トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
奴隷時代は過酷だった。
けれど、辛くて嫌な出来事ばかりではない。セーヤが生まれて間もない頃、愛玩動物同然の扱いこそ受けていたが、子守ドロイドやベビーシッターはセーヤを蔑ろにはしなかった。ちゃんとした食事も摂らせてくれたし、分別が付けられるように根気良く躾けてくれたし、人に好かれるようにはどう振る舞えばいいのか、と幼いながらに学ぶことも出来たからだ。
イズムとその両親との生活は格差が付けられていたが、イズムが好奇心旺盛で勉強熱心な子供だったため、セーヤにもイズムに追いつけるように勉強の機会が与えられた。当時のセーヤからすれば不本意だったが、読み書き計算などの基礎教養を身に付けられた。
イズムの両親が様々な種族を家に招いてパーティーを催し、商談の席を設けていて、そこでセーヤも接客を任された。失礼のないように、と様々な種族の言葉を教えてもらい、それが切っ掛けで多様な言語を話せるようになった。
帝国の政府高官の屋敷でメイドとして働いていた時は、セーヤ以外の使用人達と共同生活を送っていたので、仕事の合間や休憩時間に彼らから色々な話を聞かせてもらった。故郷のこと、この屋敷で働くまでの来歴、帝国が引き起こした戦争の惨たらしさ、クローン兵達の末路、ジェダイの存在。そして、奴隷ではない人々の暮らし向きと、貧困に喘ぎながらも懸命に生きている銀河の人々のこと。
ナザ・シーサイに雇われてからも色々とあったが、踊り子としてのダンスのレッスンを受けたのも、今となっては無駄ではなかったのだと思える。露出の多い衣装でそれらしく振る舞うには、ダンスの細かな所作を覚えておく必要があったからだ。
人生に無駄なことなんてないんだ、たぶんこれからも、とセーヤは内心で思いながら、踊り子の衣装を脱いだ。それをきちんと畳んでから、私服に袖を通した。ライトセーバーをジャケットの下に隠してから、ボブ・キャット号から出てくると、イズムが待っていてくれた。
「お帰り、セーヤ」
「ただいま戻りました、イズム坊ちゃま」
セーヤが頭を下げると、イズムはそれを制してきた。
「もういいんだ、君はジェダイなんだから」
「ジェダイと言っても、ジェダイ・オーダーに所属しているわけじゃないんだけどね」
セーヤが口調を戻すと、テンノーがセーヤの背後から顔を出した。
「詳しく説明すると長くなるのですが」
「それなら、聞かないでおくよ。少なくとも、僕からすればセーヤは本物のジェダイだ」
イズムが笑みを見せると、セーヤはイズムに尋ねた。
「タグマ商会の宇宙船が来たら、一旦引き上げるの?」
「そのつもりでいたけど、父さんと連絡して相談して、インターギャラクティック銀行と連携してヨギー一味と通じている企業を洗い出すことにした。同じ手口で儲けている海賊がいるだろうからね」
「で、コンサルタント料をせしめて、ついでに契約も取ると。抜かりないなぁ」
セーヤが感心すると、イズムは平然と言った。
「それが商売ってもんさ」
「んで、今回のことなんだけど」
「ああ、解っている。セーヤがジェダイだってことは口外しないし、ヨギー一味を追い返せたのはテンノーが有能だったからだ、ということにしておく」
イズムの言葉に、テンノーは割り込む。
「実際有能でしたでしょうに」
「それは認める。だが、それはそれだ。僕がジェダイと通じていると知られたら、いずれは帝国残党に目を付けられかねないからね」
イズムの意見は尤もである。彼が社員達と合流したのを見届けてから、セーヤはダイナーに戻った。ホープとカザが帰りを待っていてくれたので、セーヤはイズムと社員達が無事であることを伝え、ヨギー一味は当分身動きが取れないだろうと説明した。
ジェダイは現れたのか、とカザに問われ、セーヤはちょっと迷ったがこう答えた。ジェダイは来てくれたけど用事を済ませるとすぐに去っていった、と。
だから、ここにはもういない、と。
ホープは納期に間に合わせた。
違約金こそ発生しなかったが、同じようにローシュ小惑星帯で足止めを食っていた輸送船が一斉にザ・スライスに向かったため、今度は渋滞が起きてしまった。そのせいで輸送船を停めておけなくなったため、ザ・スライスの造船会社の輸送船とドッキングして貨物を受け渡す方法を取った。
貨物を受け渡した後、別の造船所に運ぶための部品を積み込んでいくと新たに契約を交わしたため、ホープは一旦ドライブインまで戻ってきた。そして、これまでと同じようにカフを飲んでいた。
「空荷で移動することほど無駄なことはないからね。積めるものはなんでも積まないと」
ホープはカフを飲み終えると、お代わりを求めてきたので、セーヤはそのマグカップに熱々のカフを注いだ。
「商魂逞しいなぁ」
