トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
シャトルが着陸した。
豪族派の武装した兵士達が乗り込んできて、先にシチリー達を連れ出し、シャットダウンしたテンノーを引っ張り出し、最後にセーヤ達が追い出された。
到着した場所は、集落というよりも要塞に近かった。高い塀に囲まれていて、その塀の上には鉄条網が張り巡らされ、監視ドロイドが塀の上をうろついていた。セーヤは布越しの周囲の様子を確かめながら、自分の精神状態を確認した。動揺しきったことで却って落ち着けている。
感情とは不思議なもので、上限まで振り切れてしまうと逆に凪いでしまう。ある種の防衛反応なのだろうが、今のセーヤにとってはそれは好都合だった。
要塞の一番奥にある建物に連れていかれ、セーヤとサクとシチリーは、その建物の最も奥の部屋に押し込まれた。壁には部族の証と思しき旗が掲げられ、ネゴシアンの伝統的な武器らしきものも飾られ、壁自体に模様が描かれていた。そして、玉座のような大きな椅子に仰々しく座しているのは、骨太で大柄なネゴシアンの壮年の男だった。
「それがアシュラの巫女か」
大柄な男が立ち上がると、サクがその名を口にした。
「クガ・ヌーム」
「気分はどうだ、裏切り者。お前は俺達にも売った武器を、その女にも売りやがった。確かにその方が儲かるが、いくらなんでも虫が良すぎないか?」
クガがサクに無遠慮に歩み寄り、仮面を掴むが、サクは動じなかった。
「だが、おかげで俺達を連れてこられただろ? シャトルの操縦方法を教えたのも俺だし、ブラスターの撃ち方だってそうだ。士気は高くても右も左も解らない連中を鍛え上げたんだ、礼を言ってほしいぐらいだね」
「口の減らねぇ野郎だ」
クガはサクを放り出すと、今度はシチリーの襟首を掴んだ。
「シチリー・ガハム! アシュラの巫女を手に入れたからって、お前達が勝ったと決まったわけじゃないからな? むしろ、これからが本番だ。俺達こそが本物のネゴシアンであり、ネゴスを統治するのに相応しいのだと、アシュラの巫女の神託によって裏付けさせる。そうすれば、小賢しいヤナグも敵じゃない」
最後にクガはセーヤに近寄り、顔を覆う布を剥がそうとしたが、セーヤはフォースを放ってクガを押さえ付けた。突如、床に突っ伏したクガは悶え苦しむ。
「うおっ、ぐぇっ……」
「安心して下さい、骨までは折りません」
セーヤはクガを制圧しているフォースを少しだけ弱めると、クガに問うた。
「あなた方の狙いは解りましたが、私はそれを聞き入れるわけにはいきません。アシュラの神託を偽ることは、ネゴスを貶めることになるからです。それで一時的に人心を掌握して自治権を得られたとしても、アシュラとボーガンは偽りには従いません。きっと、今よりもひどいことになります」
セーヤが淡々と告げると、クガは顔を歪めて脂汗を垂らしながら身を起こそうとする。恐るべき執念と怪力である。
「だとしても、だ……。俺達が王族から受けた屈辱をやり返さずにいたら、俺達の扱いは不当なままなんだよ。昔はネゴスの各地は士族や豪族の領地だったのに、王族が力を付けたことでネゴスを丸ごと手に入れやがった。先祖代々受け継いできた聖なる森も、御社も、何もかもだ。俺のよりも上の世代の奴らは王族に丸め込まれたが、俺は違う。俺だけはツノを折られちゃいない!」
クガの激情によって、彼のアシュラの力が突如高まった。セーヤは咄嗟にフォースを引っ込め、瞬時に防御に回すと、クガが放ったアシュラの力が炸裂した。部屋が呆気なく吹っ飛び、壁と天井が砕け散り、灰色の粉塵が舞い上がった。
「昔からこうなんだよ、こいつは」
セーヤの背後でサクが呆れると、シチリーは顔をしかめた。
「これだから嫌いなのよ、豪族派は」
「場所を変えましょうか」
セーヤが提案すると、粉塵にまみれたクガはよろめきながらも立ち上がった。
「その前に水浴びでもしてくる。さすがにこの格好じゃ、巫女様に合わせる顔がねぇ」
爆発音を聞きつけて駆け付けた部下達を押しやってから、クガは出ていった。セーヤ達は別室に連行され、拘束も解かれたが、見張りが厳重なので脱出出来そうになかった。
テンノーとユイは無事だろうか。
重苦しい沈黙が流れた。
サクは外されかけた仮面を直し、ブラスターを点検しようとしたがないことに気付いて手を引っ込めた。セーヤは椅子に正座し、瞑想の続きをしていた。シチリーは片膝を抱え、鉄格子が填まった窓から外を眺めていたが、佇まいを直してセーヤに目をやった。
「巫女様。ビーナ王女の所在は解りましたか? その確証があれば、この状況も覆せます」
「ビーナ王女は……」
セーヤは瞑想から意識を戻した。フォースを通じて出会ったのはネゴスに繁栄をもたらした古代のシス、ゴクロ・ラクージ。あの雪原でサウスと命を削り合ったシスの暗黒卿、ダース・シャハー。
「あ……」
視線を感じる。フォースの向こう側から、セーヤを捉えている。ダース・シャハーの冷酷な眼差しが、数多の惑星と宇宙を越え、セーヤを射貫こうとしてくる。
「来る」
「ビーナ王女がいらっしゃると、そう仰るんですね? それならネゴスは安泰です、自治政府派も豪族派も大人しくなります。ビーナ王女が王位を継承すれば、ネゴスには輝かしい繁栄がもたらされるわ!」
シチリーは目を輝かせ、歓喜するが、サクはそれを制した。
