーヤが運転席を窺うと、サクはアクセルを踏み込んで加速する。
「それについても、後で説明してやるよ」
トラックが発進すると、セーヤは隣に座るユイを見た。先程以上に緊張していて、肩に力が入っていた。セーヤはユイの手を取ると、ユイはびくりとした。
「すみません、巫女様」
「大丈夫ですか?」
「お気になさらず」
そうは言うものの、ユイの横顔は固かった。ユイの手も指先が冷えていて、不安が感じられた。虐殺の現場に赴くことだけではなく、それ以外のことに対する強い不安だ。だが、セーヤにはその原因が解らず、ユイに寄り添ってやることしか出来なかった。
王家が皆殺しにされても園庭ドロイドや農耕ドロイドは健在なので、植え込みは綺麗に刈り込まれて池も整備され、田畑も作物が実っていた。トラックが宮殿の中程に差し掛かると、セーヤはふと既視感を覚えた。
この庭を見たことがある。
王宮は王の住まいだ。
さぞかし豪華な造りかと思いきや、内装は意外にも質素だった。その分、調度品や絵画には手を掛けていたようで、緻密な細工が施されたキャビネットやテーブル、椅子などが並んでいた。中でも目を惹いたのが、歴代の王族を描いた絵画だった。
「凄いなぁ」
セーヤが素直に感心すると、テンノーは絵画を観察する。
「歴史を示す物品としての価値も高いですが、芸術的な価値も充分にありますでしょう。絵の具一つ取っても、ネゴスの文化が如実に表れているのですから」
ネゴスの伝統的な衣装を纏った王は、王位を持つ者の証として三角形の立方体を手にしていた。シスのホロクロンである。
「普段は御社に安置してあるのですが、王が就任する際には私の一族がお運びする決まりになっているのです」
ユイは王の手元を示し、説明してくれた。
「あれって、そういうものでもあったんだ」
セーヤが意外に思うと、サウスの霊体が割り込んできた。
「所変われば品変わる、ってやつだな」
「私からすると、危なっかしいんですが」
セーヤがサウスに思念で返すと、サウスは絵画をじっと見つめた。
「だが、何事もなかったんだ。フォースユーザーであろうと、ジェダイにもシスにも至れなかった。それが結果的にネゴスを永らえさせたんだから、世の中は複雑だよ」
「ネゴスを訪れたジェダイって……」
セーヤがサウスに気を向けると、サウスは絵画と壁の間に浮かぶ。
「そうだ。セーヤが察している通り、パダワンだった頃の俺とマスター・テッセンだ」
「でも、虐殺なんて」
「するわけがない。俺とマスター・テッセンは、すぐにネゴスから去ったんだ」
「その理由は何なんです?」
「彼女だ」
サウスが示したのは、王家の姫が描かれた絵画だった。姫君らしい華やかな衣装を纏っていて、まだ幼いながらも容姿は美しく、額から生えた一対のツノさえも整っていた。目元には菱形の模様がある。
「あっ」
セーヤが思わず声を出すと、ユイが絵画を見上げた。
「これはビーナ王女ですが、巫女様はビーナ王女をご存じなのですか?」
「随分前に夢に出てきたんです。でも、その時はどこの誰かは解らなくて。ネゴスのお姫様だったんですね」
セーヤは絵の具で描かれたビーナを見つめた。モデルになった際に長時間同じ姿勢を保っていたからか、表情は硬かった。
「マスター・テッセンはビーナ王女に強いフォースを見出し、ジェダイとして修行させるべきだと王に申し出たんだ。だが、王はそれを拒んだ。ビーナ王女はアシュラの巫女としての資格があり、ネゴスから離れさせるわけにはいかない、と」
サウスは目を伏せ、悔恨を滲ませる。
「マスター・テッセンは引き下がった。アシュラとボーガンのバランスを維持する必要がある、と感じ取っていたからだ。それに、独立星系とジェダイ・オーダーの関係を悪化させたくなかった、ってのもある。だが、それが間違いだったんだ」
「フォースが間違えたんですか?」
セーヤが思念で問うと、サウスは首を横に振った。
「いや、俺達がだ。つまらないことに気を取られて心の目が曇ると、フォースは望むように形を変えてしまう。それは俺達に限った話じゃなく、王もそうだったんだ。あの時、本当に正しい選択をしていたのはビーナ王女だけだった。フォースを通じて俺に呼び掛けてきたんだ、ネゴスの外に連れていって下さい、と」
サウスはセーヤに背を向ける。
「俺はそのことをマスター・テッセンに伝えるべきだったし、王にも訴えるべきだった。だが、俺は幼すぎたんだ。どちらも出来ないまま、ネゴスを離れた。それからしばらくして、あの惨劇が起きたと知った。ネゴスには宇宙港はないんだが、共和国の輸送船がエンジンの不調で不時着したんだ。彼らを回収した際に報告を受けた」
サウスは声を荒げなかったが、彼のフォースは激しく揺れ動いていた。ダークサイドであることも相まって、セーヤも負の感情を掻き立てられそうになったが自制した。
「それから、どうなったんです?」
セーヤがサウスの背に向き直ると、サウスは顔を覆った。
「どうにもならなかった。結局、俺はビーナ王女を救えなかったんだから」
その言葉を最後に、サウスの霊体は消えた。セーヤが立ち尽くしていると、サクが呟いた。
「セーヤ、誰と話していたんだ?」
「……誰でもないよ」
セーヤが零すと、ユイが歩み寄ってきた。
「巫女様、参りましょう」
「どこに?」
セーヤがユイに聞き返すと、廊下の先でドアが開いた。セーヤは反射的に腰の後ろに手を回し、ライトセーバーを抜こうとしたが、テンノーに預けてあるのだと思い出した。テンノーは身構えるも、サクはブラスターに手を掛けていなかった。となれば、ユイとサクの敵ではないということか。
