トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
地下室は窮屈だ。
頭上の部屋で数人が話し合っている気配は伝わってきて、なんだか落ち着かない。ベッドも寝心地が悪く、布団は黴臭い。ユイはセーヤにリンゴを差し入れてくれたが、すぐに出ていってしまった。
ユイの姉であり王家復興派のリーダー、シチリー・ガハムは悪人ではないだろう。しかし、理想が高すぎて危なっかしい。そもそも、王家の生き残りがいないのにどうやって王家を復興させようというのか。
ネゴスを徹底的に探せば、王族の遠縁の者は生き残っているかもしれないが、内戦に巻き込まれたくないと素性を偽り、身を隠している可能性も高い。
いや、むしろその方が賢明だろう。急に王位を継がされたとしても、自治政府派が手段を講じて権力を奪い、豪族派が長年の恨みを晴らさんと襲撃を仕掛け、王家復興派は勝てずに平らげられてしまう。ヴィジョンを見なくても、それぐらいの予想は付けられるようになっていた。
ズ・スィーで習ったことは無駄じゃなかったんだ、とセーヤはちょっとだけ誇らしくなったが、キヌガのことを思い出すと一抹の寂しさを覚えた。同盟軍に保護された後も無事でいてくれたらいいのだが。
セーヤは毛布を被り、ベッドの隅でうとうとしていたが、ドアがノックされたのではっと意識を戻した。反射的に腰の後ろに手を回し、ライトセーバーを抜こうとしたが、そこには何もなかった。
「どちらさまです?」
テンノーが問うと、ドア越しに返事があった。
「俺だ」
サクの声だった。テンノーはドアを隔てて熱反応を感知し、サクしかいないことを確かめてから、慎重にドアを開けた。
「よお、巫女様」
サクがいつもと変わらぬ態度で挨拶してきたので、セーヤは怒りを覚えるよりも先に呆れた。
「あんなことをした後なのに顔を出せるなんて、図太いんだねぇ」
「そうでもないと賞金稼ぎなんてやってられねぇよ。セーヤの知り合いもそうだろ?」
サクはドアを背にして座り、腕を組んだ。ブラスターを握っていないことを示すためであり、不用意な来客に対処するためでもある。つまり、サクにセーヤを害する意思はない。マンダロリアンであるケイ・ホークが、丸腰であると示すために両手をベルトに掛けていたのと同じことだ。
「まあね」
セーヤは毛布を剥がし、サクと向き直る。
「それで、話でもあるの?」
「俺の事情まで汲んでくれ、とまでは言わない。だが、ここまで巻き込んだからには知ってもらった方がいいと思ってな」
サクは仮面に触れる。
「二十五年前、俺は宮殿の衛兵だった。あの夜は歩哨に立っていて、宮殿の敷地内を警備していたんだが、妙な男が現れた。黒いローブを纏ってフードで顔を隠していて、ボーガンの強い気配がした。俺は追い返そうとしたが、その意思を奪われた。精神の内側に入り込まれて、感情をずらされて、警戒心を封じられた。それからしばらくして、王宮の大広間で惨劇が起きた」
仮面の下から、深いため息が漏れる。
「あの日はネゴスの始祖たる王の生誕祭で、王家の全員が宴席に招かれていた。王宮が騒がしくなったから、俺は正気に戻って大広間に向かったが……ひどいなんてもんじゃなかった。誰も彼もが殺されていて、一太刀で仕留められていた。しかも、傷口が焼けて塞がっているんだ。だから、一見すると無傷のように見えても、内臓が焼け焦げて致命傷を負っている者も多かった。そんなふうに殺せるのはライトセーバーを持つジェダイだけだ、と当時の宰相が言い出した。ヤナグの父親で、頭の切れる有能な政治家だったが、あの場ではさすがに取り乱していたんだろう。知っての通り、ネゴスにはジェダイについて詳しく知る者もいなかったから、いつのまにかジェダイが王家を殺したことになっていた」
サクの指先が仮面を小突く。
「俺も最初はそう思っていたが、ネゴスを飛び出してからはすぐに認識を改めた。ジェダイはアシュラを体現する求道者であり、弱きものを救わんとする騎士だと。だから、あの夜に王宮を襲撃したのはシスだと気付いたんだが、シスの誰かまでは解らなかった。しかし、俺は顔を見られている。それを知られたら、俺は確実に殺される」
再び、サクはため息を零す。