「ちょっと待て、その判断は早計だ。巫女様の言葉を勝手に解釈するな。大体、何が来るのかも説明していなかっただろ?」
「どう考えてもビーナ王女のことよ、それ以外にないわ」
シチリーは譲らなかったが、セーヤはダース・シャハーの視線に身が竦みかけていた。
「それは……違います。いや、なんていうか、違わないけど違うんです。上手く説明出来ないんですけど……」
「具体的には?」
セーヤの背に手を添えたのは、サウスの霊体だった。セーヤははっとする。
「マスター!」
「え? そこに誰かいるの?」
シチリーがセーヤの背後を覗き込むと、セーヤは取り繕う。
「私には見えるけど、シチリーさんとサクには見えないんです。だから、あんまり気にしないで下さい」
「遠からず、ダース・シャハーはネゴスに来る。どうする、セーヤ? ダース・シャハーはネゴスを焼き尽くすことも厭わない。お前だけでもネゴスから離脱すれば、戦場は別の場所になる」
サウスの言葉に、セーヤは静かに述べた。
「逃げません。私はここで立ち向かいます」
「勝ち目はないし、俺も助けられない」
「解っています。でも、私は投げ出しません。ネゴスのことも、マスターのことも、あの人のことも」
セーヤは腰の後ろに触れ、今は帯びていないライトセーバーを握る。
「マスターだってそうですよね? だから、マスターは」
ジェダイ・マスターのサウス・ギ・ハーラはシスとなり、より強い力を得る道を選んだ。それはダース・シャハーを制するためであり、ダース・シャハーと化した者のためでもある。ジェダイの正道とは程遠く、シスに堕ちても勝ちきれずに討たれたとはいえ、当時のサウスにとってはそれが最善の策だったのだ。
「……俺から余計なものまで学んだな、我がパダワン」
サウスは身を屈め、セーヤと目線を合わせてくる。
「その通りだ。だから、俺はもうジェダイじゃない。自分からジェダイであることを捨てたんだ。だが、それを愚かだと嘲りもせず、弱い心だと蔑みもせず、安易な強さに頼っても勝てなかったのだと軽んじもしない。セーヤ、お前は俺には勿体ないパダワンだ」
「私はあの人を止めます」
「俺の跡を継ぐのか」
「それもありますが、私は心からそう思ったんです。色々な人と接して、ネゴスの内情を知って、アシュラとボーガンに触れて、そしてマスターに出会って……。あの人は、ダース・シャハーはとても苦しんでいるんです。マスターはそれを理解していたからこそ、戦う道を選んだんですよね」
「ああ、そうだ」
「私も戦います。マスターのライトセーバーを、今度こそ使いこなしてみせます」
セーヤがサウスと目を合わせると、サウスは頬を緩め、セーヤの素顔を隠している布の中に手を差し込んだ。霊体の手が触れたのはセーヤが付けているマフラーで、その端が千切れ、するりと落ちた。
「パダワンブレードを付けていれば、それを外してやったんだが。大事なものだと知っているが、俺がセーヤを送り出すために必要なことなんだ。解ってくれるな?」
「……はい」
セーヤはマフラーの千切れた布を拾い、握り締めた。
「俺は自分の選んだ道は正しくないが、間違いではなかったと信じていた。だが、今になって少しだけ後悔してしまうよ。あの時、ゴーラから去っていれば、もうしばらくはセーヤのマスターでいられただろうに」
「マスター、私は」
「顔を上げろ、ジェダイ。君はもう、俺の手から離れたんだ」
その言葉を最後に、サウスの霊体は消えた。その代わりに、ごとりと重たい音が響いた。セーヤが巫女の衣装の内側を探ると、テンノーの内部に隠してあるはずのライトセーバーがあった。サウスが取り戻してくれたのだ。セーヤはそれを布の下に引き込むと、ライトセーバーに額を当てて背を丸めた。
さよなら、私のマスター。
惑星モルル。
三隻のスターデストロイヤーと十隻の軽クルーザーによって編成された艦隊は、出撃準備を整えつつあった。スターデストロイヤーの旗艦のブリッジにて、ダース・シャハーは佇んでいた。
「シャハー卿、本気ですか? 辺境の未開惑星を焼き払うのは結構ですが、仰々しすぎませんか?」
クレインが訝ると、ダース・シャハーは彼女を見返した。
「私の判断は正しい」
「それを疑っているわけではありません」
「では、何を問いたい?」
「マスターのフォースがいつになく高まっておられるので、それが気掛かりで」
「気にするな。事が済めば収まる。それよりも降下部隊に加われ。地上を焼き尽くすだけでは、討ち漏らしてしまう。オード・キューの部隊とも連携を取れ」
「了解しました」
クレインは一礼し、ブリッジから去っていった。ダース・シャハーはパダワンの背を見送ってから、マスクの奥で眉根を寄せた。あのヴィジョンが忘れ難かったからだ。
サウスのライトセーバーを握るトワイレックの少女には、直接会わなければ気が済まない。サウスとどんな関係だったのか、問い質してやらなくては。ネゴスにいるのも都合がいい、あの星はいずれ滅ぼすつもりでいたのだから。ホロ・ヴィジョンの作戦を優先していたから、後回しにしていただけだ。
ただ、それだけのことだ。
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セーヤ・ミットー
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