トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
トラックの貨車に乗せられた。
使い古されたトラックで、牽引されている貨車も錆び付いていてボロボロだったが、アシュラの巫女を隠すにはうってつけだった。ひどく揺れるので乗り心地は今一つだったが、セーヤは今後について考えを巡らせていた。サウスの助言が欲しいところだが、生憎、それらしい気配はなかった。
セーヤの左右はテンノーとサクに挟まれていて、向かい側にはユイがいる。貨車の窓は塞がれているので外の様子は窺い知れないが、スピーダーバイクの駆動音が聞こえてくるので、車列の前後を警戒しているようだ。
一つ、気になることがある。セーヤは布越しにサクに目をやり、声を掛けようとしたが、ユイは
「サク、ちょっといい?」
セーヤが急に聞き取りづらい言語を発したのでサクは少々驚いたが、ユイが傍にいるからだと察し、同じ言葉で返してくれた。
「ああ、何の話だ? 面倒な単語は出すなよ、聞き取りづらいから」
「大丈夫だよ、そんなに難しいことでもないから。二十五年前、サクにマインドトリックを仕掛けたシスはどんな感じだった? 覚えている限りでいいから、教えてほしいんだ。私もそんなに多くのシスを知っているわけじゃないけど、頭に入れておきたくて」
セーヤが続けると、サクは仮面の下で呻き声に似た言葉を発した。ウーキーの言葉は舌に頼らず、喉の開閉による音の強弱を付けて出すものなので、そこが特に難しい。
「ああ……やっぱりマインドトリックだったか。そのせいで、シスと遭遇した後の記憶は曖昧なんだが、一つだけ覚えていることがある。長いローブの裾から、尻尾が出ていたんだ。だから、俺はジェダイってそういう種族なのかと勘違いしていた時もあった」
サクが小さく肩を竦めたが、セーヤはその特徴を持つシスに心当たりがあった。オード・キューだ。サウスにも似た特徴があり、尻尾が生えているが、二十五年前の彼はジェダイのパダワンであり、まだ少年だ。だとすると、惨劇を引き起こしたのは。セーヤはそこに考えが至ったが、結論付けるのはまだ早計だと思い直した。
「トグルータとトワイレックを勘違いされるようなものかな?」
セーヤが独り言を零すと、サクは僅かばかりだが笑った。
「ああ、それもある。見慣れていなかった頃は、頭から何かが生えているのがトワイレックだと認識していたから、トグルータに初めて会った時は困惑したよ。もしかするとトワイレックの亜種かもしれない、と。そのトグルータとちょっと話したら、それは俺の知識不足による勘違いだと解ったんだが」
「トグルータならともかく、ノートランに間違われた時はさすがにないわーって呆れちゃったよ。ノートランは全然違うじゃない」
セーヤが布の下で舌を出すと、サクは堪え切れなくなったのか肩を揺する。
「ノートランだって? 色気がないな」
すると、ユイが二人のやり取りを気にしていたので、セーヤは
「あっ、ごめんなさい。ユイさんを仲間外れにしたわけじゃなくて……」
「サクとは長い付き合いなんですが、笑っているところを初めて見ました」
ユイが意外そうにしたので、セーヤは二人を見比べる。
「えっ、そうなんですか?」
「いや……そのつもりはなかったんだが、誤解させていたのならすまない。だが、ネゴスの連中と会うと剣呑な話し合いになるし、俺と親しい奴らもいなくなったからな」
サクは少々やりづらそうに視線を彷徨わせ、語気を弱めた。
「そうでしたか。……そうでしょうね」
ユイはサクの反応に対し、切なそうに呟いた。ユイからすれば、サクは素顔を隠した賞金稼ぎであり、ネゴスのどの勢力にも属していない、謎の多い存在だ。サクは王家復興派とも通じているが、同じ理想を追い求めているからではなく、利害関係が一時的に一致しているだけに過ぎない。