「俺に出来ることは何なのか、どうすればよかったのか、どう動くのが最善なのか、ずっと考えていた。考えた上で、ネゴスの皆に呼びかけた。ネゴスは外の世界と繋がるべきであり、このままでは行き詰まり、やがて全滅してしまうと。だが、誰も聞いちゃくれなかった。自治政府を立ち上げたはいいが機能不全に陥っているヤナグも、豪族派を押さえつけるどころか殺戮と破壊を助長させているクガ・ヌームも、王家復興を掲げて血気を逸らせているシチリー・ガハムも。他の星を見てみたらいい、似たような経緯で悲惨な末路を迎えた前例はいくらでもあるんだ」
「だから、あんなことを?」
セーヤが呟くと、サクは仮面から手を外す。
「そうだ。誰も彼も現実が見えていない。だから、内側からぐちゃぐちゃにしてやる必要があるんだ。そこまでしないと、ネゴスは何一つ変わらない。俺以外、変えようという意思がないんだから」
「ですが、あのやり方では新たな犠牲を生んで怨嗟を連鎖させてしまうだけです」
テンノーの指摘に、サクは顔を背ける。
「解っている。俺だって、殺し合いを増長させたくはない。だが、他に手はあるか?」
サクの表情は見えなかったが、仮面の下の眼差しは険しかった。セーヤは当たり障りのないことも言えず、膝を抱えた。こんな時、マスターであればなんて言うのだろう、と想像を巡らせたが、上手くいかなかった。
本当のパダワンであれば、きっと。
地下室には窓がない。
だから、時間の感覚が鈍ってしまう。セーヤは一眠りしてから起きたが、昼なのか夜なのか解らなかった。雑炊とリンゴを食べてからは時間が経ったので空腹を覚えたが、要求するわけにもいかない。
「まあ、いいか」
セーヤはベッドの上で座り、両手を広げて目を閉じた。時間があるなら、瞑想しておこう。アシュラとボーガンと名付けられていても、ネゴスに満ちているのはフォースであることに変わりない。
深呼吸して自分の内側のフォースを整え、外側のフォースと隔たりを薄らがせる、これまでの星々で感じていた揺らめきよりも力強く、ダークサイドに近しいフォースと接するには緊張感を保つ必要があった。少しでも気を抜けば、ダークサイドがセーヤを飲み込んでしまうからだ。その先にサウス・ギ・ハーラがいると解っているから尚更だ。
マスター。私のジェダイ・マスター。サウスのライトセーバーは未だにセーヤの手に余るが、サウスと共に生き抜いてきたものだ。それを握り、戦い続けると、やがてサウスと同等の強さを得られるのではと思い描いてしまう。シスに堕ちて霊体と化す以前に出会えれば、といつも考えてしまう。
けれど、そんな日々はなかった。セーヤを迎えに来たのはテンノーで、銀河の旅路を共にしてきたのもテンノーだ。彼には何度となく助けられていたし、今では家族同然だが、それでもやはりマスターを欲してしまう。
「ダメだなぁ、私は……」
瞑想にちっとも集中出来なくて、セーヤは項垂れた。ようやく会えたサウスともっと親しくなりたい、マスターの教えを請いたい、パダワンらしいことをしたい、ジェダイとして肩を並べたい、共に旅をしたい。そんなことばかりが頭を過ぎる。
「セーヤ」
テンノーに案じられ、セーヤは大きくため息を吐いてからベッドに突っ伏した。
「ネゴスから離れると、マスターにはもう会えなくなる?」
「私からはなんとも言えませんが、マスター・ギ・ハーラが仰ったことを信じるのであれば、そうなのでしょう」
テンノーはベッドに腰掛け、セーヤの丸まった背中をそっと撫でてくれた。
「マスターと一緒にいたい」
「それに関しては私も同意見です。ずっと旅を共にしてきたのですから。私は霊体を観測出来ないので、セーヤから又聞きするしかないのですが」
「でも、私はいつまでもネゴスにはいられない」
「そうですね。帝国残党を追い、ダース・シャハーと会わなければなりませんからね」
「いつもそうなんだ。せっかく仲良くなれたのに、すぐに別れなきゃいけないの」
セーヤは胸の奥がきつく締め付けられ、涙が滲んできた。カミーノも、ケイも、マチルダも、キヌガも、そしてサウスも。
寂しい思いをするのは慣れているし、一人きりでも生きられると開き直っていたつもりだったが、それは自分を誤魔化していただけだ。寂しさに押し潰されないように、突っ張っていただけなのだ。
「ユイさんとも、いずれはそうなる」
セーヤが巫女の衣装を握り締めると、テンノーはセーヤの細い肩に手を添える。
「ええ、恐らくは」
「寂しいよ。寂しいけど、仕方ないんだ。仕方ないんだけど、でも……」