「ここまで連れてきてくれてありがとう、ユイ」
静かに歩み寄ってきたのは、ユイに似た顔立ちのネゴシアンの女性だった。目元の模様もユイに似ているが、彼女の円はユイのそれよりも小さかった。
「シチリー姉さん」
ユイは安堵を滲ませるも、不安の方が上回っていた。そこでセーヤは理解した。ユイが不安がっていたのは、王家復興派のリーダーである姉にセーヤを無事に引き渡せるか否か、ということだったのだ。だとすれば、サクは協力者か。
「サク。いくらで雇われたの?」
「クレジットに換算すると3000、今のネゴスじゃとんでもない大金だ。だから、多少のサービスもしておいた。俺がお前らに流した武器は上手く使えよ、シャトルもだ」
サクは一歩身を引き、両手を広げる。
「死の商人の真似事をしたんですか? ここはあなたの故郷でしょう?」
テンノーが呆れるも、サクは平然としていた。
「故郷だからこそ、だ。ネゴスの内戦はだらだらと二十五年も続いている、どこかで区切りを付けないと終わりはしない。そのために、三つの勢力のパワーバランスを崩してやるんだよ。アシュラの巫女を連れてきたのも、それが理由だ」
「二十五年で三億人も死んだのに、まだ死なせようっていうの?」
セーヤは込み上がる激情を堪え、巫女の衣装をきつく握り締めた。それでもフォースは抑えきれず、衣装の裾が大きく波打つ。
「だったら、根本的な解決策はあるのか? 俺も手を尽くした、尽くしたからこその結論なんだ。ネゴスの窮状をどうにかするには新共和国に加盟するべきだと、ヤナグにも進言した。だが、ヤナグはそれを突っぱねた。そこのシチリーもだ。当人達にその気がなければ、新共和国も介入出来ないんだ。だから、俺はこうするしかなかったんだ」
サクは仮面の奥で眉根を寄せた。それは違う、とセーヤは言いたかったが、そう言えるだけの根拠がないのが歯痒かった。
「じゃあな、巫女様。アシュラの加護のあらんことを」
そう言い残し、サクは足早に去っていった。セーヤはサクを引き留めることも出来ずに立ち尽くしていたが、シチリーに促され、ユイとテンノーを伴って移動した。王宮の裏手に隠されていたスピーダーに押し込まれ、宮殿から離脱した。
巫女なのに、なんて無力だ。
王家復興派の拠点に移動した。
内戦によって破壊され、無人と化した街の地下室が彼女達の隠れ家だった。薄暗くて窮屈で埃っぽいが、情念だけが渦巻いていた。引き続き、ユイがセーヤの世話をしてくれたが、巫女の家よりも居心地は悪かった。
「これは監禁だよね」
セーヤは個室に入れられ、簡素なベッドに腰掛けた。セーヤの前に、テンノーが立つ。
「ライトセーバーを使えば脱出出来ますが、いかがなさいますか?」
「それは最後の手段だよ」
セーヤは顔を覆っていた布を外し、食事のトレイに目をやったが、野菜の切れ端と雑穀を煮込んだ雑炊が入っていた。見るからにおいしくなさそうだった。
「んー……」
セーヤはその雑炊をスプーンで掬い、少しだけ口に含んだが、塩気が足りない上に変な苦みがあっておいしくなかった。だが、出されたものは食べなくては、とセーヤは顔をしかめながらも飲み下した。
「巫女様、よろしいでしょうか」
ドアがノックされ、ユイが声を掛けてきた。セーヤが布を被ると、テンノーがドアを開けてくれた。ユイはドアが閉まるのを見届けてから、布の包みをセーヤに差し出した。
「粗末な食事を振る舞ってしまい、申し訳ありません。せめてお口直しに、こちらをお持ちしました」
布の包みを開くと、よく熟れたリンゴが現れた。皮は赤く、艶々としている。
「皮を剝いて食べるんですか?」
セーヤが尋ねると、テンノーが左腕の外装を開いて小型ナイフを取り出した。
「こちらをお使い下さい」
「ありがとうございます、お借りします」
ユイは小型ナイフを受け取ると、リンゴをするすると剥いた。果肉と種を均等に切り分け、セーヤが食べ終えた雑炊の皿の端に並べた。
「ユイさんもどうぞ」
セーヤがカットされたリンゴを差し出すと、ユイはそれを口にした。
「頂きます」
ユイはリンゴをじっくりと噛み締め、味わっていたが、その目には涙が滲んできた。セーヤを利用していることで良心が咎めているのか、姉を止められないことを悔いているのか、それともネゴスの未来が明るくないと知って打ちひしがれているのか。
いずれにせよ、手詰まりなのは確かだ。どうにかするにはどうしたらいいんだろう、と思い悩みながら、セーヤはリンゴを食べた。
少し酸味が強かった。
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セーヤ・ミットー
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テンノー(NO-10)
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カミーノ・スターリバー
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ヒル・スワンプ
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ケイ・ホーク
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マチルダ・グランベリー
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