「稼ぎ時を見過ごすようじゃやっていけないの、この銀河ではね」
ホープは二杯目のカフを呷った。窓の外に目をやると、タグマ商会のマークを付けた宇宙船が飛び立っていくのが見えた。その中にはイズムと社員達が乗り込んでいる。セーヤはそれを見送っていたが、ふと思った。
「私はこれからどこに行こうかな」
「なんだ、決めていなかったのか」
カザが厨房から現れると、セーヤはちょっと笑った。
「そういう旅だからね」
「とはいえ、無計画に進むとつまらないことで詰んじゃうよ? 用意は周到にね」
ホープの指摘に、セーヤは素直に答えた。
「はあい。だから、ここで備蓄を増やしておこうと思って。船足が遅くならない程度に」
「セーヤ。ヨギー一味の情報を洗い出していたのですが、少し気になる情報がありまして。それに関しては、念のためにお二人の意見も伺いたいのです」
皿洗いを終えたテンノーは、店内にやってくるとセーヤの前に立った。
「ヨギー一味は帝国の強制収容所のリストを押さえておりまして、どうやらその中に囚われている仲間を救い出そうという算段だったようです。それはまあどうでもいいのですが、反乱分子が収容されている施設がいくつか見つかったのです。新共和国が把握している反乱分子のリストと照会してみたところ、セーヤの父親であるウズワ・ダイが収容されていることが解りました。ですが、何度か移送されているようなので、その情報も最新のものだとは限りませんし、強制収容所となるとこれまでとは桁違いに危険度が高いです。増して、相手は反乱分子ですから」
テンノーが淡々と述べると、セーヤは目を泳がせた。
「帝国が倒れた後なのに?」
「倒れた後だからこそ、だろうよ。反乱分子といっても、単なる密告者から情報屋、殺し屋から武装組織まで幅広いから、それまでの罪状次第では新共和国もお目溢しはしてくれないだろうさ。セーヤの親父さんが何をしたのかは与り知らないが、海賊と同じ施設にぶち込まれているとなると、余程のことをやらかしたんだろうな。悪いことは言わない、近付かない方がいい」
カザが懸念すると、ホープも同意する。
「それに関しては私も同意見。今回の海賊にしても、なんとか上手くいったけど、いつもそうだとは限らないんだから」
「でも……」
セーヤが渋ると、ホープはセーヤを手招きした。なんだろう、とセーヤがそちらに向かうと、ホープはセーヤを抱き締めてくれた。
「セーヤは賢くて勇気もあるから、つい生き急いじゃうんだね。解るよ、私もユマを探しに行かなきゃってずっと焦っていたから。だけど、頑張りすぎちゃダメ」
「そうかなぁ」
「私は色々あって輸送業に落ち着いたけど、セーヤはまだまだこれからだよ。色々なことを試してみて、本当にやりたいことを見つけたらいい。見つからなかったとしたら、好きなだけ旅を続ければいい。そうすれば、そのうちお父さんに会えるかもしれないし」
「何の根拠もないよ?」
「うん、ないね。でも、それぐらいの気構えでいた方が落ち込みすぎずに済むよ」
ホープはセーヤのレックを優しい手付きで撫でてくれた。ホープは自分にそう言い聞かせることで、何年経ってもユマが見つからないことを受け入れようとしているのだろう。だが、本心では諦め切れていない。それでも、ある程度の妥協がないと苦しいから、そんなふうに振る舞っている。
ホープは大人だからだ。
出発する日取りを決めた。
カザは残念がりながらも、セーヤの旅立ちを応援してくれた。ダイナーの常連客達も同様で、餞別を寄越す客もいた。気のいい船乗りばかりだった。
これまで稼いだ給料とチップ、タグマ商会からの礼金も合算すると、ボブ・キャット号の燃料とコアクシウムを満タンにして食料と水などを買い込んでもお釣りが出た。これなら、しばらくは生活に困らないだろう。
ダイナーに制服一式を返し、ずっと一緒に働いていた調理ドロイド達ともお別れをしてから、セーヤとテンノーはボブ・キャット号に乗り込んだ。次はどの星に向かおうか、と考えていたところ、ホロ・ネットにメッセージが届いていた。マチルダからだった。
『セーヤ、今、どこにいる? このメッセージが届いているなら、応答して。相談したいことがあるのよ』
マチルダの表情はいつになく暗く、深刻そうだった。セーヤはテンノーに振り向かず、メッセージの発信源を辿った。タトゥイーンの通信基地を経由していた。
「テンノー、タトゥイーンに行くよ」
「そう仰ると思いました」
テンノーはスコンプ・リンクにシリンダーを接続すると、ハイパードライブを設定する。セーヤはボブ・キャット号を浮上させ、ドライブインのエアロックであるシールドを通過してから宇宙空間に出た。
マチルダに会うために。
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