セーヤはテンノーの大きな手に頭を預け、三本のレックをだらりと垂らした。
「私がやれることをやらないと」
深く息を吸ってから、セーヤは顔を上げた。少しだけ滲んだ涙を拭い、寂しさには抗えなかったが、寂しいと感じるのは大事な人達が出来たからだと思い直した。
温もりを知っているから冷たさが解るように、奴隷だったからこそ、人の優しさは貴重なのだと解っている。他者に優しく出来るのはその人の人生が豊かである証拠であり、その豊かさの一端に触れさせてもらえたのは、それ相応の振る舞いをしたからだ。
ネゴスの人々もそうだ。単純に己の利益や理想を追求しているわけではなく、それぞれのやり方でネゴスと住民に幸福を与えようとしている。しかし、互いに譲れないものがあるからこそ戦いが止められない。だから、サクはその均衡を壊そうとしているが、その方法で上手くいくとは限らない。
それなら、どうすればいい。
ドアがノックされた。
ユイだろうか、とセーヤは浅い眠りから目を覚ました。巫女の衣装を着直して念のために布を被り、テンノーにドアを開けてもらうと、ユイとシチリーが立っていた。
「おはようございます、巫女様」
ユイは朝食を乗せたトレイを持っていて、卵のスープとおにぎりが用意されていた。どちらも出来立てで湯気が昇っている。
「巫女様、お加減はいかがです?」
シチリーに問われ、セーヤは佇まいを直す。
「あまり変わりはありません」
「巫女様。あなたの身柄と引き換えに自治政府派と交渉を重ねましたが、あちらの意見は覆りませんでした。巫女様を速やかに引き渡して投降しろ、それだけです」
シチリーは小さく肩を竦める。
「ですので、巫女様。そのお力で、王家の生き残りであるビーナ王女を見つけて下さいませんか」
「はい?」
セーヤがきょとんとすると、シチリーは説明した。
「あの惨劇の後、王家の方々の玉体を検めたのです。王家の墓に葬られていましたが、それを暴いて遺品と遺骨を取り出し、一つ一つ確かめたんです。あの場にいた王家の方々は100人を越えていたので、手間と時間は掛かりましたが、それによって重大な事実が判明したのです。ビーナ王女の御遺体はない、すなわち生きておられると」
「へ?」
あまりのことにセーヤは二の句を告げなかった。ユイは居たたまれないといった面持ちで目を伏せているが、シチリーは笑顔さえ浮かべていた。
「御社にお連れします。そこでアシュラの神託を受け、ビーナ王女の居所をお教え下さい。巫女様にはそれが出来ますでしょう?」
セーヤは布の下で目線を彷徨わせた。ビーナ王女はフォースユーザーであり、ジェダイとして迎え入れられるほどの力の持ち主であれば、フォースを経由して通じ合える可能性はある。だが、それはビーナ王女が生きている場合だ。そうでなかったら、見つけようもない。
「……解りました」
だとしても、断れる立場にはない。セーヤが頭を下げると、シチリーは微笑んだ。
「そう仰ってくれると信じていました。朝食が済み次第、支度して下さい。御社までお連れしますので」
シチリーが去ると、ユイは俯きながら部屋に入ってきた。テンノーがドアを閉めると、ユイはトレイを置いてから肩を震わせた。
「シチリー姉さんは、昔はあんなふうじゃなかったんです。でも、自治政府派にも豪族派にも納得出来なくて、王家復興派の人達と親しくしているうちにああなって……。私はシチリー姉さんを止めようとしましたが、何を言っても聞いてくれないんです。だから、せめて私は本来の役割を全うしようと……」
「ユイさん」
セーヤが布を外すと、ユイは落ち着きを取り戻してから朝食を勧めた。
「冷めないうちに召し上がって下さい。今回は私が作ったので、味は保証します」
実際、卵のスープとおにぎりはおいしかった。塩気が丁度良く、優しい味がした。セーヤはどちらも綺麗に平らげ、心身が満たされたことで気持ちも新たになった。こうなったら、やれるだけのことはやってやる。
巫女としても、ジェダイとしても。
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セーヤ・ミットー
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テンノー(NO-10)
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