トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
ダイナーの営業は順調だった。
だが、ドライブインには不穏な空気が漂い始めていた。それほど広くない駐機場は一杯になり、ダイナーには同じ顔触れが何度も訪れ、皆、同じことを嘆いている。海賊による営業妨害だった。
「それ自体はまあ、よくあることなの」
ピークタイムが過ぎた頃、ダイナーのカウンターでホープはカフを傾けていた。
「銀河を統治するのが帝国だろうが新共和国だろうが、目の行き届かないところで悪事を働く奴らはいくらでもいるし、自衛するしかないわけ。特に海賊は厄介で、一度目を付けられると何もかも奪われるし、あれこれ難癖を付けられて搾り取られる。仕事を終えたらあっさり手を引く賞金稼ぎの方が、ずっとまともに思えるぐらいに。まあ、結局はどっちもどっちなんだけど」
お代わり、とホープがマグカップを差し出したので、セーヤはカフのポットを傾けて注いでやった。
「このカフ、淹れてから時間が経って温め続けたやつだから、ちょっと煮詰まっているかも」
「今はそれぐらいが丁度良いわ」
ホープは苦くて濃いカフを啜り、嘆いた。
「とはいえ、今回は手詰まりね。今までも交易ルートはハイパージャンプの中継地点で海賊が見張っていて、通行料を強請ってくることはあったけど、今回は程度が違うわ」
「そんなに?」
「パーレミアン交易ルートの先にあるのは、造船会社が多いザ・スライスだからね。私が部品を納品に行くはずだった造船会社に問い合わせてみたら、あっちも脅されていてね。無事に船を通過させたければ言い値でクレジットを寄越せ、とかなんとか」
「この場合、どっちか片方に脅しを掛けておいて、もう一方には知らせない方が効率がいいんじゃないの?」
セーヤが何の気なしに呟くと、皿洗いをしていたテンノーに小突かれた。
「そうかもしれませんが、言うべきではないです」
「むしろ、そうやって双方を焦れさせておいて、痺れを切らした方から丸め込むつもりなのかもね。どっちにせよ、早いところ解決してもらわないと困るの。私達の仕事は貨物を運ぶだけじゃなくて、納期に間に合わせるのも仕事のうちなんだから。でないと、違約金が発生しちゃってさぁ……」
ため息交じりのホープに、セーヤは同情するも、今のセーヤでは海賊相手に大立ち回りを繰り広げるのは難しい。フォースだってまだ弱いしなぁ、とセーヤはカウンターの裏で紙ナプキンを浮かせていたが、カザに厨房から呼ばれたので返事をした。
今はダイナーの仕事に集中しなくては。
店を閉め、ボブ・キャット号に戻った。
ドライブインにもホテルはあるのだが、セーヤがチェックインしようとしても年齢制限で弾かれてしまうだろうし、他の利用者やスタッフに勘繰られると面倒だ。なので、スパやランドリーは利用するが、引き続きボブ・キャット号の寝床で寝起きしていた。
セーヤは部屋の明かりを消し、ベッドに潜り込んだが、頭の片隅に疑問が引っ掛かった。何かを忘れているような気がする、なんだっけ、ダイナーが忙しいからつい後回しにしていたことがあったような、とセーヤはしばらく考え込んでいたが、やっと思い出した。
「あっ!」
ジャンク屋で無意識に作ってしまった、中身のないライトセーバーだ。部品の山に埋もれさせたとはいえ、誰かが見つけたら面倒になることは明らかだ。
「探しに行かないと」
セーヤが起き上がってドアを開けると、テンノーが振り向いた。
「セーヤ、いかがなさいましたか」
「この前、ジャンク屋に行った時にうっかりライトセーバーを作っちゃったんだよ」
「カイバークリスタルは入っていませんよね?」
「そりゃもちろん、見た目だけ。でも、それがライトセーバーだと解る人に拾われたら、ジェダイがいるんじゃないかって疑われる。そうなったら、ダイナーで働けなくなっちゃうよ」
セーヤは一旦ドアを閉め、寝間着から普段着に着替えてから、改めてドアを開けた。
「というわけだから、今からジャンク屋に行くよ」
「営業時間外ですよ」
「それは上手くやって潜り込めばいいの」
セーヤはテンノーを説き伏せてから、ハッチを開けた。ボブ・キャット号の周囲は静まり返っていて、二人の足音だけが響いた。
このドライブインは空気を充填するためのシールドに覆われており、頭上には小惑星帯と宇宙空間が広がっていて昼も夜もないのだが、コルサントの標準時間を基準として店は営業している。なので、今はれっきとした夜なのだ。