ユイはサクを恐れる一方、自分の知らない世界を知る大人であり、自分とは違うものだと捉えていたのだろう。だから、サクの内面の柔らかい部分を知り、彼も一人の人間なのだと認識を改めた、とセーヤは察した。
セーヤとユイの間には大きな隔たりはあるが、サクはそれ以上だ。宮殿の警備を務めていながらも王族を守れず、惨劇を起こした首謀者を知りながらも殺されるリスクの方が高いので後を追えず、ネゴスの現状を変えようと力を尽くしても手応えがなかった。故郷を愛すれば愛するほど、サクは孤独を深める。
「サク。私ね、メイルーランが好きなの。ロズ・キャットも。サクは何が好き?」
セーヤは自分なりに出来ることがないかと考えるも、それらしいものが見つからなかったので、当たり障りのないことを言った。
「俺は……」
サクは返事をしようとするも、答えに詰まっていた。きっと、長らく忘れていたからだろう。賞金稼ぎとして生きることに必死で、ネゴスを少しでも良くしようと奔走して、それでいて存在を知られないように努めていた。だから、そんなことを考える余裕なんてなかったのだろう。
サクには悪いことを聞いちゃったかな、とセーヤはちらりと思ったが、貨車を牽引していたトラックが停まった。
御社に到着したようだ。
二つ目の御社は湖の孤島だった。
王家復興派の人々が船を出してくれて、セーヤ達はそれに乗せられて移動した。サクが横流ししたシャトルは使わないのかな、それとも使い方が解らないのかな、とセーヤは船に揺られながら考えていた。
小さな島は木々に囲まれていて、その中心に御社が鎮座していた。シチリーを始めとした王家復興派の面々が、ブラスターを手にして周囲を警戒する中、セーヤはユイに手を引かれて御社の中に足を踏み入れた。
前回と同じく、祭壇には古びた鏡が飾られていた。御社の出入り口はテンノーとサクが守り、中ではユイが控えた。セーヤは布を外して素顔を晒すと、鏡に両手を翳す。
アシュラとボーガンを感じ取り、引き寄せると、鏡が光を放った。赤と青の光が交互に打ち寄せ、煌めき、複雑に折り重なる。
「これは……」
その先に誰かがいる。だが、鏡の向こうから覗き返してきた人物ではない。出来れば近付きたくない、存在を捉えただけで体の芯まで冷えるほど恐ろしいから。しかし、逃げていては何も始まらない。
セーヤは集中し、アシュラとボーガンの流れに精神を委ねた。アシュラの青とボーガンの赤がセーヤの精神に重なり、ネゴスの歴史を見せてくれた。
遠い昔、何千年も前。フォースを操るジェダイとシスは今よりも遥かに強く、絶大な力を持っていた。それ故、相容れない両者はぶつかり合い、いくつもの惑星で壮絶な戦争を繰り広げていた。
フォースがライトサイドに傾けばジェダイが勝利して多くの星を統治し、ダークサイドに傾けばシスが勝利して支配する惑星を増やす。その繰り返しだ。どちらも崇高な精神を宿しているのに、戦わずにはいられない。誰かがそれを愚かなことだと説いても、フォースの本能めいた衝動には逆らえない。
「だから、私はこの星に来た」
セーヤの内側で声が響く。サウスでもなければ、ソウ・テッセンでもない。ダークサイドでありながらも、憎悪や敵意を含んでいないのが奇妙だった。
「あなたは?」
セーヤが声に応じると、声の主は鏡の中から現れた。壮年の男のヒューマンで、シスの戦士だった。
「私の名はゴクロ・ラクージ。シスではない君と語り合うことは出来ないと思っていたが、サウスが仲介してくれてね。彼はパダワン思いのマスターだ」
「あなたが、ネゴスを今のようにしたんですか?」
セーヤがフォースを通じて問い掛けると、ゴクロは右手を上向けてシスのホロクロンを浮かばせる。
