トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
Xウィングはハイパースペースを脱した。
カミーノが操縦するXウィングは、広大な海と緑が豊かな大陸を持つ惑星の上空に現れると、大気圏に突入して降下し始めた。
その振動でセーヤは我に返り、辺りを見回した。ずっと座っていたせいで緊張が緩み、ちょっと寝てしまったらしい。それに気付き、セーヤの後ろに座るテンノーがセーヤを見下ろしてきた。
「セーヤ、目を覚ましましたか」
「ここ、どこ?」
セーヤが戸惑うと、テンノーがモニターを操作する。
「ミッドリムのカンナ星系、惑星ビッグシップです。先程からカミーノが地上の基地と連絡を取り合っているので、そちらに同盟軍基地があるのでしょう」
同盟軍の存在はセーヤも知っている。けれど、知っているだけだ。彼らは帝国を倒すために奮戦し、クローン戦争でも活躍したそうだが、詳しいことまでは解らない。そもそも、あまり興味がないからだ。政治や銀河の情勢は、子供にとっては難しいし、遠く離れた世界の出来事のように思えたからだ。
Xウィングは雲を突き抜け、地上に接近した。ビッグシップの名の通り、この惑星では大型の宇宙船がいくつも建造されていたようで、恐ろしく巨大なドックが点在している。それらに資源や燃料を運ぶための線路もあり、惑星規模で造船業を営んでいたようだが、それにしては妙に静かだ。
「あの造船所、今は動いていないの?」
セーヤがドックを指すと、テンノーがキャノピーにがつんと頭をぶつけた。
「恐らく、作業用ドロイドが帝国に接収されたのでしょう」
ドックだけでなく、至るところで作りかけの宇宙船やエンジンが放置されていて、風雨に曝されているせいで錆び付いていた。勿体ないなぁ、とセーヤはちらりと思ったが、広大なドックの間に設営された基地が見えてきた。Xウィングやスターファイター、ガンシップなどが整然と並んでいた。
「こちらオーク4。ビックシップ基地、着陸許可を求める。遭難者とドロイドを救助した」
カミーノが通信を入れると、応答があった。
『了解、オーク4。着陸を許可する』
カミーノはいくつかのスイッチを切り替え、エンジンの出力を下げると、Xウィングの機首を下げて徐々に高度を下げていった。そして、反重力装置を併用して落下速度を緩めながら基地へと進入し、同型機の傍に着陸した。
「ようこそ、同盟軍基地へ」
カミーノはキャノピーを開き、ヘルメットを外して立ち上がる。助けられたんだから感謝するべきだ、とセーヤは思う一方、ナザ・シーサイの元に連れ戻されるのではないかという不安が過ぎった。
そのせいで、答えに詰まった。
その後の顛末を教えられた。
同盟軍の宇宙船によって救助されたシャトルとその乗客は、コルサントの宇宙港まで連れ帰ってもらったそうで、乗客もドロイドも全員無事だった。但し、あの賞金稼ぎと賞金を懸けられていた男は足取りが掴めないままだった。
「質問はあるか?」
セーヤに一部始終を説明してくれたのは、ビッグシップ基地の指揮官である同盟軍大佐、ヒル・スワンプだった。ヒューマンの男で、歴戦の軍人らしい威圧感がある。
「あの……。結局、私はどうなるんですか」
セーヤが気後れしながらも問うと、スワンプ大佐はホロの報告書をスクロールさせる。
「残念ながら、君はれっきとした犯罪者だ。密航、身分偽装、シャトルの代金の踏み倒し。ドロイドが上手くやってくれたようだが、だとしても誤魔化し切れるものじゃない」
「大佐、セーヤは奴隷なんですよ。雇い主から逃げてきて……」
カミーノが口を挟むと、スワンプ大佐はそれを制した。
「スターリバー少尉、それとこれとは別だ」
「ですけどね、大佐」
「私は彼女に話を聞いているんだ」
スワンプ大佐がセーヤに向き直ると、セーヤは猛烈に気まずくなって目を泳がせた。
「私は……戻りたくないんです。どうしても逃げなくちゃいけなくて、機会を窺っていて、やっとその時が巡ってきたんです。でも、悪いことをしたのは本当ですから、その罰はちゃんと受けます」
「であれば、私もセーヤと運命を共にしましょう。それも私の務めですので」
テンノーが胸に手を添えると、スワンプ大佐はセーヤとテンノーを見比べた。
「奴隷の身分を保証し、社会的な立場を得るための手続きを行うにはそれなりの時間を要する」
「え、あ、はい」
セーヤが顔を上げると、スワンプ大佐は続けた。
「チェーンコードはあるか?」
「はい、一応は」
セーヤが手を出すと、スワンプ大佐は端末を向けた。体に埋め込まれたチップの情報を読み取ると、セーヤの個人情報を記したホロが浮かび上がる。
「出身はライロス、その後は惑星を転々としているようだが」
スワンプ大佐がチェーンコードを読み取ると、セーヤは意味もなく三本のレックに触れる。
「私はライロスで暮らしたことはありません。物心ついた頃には、奴隷として働いていたので」