閉店後のジャンク屋は厳重な警備が敷かれていた。ゲートは施錠されていて、フェンスの上には盗難防止の電流が流されているが、セーヤにとってはどうってことはない。テンノーをフェンスの外で待たせてから、セーヤはフォースを放った。
「よっと」
フォースジャンプで電流の上を軽々と飛び越え、監視ドロイドが通り過ぎた瞬間に着地する。周囲を見回すが、どこもかしこもジャンク品が山積みになっているので、中身のないライトセーバーを隠した場所がどこだったのかが思い出しづらかった。
まあいいや、とにかく探そう、とセーヤは歩き出そうとしたが、自分以外の足音がした。もしかして泥棒なのか、とセーヤは身構えてライトセーバーに手を添えた。
ジャンク品の山を挟む形で、足音の主はセーヤと同じ位置に立った。セーヤは腰を落として足音を殺しながら、慎重に前進すると、相手もまた同じ動作をする。不安と恐怖に満ちた感情が伝わってくるので、盗みに慣れているわけではなさそうだ。
すると、監視ドロイドが戻ってきた。セーヤはすぐさま隠れたが、足音の主は逃げ出した。フェンスをよじ登り、電流とフェンスの上部の隙間を通り抜けたので、体格はセーヤと差がなさそうだ。
「うーん……」
セーヤは足音の主を追うべきかと迷ったが、中身のないライトセーバーを探すことに専念するべきだと思い直した。
そこでジャンク品の山を手当たり次第に浮かせてみて、ライトセーバーらしきものがないかと探してみたが、見つかるのはパイプやシャフトの切れ端だけだった。別の場所だったかな、また明日探そう、とセーヤは引き上げることにした。明日もダイナーの仕事があるからだ。
しっかり寝て休まなくては。
翌日。
今日もまた、ダイナーは盛況していた。特に人気なのがブレックファーストで、焼き立てのパンケーキにワッフル、塩気の効いたベーコン、とろとろのスクランブルエッグ、カリッと揚がったフライドポテトのセットは客の大半が注文した。なぜなら、ブレックファーストと言いながらも一日中扱っているからだ。
ホープは度々訪れては身動きが取れない状況に愚痴を零しながらも、セーヤの溌溂とした接客に元気をもらえると言ってくれた。顔見知りになってきた客達も同じ反応を示してくれた。チップを快く出してもらうための手段として愛想良く振る舞っているが、褒められるのは素直に嬉しい。
ピークタイムも過ぎ、休憩に入ったので、セーヤは調理ドロイドにツナとチーズのホットサンドを作ってもらった。カフもブルーミルクと砂糖を入れるとおいしく飲めるので、苦みと酸味がマイルドになったカフと一緒にホットサンドを頬張った。
「ん?」
ふと、セーヤは気配を感じた。テンノーも物音を察知し、店の裏手に頭を向ける。
「ウォンプ・ラットでしょうか」
「ロズ・キャットだったらいいなぁ」
セーヤがちょっと笑うと、カザは肩を揺する。
「ここにはそんなに愛嬌のある生き物はいないさ、貨物に紛れてやってきたウォンプ・ラットぐらいしかいないな」
「なあんだ」
セーヤは残念に思いながらも、ホットサンドを食べ終えたが、なんだか気になるので店の裏口のドアを開けた。
太い配管とダストボックスの間に、誰かが座り込んでいた。その手にしっかりと握られているのは、あの中身のないライトセーバーだった。
「あっ」
セーヤは思わず声を出してしまった。そのせいで人影は顔を上げ、こちらを見上げてきた。ティーンエイジャーに差し掛かったであろうヒューマンの少年で、体付きが成熟しきっていない。その顔に覚えがあるような、ないような。セーヤと少年はしばらく目を合わせていたが、少年は掠れた声で呟いた。
「これがあるなら、ここにはジェダイがいるんだろ? それなら助けてくれないか」
誰を、と問う前に少年は動かなくなった。セーヤはテンノーを呼び、少年を抱えて店内のバックヤードに運んでもらった。
少年が目を覚ましたのでコップに入れた水を渡すと、彼はそれを急いで飲み干した。セーヤがお代わりを渡すと、今度は落ち着いた様子で半分ほど飲んだ。喉が潤ったからか、少年は名乗った。