「ネゴスにはフォースが満ちていた。私はジェダイとシスの終わりのない戦いに疲れてしまい、このホロクロンをシスの寺院から持ち出した。そして、私はネゴシアンを導き、戦いのない世界を作ろうと試みた。やがて寿命を迎え、私の魂がネゴスそのものと一体と化した後も、私はネゴシアンに寄り添い続けていた。アシュラの巫女もその一環で、やがてジェダイとなるであろうネゴシアンを、ネゴスに繋ぎ止めておくための役割でもある」
「それは……あなたのエゴです」
その結果、あの惨劇が起きた。セーヤが苦々しく思いながら零すと、ゴクロはシスのホロクロンを握り締める。
「それについては否定しない。私はシスだ、私が望むままにネゴスとネゴシアンの運命を捻じ曲げたのだから。王族の惨劇もそうだ。それを蔑むのか、それとも憎むのか、若きジェダイよ」
「内戦を止められないんですか」
「ネゴスは既に私の手を離れた。坂を転がり落ちるとしても、拾い上げられない」
「だから、あなたは」
セーヤの視界が切り替わる。御社ではなく、あの雪原へと。急激に冷え込み、肌を打つ雪の粒を感じ、足の裏から体温を奪われる。不意に吹き付けた風がセーヤが被っている布を剥がし、舞い上がらせる。
その布が風に煽られ、雪原の彼方へと向かう。セーヤがそちらに振り向くと、白い世界に赤い光が走り、布が鮮やかに両断された。
「なぜ、お前がここにいる?」
ダース・シャハーだった。漆黒の仮面で素顔を覆い、闇を凝縮したかのようなマントが激しい風に弄ばれる。セーヤは畏怖で心身が竦みかけたが、言い切った。
「あなたが誰なのか、解ったよ」
「だからどうした。お前如きが、私を阻めるはずもない」
ダース・シャハーはライトセーバーを掲げ、真っ直ぐに切っ先をセーヤに突き付けた。セーヤはいつのまにか手にしていたライトセーバーを握り、緑の光の刃を伸ばすと、ダース・シャハーは仮面の下で息を呑む。
「それは!」
その次の言葉を聞く前に、アシュラとボーガンの調和が乱れた。セーヤが我に返って目を開くと、テンノーがセーヤに覆い被さり、サクがユイを庇ってブラスターを構えていた。御社の外ではブラスターの発射音と悲鳴が連続していたが、やがて途絶えた。
襲撃を受け、制圧されたからだ。
半分が死に、半分が拘束された。
王家復興派のリーダーであるシチリーと幹部は生きていたが、それ以外の者達は撃たれて命を落としていた。湖面を震わせながら降下してきたシャトルには、豪族派であることを示す円錐の模様が入っていた。
セーヤ達はそのシャトルに押し込まれ、島から離脱した。テンノーはシャットダウンされ、サクは念入りに拘束され、体の至るところに仕込んでいた武器も奪われていた。ユイは青ざめていて、シチリーは悔しさと怒りに顔を歪めていた。
「これからどうなるんだろう……」
再び布を被ったセーヤが力なく呟くと、四肢を縛られて転がされているサクが零した。
「豪族派の奴らはヤナグよりも血の気が多い。拷問された後に殺されるのが目に見えている。その前にどうにかするしかない」
「うん。でも、ちょっと待って」
セーヤは胸に手を当てると、心臓が痛むほど暴れていた。ダース・シャハーと接したことによる動揺が、まだ収まっていない。手足も冷え切り、三本のレックが痺れ、精神と肉体が委縮している。
テンノーを再起動させるにはフォースを使うしかないが、ここまで動揺していると暴発してしまう。増して、今はシャトルの中だ。不用意な真似をすれば、墜落して全員死ぬ。セーヤは自分を律し、フォースとの繋がりを確かなものにするために瞑想した。
落ち着け、集中しろ。
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セーヤ・ミットー
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