「であれば、ライロスの管理局に問い合わせてみよう。そこで君の本来の戸籍の存在を確かめ、新共和国の法務局に働きかければ、新共和国での市民権が得られる可能性はある」
「そうなんですか?」
セーヤがきょとんとすると、テンノーが返した。
「ですが、新共和国の制度に組み込まれてしまうと、今後、セーヤは思うように立ち回れなくなるかもしれません」
「なんだ、賞金稼ぎにでもなるつもりか?」
スワンプ大佐が訝ると、セーヤは首を横に振る。
「いえっ、そんなことはないです!」
「まあ、なんだ。セーヤ・ミットー、君は罪を犯したが、その罪を償うためにはまず市民権が不可欠だ。解るな」
スワンプ大佐に説き伏せられ、セーヤは俯く。
「はい」
「諸々の手続きが済むまでは、この基地で雑用でもしてくれ。食事と寝床も提供する。だが、遊んで過ごせると思うなよ」
そう言い残し、スワンプ大佐は去っていった。セーヤが立ち尽くしていると、カミーノが笑いを噛み殺す。
「大佐、セーヤが気掛かりなんだなぁ」
「なんで? 私は色々な人に迷惑を掛けたのに」
セーヤがカミーノを見上げると、カミーノは腰を曲げてセーヤと目線を合わせてきた。
「そうかもしれないけど、セーヤは逃げることしか出来なかったんだろ。大佐が時間をくれたんだ、これからどうするのかはじっくり考えるといい」
「うん、そうする」
「ジェダイがどうのこうのって話もそうだ。俺はジェダイのことは嫌いじゃないし、そういう人達がいてもいいと思っているから、セーヤがジェダイになるのは否定しない。でも、ジェダイ以外の生き方があることは知っておくべきだ」
「たとえば?」
「俺の後輩になるとかね。トワイレックは感覚が鋭いんだろ、だったらパイロットにうってつけだ。セーヤはいくつだ?」
「14歳」
「じゃ、尚更だ。訓練は若いうちからした方がいい、覚えが早いからな。雑用だけなんて勿体ない!」
カミーノはセーラの手を引き、意気揚々と格納庫に向かおうとすると、テンノーが引き留めてきた。
「そうはさせません、セーヤはジェダイの訓練を始めたばかりなのですから! 余計なことをして時間を無駄にするわけにはいかないんです!」
「えー、あー、あー……」
二人に引っ張られ、セーヤは狼狽えた。どっちにしても、大変なことに変わりはないからだ。セーヤの頭越しにカミーノとテンノーは散々言い合い、ひとしきり揉めた後、パイロットの訓練とジェダイの訓練を並行して進めることが決まった。
セーヤの意志とは無関係に。
断るべきだった。
スターファイターのシミュレーターに乗せられ、セーヤは右往左往しながら操縦の真似事をしてみたが、Xウィングは思うように動かなかった。映像が目まぐるしく回る上に座席も激しく揺れたため、当然ながら激しく乗り物酔いした。そのせいで、シミュレーターから出た後は寝込んでしまった。
「ぐわんぐわんする……」
吐くだけ吐いて胃の中が空っぽになったセーヤは、血の気が引いていた。テンノーはセーヤを持ち上げると、シミュレーターの近くにあるベンチに寝かせた。
「落ち着くまで休んで下さい」
「最初は誰でもそうなるって」
もう一つのシミュレーターから出てきたカミーノは、セーヤに近付いてきた。
「こんなの無理、絶対に無理……」
セーヤは気分の悪さも相まって落ち込むと、カミーノはセーヤが寝ているベンチの端に腰掛ける。
「大丈夫、筋は良かった。離陸させた途端に失速して地面に突っ込んだり、味方にフレンドリーファイヤーしたり、プロトン魚雷を落っことしたり、スピンしてあらぬ方向に吹っ飛ばなかっただけマシだ」
「それ、カミーノがやらかしたんでしょ」
「当たり」
カミーノがにやにやすると、セーヤは嘆息した。
「そんなの、何の慰めにもならないよ」
「でも、手に職を付けておくと潰しが効くんだ」
「パイロットなんて難しいよ」
「難しいからこそ需要があるんだよ。同盟軍に所属するもよし、民間の旅客船を操縦するもよし、もっと勉強して資格を取って大型宇宙船の操舵士を目指すって道もあるんだから」
「そんなこと、今は考えられないよ」
「だとしても、後で必ず役に立つよ。この銀河で身を立てるには、宇宙船の操縦は不可欠だ」
カミーノはセーヤを見下ろした。彼もまた、スワンプ大佐のようにセーヤのことを考えてくれている。奴隷から市民になれたとしても、奴隷の感覚が抜けないままでは生きていけないからだ。だから、荒っぽい方法でセーヤを鍛えようとしたのだ。極端すぎるが。
「セーヤ。落ち着き次第、ジェダイの訓練を行いましょう。困難な時ほど、フォースと向き合うべきなのですから」
テンノーの申し出に、セーヤは顔を背けた。
「後にして」
「セーヤ。何事も続けることが大事なんですよ」
「せめて明日にして!」
「それではフォースが遠ざかってしまいますよ」
「私の体力は無限じゃないんだから!」
セーヤは苛立ちに任せて声を上げたが、目眩に襲われ、再び寝込んだ。ぐるぐると視界が捻じれ、体温が下がったり上がったりして、訳が解らなくなった。その後の記憶がないので、どうやら気を失ったようだ。
長い一日がようやく終わった。