「どうもありがとう。僕はイズム・タグマ、父や貿易商をしていて、僕もその商売を学ぶために仕事を任されているんだけど……今回はそうもいかなくなったんだ。納品するための宇宙船を引き取って移動しようとしたら、海賊に襲われて、その宇宙船も従業員も奪われてしまった。僕は辛うじて脱出ポッドでここまで逃げてきたんだが、その先、どうすればいいのか解らなくなってしまって。海賊相手の交渉術はまだ覚えていないから」
イズム・ダグマ。その名を聞いて、セーヤはようやく思い出した。
「イズム坊ちゃま!」
セーヤが背筋を正すと、イズムはセーヤをまじまじと眺めた。
「まさかとは思ったけど、やっぱりそうだったか。三本レックのトワイレックなんて、そうそういるものではないし」
「旦那様がセーヤを手放したので、イズム坊ちゃまのお相手を出来なくなりましたが、その後はいかがでしたでしょうか?」
セーヤは一瞬で奴隷時代の感覚に戻ってしまい、それらしく振舞った。イズムもまた、雇い主の息子らしい態度に戻る。
「ああ……父さんの会社が破産した時、財産を一切合切手放したからな。セーヤもその中の一つだった。トワイレックの奴隷は安くないから、売値も悪くなかったって父さんは言っていたよ。その後、父さんは別の星系で事業を立ち上げて会社を大きくして、今に至るというわけなんだけど」
「それはようございます」
「でも、このままだと納期の遅れで違約金を請求されるし、海賊に金を握らせて追い払ったら味を占めてしまう。僕なりに色々と考えてみたんだけど、解決策がなかった。そこで、これを見つけたんだ」
イズムは中身のないライトセーバーを掲げたが、セーヤは笑顔の裏で肝が冷えていた。やっぱり壊しておくべきだった、今からでも遅くはない、だけどフォースを見せるわけには、と内心で焦っていると、カザがバックヤードを覗いてきた。
「セーヤ、そいつはどこの誰だ?」
「私の以前の雇い主です。イズム坊ちゃまでございます」
セーヤがイズムを示すと、イズムは壁に手を突きながら立ち上がる。
「店長、これが何か解るか?」
「なんでしょうかね」
カザが首を捻ると、イズムは得意げに言った。
「ライトセーバーだ。以前、僕は帝国残党の積み荷を検品したことがあって、そこでジェダイから奪ったライトセーバーが保存されているのを見たことがある。それとよく似ているんだ。だから、このドライブインのどこかにジェダイがいる。ジェダイであれば僕達の窮地を助けてくれるはずだ。新共和国軍も同盟軍も当てにならないけど、ジェダイなら」
イズムの言葉に、カザは大きな目を更に大きく見開いてうろたえた。
「ジェダイなんて、そんな」
「お言葉ですが、イズム坊ちゃま。仮にジェダイがいたとしても、そのことは内密になさるべきではないでしょうか? 帝国は倒れたとはいえ、ジェダイが粛清されていた当時を知る方々は多いのですから、ジェダイへの忌避感が抜けていない方々もおられますでしょう。それに、変に騒ぎ立てるとジェダイは逃げてしまうかもしれませんよ?」
テンノーが口を挟むと、イズムは少々不満そうだったが、中身のないライトセーバーをジャケットの内ポケットに入れた。
「それは一理ある。見た目は旧式でも賢いんだな、このドロイド」
「お褒め頂いて嬉しゅうございます」
セーヤが一礼すると、イズムはさも当然のように命じてきた。
「二日ほど飲まず食わずだったから、食事を用意してくれ。セーヤは僕の好みを忘れていないよな?」
「はい、イズム坊ちゃま」
セーヤは笑顔で応じ、厨房に入った。イズムの口に合うのは、薄っぺらくしたパンケーキと端が焦げる寸前まで焼いたベーコンと、ブルーバター多めのスクランブルエッグだとセーヤはよく知っている。
なので、セーヤは調理ドロイドの横でイズムの食事を作ったが、当のイズムは先程まで憔悴しきっていたとは思えないほど、堂々とした態度で椅子に座っていた。肝が据わっているのか、それとも金持ち根性が抜けていないだけなのか。いずれにせよ、あのライトセーバーをどうにかしなくては。
ダイナーで働きづらくなってしまう。
好きな登場人物は?
-
セーヤ・ミットー
-
テンノー(NO-10)
-
カミーノ・スターリバー
-
ヒル・スワンプ
-
ホープ・ハイライト
-
ナザ・シーサイ
-
ケイ・ホーク
-
マチルダ・グランベリー
-
エア・キャビー
-
サウス・ギ・ハーラ
-
ソウ・テッセン
-
ダース・シャハー
-
オード・キュー
-
クレイン・ミーネ
-
ショーナ・ディノ
-
ユマ・ハイライト
-
ヴィシャム
-
フマガ
-
サク・ラギーチョ
-
その他